2026/02/18

健康講座968  糖尿病の薬で脂肪肝は守れるのか ― GLP-1受容体作動薬・SGLT2阻害薬・DPP-4阻害薬を比較した最新研究をやさしく解説 ―

 



脂肪肝は、いまや珍しい病気ではありません。
健康診断で「脂肪肝があります」と言われたことがある人は非常に多く、とくに2型糖尿病を持つ人では、脂肪肝を合併している割合がかなり高いことが知られています。

近年、この脂肪肝は単なる「肝臓に脂肪がたまった状態」ではなく、全身の代謝異常と深く結びついた病気として再定義されました。
それが MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患) です。

MASLDは、放置すると
・肝硬変
・肝がん(肝細胞癌)

といった重篤な病気へ進行する可能性があります。
そのため、糖尿病治療を行う際にも「肝臓にとって何が良いのか」は、非常に重要なテーマになっています。


糖尿病の薬で、肝臓の未来は変えられるのか?

糖尿病治療薬は、ここ10〜15年で大きく進化しました。
特に広く使われているのが、次の3つの薬です。

  • GLP-1受容体作動薬

  • SGLT2阻害薬

  • DPP-4阻害薬

これらの薬は血糖値を下げるだけでなく、
体重減少、内臓脂肪の減少、インスリン抵抗性の改善など、
「代謝全体を良くする効果」があることが知られています。

そのため、

「これらの薬を使えば、脂肪肝も良くなり、
将来的な肝硬変や肝がんを防げるのではないか?」

という期待が、医療者・患者の双方にありました。

しかし、
本当に薬の種類によって肝臓の将来に差が出るのか
については、実ははっきりした答えがありませんでした。


今回の研究は何を調べたのか

この疑問に対して、現実の医療データを使って検証したのが、今回紹介する研究です。

この研究は、アメリカの医療保険データを用いた大規模な後ろ向き研究です。
実際の医療現場で治療を受けている患者のデータをもとに、

「どの薬を使った人が、その後どうなったか」

を追跡しています。

対象となったのは、

  • 2型糖尿病がある

  • MASLD(脂肪肝)を合併している

  • 以下のいずれかの薬を新たに開始した

という人たちです。

1つ目は GLP-1受容体作動薬
食欲を抑え、体重を減らす効果があり、最近とくに注目されています。

2つ目は SGLT2阻害薬
尿に糖を出すことで血糖を下げ、体重や血圧にも良い影響を与えます。

3つ目は DPP-4阻害薬
比較的穏やかに血糖を下げ、副作用が少ない薬として長年使われています。


比較の公平性をどう保ったのか

現実の医療データを使う研究で最も難しいのは、
「患者背景の違い」です。

たとえば、
重症な人ほど新しい薬を使われやすい、
高齢者には別の薬が選ばれやすい、
といった偏りが必ず生じます。

そこでこの研究では、
条件ができるだけ似た患者同士をペアにする方法
が使われました。

これにより、

  • 年齢

  • 性別

  • 糖尿病の重症度

  • 合併症

などがほぼ同じ人同士を比べることができるようになっています。


何をゴールとして評価したのか

この研究で注目したのは、
脂肪肝の「軽い改善」ではありません。

評価したのは、

  • 肝硬変

  • 肝がん(肝細胞癌)

という、最も重い肝臓の病気が起こったかどうかです。

薬を使い始めてから 2年間 の間に、
これらがどれくらい起こったのかを比較しました。


結果:はっきりした差は見つからなかった

解析の結果は、ある意味とても冷静なものでした。

GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬を比べても、
GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬を比べても、
SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬を比べても、

2年間の肝硬変・肝がんの発症リスクに、
統計的に明確な差は認められませんでした。

「どの薬が一番肝臓を守る」とは言えなかった、
というのが正直な結論です。


この結果をどう受け止めるべきか

ここで重要なのは、
「効果がない」と短絡的に考えないことです。

肝臓の病気は進行に時間がかかる

肝硬変や肝がんは、
数年で急に起こる病気ではありません。

多くの場合、
10年、20年という長い時間をかけて進行します。

そのため、2年間という観察期間では
差が見えにくい可能性があります。


軽い改善は評価していない

この研究が見ているのは、
「肝硬変・肝がん」という最終的な結果だけです。

  • 脂肪の量が減ったか

  • 肝臓の炎症が落ち着いたか

  • 線維化の進行が遅れたか

といった途中段階の変化は、評価対象ではありません。

そのため、
「肝臓に良い影響が全くない」
という意味ではありません。


一般の方にとっての現実的な結論

今回の研究から言える、最も大切なポイントはこれです。

糖尿病の薬だけで、
脂肪肝の将来が決まるわけではない。

どの薬を使っても、
肝硬変や肝がんを確実に防げるという証拠は、
少なくとも短期間では示されていません。

だからこそ、

  • 体重管理

  • 食事内容の見直し

  • 継続できる運動

といった、地道な生活習慣の改善が、
今もなお最も重要です。


薬選びは「肝臓だけ」で決めない

糖尿病治療薬は、
肝臓だけでなく、心臓、腎臓、体重、低血糖リスクなど、
さまざまな要素を総合して選ぶ必要があります。

肝臓にとって「絶対にこれが正解」という薬は、
現時点では存在しません。

主治医と相談しながら、
自分の体全体にとって最もバランスの良い治療を選ぶことが、
結果的に肝臓を守ることにもつながります。


まとめ

  • MASLDを合併した2型糖尿病患者において

  • GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬の間で

  • 2年間の肝硬変・肝がん発症リスクに

  • 明確な差は認められなかった

これは「希望がない」という話ではありません。
むしろ、現実を正確に知ったうえで、
長い目で肝臓と向き合う必要がある、というメッセージです。

派手な答えはありませんが、
続けられる生活改善と適切な治療の積み重ねこそが、
肝臓の未来を左右します。

焦らず、誇張せず、
できることを一つずつ積み上げていくことが、
いま最も確実な選択です。


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