2026/02/20

健康講座970 高齢者の糖尿病性腎臓病におけるSGLT2阻害薬は死亡率を下げるのか ――日本全国データを用いた「ターゲット試験エミュレーション研究」の徹底解説

 


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はじめに

糖尿病性腎臓病(DKD: Diabetic Kidney Disease)は、高齢の2型糖尿病患者において最も重要な合併症の一つであり、心血管疾患や死亡リスクを大きく高めることが知られています。近年、SGLT2阻害薬は腎保護作用・心不全抑制作用を有する薬剤として注目されてきましたが、「高齢者において死亡率を下げるのか」「どのような患者で効果が期待できるのか」については、ランダム化比較試験(RCT)でも結果が一貫していませんでした。

今回紹介する研究は、日本全国の診療報酬・健診データを用い、**65歳以上のDKD患者におけるSGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の死亡率を比較した“ターゲット試験エミュレーション研究”**です。実臨床に極めて近いデータから、「どの高齢者にSGLT2阻害薬が有益なのか」を具体的に示した点で、臨床的インパクトの大きい研究です。


研究の背景

SGLT2阻害薬は、尿中へのブドウ糖排泄を促進することで血糖を低下させるだけでなく、

  • 糸球体内圧の低下

  • 体液量調整

  • 心腎連関の改善

といった多面的効果を有します。一方で、高齢者では

  • フレイル

  • 低体重

  • 併存疾患の多さ

などが問題となり、「本当に全員に使ってよいのか?」という疑問が残っていました。


研究デザイン:ターゲット試験エミュレーションとは何か

専門用語解説①:ターゲット試験エミュレーション

**ターゲット試験エミュレーション(Target Trial Emulation)**とは、「本来行いたい理想的なランダム化比較試験(ターゲット試験)」を、観察研究データを用いて可能な限り再現する解析手法です。

  • 実臨床データを用いる

  • 介入開始時点を明確に定義

  • バイアス(特に不死時間バイアス)を最小化

することが特徴です。


対象患者

  • 日本全国の診療報酬+健診データベース

  • 65歳以上の糖尿病性腎臓病患者 5,371人

  • 新規に

    • SGLT2阻害薬を開始した群

    • DPP-4阻害薬を開始した群

を比較


比較薬としてDPP-4阻害薬を選んだ理由

DPP-4阻害薬は日本の高齢糖尿病患者で最も頻用されている薬剤の一つであり、

  • 低血糖リスクが低い

  • 体重変化が少ない

という特徴を持ちます。そのため、「高齢者における標準治療」として、比較対象に適した薬剤です。


主要評価項目

  • 全死亡(All-cause mortality)


統計解析の工夫

専門用語解説②:プロペンシティスコア・オーバーラップ重み付け

プロペンシティスコア(傾向スコア)とは、「その治療を受ける確率」を患者背景から推定した値です。本研究ではオーバーラップ重み付けを用い、

  • 両群で治療選択が重なり合う患者群を重視

  • 極端な患者背景の影響を減少

することで、よりRCTに近い比較を実現しています。


結果

追跡期間

  • 中央値:2.23年(IQR 1.07–3.49年)

  • 死亡数:437人


全死亡リスク

  • SGLT2阻害薬 vs DPP-4阻害薬

    • ハザード比(HR):0.51

    • 95%信頼区間:0.38–0.70

死亡リスクが約49%低下


専門用語解説③:ハザード比(HR)

HR = 0.51 とは、「SGLT2阻害薬群の死亡率が、DPP-4阻害薬群の約半分であった」ことを意味します。


感度解析(Per-protocol解析)

  • HR:0.50(95% CI 0.35–0.73)

➡ 治療継続を考慮しても結果は一貫


サブグループ解析:誰に効くのか?

年齢

  • 約80歳未満までは明確な生存利益あり

  • 80歳を超えると効果は減弱


BMI

専門用語解説④:BMI

BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m)²

  • 日本人では 22 kg/m² が標準体重とされることが多い


  • BMI ≥22 kg/m²:明確な死亡率低下

  • BMI <22 kg/m²:効果は限定的


併存疾患(CCI)

専門用語解説⑤:Charlson Comorbidity Index(CCI)

CCIは、

  • 心疾患

  • 悪性腫瘍

  • 腎不全

などの併存疾患を点数化した指標で、予後予測に用いられます。

CCIの高低にかかわらず、BMIと年齢が重要


臨床的な解釈

なぜBMIが重要なのか

SGLT2阻害薬は

  • 体重減少

  • 食欲低下

  • 軽度脱水

を引き起こす可能性があります。
もともと痩せている高齢者では、これらが不利に働く可能性があり、BMI ≥22という「体力の余裕」がある患者で効果が明確になったと考えられます。


なぜ80歳が一つの境界になるのか

80歳以上では

  • フレイル

  • サルコペニア

  • 生命予後に影響する非心腎因子

の影響が強くなり、薬剤効果が相対的に小さくなる可能性があります。


本研究の強み

  • 日本人高齢者に特化

  • 全国規模データ

  • 実臨床に近い比較

  • 高度な因果推論手法


限界

  • 観察研究であり、未測定交絡の可能性

  • DKDの重症度詳細(蛋白尿量など)が限定的

  • 薬剤用量・服薬遵守の完全把握は困難


臨床へのメッセージ

実践的まとめ

  • 65–80歳

  • BMI ≥22 kg/m²

  • 糖尿病性腎臓病あり

➡ この条件を満たす患者では、SGLT2阻害薬はDPP-4阻害薬よりも生存利益が期待できる


結論

本研究は、日本の高齢DKD患者において、SGLT2阻害薬が全死亡を有意に減少させることを示しました。ただし、その効果は一律ではなく、年齢とBMIというシンプルで臨床的に重要な指標によって層別化されることが明らかになりました。

「高齢だから使わない」のではなく、
「どの高齢者に使うかを見極める」
そのための強力なエビデンスを提供する研究と言えるでしょう。

2026/02/19

健康講座969 乳製品を含む高タンパク朝食と「炭水化物の早い時間摂取」はなぜ2型糖尿病に有効なのか ――概日時計・血糖・食欲を同時に改善した最新ランダム化クロスオーバー試験の完全和訳と徹底解説――

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【第1部】論文アブストラクト完全和訳

論文情報

掲載誌:Diabetologia
公開日:2026年1月23日
論文タイトル
Glycaemic, appetite and circadian benefits of a dairy-enriched diet with high-protein breakfast and early daytime-restricted carbohydrate intake in type 2 diabetes: a randomised crossover trial


目的/仮説(Aims / Hypothesis)

食事摂取の概日タイミングと、摂取されるタンパク質の供給源は、相互に作用しながら代謝調節に影響を及ぼす可能性がある。本研究の目的は、**乳製品を含む食事(YesMilk)乳製品を含まない等カロリー食(NoMilk)**を、厳密に構造化された食事タイミングのもとで比較し、概日時計遺伝子発現、血糖管理、食欲調節への影響を検討することである。


方法(Methods)

HbA1cが48 mmol/mol(6.5%)以上の2型糖尿病患者25名を対象としたランダム化クロスオーバー試験を実施した。被験者は、安定した経口血糖降下薬治療(3か月以上)または食事療法のみで管理されていた。

被験者は、

  • 乳製品を含む食事(YesMilk)

  • 乳製品を含まない食事(NoMilk)

の2つの食事介入を、それぞれ4週間ずつ実施し、その間に3〜4週間の洗い出し期間を設けた。介入順はコイントスによる単純無作為化で決定された。本研究はオープンラベル試験であり、割付は研究者・被験者ともに非盲検であった。

主要評価項目は、末梢血単核球(PBMC)における概日時計遺伝子発現であった。副次評価項目として、持続血糖モニタリング(CGM)による血糖指標および食欲スコアを評価した。本研究はイスラエル・Wolfson Medical Center 糖尿病ユニットで実施された。


結果(Results)

29名がスクリーニングされ、25名が無作為化された。YesMilk食から開始した13名は全員が両フェーズを完遂した。一方、NoMilk食から開始した12名のうち6名が試験を完遂した。最終的に19名が両介入を完了した。

YesMilk食はNoMilk食と比較して、以下の概日時計遺伝子発現を有意に増加させた。

  • BMAL1:1.8倍増加(p=0.0003)

  • REV-ERBα(NR1D1):2.2倍増加(p<0.001)

  • CRY1:1.4倍増加(p=0.03)

  • PER1:4週時点で有意に高値(p=0.01)

血糖指標については、YesMilk食により、

  • 空腹時血糖:約 1.7 mmol/L低下

  • グルコース管理指標(GMI):0.7%低下

  • 目標範囲内時間(TIR):9%増加

が認められた(すべてp<0.05)。

さらに、空腹感および甘味への欲求は15〜20%低下した(p<0.05)。


結論(Conclusions / Interpretation)

高タンパク朝食と日中早期に炭水化物摂取を制限した乳製品強化食は、2型糖尿病患者において概日時計遺伝子発現を増強し、血糖管理および食欲関連指標を改善した。本研究は、タンパク質供給源・概日リズム・代謝健康の間に存在する機序的関連性を支持するものであり、今後はより大規模かつ長期の研究による検証が求められる。


【第2部】徹底解説


1. この研究が重要な理由

2型糖尿病の食事療法は、長年にわたり「総カロリー」や「糖質量」を中心に議論されてきました。しかし現実には、同じカロリー・同じ糖質量であっても、

  • 朝に食べるのか

  • 夜に食べるのか

  • どのタンパク質を選ぶのか

によって、血糖反応は大きく異なります。

本研究の革新的な点は、
「何をどれだけ食べたか」ではなく「いつ・何から食べたか」
が、遺伝子レベルで糖尿病代謝を左右することを示した点にあります。


2. 概日時計(サーカディアンリズム)とは何か

● 概日時計の基本

人間の体内には、約24時間周期で作動する概日時計(circadian clock)が存在します。これは脳の視交叉上核だけでなく、肝臓、筋肉、脂肪組織、免疫細胞など全身の末梢組織にも存在します。

この時計は、

  • インスリン分泌

  • インスリン感受性

  • 糖新生

  • 脂質代謝

を時間帯ごとに最適化しています。


3. 主要遺伝子の専門的解説

● BMAL1

概日時計の中核遺伝子。BMAL1がCLOCK遺伝子と結合し、PER・CRY遺伝子の転写を制御する。BMAL1欠損マウスでは、重度のインスリン抵抗性と糖尿病様表現型が出現する。

● REV-ERBα(NR1D1)

BMAL1の発現リズムを調節する負の調節因子。脂質代謝、炎症制御、ミトコンドリア機能と密接に関連。

● CRY1 / PER1

概日時計の振動を安定化させる歯車。これらの発現低下は、夜間高血糖や睡眠障害と関連。

👉 本研究では、乳製品+朝高タンパクという介入だけで、これらが同時に改善した。


4. なぜ「乳製品」なのか

● ホエイタンパクの特性

乳製品に含まれるホエイタンパクは、

  • 消化吸収が速い

  • BCAA(特にロイシン)が豊富

  • GLP-1分泌を強力に刺激

という特徴を持ちます。

これにより、
朝のインスリン初期分泌が強化され、食後高血糖が抑制されます。


5. 炭水化物は「いつ」食べるかが重要

インスリン感受性は、

  • 朝:高い

  • 夜:低い

という日内変動を示します。

夜に炭水化物を摂取すると、

  • 血糖が下がりにくい

  • インスリン過剰

  • 概日時計の乱れ

が生じます。

本研究では、炭水化物を朝〜昼に集中させることで、この問題を回避しています。


6. CGM指標が示す本当の改善

● TIR(Time in Range)

TIRは、血糖が70–180 mg/dLに収まっている時間割合です。
9%のTIR改善=1日あたり約2時間以上の血糖安定を意味します。

これはHbA1cでは見えない、合併症リスク低下に直結する改善です。


7. 食欲と甘味欲求が下がる意味

糖尿病治療が失敗する最大の理由は、継続できないことです。

  • 空腹がつらい

  • 甘いものがやめられない

YesMilk食では、これらが15〜20%低下しました。

👉 これは「意志の問題」ではなく、生理学的に我慢が不要になる食事であることを示します。


8. 臨床応用のポイント

この研究から導かれる、現実的な実践ポイントは以下です。

  • 朝食は高タンパク+乳製品

  • 炭水化物は朝〜昼に集約

  • 夜は軽め・低糖質

  • カロリー制限より時間設計を重視


9. まとめ

本研究は、2型糖尿病治療が
「量の医学」から「時間と質の医学」へ
移行していることを明確に示しました。

  • 食事は薬である

  • そして「時間」もまた薬である

乳製品・高タンパク朝食・炭水化物の早期摂取という戦略は、
血糖・遺伝子・食欲を同時に整える、極めて理にかなった方法であり、今後の糖尿病食事療法の中核となる可能性があります。

2026/02/18

健康講座968  糖尿病の薬で脂肪肝は守れるのか ― GLP-1受容体作動薬・SGLT2阻害薬・DPP-4阻害薬を比較した最新研究をやさしく解説 ―

 



脂肪肝は、いまや珍しい病気ではありません。
健康診断で「脂肪肝があります」と言われたことがある人は非常に多く、とくに2型糖尿病を持つ人では、脂肪肝を合併している割合がかなり高いことが知られています。

近年、この脂肪肝は単なる「肝臓に脂肪がたまった状態」ではなく、全身の代謝異常と深く結びついた病気として再定義されました。
それが MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患) です。

MASLDは、放置すると
・肝硬変
・肝がん(肝細胞癌)

といった重篤な病気へ進行する可能性があります。
そのため、糖尿病治療を行う際にも「肝臓にとって何が良いのか」は、非常に重要なテーマになっています。


糖尿病の薬で、肝臓の未来は変えられるのか?

糖尿病治療薬は、ここ10〜15年で大きく進化しました。
特に広く使われているのが、次の3つの薬です。

  • GLP-1受容体作動薬

  • SGLT2阻害薬

  • DPP-4阻害薬

これらの薬は血糖値を下げるだけでなく、
体重減少、内臓脂肪の減少、インスリン抵抗性の改善など、
「代謝全体を良くする効果」があることが知られています。

そのため、

「これらの薬を使えば、脂肪肝も良くなり、
将来的な肝硬変や肝がんを防げるのではないか?」

という期待が、医療者・患者の双方にありました。

しかし、
本当に薬の種類によって肝臓の将来に差が出るのか
については、実ははっきりした答えがありませんでした。


今回の研究は何を調べたのか

この疑問に対して、現実の医療データを使って検証したのが、今回紹介する研究です。

この研究は、アメリカの医療保険データを用いた大規模な後ろ向き研究です。
実際の医療現場で治療を受けている患者のデータをもとに、

「どの薬を使った人が、その後どうなったか」

を追跡しています。

対象となったのは、

  • 2型糖尿病がある

  • MASLD(脂肪肝)を合併している

  • 以下のいずれかの薬を新たに開始した

という人たちです。

1つ目は GLP-1受容体作動薬
食欲を抑え、体重を減らす効果があり、最近とくに注目されています。

2つ目は SGLT2阻害薬
尿に糖を出すことで血糖を下げ、体重や血圧にも良い影響を与えます。

3つ目は DPP-4阻害薬
比較的穏やかに血糖を下げ、副作用が少ない薬として長年使われています。


比較の公平性をどう保ったのか

現実の医療データを使う研究で最も難しいのは、
「患者背景の違い」です。

たとえば、
重症な人ほど新しい薬を使われやすい、
高齢者には別の薬が選ばれやすい、
といった偏りが必ず生じます。

そこでこの研究では、
条件ができるだけ似た患者同士をペアにする方法
が使われました。

これにより、

  • 年齢

  • 性別

  • 糖尿病の重症度

  • 合併症

などがほぼ同じ人同士を比べることができるようになっています。


何をゴールとして評価したのか

この研究で注目したのは、
脂肪肝の「軽い改善」ではありません。

評価したのは、

  • 肝硬変

  • 肝がん(肝細胞癌)

という、最も重い肝臓の病気が起こったかどうかです。

薬を使い始めてから 2年間 の間に、
これらがどれくらい起こったのかを比較しました。


結果:はっきりした差は見つからなかった

解析の結果は、ある意味とても冷静なものでした。

GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬を比べても、
GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬を比べても、
SGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬を比べても、

2年間の肝硬変・肝がんの発症リスクに、
統計的に明確な差は認められませんでした。

「どの薬が一番肝臓を守る」とは言えなかった、
というのが正直な結論です。


この結果をどう受け止めるべきか

ここで重要なのは、
「効果がない」と短絡的に考えないことです。

肝臓の病気は進行に時間がかかる

肝硬変や肝がんは、
数年で急に起こる病気ではありません。

多くの場合、
10年、20年という長い時間をかけて進行します。

そのため、2年間という観察期間では
差が見えにくい可能性があります。


軽い改善は評価していない

この研究が見ているのは、
「肝硬変・肝がん」という最終的な結果だけです。

  • 脂肪の量が減ったか

  • 肝臓の炎症が落ち着いたか

  • 線維化の進行が遅れたか

といった途中段階の変化は、評価対象ではありません。

そのため、
「肝臓に良い影響が全くない」
という意味ではありません。


一般の方にとっての現実的な結論

今回の研究から言える、最も大切なポイントはこれです。

糖尿病の薬だけで、
脂肪肝の将来が決まるわけではない。

どの薬を使っても、
肝硬変や肝がんを確実に防げるという証拠は、
少なくとも短期間では示されていません。

だからこそ、

  • 体重管理

  • 食事内容の見直し

  • 継続できる運動

といった、地道な生活習慣の改善が、
今もなお最も重要です。


薬選びは「肝臓だけ」で決めない

糖尿病治療薬は、
肝臓だけでなく、心臓、腎臓、体重、低血糖リスクなど、
さまざまな要素を総合して選ぶ必要があります。

肝臓にとって「絶対にこれが正解」という薬は、
現時点では存在しません。

主治医と相談しながら、
自分の体全体にとって最もバランスの良い治療を選ぶことが、
結果的に肝臓を守ることにもつながります。


まとめ

  • MASLDを合併した2型糖尿病患者において

  • GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬の間で

  • 2年間の肝硬変・肝がん発症リスクに

  • 明確な差は認められなかった

これは「希望がない」という話ではありません。
むしろ、現実を正確に知ったうえで、
長い目で肝臓と向き合う必要がある、というメッセージです。

派手な答えはありませんが、
続けられる生活改善と適切な治療の積み重ねこそが、
肝臓の未来を左右します。

焦らず、誇張せず、
できることを一つずつ積み上げていくことが、
いま最も確実な選択です。


2026/02/17

健康講座967 【名もなき英雄たち】 糖尿病医療を静かに変えてきた4つの物語 ― 研究室の外で起きた、本当のイノベーション ―

 




はじめに

糖尿病の歴史というと、私たちはつい「偉大な発見者」や「ノーベル賞級の研究者」に目を向けがちです。
インスリンの発見といえば、フレデリック・バンティングチャールズ・ベストJ.J.R.マクラウド などの名前が必ず挙がります。

しかし、2026年の Diabetes Care に掲載されたこの論文は、あえて問い直します。

「本当に糖尿病医療を前に進めてきたのは、研究者だけだったのか?」

この論文が光を当てるのは、
**名前も記録もほとんど残っていない“4つの存在”**です。

  • 作家として有名だが、糖尿病患者としての顔は忘れられてきた人物

  • たった一言の問いで医療を変えた妊婦

  • 実験でも患者でもない「動物」

  • 膨大なデータとしてのみ扱われ、声を失った人々

ここには、「糖尿病医療は共同作業である」という、非常に重要なメッセージが込められています。


第1章|キャンペーナー

― 糖尿病患者は「管理される存在」ではない ―

この章の主人公は、SF作家として世界的に有名な
H.G.ウェルズ です。

■ 意外な事実

ウェルズは60代半ばで糖尿病(現在でいう2型糖尿病)と診断されました。
この事実は、彼の伝記ではほとんど触れられていません。

しかし彼は、糖尿病をきっかけに、ある行動を起こします。

■ 世界初級の「患者主体の団体」

1935年、彼は**British Diabetic Association(現在の Diabetes UK)**の設立に深く関わります。

この団体の革新性は、
👉 「患者自身が、運営と意思決定に関わる」
という点にありました。

当時の医療では、

  • 患者は「管理される存在」

  • 自己判断は危険

  • 医師がすべて決める

という考えが支配的でした。

しかしウェルズは、こう主張します。

糖尿病患者は、精神的にも道徳的にも障害されていない。
意志と知性によって、自ら健康を維持できる存在だ。

これは、後の

  • 自己血糖測定

  • 自己注射

  • 患者教育

  • 患者参画型医療

の思想的土台となりました。


第2章|ザ・ペイシェント

―「なぜ、家ではできないの?」という一言 ―

1975年、ロンドン。
妊娠26週の糖尿病患者が、低血糖による痙攣を起こします。

医師の判断はこうでした。

「出産まで、入院してください」

当時は、

  • 尿糖測定が主流

  • 妊娠中は血糖変動が激しい

  • 在宅管理は危険

と考えられていたからです。

■ 彼女の質問

この女性は、こう問い返します。

「なぜ、これを家でやってはいけないの?」

この一言が、歴史を変えました。

■ 在宅血糖測定の始まり

医師の一人が賭けに出ます。
指先穿刺と Dextrostix + Eyetone を使った自己血糖測定を教え、自宅に返したのです。

結果は――

  • 血糖コントロール良好

  • 入院回避

  • 正期産で健康な出産

これをきっかけに、
妊婦 → 網膜症患者 → 一般患者へと
自己血糖測定が一気に広がっていきます。

■ 医師たちの本音

論文には、当時の医師の驚きが正直に書かれています。

「問題の多かった若年患者が、
数週間で安定した“良い患者”になった」

ここで重要なのは、
患者が“信用された瞬間”、行動が変わった
という点です。


第3章|テスト・サブジェクト

― インスリンの“怖さ”を教えてくれた存在 ―

この章の主人公は、人間ですらありません。
名前も記録もありません。

■ 舞台は1920年代トロント

新薬インスリンの講演会。
聴衆の前で、1匹の白いウサギに大量のインスリンが注射されます。

結果――

  • 重度低血糖

  • 痙攣

  • 昏睡

講演者は慌ててブドウ糖を注射しますが、最初は失敗。
床に薬剤が漏れていたのです。

2回目でようやく回復。

■ このウサギが示したもの

この出来事は、2つの真実を突きつけました。

  1. インスリンは命を救うが、同時に危険も生む

  2. 低血糖は「医原性疾患」になり得る

犬の実験は有名ですが、
この“無名のウサギ”は、
「慢性疾患としての糖尿病」という新しい時代の始まりを、体で示した存在でした。


第4章|ザ・データセット

― 声を奪われた人々の40年 ―

最後の章は、個人ですらありません。
**「データ」**です。

■ アキメル・オオダム族

アメリカ・アリゾナ州。
川を堰き止められ、伝統的農業を失った先住民族。

生活様式の激変後、
彼らは世界最大級の糖尿病疫学研究対象となります。

  • 1965年から40年以上

  • 5歳以上ほぼ全住民

  • 血液・尿・生活情報

これが有名な Pima Indian Diabetes Dataset です。

■ 得られた知見

  • 妊娠糖尿病の世代間影響

  • 生活環境の重要性

  • 単一の「倹約遺伝子」は見つからなかった

■ しかし…

研究は続いたのに、

  • 糖尿病有病率は改善せず

  • データはAI訓練や全く無関係な用途に再利用

  • 当事者への還元はほぼなし

結果、彼らは研究参加を拒否するようになります。

データは残ったが、人は置き去りにされた

という、非常に重い教訓です。


Aまとめ|この論文が伝えたい5つのこと

A1. 糖尿病医療は「共同作業」である

研究者だけでなく、
患者・家族・動物・コミュニティすべてが関わっている。

A2. 医療の進歩は「研究室の外」で起きる

一言の質問、在宅での実践、体験の共有が流れを変える。

A3. 患者を信頼すると、医療は進化する

管理ではなく、主体性が行動を変える。

A4. データには「提供者の人生」がある

匿名化の裏で、声が消えてはいけない。

A5. 予防と公正は切り離せない

科学的知見が、当事者の幸福に還元されなければ意味がない。


おわりに

この論文は、
「誰が最初に発見したか」を競う物語ではありません。

むしろこう問いかけています。

「あなたは、誰の声を聞いて医療をつくっていますか?」

糖尿病医療の未来は、
新薬だけでなく、
患者の問い・生活・尊厳をどう扱うか
にかかっている。

名もなき英雄たちは、今も私たちの足元にいます。


2026/02/16

健康講座966 【運動中の糖質摂取は「筋グリコーゲン」ではなく「低血糖」を防ぐためだった】 ――100年以上・160研究を再検証した最新レビューの全体像をやさしく解説

 はじめに:これまでの「常識」は本当に正しかったのか?

運動中や運動前の糖質(Carbohydrate:CHO)摂取は、長年にわたり

「筋グリコーゲンを満たすことが、持久力やパフォーマンスの決定因子」

と教えられてきました。

しかし2026年1月に Endocrine Reviews に掲載された、
Timothy D. Noakes らによる包括的レビューは、
この“教科書的理解”を根底から問い直します。



結論を先に:この論文が示した最重要ポイント

このレビューが導いた結論は、極めてシンプルです。

糖質摂取の最大の意義は、筋グリコーゲン補充ではなく「運動誘発性低血糖(EIH)」を防ぐことにある

これだけで、スポーツ栄養の歴史を半分書き換えるインパクトがあります。


1. 運動中に起きる「本当の限界」とは何か?

従来の仮説:筋グリコーゲン枯渇=疲労

1960年代に**筋生検(needle biopsy)**が導入され、
「運動後に筋グリコーゲンが減っている」
という事実が確認されました。

そこから、

  • グリコーゲンがなくなる

  • ATPが作れなくなる

  • 筋が動かなくなる

  • 疲労が起きる

という “エネルギー枯渇仮説(Energy Crisis Hypothesis)” が生まれます。


新しい視点:本当に筋は「動けなくなっている」のか?

Noakesらは、160以上の研究を精査し、こう指摘します。

  • 筋グリコーゲンが枯渇しても

    • 筋硬直(rigor)は起きない

    • ATP濃度も保たれている

  • それでも人は「もう続けられない」と感じて運動を止める

👉 つまり疲労は、筋の破綻ではなく「中枢(脳)」が止めている可能性が高い


2. 真犯人は「運動誘発性低血糖(EIH)」

EIH(Exercise-Induced Hypoglycemia)とは?

  • 長時間・中強度以上の運動中

  • 肝臓からの糖供給が追いつかず

  • 血糖値が著しく低下する状態

多くの研究で、運動終了時の血糖値は3.6 mmol/L以下に達しています。

これは
👉 臨床的低血糖の診断域


驚くべき事実①

運動終了とEIHは強く相関する

  • 筋グリコーゲン量:相関は弱い

  • 血糖低下(EIH):相関が非常に強い

👉「これ以上続けると脳が危ない」という
脳の防御反応としての疲労 が浮かび上がります。


3. 糖質摂取の「本当の作用機序」

よくある誤解

❌「運動中に糖を摂る → 筋グリコーゲンが増える」

実際に起きていること

糖質摂取 → 肝臓の糖放出が抑えられる

  • 外から糖が入る

  • 肝グリコーゲン分解が抑制される

  • 血糖が安定する

一方で驚くべきことに、

筋グリコーゲンの分解は、むしろ加速する

これは中枢神経・ホルモン制御による
“保護的な代謝再配分” と考えられています。


4. 高脂肪適応アスリートが示す「反証」

高脂肪・低糖質(LCHF)適応者の特徴

  • 筋グリコーゲン:少ない

  • 糖質酸化:少ない

  • 脂肪酸化:極めて高い(1.5 g/min超)

それでも、

👉 運動パフォーマンスは同等


ここから導かれる事実

  • 糖質は「必須燃料」ではない

  • 高強度でも脂肪は十分使える

  • 問題は「燃料の種類」ではなく「血糖の維持」


5. 糖質摂取量はどれくらいが最適か?

従来の推奨

  • 60〜90 g/時

  • 場合によっては120 g/時

本レビューの結論

15〜30 g/時で十分

理由は明確です。

  • それ以上摂っても

    • 血糖安定効果は頭打ち

    • パフォーマンス改善は起きない

👉 量ではなく「低血糖を防げるか」が本質


6. 肝グリコーゲンの重要性が再評価される

筋よりも大事なのは「肝臓」

  • 筋グリコーゲン:局所燃料

  • 肝グリコーゲン:全身(特に脳)を守る

運動中の血糖維持は
👉 肝臓の糖新生・糖放出能力に依存


EIHを起こしやすい人

  • 長時間運動

  • 低糖質食直後

  • 肝糖新生能が低い人

    • トレーニング不足

    • 栄養不足

    • 代謝疾患背景


7. スポーツ栄養ガイドラインへの影響

この論文が示す方向性は明確です。

  • 一律の高糖質推奨 ❌

  • 個別化された血糖重視戦略 ⭕

実践的には

  • 普段は高糖質でも低糖質でもよい

  • 運動中は

    • 低用量糖質で

    • 血糖低下を防ぐ

👉 「糖質=燃料」から「糖質=脳保護」へ


【まとめ】

  • 疲労の主因は「筋」ではなく「脳」

  • 糖質摂取の本質は「低血糖防止」

  • 肝グリコーゲンが鍵

  • 必要な糖質量は最小限でよい

  • 高脂肪適応でもパフォーマンスは維持可能


最後に(臨床・指導への応用)

このレビューは、

  • 糖尿病患者の運動指導

  • 持久系アスリートの補給設計

  • 低糖質食と運動の両立

すべてにおいて、**「血糖をどう守るか」**という
新しい共通軸を与えてくれます。

運動の限界を決めているのは、筋肉ではなく“脳の安全装置”である

これは、スポーツ栄養学における
静かですが決定的なパラダイムシフトです。

2026/02/15

健康講座965 インフルエンザの「みなし診断」とは何か

 




——検査が陰性でもインフルエンザと診断され、治療される医学的理由

冬になると、患者さんからよくこんな質問を受けます。

「インフルエンザの検査は陰性でした。でも先生に“インフルの可能性が高い”と言われました。
陰性なら違うんじゃないですか?」

結論からお伝えします。

インフルエンザの迅速抗原検査は、特に発症初期では“陰性になりやすい”という限界があります。

そのため、

  • 症状

  • 発症のタイミング

  • 周囲の流行状況

  • 家族や職場での感染状況

  • 診察所見

これらを総合して、医師が「インフルエンザである可能性が高い」と判断することがあります。

これを一般的に「みなし診断」「みなし陽性」と呼ぶことがありますが、医学的には
臨床診断 と言います。


インフルエンザ抗原検査には“偽陰性”があります

まず大前提として知っておいてほしい重要な事実があります。

国立感染症研究所(NIID)のインフルエンザ診断マニュアルでは、

  • 迅速抗原検査はPCRなどに比べ感度が低い

  • 特に発病初期はウイルス量が少なく検出できないことがある

  • 陰性結果は「抗原が検出されなかった」だけで、感染を否定するものではない

と明確に記載されています。

つまり、

「陰性=インフルエンザではない」とは言えない

ということです。


実際、発症してから何時間だと陰性になりやすいのか?

日本の感染症学雑誌に掲載された臨床研究では、発症から検査までの時間別に迅速抗原検査の感度が検討されています。

その結果は以下の通りでした。

  • 発症12時間未満:感度 約38.9%

  • 12〜24時間: 約40.5%

  • 24〜48時間: 約65.2%

  • 48時間以降: 約69.6%

つまり、

発症から24時間以内は半分以上が見逃される可能性がある

という現実的な数字です。

これが「朝熱が出てすぐ検査 → 陰性」というケースで、後からインフルと分かる理由です。


なぜ早いと陰性になりやすいのか?

理由は主に3つあります。

  1. ウイルス量がまだ十分に増えていない

  2. 鼻の奥の検体が十分採取できないことがある

  3. 抗原検査自体がPCRより感度が低い

海外レビュー論文でも、迅速抗原検査はウイルス量依存であり、初期では感度が著しく低下することが繰り返し指摘されています。


では陰性だったらどうするのが正解?

重要なのは「検査結果だけで決めない」ことです。

次のような場合は、陰性でもインフルエンザの可能性を強く考えます。

  • 急激な発熱、悪寒、筋肉痛、強い倦怠感など典型症状がある

  • 家族や同居者がすでにインフルエンザA型やB型と診断されている

  • 学校・職場・地域で流行している

  • 発症からまだ半日〜1日以内

  • 診察所見から医師が強く疑う

このような場合、

  • 時間をあけて再検

  • より精度の高い検査

  • あるいは臨床診断

を行います。


ここがとても大切:検査が陰性でも医師の判断で治療することがあります

ここが多くの方に誤解されているポイントです。

厚生労働省の公式資料では、

流行状況や症状などからインフルエンザ罹患の可能性が高い場合には、検査を行わず、医師の判断により抗インフルエンザ薬を処方することが可能

と明記されています。

つまり、

検査が陰性でも

医師が総合的にインフルエンザと判断すれば

保険診療として抗インフルエンザ薬(タミフル・イナビル・ゾフルーザなど)を処方することがあります。

これは特別な例外ではなく、厚労省・公的機関が想定している通常の診療です。


具体的にはどんな時?

たとえば:

  • 家族がすでにインフルエンザA型・B型と診断されている

  • ご本人にも急激な発熱と全身症状が出ている

  • 発症初期で検査が陰性になりやすい時間帯

  • のど・鼻の診察所見も含め、医師が蓋然性が高いと判断

こうした場合、

✔ 検査が陰性でも
✔ 医師の臨床診断でインフルエンザと判断し
✔ 抗インフルエンザ薬を開始する

ことがあります。


ただし「必ず薬が出る」わけではありません

同じような状況でも、

  • 症状が軽い

  • 他の感染症の可能性が高い

  • 発症からかなり時間が経っている

  • 薬のメリットより副作用リスクが上回る

などの場合には、

あえて薬を使わず経過観察

という判断になることもあります。

最終的には

「検査」ではなく

「医師の総合的判断」

で決まります。


「みなし要請」が生まれる背景

学校や職場が「陰性証明」「治癒証明」を求めることで混乱が起きがちですが、文部科学省は医療逼迫回避の観点から、こうした証明書を求めないよう通知しています。

また、学校の出席停止は「陽性日」ではなく、

  • 発症後5日

  • 解熱後2日(幼児は3日)

という経過基準で決まります。


まとめ

  • インフルエンザ迅速検査は発症初期では陰性になりやすい

  • 日本の研究では24時間以内の感度は約4割

  • 陰性でも感染を否定できない

  • 症状・流行状況・接触歴・診察所見を総合して医師が判断する(臨床診断)

  • その結果、陰性でも保険診療として抗インフルエンザ薬を処方することがあります

  • ただし必ず出るわけではなく、医師の総合判断になります



2026/02/14

健康講座964 インフルエンザの「薬の予防投与」について:医学的には“あり得る”が、保険診療では原則「自費」です

 


インフルエンザが家族内で流行すると、よくある相談がこれです。

「家族がインフルになりました。自分はまだ熱がないけど、うつると困るので薬で予防できますか?」

結論からお伝えします。

  • 医学的には、条件がそろえば「薬による予防(予防投与/曝露後予防)」という考え方はあります。

  • しかし 保険診療(健康保険)では未発症の人に予防目的で抗インフルエンザ薬を出すことは原則認められず、自費になるのが基本です(少なくとも当院は自費対応です)。

この「医学」と「保険」のズレが、いちばん混乱しやすい点なので、丁寧に解説します。


1. 予防投与(曝露後予防)って何?

予防投与とは、まだインフルエンザを発症していない人が、

  • 同居家族などの濃厚接触があり

  • 近い将来の感染リスクが高い

と判断されるときに、抗インフルエンザ薬を使って**発症を抑える(発症しにくくする)**ことを指します。

ここで大事なのは、予防投与は「全員におすすめされる一般的な方法」ではなく、例外的に検討される医療行為だという点です。


2. 医学的には、予防投与には“価値がある”の?

はい、あります。ただし条件つきです。

予防投与が検討されやすい状況

代表的には次のような状況です。

  • 家族・同居人がインフルエンザを発症し、同じ空間で過ごす時間が長い

  • 本人が感染した場合に、重症化しやすい可能性がある

  • 接触してから早い時期に開始できる

実際に、抗インフルエンザ薬の中には、添付文書に「予防(発症抑制)」の用法・用量が記載されている薬があります(例:ゾフルーザ、イナビル、タミフル、リレンザなど)。
たとえばゾフルーザの添付文書では、予防について「同居家族・共同生活者」や「重症化リスクが高い人」を念頭に置いた記載があり、また **“予防の基本はワクチンであり、薬はワクチンの代替ではない”**ことも明記されています。(※前回提示したPMDA添付文書PDFの内容に対応)

ただし「万能」ではありません

予防投与には限界もあります。

  • 100%防げるわけではない

  • 開始が遅いと効果が落ちる(薬によっては「接触後2日以内に開始」などの条件が添付文書で示されます)

  • 副作用があり得る

  • 乱用すると、薬が効きにくいウイルス(耐性)などの問題が起こり得る

つまり、医学的には「条件がそろえば検討する価値がある」が、「誰でも気軽に飲むもの」ではありません。


3. ここが最重要:保険診療では、未発症の予防投与は原則“自費”です

患者さんが一番知りたいのはここだと思います。

添付文書に「予防」の記載があるのに、なぜ保険が使えないの?

ポイントは次の通りです。

  • **添付文書(医学的に使ってよい範囲)**と

  • 保険診療(保険で請求できる範囲)

は、必ずしも一致しません。

抗インフルエンザ薬について、支払基金・国保の審査上の整理では、抗インフルエンザ薬は「発症後の治療目的」に使用した場合に限り算定できる**という扱いが明確に示されています。
同資料では、少なくとも「インフルエンザ疑い」への投与が原則認められないことも示されており、未発症の“予防目的”は保険算定になじまない(=通りにくい)という運用の土台があります。

よくある誤解:「糖尿病や高齢なら保険で予防できる?」

これは誤解です。

  • 糖尿病がある

  • 高齢である

  • 心臓や肺の病気がある

  • 家族がインフル陽性だった

これらは医学的には「感染すると重症化しやすいので予防投与を検討してよい条件」になり得ます。

しかし、保険診療としては別問題で、

本人がまだ発症していない(=治療ではない)

場合、原則として保険は使えず、自費になります


4. まとめ:当院での考え方(患者さん向けの結論)

ここまでを一文でまとめると、こうなります。

抗インフルエンザ薬には「予防投与」という使い方が添付文書上存在しますが、保険診療では抗インフルエンザ薬は基本的に“発症後の治療”として扱われます。そのため、まだ症状が出ていない方への予防目的の投与は、糖尿病や高齢などの持病があっても、原則として自費になります。


5. 予防投与を検討する場合、何を確認して決めるの?

自費で予防投与を検討する場合でも、次の点を一緒に確認してから決めます。

  • 接触状況:同居/同室/長時間接触か

  • 時期:接触後どれくらい早いか(薬によって早期開始が重要)

  • 重症化リスク:年齢、持病、妊娠、免疫状態など

  • 副作用と注意点:体質・既往歴・併用薬

  • 費用:保険ではなく自費になること

そして最終的に、薬を使う・使わないに関わらず、予防として一番基本になるのは

  • ワクチン

  • マスク、換気、手洗い

  • 家庭内隔離(可能な範囲で寝室や食事を分ける)

  • 体調変化があれば早めに受診(発症したら治療は保険で行える)

です。



ロゴ決定

ロゴ決定 小川糖尿病内科クリニック

皆さま、こんにちは。 当院のロゴが決定いたしました。 可愛らしいうさぎをモチーフとして、小さなお花をあしらいました。 また、周りは院長の名字である「小川」の「O(オー)」で囲っております。 同時に、世界糖尿病デーのシンボルであるブルーサークルを 意識したロゴとなって...