2022/04/29

健康講座485 メトホルミン

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

 糖尿病薬であるビグアナイド(BG)薬は、民間薬から糖尿病治療薬となるまでの歴史があり60年以上も前から使われている薬剤であります。

一時、乳酸アシドーシスへの懸念から使用量が減ったものの、今や2型糖尿病治療において全世界が認めるスタンダード薬であるのです。そこで、メトホルミンの治療における重要性と作用のポイント、その多面性から血糖降下薬を超える“Beyond Glucose”の可能性があるのでございます。

なお、ビグアナイドにはフェンフォルミン、メトホルミン、ブホルミンとあるが、ここから先は主に使用されているメトホルミンについて述べさせて頂きます。


まず、メトホルミンについて端的にまとめると、糖尿病治療ガイド2020-20211)の中ではインスリン分泌非促進系に分類され、主な作用は肝臓での糖新生抑制です。低血糖のリスクは低く、体重への影響はなしと記載されています。そして主要なエビデンスとしては、肥満の2型糖尿病患者に対する大血管症抑制効果が示されております。主な副作用は胃腸障害、乳酸アシドーシス、ビタミンB12低下などがあります。

作用機序は、肝臓の糖新生抑制だけを見ても、古典的な糖新生遺伝子抑制に加え、アデニル酸シクラーゼ抑制、グリセロリン酸シャトル抑制、中枢神経性肝糖産生制御、腸内細菌叢の変化、アミノ酸異化遺伝子抑制などの多面的な血糖降下機序がわかっています2)。ほかにも、メトホルミンはAMPキナーゼの活性化を介した多面的作用を併せ持ち、用量依存的な効果が期待されています。

1990年代になって、世界的にビグアナイド薬が見直され、メトホルミンの大規模臨床試験が欧米で実施されました。その結果、これまで汎用されてきたSU薬と比較しても体重増加が認められず、インスリン抵抗性を改善するなどのメリットが明らかになったのです。これにより、わが国においても2010年にメトホルミンの最高用量が750mgから2,250mgまで拡大されたのです。

メトホルミンにおける(1)多面的な血糖降下作用(2)脂質代謝への影響(3)心血管イベントの抑制作用の3点について、用量依存的効果も踏まえてみてみましょう。

(1)多面的な血糖降下作用

メトホルミンもほかの血糖降下薬と同様に、投与開始時のHbA1cが高いほど大きい改善効果が期待でき、肥満・非肥満によって血糖降下作用に違いはみられないです。用量による作用としては、750mg/日で効果不十分な場合、1,500mg/日に増量することでHbA1cと空腹時血糖値の有意な低下が認められ、それでも不十分な場合に2,250mg/日まで増量することでHbA1cのさらなる低下が認められています。

また、体重への影響はなしとありましたが、1,500mg/日以上使用することにより、約0.9kgの減量効果があるとされているようです。


さらには高用量(1,500mg以上)の場合、小腸上部で吸収しきれなかったメトホルミンが回腸下部へ移行・停滞し、便への糖排泄量が増加するといわれており、小腸下部での作用も注目されているのです。これは、メトホルミンの胆汁酸トランスポーター(ASBT)阻害作用により再吸収されなかった胆汁酸が、下部消化管のL細胞の受容体に結合し、GLP-1分泌を促進させるというものであります3)


また、in vitroではありますが、膵β細胞に作用することでGLP-1・GIP受容体の遺伝子発現亢進をもたらす可能性が示唆されているのです4)。よって、体重増加を来しにくく、インクレチン作用への相加効果が期待できるメトホルミンとインクレチン製剤(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)の併用は相性が良いといわれています。

(2)脂質代謝への影響

あまり知られていない脂質代謝への影響ですが、メトホルミンは肝臓、骨格筋、脂肪組織においてインスリン抵抗性を改善し、遊離脂肪酸を低下させます。また、肝臓においてAMPキナーゼの活性化を介して脂肪酸酸化を亢進し、脂肪酸合成を低下させることによりVLDLを低下させるという報告があります5)

国内の臨床試験でSU薬にメトホルミンを追加投与した結果、総コレステロール(TC)、LDLコレステロール(LDL-C)、トリグリセリド(TG)が低下したが、有意差は1,500mg/日投与群のみで750mg/日ではみられないようです。

(3)心血管イベントの抑制作用

メトホルミンの心血管イベントを減らすエビデンスは、肥満2型糖尿病患者に対する一次予防を検討した大規模臨床試験UKPDS 346)と、動脈硬化リスクを有する2型糖尿病患者に対する二次予防を検討したREARCHレジストリー研究7)で示されています。これは、体重増加を来さずにインスリン抵抗性を改善し、さらに血管内皮機能やリポ蛋白代謝、酸化ストレスの改善を介して、糖尿病起因の催血栓作用を抑制するためと考えられているようです8)

ここまで主たる3点について述べたが、ほかにもAMPKの活性化によるがんリスク低減や、がん細胞を除去するT細胞の活性化、そして糖尿病予備軍から糖尿病への移行を減らしたり、サルコペニアに対して保護的に働く可能性などを示す報告もあるのです。さらに、最近ではメトホルミンが「便の中にブドウ糖を排泄させる」作用を持つことも報告9)されており、腸がメトホルミンの血糖降下作用の多くを担っている可能性も出てきています。

しかし、どんな薬物治療にも限界がございます。使用に当たっては、日本糖尿病学会からの「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」に従った処方に留意したいところです。乳酸アシドーシスのリスクですが、過去の事例を見ると、禁忌や慎重投与が守られなかった例がほとんどだそうです。なお、投与量や投与期間に一定の傾向は認められず、低用量の症例や投与開始直後、あるいは数年後に発現した症例も報告されているようです。

乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴としては、1.腎機能障害患者(透析患者を含む)、2.脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態、3.心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、4.高齢者とありますが、まずは経口摂取が困難で脱水が懸念される場合や寝たきりなど、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提とし留意する必要があります。

とくに腎機能障害患者については、2019年6月の添付文書改訂でeGFRごとの最高用量の目安が示され、禁忌はeGFRが30未満の場合となっているため注意していただきたいところでございます。

  • 世界動向としては、米国糖尿病学会(ADA)は、「糖尿病の標準治療2022(Standards of Medical Care in Diabetes-2022)」を発表しました。同文書は米国における糖尿病の診療ガイドラインと位置付けられており、新しいエビデンスを踏まえて毎年改訂されております。この2022年版では、ついにメトホルミンが2型糖尿病に対する(唯一の)第一選択薬の座から降り、アテローム動脈硬化性疾患(ASCVD)の合併といった患者要因に応じて第一選択薬を判断することになったのでございます。

    これまでは2型糖尿病治療薬の中で、禁忌でなく忍容性がある限りメトホルミンが第一選択薬として強く推奨されてきたのですが、今回の改訂で「第一選択となる治療は、基本的にはメトホルミンと包括的な生活習慣改善が含まれるが、患者の合併症や患者中心の医療に関わる要因、治療上の必要性によって判断する」という推奨に変更されたのです。

    メトホルミンが第一選択薬にならないのは、ASCVDの既往または高リスク状態、心不全、慢性腎臓病(CKD)を合併している場合でございます。具体的な薬物選択のアルゴリズムは、「HbA1cの現在値や目標値、メトホルミン投与の有無にかかわらず、ASCVDに対する有効性が確認されたGLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬を選択する」とされ、考え方の骨子は2021年版から変わっていないです。

    メトホルミンが、これからもまだまだ使用され続ける息の長い良薬であろうことは間違いないと思われます。

2022/04/27

健康講座484 フルクトース、加工ソフトドリンク

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

 甘味飲料の中には腎臓を障害するリスクを持つものがあることが報告されました。果糖(フルクトース)コーンシロップで甘く加工したソフトドリンクを摂取すると、腎臓内部の血管抵抗が有意に上昇するということでございます。


 高果糖コーンシロップ(high-fructose corn syrup;HFCS)は、「果糖ブドウ糖液糖」などと表示される食品添加物で、ソフトドリンクを甘く加工する際などに用いられている。このHFCSが添加されたソフトドリンクの腎臓に及ぼす影響を調べるため二つの研究を行いました。

 まず一つ目の研究は、13人の健康な成人に、500mLのHFCS添加ソフトドリンク、または同量の水を摂取してもらい、超音波ドプラ法で腎臓の血管の血流や血管抵抗の変化を検討しました。

 その結果、HFCS添加ソフトドリンクを摂取した30分後には腎臓の平均動脈圧が有意に上昇し、分節動脈の血管抵抗の有意な上昇も認められました。一方、水を摂取した場合には、摂取前後で腎臓の平均動脈圧に有意な変化は認められなかったのです。

 交感神経を刺激する寒冷昇圧試験でも、水摂取時に比較してHFCS添加ソフトドリンク摂取時は、分節動脈の血管抵抗がより高まることが明らかになりました。これらの結果から、HFCSは腎臓の血管を収縮させる作用を持つ可能性が考えられました。

 続いて行った二つ目の研究は、12人の健康な成人を対象とした。HFCS添加ソフトドリンクと、HFCS以外(人工甘味料またはスクロース)を添加して甘くしたソフトドリンク、および水をそれぞれ摂取してもらい、腎臓の血流や血管抵抗の変化を検討しました。

 その結果、HFCS添加ソフトドリンク摂取後の腎動脈の血流速度は、スクロース添加飲料や水の摂取後に比較して有意に低下し、腎動脈の血管抵抗は、水摂取後に比較して有意に上昇した。また、HFCS添加ソフトドリンク摂取後の分節動脈の血流速度は、人工甘味料添加飲料の摂取後に比較して有意に低下し、分節動脈の血管抵抗は、人工甘味料添加飲料や水の摂取後と比較して有意に上昇した。

 要するにですよ、HFCSで甘く味付けした飲み物を飲むと、安静時および交感神経が活性化した状態において、腎臓の血管が収縮して抵抗が上昇することを示しているのです。
原著

2022/04/25

健康講座483 コロナワクチン3回目の抗体価統計データ

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

事実の羅列ですが、個人的な備忘録として。

コロナワクチン 追加接種(3回目接種)前に400U/mL前後だった抗体価は、追加接種1ヵ月後には2万~3万U/mLに増加し、3ヵ月後にはコミナティ筋注(ファイザー)、スパイクバックス筋注(モデルナ)ともにおおむね半分の1万~1万5,000U/mLに低下していることが報告されました。なお追加接種約1ヵ月後の抗体価は、スパイクバックス筋注接種者で統計学的に有意に高値であったようです。1~2回目にコミナティ筋注を接種した国立病院機構(NHO)、地域医療機能推進機構(JCHO)の職員における前向き観察研究による報告でした。


<研究概要>
新型コロナワクチン追加接種(3回目接種)にかかわる免疫持続性および安全性調査(コホート調査)
調査内容:
・体温、接種部位反応、全身反応(日誌)、胸痛発現時の詳細情報
・副反応疑い、重篤なAE(因果関係問わず)のコホート調査による頻度調査
・SARS-CoV-2ワクチン追加接種者の最終接種12ヵ月までのブレークスルー感染率、重篤なAE(因果関係問わず)、追加接種者の最終接種12ヵ月後までのCOVID-19抗体価(調査対象者の一部、予定)
・抗体価等測定のための採血は接種前、1、3、6、12ヵ月後(予定)
調査対象:初回接種としてコミナティ筋注、追加接種としてコミナティ筋注またはスパイクバックス筋注を受けたNHO、JCHO職員
・今回の報告のデータカットオフは2022年4月1日

 抗体価の推移について主な結果は以下の通り。

[コミナティ筋注を追加接種]
・追加接種としてコミナティ筋注の投与を受けたのは2,931人(医師16.0%/看護師45.6%、女性68.0%、20代19.5%/30代25.0%/40代25.9%/50代21.2%/60歳以上8.4%)。
・このうち抗N抗体陰性の487人について抗S抗体価をみたところ、追加接種前幾何平均抗体価は386U/mL(95%CI:357~418)だったのに対し、追加接種1ヵ月後は19,771U/ mL(18,629~20,984)となり、幾何平均抗体価倍率は51.2(47.7~55.1)倍だった。
・年代別にみると、追加接種前は20代で634U/mLだったのに対し60歳以上では232 U/mLと年齢が高いほど低く、追加接種1ヵ月後では20代で22,474U/mL(追加接種前の35.4倍)、60歳以上では22,381U/mL(96.3倍)だった。
・接種から3ヵ月後の抗体価が測定された440人について、3ヵ月後の幾何平均抗体価は10,376U/mL(9,616~11,196)だった。

[スパイクバックス筋注を追加接種]
・追加接種としてスパイクバックス筋注の投与を受けたのは890人(医師13.9%/看護師41.2%、女性62.1%、20代27.5%/30代26.1%/40代23.7%/50代17.5%/60歳以上5.1%)。
・このうち抗N抗体陰性の482人について抗S抗体価をみたところ、追加接種前幾何平均抗体価は454U/mL(417~494)だったのに対し、追加接種1ヵ月後は29,422U/mL(27,495~31,483)となり、幾何平均抗体価倍率は64.8(60.3~69.7)倍だった。
・年代別にみると、追加接種前は20代で701U/mLだったのに対し60歳以上では294 U/mLと年齢が高いほど低く、追加接種1ヵ月後では20代で32,080U/mL(追加接種前の45.8倍)、60歳以上では33,383U/mL(113.4倍)だった。
・接種から3ヵ月後の抗体価が測定された92人について、3ヵ月後の幾何平均抗体価は14,719U/mL(12,380~17,500)だった。

[全体のまとめ]
・追加接種前抗N抗体が陰性で、追加接種1ヵ月後の抗体価を測定した972人の追加接種前抗体価は年齢が高くなるにつれて低値をとり、女性は高かった(ワクチン種別、2・3回目接種間隔で調整した重回帰分析)。
・3回目追加接種1ヵ月後の幾何平均抗体価はコミナティ筋注19,771U/mL、スパイクバックス筋注29,422U/mL、幾何平均抗体価倍率はそれぞれ51.2倍、64.8倍で、スパイクバックス筋注の方が高かった。抗体価については、性・年齢および接種間隔を調整した重回帰分析で、スパイクバックス筋注の方が統計学的に有意に高値であった。
・3回目接種3ヵ月後抗体価はコミナティ筋注、スパイクバックス筋注とも追加接種1ヵ月後の抗体価に比しておおむね半分に低下した。
・幾何平均抗体価倍率は年齢とともに増加し、結果として1ヵ月後の幾何平均抗体価は年齢ごとの差はわずかで、女性がやや低値だった。

2022/04/22

健康講座482 セイブルの由来

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

糖尿病のお薬でセイブル というものがあります。

名称の由来は

「食後高血糖による膵の疲弊や血管障害を防止し、糖尿病患者の生命を救う(セイブする)ことができればという願いを込めて命名された。」

とのことでございます。

販売名

セイブル®錠25mg、セイブル®錠50mg、セイブル®錠75mg

セイブル®OD錠25mg、セイブル®OD錠50mg、セイブル®OD錠75mg

一般名

ミグリトール(JAN)

効能又は効果

糖尿病の食後過血糖の改善

(ただし、食事療法・運動療法を行っている患者で十分な効果が得られない場合、又は食事療法・運動療法に加えてスルホニルウレア剤、ビグアナイド系薬剤若しくはインスリン製剤を使用している患者で十分な効果が得られない場合に限る)

用法及び用量

通常、成人にはミグリトールとして1回50mgを1日3回毎食直前に経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら1回量を75mgまで増量することができる。


本日は豆知識でした。

2022/04/20

健康講座481 the GLP1製剤

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

 GLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1 RA)、その登場は10年前にさかのぼります。生誕10年ではあるものの、これまでに数多くのGLP-1 RA製剤が登場し、エビデンスもそろってきております。

非常に多彩ですが、GLP-1 RAは、主に膵臓において血糖依存的にインスリン分泌を促進・グルカゴン分泌を抑制、肝臓においてグルコース産生を抑制、胃においては胃内容物排出の遅延により、血糖コントロールを行うという作用機序があります

分類としては、まずヒトGLP-1由来かExendin-4由来かに大別され、各々1日1~2回もしくは週1回の投与方法があり、それに対応する製剤が存在します。さらに、2021年に経口薬も加わっております。

GLP-1 RAを使用するに当たって、重要なポイントが3つあります。

(1)作用機序から考えた適応と早期導入

この薬剤の作用機序は、「インスリン分泌促進系」の中でも「血糖依存性」に分類1)されるため、膵機能が保たれているインスリン非依存状態であることが必須であります。要するにですよ、この薬剤は、罹病歴が比較的短く、内因性インスリン分泌能が保たれている、SU薬を多量に服用していない患者さんです。

一方、血糖依存性といえども万能ではなく、高血糖毒性を伴いインスリンの絶対的適応となるようなケースには不向きであります。こういった場合は、糖毒性解除後に使用するとうまくいくことが多いです。

例えば、こちらはあくまで例ですが(架空の症例です)、

67歳男性。脳梗塞で脳神経外科入院となり、救急外来時の随時血糖値303mg/dL、HbA1c 10.9%とコントロール不良の糖尿病を認め、当院受診となった。未治療の患者で、体重85.0kg、BMI 31.2で、肥満を認めた。まずは、強化インスリン療法を開始、、3ヵ月後、随時血糖値141mg/dL、HbA1c 6.9%まで改善しており、体重79.0kg、BMI 29.0の1度肥満まで改善。総インスリン量は、22単位から12単位まで減量となっており、軽度の右不全マヒがあるものの、インスリン自己注射は問題なくできた。

そこで、患者負担を少しでも軽くしようと、インスリン分泌能も保たれていたため、週1回のGLP-1 RAへの切り替えを選択しました。その後、3ヵ月間単剤での管理で3.1kgの減量に成功し、HbA1cも5.9%まで改善、患者さんも減量の成功を大変喜び、そのまま継続となりました。

この例は、GLP-1 RAの早期導入が功を奏したと考えられます。実際のところ、JDDM(糖尿病データマネジメント研究会)のデータを見ると、GLP-1 RAの処方は年々増加しているもようです。

(2)合併症抑制を考慮した治療選択

治療選択の際、合併症(大血管症、細小血管症)を考慮することは、本質であり重要です。ただ単に血糖を下げればよいわけではありません。血糖改善は、合併症予防の手段であり最終目標ではありません。 2008年から米国FDA(食品医薬品庁)で、新規の血糖降下薬は心血管合併症を増やさないことの証明が必須になっているのですが、最近はむしろ血糖コントロール改善とは異なる機序で、糖尿病合併症を抑制する薬剤が注目を集めてます。

実際、GLP-1 RAは2021年ADAのStandards of Medical Care in Diabetes2)にも記載されているように、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)やCKDの合併、または高リスクがある場合は、メトホルミン使用とは無関係に優先的に使用すべき薬剤の1つになっています。わが国において薬剤の使用優先順位までは決められていないですが、エビデンスのある薬剤の1つとして位置付けられているため、処方するベネフィットは大です。

(3)体重減少、食欲抑制に対する効果

GLP-1 RAの生理作用は、糖代謝改善作用以外に、胃内容物排出の遅延作用と中枢における食欲抑制作用があり、それには消化管で産生されたGLP-1が主に迷走神経を介して中枢へ作用する系、および中枢で産生されたGLP-1が作用する系の2つが関与するといわれています3)

いずれにせよ体重減少効果は大きく、米国では抗肥満薬としても発売されています(糖尿病薬の用量とは異なる)。セマグルチドの最近のエビデンスとして、太り過ぎまたは肥満成人に対する集中的行動療法の補助として有意な体重減少をもたらし4)、また従来の薬剤の約2倍の減量効果があり5)、肥満外科手術に匹敵するといわれております。

近年、高齢化が進むにつれ高齢者糖尿病患者も増加し、サルコペニアの問題も大きくなってます。体重減少効果が筋肉量の減少を誘発していないかの問題も言われる中、経口セマグルチドにおける2型糖尿病患者のエネルギー摂取量、食事の嗜好、食欲、体重の効果についての論文が発表されているようです6)

12週で体重2.7kg、ウエスト2.4cmが減少しており、脂肪量は-2.6kg、除脂肪量-0.1kgと、減量のほとんどを脂肪量の減少が占めたとのことです。さらに、摂取エネルギーが減少するのはもちろんのこと、高脂肪食や甘味が有意に減少していたという嗜好の変化が非常に特徴的な結果でありました。

また、GLP-1 RAの効果について、さらに細かい話にはなりますが、ショートアクティングとロングアクティングでは、作用時間だけでなく血糖降下作用も異なるといわれています。まずロングアクティングは、主にインスリン分泌促進およびグルカゴン分泌抑制を介して血糖改善効果を発揮し、ショートアクティングに比べて空腹時血糖値やHbA1cの改善効果が大きいとされます。一方、ショートアクティングは主に胃内容物排出遅延作用やグルカゴン分泌抑制を介して血糖改善効果を発揮するとされております。

実際、ロングアクティングの血糖改善効果は残存膵β細胞機能に依存するのに対し、ショートアクティングでは血糖改善効果と残存β細胞機能に明確な関連性を認めないようです。


さまざまな製品がでており、初期投与量・維持量・コントロール困難例とあるものの、消化器系症状が出やすい人や体重をあまり落としたくない高齢者など、人によっては初期投与量が維持量になるなど、使用範囲が広がっております。また、過体重でとにかく減量させたい人やインスリンを減量したい人に高用量を使用するといった方法もあるかと思います。

さらには、注射製剤をかたくなに拒否する患者さんには経口薬を選ぶこともでき、こちらも同様に3つの規格が使用できるのです。

参考にしてください。

2022/04/18

健康講座480 油の種類

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

 脂質は三大栄養素のひとつであり、体内で重要な働きをしています。また、油脂の種類や酸化の状態によっても、カラダに対する影響が異なります。今回は、日常でよく使われる植物油の種類と特徴について見てみましょう。

油の働き

脂質は、9kcal/gと、三大栄養素の中では一番効率的にカロリーを補給できる栄養素です。そのため、「太るじゃないか」という印象を持っている方がおりますが、脂質の働きはそれ以外にもあるのです。細胞膜やホルモンなどの材料になるほか、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収を助ける働きもあります。脂肪酸の種類によっては、コレステロールバランスの改善、血流改善、炎症予防などの働きもあります。

また、胃への滞在時間が長く、消化に時間がかかるため、油脂を入れた食事のほうが、腹持ちが良く 、便通の改善効果に期待できます。

油脂の取り過ぎは肥満を招く要因にもなりますが、いい油を適量摂取することは、カラダを健康に保つことにもつながります。

1)ヒマワリ油

原料はヒマワリの種子。品種改良されたハイオレイックタイプ(オレイン酸75〜85%)などが流通している。サンフラワーオイルとも呼ばれ、似たような名称のサフラワーオイルと混同しがちですが、サフラワーはベニバナ油をさすようです。

2)ゴマ油
原料はゴマの種子。オレイン酸とリノール酸をそれぞれ40%程度含む。強い抗酸化物質セサミンを含んでいる。焙煎したゴマを使い、精製しないのが茶色のゴマ油。焙煎せずに精製した透明のゴマ油もある。日本では、中華料理、天ぷらなどに用いることが多いようです。

3)キャノーラ油
原料はアブラナ(菜の花)の種子。ナタネ油とも呼ばれ、世界でも生産量が多い植物油。透明で無臭のため、いろいろな料理に活用ができ、日本でも一番使われている。人体に悪影響を及ぼすエルカ酸やグルコシノレートが多く含まれていたが、最近では、オレイン酸を多く含むハイオレイックタイプなどが増えている。

4)エキストラバージンオリーブオイル
オリーブの実を絞っただけのものをエキストラバージンオリーブオイルという。精製したオリーブオイルにエキストラバージンオリーブオイルを加え、加工した油をピュアオイルという。オレイン酸を主体とし、酸化に強くコレステロール改善効果が期待できる。独特の風味や色、香りを持ち、ミネラルやポリフェノールを豊富に含む。和食、イタリアン、フランスパンなどと相性が良い。

5)グレープシードオイル
原料はぶどうの種子。オリーブオイルと混同されがちだが、オレイン酸は20%、リノール酸が70%の割合。ビタミンEがオリーブオイルの2倍以上含まれている。グリーンの天然色素には、ポリフェノールが豊富。クセがなく和食や卵料理にも相性が良い。

6)ココナッツオイル
原料はココナッツ。ほかの植物油と違い、消化の早い中鎖脂肪酸が含まれ、エネルギーに変換しやすいと話題になったこともあるようです。メインの脂肪酸は肉などに多く含まれる飽和脂肪酸である。また、1gあたりのカロリーは、ほかのものと同じ9kcal。独特の風味があり、カレー、コーヒーやお菓子などと相性が良い。

7)エゴマ油
原料はシソ科エゴマの種子。体内でDHAやEPAに変換されるオメガ3系脂肪酸を多く含む。血流改善や炎症予防などに効果が期待できる。酸化に弱く加熱調理不可。開封後は早めに使うことが必須。


参考にしてください。

2022/04/15

健康講座479 サルコペニア・フレイル

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。


日本サルコペニア・フレイル学会は、サルコペニアを予防するためには体重あたり1g/日以上のタンパク質摂取を推奨しています。つまり、体重が60kgの方の場合、60g/日以上の摂取が必要になります。効率的に筋肉を合成するためには1日のタンパク質のとり方も重要でございます。

1日合計タンパク質摂取量とエネルギー摂取量に差はなくても、均等摂取群のほうが偏り摂取群よりも骨格筋の合成率が高いことが示されています。骨格筋は絶えず分解と合成を繰り返しており、とくに絶食時には分解が進みます。朝食は夕食後、就寝による長い絶食時間を経て初めてとる食事です。そして、1日の活動が始まる前にとる食事でもあります。朝食のタンパク質摂取量が不十分になると、骨格筋タンパク質の分解が進みやすくなると考えられます。高齢者を対象とした疫学研究において、フレイル高齢者では健常高齢者と比べて、朝食のタンパク質摂取量が少ないことも報告されています。


また骨格筋の合成に重要な役割を果たすアミノ酸としてロイシンがよく知られています。海外のデータでは1食あたりロイシン2.5gの摂取が必要と考えられていますが、日本の国民健康栄養調査をもとに、朝・昼・夕食のアミノ酸の摂取量を調査した報告では、30~64歳、65~74歳、75歳以上のどの年齢層でも男女ともに1食あたりのロイシン2.5gを下回る人の割合は朝食で最も多く、ロイシンの基準を下回った人はいずれの年代でも90%前後と報告されています5)


普段の朝食に乳製品の追加がすすめれています。乳製品は調理の必要がないため手軽に取り入れることができるだけでなく、ロイシンの含有量が比較的多く、また乳製品由来のタンパク質は吸収率が高いことも分かってきています。高齢者では冷たい牛乳を避ける方もいますが、牛乳の代わりにヨーグルトやチーズをとったり、市販のスープにスキムミルクを混ぜたりするなどして、朝食に乳製品を追加して取り入れると良いでしょう。


ロゴ決定

ロゴ決定 小川糖尿病内科クリニック

皆さま、こんにちは。 当院のロゴが決定いたしました。 可愛らしいうさぎをモチーフとして、小さなお花をあしらいました。 また、周りは院長の名字である「小川」の「O(オー)」で囲っております。 同時に、世界糖尿病デーのシンボルであるブルーサークルを 意識したロゴとなって...