2026/02/15

健康講座965 インフルエンザの「みなし診断」とは何か

 




——検査が陰性でもインフルエンザと診断され、治療される医学的理由

冬になると、患者さんからよくこんな質問を受けます。

「インフルエンザの検査は陰性でした。でも先生に“インフルの可能性が高い”と言われました。
陰性なら違うんじゃないですか?」

結論からお伝えします。

インフルエンザの迅速抗原検査は、特に発症初期では“陰性になりやすい”という限界があります。

そのため、

  • 症状

  • 発症のタイミング

  • 周囲の流行状況

  • 家族や職場での感染状況

  • 診察所見

これらを総合して、医師が「インフルエンザである可能性が高い」と判断することがあります。

これを一般的に「みなし診断」「みなし陽性」と呼ぶことがありますが、医学的には
臨床診断 と言います。


インフルエンザ抗原検査には“偽陰性”があります

まず大前提として知っておいてほしい重要な事実があります。

国立感染症研究所(NIID)のインフルエンザ診断マニュアルでは、

  • 迅速抗原検査はPCRなどに比べ感度が低い

  • 特に発病初期はウイルス量が少なく検出できないことがある

  • 陰性結果は「抗原が検出されなかった」だけで、感染を否定するものではない

と明確に記載されています。

つまり、

「陰性=インフルエンザではない」とは言えない

ということです。


実際、発症してから何時間だと陰性になりやすいのか?

日本の感染症学雑誌に掲載された臨床研究では、発症から検査までの時間別に迅速抗原検査の感度が検討されています。

その結果は以下の通りでした。

  • 発症12時間未満:感度 約38.9%

  • 12〜24時間: 約40.5%

  • 24〜48時間: 約65.2%

  • 48時間以降: 約69.6%

つまり、

発症から24時間以内は半分以上が見逃される可能性がある

という現実的な数字です。

これが「朝熱が出てすぐ検査 → 陰性」というケースで、後からインフルと分かる理由です。


なぜ早いと陰性になりやすいのか?

理由は主に3つあります。

  1. ウイルス量がまだ十分に増えていない

  2. 鼻の奥の検体が十分採取できないことがある

  3. 抗原検査自体がPCRより感度が低い

海外レビュー論文でも、迅速抗原検査はウイルス量依存であり、初期では感度が著しく低下することが繰り返し指摘されています。


では陰性だったらどうするのが正解?

重要なのは「検査結果だけで決めない」ことです。

次のような場合は、陰性でもインフルエンザの可能性を強く考えます。

  • 急激な発熱、悪寒、筋肉痛、強い倦怠感など典型症状がある

  • 家族や同居者がすでにインフルエンザA型やB型と診断されている

  • 学校・職場・地域で流行している

  • 発症からまだ半日〜1日以内

  • 診察所見から医師が強く疑う

このような場合、

  • 時間をあけて再検

  • より精度の高い検査

  • あるいは臨床診断

を行います。


ここがとても大切:検査が陰性でも医師の判断で治療することがあります

ここが多くの方に誤解されているポイントです。

厚生労働省の公式資料では、

流行状況や症状などからインフルエンザ罹患の可能性が高い場合には、検査を行わず、医師の判断により抗インフルエンザ薬を処方することが可能

と明記されています。

つまり、

検査が陰性でも

医師が総合的にインフルエンザと判断すれば

保険診療として抗インフルエンザ薬(タミフル・イナビル・ゾフルーザなど)を処方することがあります。

これは特別な例外ではなく、厚労省・公的機関が想定している通常の診療です。


具体的にはどんな時?

たとえば:

  • 家族がすでにインフルエンザA型・B型と診断されている

  • ご本人にも急激な発熱と全身症状が出ている

  • 発症初期で検査が陰性になりやすい時間帯

  • のど・鼻の診察所見も含め、医師が蓋然性が高いと判断

こうした場合、

✔ 検査が陰性でも
✔ 医師の臨床診断でインフルエンザと判断し
✔ 抗インフルエンザ薬を開始する

ことがあります。


ただし「必ず薬が出る」わけではありません

同じような状況でも、

  • 症状が軽い

  • 他の感染症の可能性が高い

  • 発症からかなり時間が経っている

  • 薬のメリットより副作用リスクが上回る

などの場合には、

あえて薬を使わず経過観察

という判断になることもあります。

最終的には

「検査」ではなく

「医師の総合的判断」

で決まります。


「みなし要請」が生まれる背景

学校や職場が「陰性証明」「治癒証明」を求めることで混乱が起きがちですが、文部科学省は医療逼迫回避の観点から、こうした証明書を求めないよう通知しています。

また、学校の出席停止は「陽性日」ではなく、

  • 発症後5日

  • 解熱後2日(幼児は3日)

という経過基準で決まります。


まとめ

  • インフルエンザ迅速検査は発症初期では陰性になりやすい

  • 日本の研究では24時間以内の感度は約4割

  • 陰性でも感染を否定できない

  • 症状・流行状況・接触歴・診察所見を総合して医師が判断する(臨床診断)

  • その結果、陰性でも保険診療として抗インフルエンザ薬を処方することがあります

  • ただし必ず出るわけではなく、医師の総合判断になります



2026/02/14

健康講座964 インフルエンザの「薬の予防投与」について:医学的には“あり得る”が、保険診療では原則「自費」です

 


インフルエンザが家族内で流行すると、よくある相談がこれです。

「家族がインフルになりました。自分はまだ熱がないけど、うつると困るので薬で予防できますか?」

結論からお伝えします。

  • 医学的には、条件がそろえば「薬による予防(予防投与/曝露後予防)」という考え方はあります。

  • しかし 保険診療(健康保険)では未発症の人に予防目的で抗インフルエンザ薬を出すことは原則認められず、自費になるのが基本です(少なくとも当院は自費対応です)。

この「医学」と「保険」のズレが、いちばん混乱しやすい点なので、丁寧に解説します。


1. 予防投与(曝露後予防)って何?

予防投与とは、まだインフルエンザを発症していない人が、

  • 同居家族などの濃厚接触があり

  • 近い将来の感染リスクが高い

と判断されるときに、抗インフルエンザ薬を使って**発症を抑える(発症しにくくする)**ことを指します。

ここで大事なのは、予防投与は「全員におすすめされる一般的な方法」ではなく、例外的に検討される医療行為だという点です。


2. 医学的には、予防投与には“価値がある”の?

はい、あります。ただし条件つきです。

予防投与が検討されやすい状況

代表的には次のような状況です。

  • 家族・同居人がインフルエンザを発症し、同じ空間で過ごす時間が長い

  • 本人が感染した場合に、重症化しやすい可能性がある

  • 接触してから早い時期に開始できる

実際に、抗インフルエンザ薬の中には、添付文書に「予防(発症抑制)」の用法・用量が記載されている薬があります(例:ゾフルーザ、イナビル、タミフル、リレンザなど)。
たとえばゾフルーザの添付文書では、予防について「同居家族・共同生活者」や「重症化リスクが高い人」を念頭に置いた記載があり、また **“予防の基本はワクチンであり、薬はワクチンの代替ではない”**ことも明記されています。(※前回提示したPMDA添付文書PDFの内容に対応)

ただし「万能」ではありません

予防投与には限界もあります。

  • 100%防げるわけではない

  • 開始が遅いと効果が落ちる(薬によっては「接触後2日以内に開始」などの条件が添付文書で示されます)

  • 副作用があり得る

  • 乱用すると、薬が効きにくいウイルス(耐性)などの問題が起こり得る

つまり、医学的には「条件がそろえば検討する価値がある」が、「誰でも気軽に飲むもの」ではありません。


3. ここが最重要:保険診療では、未発症の予防投与は原則“自費”です

患者さんが一番知りたいのはここだと思います。

添付文書に「予防」の記載があるのに、なぜ保険が使えないの?

ポイントは次の通りです。

  • **添付文書(医学的に使ってよい範囲)**と

  • 保険診療(保険で請求できる範囲)

は、必ずしも一致しません。

抗インフルエンザ薬について、支払基金・国保の審査上の整理では、抗インフルエンザ薬は「発症後の治療目的」に使用した場合に限り算定できる**という扱いが明確に示されています。
同資料では、少なくとも「インフルエンザ疑い」への投与が原則認められないことも示されており、未発症の“予防目的”は保険算定になじまない(=通りにくい)という運用の土台があります。

よくある誤解:「糖尿病や高齢なら保険で予防できる?」

これは誤解です。

  • 糖尿病がある

  • 高齢である

  • 心臓や肺の病気がある

  • 家族がインフル陽性だった

これらは医学的には「感染すると重症化しやすいので予防投与を検討してよい条件」になり得ます。

しかし、保険診療としては別問題で、

本人がまだ発症していない(=治療ではない)

場合、原則として保険は使えず、自費になります


4. まとめ:当院での考え方(患者さん向けの結論)

ここまでを一文でまとめると、こうなります。

抗インフルエンザ薬には「予防投与」という使い方が添付文書上存在しますが、保険診療では抗インフルエンザ薬は基本的に“発症後の治療”として扱われます。そのため、まだ症状が出ていない方への予防目的の投与は、糖尿病や高齢などの持病があっても、原則として自費になります。


5. 予防投与を検討する場合、何を確認して決めるの?

自費で予防投与を検討する場合でも、次の点を一緒に確認してから決めます。

  • 接触状況:同居/同室/長時間接触か

  • 時期:接触後どれくらい早いか(薬によって早期開始が重要)

  • 重症化リスク:年齢、持病、妊娠、免疫状態など

  • 副作用と注意点:体質・既往歴・併用薬

  • 費用:保険ではなく自費になること

そして最終的に、薬を使う・使わないに関わらず、予防として一番基本になるのは

  • ワクチン

  • マスク、換気、手洗い

  • 家庭内隔離(可能な範囲で寝室や食事を分ける)

  • 体調変化があれば早めに受診(発症したら治療は保険で行える)

です。



健康講座963 「インスリンを増やさず血糖が下がる? ラウリン酸×トリプトファンが示した“腸からの血糖制御”」

 



① アブストラクト和訳(日本語)

目的/仮説

健康な男性において、ラウリン酸(C12)およびL-トリプトファン(Trp)を、それぞれ単独では効果を示さない低用量(1.26 kJ/分および0.42 kJ/分)で十二指腸内投与すると、両者を併用した場合にのみ、GLP-1およびコレシストキニン(CCK)が刺激されることが知られている。これらのホルモンは胃排出を遅らせ、摂取エネルギーを抑制し、食後血糖を低下させる。
本研究では、2型糖尿病患者においても、C12とTrpの併用投与が食後血糖を低下させるかを検証した。

方法

本研究は、無作為化・二重盲検・クロスオーバー試験として、University of Adelaide 臨床研究施設で実施された。
対象は2型糖尿病男性11名(年齢69±7歳、HbA1c 6.8±0.3%、BMI 28±1 kg/m²)。
被験者は4回に分けて以下のいずれかを45分間、十二指腸内投与された。

  • ラウリン酸(C12)

  • L-トリプトファン(Trp)

  • C12+Trp併用

  • 生理食塩水(対照)

その30分後に、500 kcal・炭水化物74 gを含む混合栄養飲料を摂取した。
血糖、GLP-1、GIP、インスリン、Cペプチド、CCKを測定し、胃排出速度は¹³C-アセテート呼気試験で評価した。

結果

  • C12+Trp併用のみ

    • 食後血糖の総和およびピーク値を有意に低下させた

  • 単独投与(C12のみ、Trpのみ)では効果なし

  • C12+Trpは

    • 胃排出を有意に遅延

    • 食前のGLP-1、GIP、CCKを上昇

    • インスリン、Cペプチドには影響なし

  • 食後のホルモン反応には差はみられなかった

結論

2型糖尿病において、十二指腸内C12+Trp投与は、主に胃排出遅延を介して食後血糖を低下させる
この作用はGLP-1およびCCKによって媒介されている可能性が高く、栄養素を用いた消化管戦略が血糖管理に有用であることを示唆する。


② 解説(臨床的に重要なポイント)

この研究の「核心」はここです

👉 インスリンを増やさずに血糖が下がった

  • インスリン・Cペプチドは変化なし

  • 血糖低下の主因は
    「胃排出速度の低下」+「消化管ホルモン」

つまりこれは、

GLP-1作動薬の“薬理”ではなく、“生理”を使った研究

です。


なぜ「併用」でないと効かないのか?

  • C12(脂肪酸) → CCK刺激

  • Trp(アミノ酸) → GLP-1刺激

ただし 単独では閾値未満
同時刺激で初めてL細胞・I細胞が反応

これは
「腸は“混合栄養”に最も強く反応する」
という生理学の再確認でもあります。


胃排出速度が血糖を決める

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③ 「GLP-1は薬だけじゃない」

〜ラウリン酸×トリプトファンが示した“腸から血糖を下げる”新戦略〜

皆さんこんにちは。
今日は、Diabetologia に2025年12月に掲載された、非常に興味深い論文を解説します。

結論を先に言うと、この研究はこう言っています。

「インスリンを増やさなくても、
胃の動きを変えるだけで血糖は下げられる」


GLP-1時代の“次の一手”

現在の糖尿病治療は、

  • GLP-1受容体作動薬

  • GIP/GLP-1デュアル作動薬

が主役です。

しかし一方で、

  • 吐き気

  • 食欲不振

  • 高コスト
    という問題もあります。

では、
「薬を使わず、体の仕組みそのものを使えないか?」

それに真正面から挑んだのが、この研究です。


研究デザインが示す「本気度」

この研究は:

  • 無作為化

  • 二重盲検

  • クロスオーバー

という、薬剤試験レベルの厳密さで行われています。

しかも注目すべきは、

👉 十二指腸内投与

つまり、

  • 嗜好

  • 食欲

といった心理的要因を完全に排除しています。

純粋に
「腸がどう反応するか」だけを見ている
極めて生理学的な実験です。


なぜ「ラウリン酸」と「トリプトファン」?

  • ラウリン酸(C12)

    • ココナッツオイルに多い中鎖脂肪酸

    • CCKを刺激

  • トリプトファン

    • 必須アミノ酸

    • セロトニン・GLP-1分泌に関与

ポイントは 「どちらも単独では効かない量」

これは臨床的にも重要で、

腸は“単一栄養”では動かない

という事実を示しています。


結果は非常にシンプル

✔ 血糖は下がった
✔ インスリンは増えていない
✔ 胃排出は遅くなった

つまり、

血糖コントロール =
インスリン × 胃排出速度

この後者を操作した研究です。


臨床的に何が変わるのか?

この研究が示唆するのは、

  • 食事の「量」より

  • 食事の「質」より

👉 食事の「腸への届き方」

将来的には、

  • 食事前栄養介入

  • 特定アミノ酸+脂肪酸配合

  • 医療食品・機能性食品

といった形に発展する可能性があります。


ただし限界もある

正直に言うと:

  • 被験者は11名

  • 男性のみ

  • 急性試験

👉 長期効果は不明
👉 実生活で再現できるかは未確定

しかしそれでも、

「腸を標的にする」という方向性

は極めて明確です。


まとめ

この研究はこう教えてくれます。

  • 血糖は「膵臓」だけで決まらない

  • 「腸」と「胃」は強力な血糖調節装置

  • GLP-1は薬だけのものではない

食後高血糖に悩むすべての人に、
“別の選択肢”を示した論文
だと言えるでしょう。



健康講座962 糖尿病は「歯の神経」をどう壊すのか ― 歯髄で起きている炎症・血管障害・石灰化の真実 ―

 


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はじめに:

「歯が痛い」は、実は糖尿病のサインかもしれない

糖尿病(Diabetes mellitus)は、血糖値が高いだけの病気ではありません。
全身の血管・免疫・炎症・修復能力に影響を与える全身性疾患です。

そして近年、注目されているのが
**「糖尿病が歯の神経(歯髄:dental pulp)に与える影響」**です。

今回解説する論文は、
Impact of diabetes mellitus on dental pulp tissue pathosis – A scoping review
(2025年、オープンアクセス)

👉 糖尿病が歯髄にどのような病的変化を起こすのか
30本の研究(ヒト13・動物17)から体系的にまとめたレビューです。


1. 歯髄とは何か?なぜ重要なのか

歯髄(dental pulp)の役割

歯髄は、歯の中心にある神経・血管・免疫細胞の集合体です。

主な役割は:

  • 🩸 栄養供給(血管)

  • 🔥 炎症応答(免疫)

  • 🦷 修復・再生(象牙芽細胞)

  • ⚡ 痛みの感知(神経)

つまり歯髄は
**「歯の生命維持装置」**とも言える存在です。


2. 糖尿病が歯髄に与える3つの破壊的影響

このスコーピングレビューで明確になったのは、
糖尿病が歯髄に対して 3つの主要な病理変化 を引き起こすことです。


① 慢性炎症の暴走(Inflammation)

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● 炎症性サイトカインの増加

糖尿病患者の歯髄では:

  • IL-1β

  • TNF-α

  • IL-6

などの炎症性サイトカインが有意に増加していました。

👉 本来、炎症は「治すため」の反応ですが
糖尿病では 炎症が止まらない

● 抗酸化力の低下

動物実験では:

  • スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)

  • グルタチオン

などの抗酸化酵素が低下

➡ 活性酸素が増え
➡ 細胞障害が進行
➡ 修復不能な歯髄炎へ


② 歯髄の「糖尿病性細小血管障害」

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● 血管壁が厚くなる

ヒト研究で一貫して報告されたのが:

  • 歯髄血管の壁肥厚

  • 内皮細胞の減少

  • 血流低下

これはまさに
**歯髄版・糖尿病性細小血管障害(microangiopathy)**です。

● なぜ致命的なのか?

歯髄は「閉鎖空間」です。

  • 血流低下

  • 浮腫

  • 酸素不足

➡ 逃げ場がない
一気に壊死へ進行


③ 「石灰化は進むのに、治らない」という逆説

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● パルプストーン(歯髄石)の増加

高齢糖尿病患者では:

  • 歯髄石の頻度↑

  • 石灰化の進行↑

● しかし…

本来の修復(生理的石灰化)は 低下

つまり:

❌ 異常な石灰化は進む
⭕ 正常な修復はできない

これを論文では
**「Mineralization paradox(石灰化の逆説)」**と表現しています。


3. 1型糖尿病と2型糖尿病の違い

● 1型糖尿病

  • 発症が早い

  • 炎症反応が強い

  • 歯髄壊死が急速

● 2型糖尿病

  • 長期経過

  • 微小血管障害が顕著

  • 石灰化・慢性炎症が中心

どちらも歯髄には不利
➡ 病態が違うだけ


4. 血糖コントロールは歯髄を救うか?

結論:YES

良好な血糖コントロールでは

  • 炎症性サイトカイン低下

  • 血管構造の保持

  • 歯髄炎の進行が軽度

不良なコントロールでは

  • 不可逆性歯髄炎↑

  • 歯髄壊死↑

  • 根管治療成功率↓(示唆)

👉 HbA1cは、歯内療法の予後因子になりうる。


5. 歯内療法(根管治療)への臨床的示唆

このレビューが示す重要なメッセージ:

🔴 糖尿病は「歯内療法の前提条件」

  • 痛みが強い

  • 麻酔が効きにくい

  • 治癒が遅い

  • 再発しやすい

これらは偶然ではない


🔵 実践的ポイント

  • 糖尿病の有無を必ず確認

  • HbA1cを意識した治療計画

  • 保存的治療の限界を早めに見極める

  • 必要なら早期に抜髄・根管治療


6. 今後の研究と未来

本レビューが示した「未解決領域」:

  • 抗炎症療法は歯髄を守れるか?

  • 抗酸化治療の可能性

  • 糖尿病患者専用の歯内療法プロトコル

  • 再生歯内療法との相性

内科 × 歯科 × 炎症研究の融合が鍵。


まとめ(超重要)

✔ 糖尿病は歯髄の病気でもある

✔ 炎症・血管障害・石灰化が同時進行

✔ 血糖コントロールは歯を救う

✔ 歯内療法は「全身管理の一部」


最後に

「歯が悪くなったから、歯医者に行く」
ではなく、

「糖尿病を管理することが、歯を守る」

という視点が、
これからの医療には必要です。



2026/02/13

健康講座961 成人の肺炎球菌ワクチンについて(2026年版)

 





■ 2026年4月から高齢者肺炎球菌ワクチンが変わります

2026年4月1日より、65歳の定期接種で使用される肺炎球菌ワクチンは

ニューモバックス → プレベナー20

に切り替わります。

これまで必要だった
5年ごとの再接種は不要となり、原則1回接種で完了します。


■ 肺炎球菌とは

肺炎球菌は成人の肺炎の主要な原因菌です。
特に

  • 65歳以上

  • 糖尿病

  • 心疾患

  • 呼吸器疾患

のある方では重症化リスクが高く、

肺炎だけでなく敗血症や髄膜炎を起こすこともあります。


■ 成人用肺炎球菌ワクチンの種類(簡単に)

● ニューモバックス(従来型)

・効果は約5年
・繰り返し接種が必要

● プレベナー20(新しい結合型ワクチン)

・免疫が長く続く
・原則1回で完了

2026年4月からは定期接種もプレベナー20になります。


■ 過去に肺炎球菌ワクチンを打っている方

ニューモバックスなどをすでに接種していても、

1年以上空いていればプレベナー20を接種可能

です。


当院の対応について

当院は小規模クリニックのため、

  • 在庫管理の簡素化

  • 打ち間違い防止

  • 医療安全の確保

を目的として、

2026年4月以降、成人の肺炎球菌ワクチンは

プレベナー20のみ取り扱います。

※当院では小児の肺炎球菌ワクチンは行っておりません。


■ 定期接種(65歳の方)

プレベナー20を接種します。

自己負担額:1,100円

(※公費補助はこれまで通りです)


■ 任意接種(自費)

プレベナー20のみ対応します。

自費:11,000円(税込)


■ キャップバックスについて

キャップバックス(PCV21)は任意接種のみのワクチンですが、

  • 定期接種対象外

  • 費用が高額

  • 当院の運用方針

の理由から、現時点では当院では取り扱いません。

ご希望の方は、対応医療機関での接種をご検討ください。


■ まとめ

✔ 2026年4月から定期接種はプレベナー20へ
✔ 自己負担は1,100円(65歳)
✔ 原則1回接種で完了
✔ 当院はプレベナー20のみ取り扱い
✔ 自費の場合は11,000円(税込)

ご不明な点は診察時にお気軽にご相談ください。


小川糖尿病内科クリニック

2026/02/12

健康講座960 2型糖尿病における血圧目標はどこまで下げるべきか? ― 仮想介入(Target Trial Emulation)で検証した心血管アウトカム ―

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和訳(論文内容の整理された日本語要約)

目的(Aims)

糖尿病患者における至適な収縮期血圧(SBP)の目標値については、これまで一貫した結論が得られていませんでした。本研究では、SBPを特定の臨床的閾値以下に維持する仮想的な介入を行った場合、心血管疾患(CVD)および全死亡のリスクがどのように変化するかを評価しました。

方法(Materials and Methods)

中国のKailuan研究に参加した2型糖尿病患者4,264人を対象としました。
パラメトリックg-formulaを用いて、以下の3つの仮想介入を時間経過に沿ってシミュレーションしました。

  • SBP < 140 mmHg を維持

  • SBP < 130 mmHg を維持

  • SBP ≤ 120 mmHg を維持

解析では、時間依存性の交絡因子を調整し、

  • 10年間の心血管疾患リスク

  • 10年間の全死亡リスク

について、**リスク比(RR)治療必要数(NNT)**を算出しました。

結果(Results)

心血管疾患(CVD)のリスク

SBPを低く維持するほど、CVDリスクは段階的に低下しました。

  • SBP <140 mmHg

    • 相対リスク減少:18%

    • RR 0.82(95%CI: 0.75–0.88)

    • NNT = 32

  • SBP <130 mmHg

    • 相対リスク減少:24%

    • RR 0.76(95%CI: 0.69–0.86)

    • NNT = 24

  • SBP ≤120 mmHg

    • 相対リスク減少:31%

    • RR 0.69(95%CI: 0.58–0.84)

    • NNT = 19

👉 血圧を下げるほど、心血管イベントは確かに減少しました。

全死亡リスク

一方で、全死亡リスクについては異なる結果が示されました。

  • SBP <140 mmHg

    • RR 0.98(95%CI: 0.93–1.06)※有意差なし

  • SBP <130 mmHg

    • RR 1.04(95%CI: 0.95–1.12)※有意差なし

  • SBP ≤120 mmHg

    • RR 1.15(95%CI: 1.02–1.32)

    • 👉 全死亡リスクが15%有意に増加

サブグループ解析

特に以下の患者群では、SBP ≤120 mmHgによる「害」が「利益」を上回る傾向がみられました。

  • 60歳以上の高齢者

  • 降圧薬を使用していない患者

結論(Conclusion)

中国人2型糖尿病患者において、
SBPを120 mmHg以下まで厳格に下げることは、
心血管疾患は減らすものの、全死亡リスクを増加させる可能性があり、
リスク・ベネフィットの観点から最適な目標とは言えない

と結論づけられました。


専門用語のやさしい解説

  • 収縮期血圧(SBP)
    心臓が収縮したときの血圧。一般に「上の血圧」。

  • 心血管疾患(CVD)
    心筋梗塞、脳卒中など、心臓や血管に関わる病気の総称。

  • Target Trial Emulation(標的試験のエミュレーション)
    実際には行われていないランダム化試験を、
    観察研究データを用いて**「もしその介入をしたら?」**と仮想的に再現する解析手法。

  • パラメトリック g-formula
    時間とともに変化する因子(血圧、薬物治療など)を考慮しながら、
    因果関係を推定する高度な統計手法。

  • リスク比(RR)
    1未満ならリスク低下、1より大きいとリスク増加を意味する。

  • 治療必要数(NNT)
    1人のイベント(例:心血管イベント)を防ぐために、
    何人を治療する必要があるかを示す指標。小さいほど効果が大きい。


まとめ(臨床的メッセージ)

  • 糖尿病患者では「血圧は低ければ低いほど良い」とは限らない

  • SBP 130 mmHg未満は、
    👉 心血管疾患予防としては妥当なバランス

  • SBP ≤120 mmHgは、
    👉 心血管イベントは減るが、全死亡が増える可能性に注意

  • 特に高齢者や非降圧薬使用者では慎重な目標設定が必要


2026/02/11

健康講座959 【最新レビュー解説】1型糖尿病で膵β細胞は守れる?再生できる? ― 幹細胞・免疫療法の現実と限界をやさしく解説 ―

 

はじめに:1型糖尿病の「本当の困りごと」

1型糖尿病は、自分の免疫が誤って膵臓のβ細胞(インスリンを作る細胞)を壊してしまう病気です。
全糖尿病の約10%と数は多くありませんが、多くの方が一生インスリン注射を続ける必要があります。

インスリン治療で命は守れますが、

  • 低血糖の不安

  • 血糖の乱高下

  • 長期合併症(腎症・網膜症・神経障害など)

といった問題は、血糖が完璧でない限り完全には消えません

そこで長年、世界中で研究されてきたのが
👉 「β細胞を守る・取り戻す治療はできないのか?」
というテーマです。

今回紹介する論文は、その答えにかなり迫っています。


この研究は何をしたのか?(超要約)

この論文は、
「インスリン以外の治療で、β細胞は本当に守れるのか?」
を調べるために行われたベイズ型ネットワーク・メタ解析です。

メタ解析って?

たくさんの臨床試験をまとめて統計的に評価する方法です。
1つの研究より、はるかに信頼性が高いのが特徴です。


対象となった治療法

2000年〜2025年までに発表された
69試験・約4,800人の1型糖尿病患者のデータを解析しています。

評価された治療は15種類。主なものは以下です。

① 幹細胞治療(SCT)

  • 体の中で新しいβ細胞を生み出す可能性がある治療

  • 骨髄幹細胞などを用いる

② JAK阻害薬 / チロシンキナーゼ阻害薬(JAK/TKI)

  • 免疫の暴走を抑える薬

  • 関節リウマチなどでも使われる

③ 抗CD3抗体

  • T細胞(自己免疫の主犯)を抑える抗体薬

  • 免疫を「リセット」するイメージ

④ その他

  • ATG(抗胸腺細胞グロブリン)

  • ビタミンD関連治療

  • サイトカイン調整療法 など


評価指標①:Cペプチドとは?

Cペプチドって何?

インスリンが体内で作られるとき、必ず一緒に出てくる物質です。

  • インスリン注射では増えない

  • **「自分の膵臓がどれだけ働いているか」**を示す最重要指標

👉 Cペプチドが高い = β細胞が生きている


結果①:β細胞を本当に守れたのは?

結論から言います。

有意にCペプチドを改善したのは、幹細胞治療(SCT)だけでした。

  • 平均差(MD):+0.20

  • 信頼区間:0.04 ~ 0.36(※0をまたがない → 統計的に有意)

どういう意味?

👉 「偶然ではなく、本当にβ細胞機能が改善した」と言える


他の免疫療法はどうだった?

JAK阻害薬や抗CD3抗体などは、

  • 平均値は「少し良さそう」

  • でも 信頼区間が0をまたいだ

つまり、

効いている可能性はあるが、
はっきり「効いた」と断言できない

という結果でした。

ATG(抗胸腺細胞グロブリン)

さらに厳しく、

  • 平均差:−0.02

  • β細胞機能をむしろ悪化させる可能性

も示唆されました。


評価指標②:HbA1c(血糖コントロール)

HbA1cとは?

過去1〜2か月の平均血糖の指標です。

HbA1cが改善した治療は?

  • ビタミン関連治療:−1.5%

  • サイトカイン調整療法:−0.72%

👉 血糖値は確かに下がった


でも重要な事実があります

幹細胞治療は?

👉 HbA1cは有意に改善しなかった

なぜ?

論文ではこう説明しています。

  • 移植後は血糖が不安定になりやすい

  • インスリン調整が難しい時期がある

  • HbA1cは「短期変動に弱い指標」

つまり、

β細胞は守れても、血糖がすぐ安定するとは限らない

という現実です。


ここが最大のポイント(超重要)

多くの人が期待する構図

  • β細胞が増える
    → 血糖が安定
    → インスリン不要

しかし現実は…

👉 β細胞機能と血糖コントロールは完全には連動しない

論文でも、

「β細胞機能とHbA1cの完全な負の相関は確認されなかった」

と明言されています。


この研究から分かる「真実」

① 幹細胞治療は「希望の種」

  • β細胞を守る・増やす効果は現時点で最も確実

  • ただし 実用化はまだ途上

② 免疫療法は「可能性止まり」

  • 効く人はいるかもしれない

  • でも 万人に効く治療ではない

③ 血糖は別問題

  • β細胞が増えても

  • 血糖管理は依然として難しい


1型糖尿病治療の未来像

この論文が示しているのは、

「魔法の治療」はまだ存在しない

という厳しくも誠実な現実です。

しかし同時に、

  • β細胞を守る方向性は間違っていない

  • 幹細胞×免疫制御×インスリン最適化

  • 複合治療の時代が来る可能性

もはっきり見えています。


まとめ(超要約)

  • β細胞を本当に守れたのは幹細胞治療のみ

  • 免疫療法は「可能性はあるが未確定」

  • β細胞改善 ≠ 血糖安定

  • 1型糖尿病治療は「次の段階」に入りつつある


1型糖尿病は「インスリン不足の病気」ではなく
「免疫と再生の病気」
になりつつあります。

ロゴ決定

ロゴ決定 小川糖尿病内科クリニック

皆さま、こんにちは。 当院のロゴが決定いたしました。 可愛らしいうさぎをモチーフとして、小さなお花をあしらいました。 また、周りは院長の名字である「小川」の「O(オー)」で囲っております。 同時に、世界糖尿病デーのシンボルであるブルーサークルを 意識したロゴとなって...