——検査が陰性でもインフルエンザと診断され、治療される医学的理由
冬になると、患者さんからよくこんな質問を受けます。
「インフルエンザの検査は陰性でした。でも先生に“インフルの可能性が高い”と言われました。
陰性なら違うんじゃないですか?」
結論からお伝えします。
インフルエンザの迅速抗原検査は、特に発症初期では“陰性になりやすい”という限界があります。
そのため、
症状
発症のタイミング
周囲の流行状況
家族や職場での感染状況
診察所見
これらを総合して、医師が「インフルエンザである可能性が高い」と判断することがあります。
これを一般的に「みなし診断」「みなし陽性」と呼ぶことがありますが、医学的には
臨床診断 と言います。
インフルエンザ抗原検査には“偽陰性”があります
まず大前提として知っておいてほしい重要な事実があります。
国立感染症研究所(NIID)のインフルエンザ診断マニュアルでは、
迅速抗原検査はPCRなどに比べ感度が低い
特に発病初期はウイルス量が少なく検出できないことがある
陰性結果は「抗原が検出されなかった」だけで、感染を否定するものではない
と明確に記載されています。
つまり、
「陰性=インフルエンザではない」とは言えない
ということです。
実際、発症してから何時間だと陰性になりやすいのか?
日本の感染症学雑誌に掲載された臨床研究では、発症から検査までの時間別に迅速抗原検査の感度が検討されています。
その結果は以下の通りでした。
発症12時間未満:感度 約38.9%
12〜24時間: 約40.5%
24〜48時間: 約65.2%
48時間以降: 約69.6%
つまり、
発症から24時間以内は半分以上が見逃される可能性がある
という現実的な数字です。
これが「朝熱が出てすぐ検査 → 陰性」というケースで、後からインフルと分かる理由です。
なぜ早いと陰性になりやすいのか?
理由は主に3つあります。
ウイルス量がまだ十分に増えていない
鼻の奥の検体が十分採取できないことがある
抗原検査自体がPCRより感度が低い
海外レビュー論文でも、迅速抗原検査はウイルス量依存であり、初期では感度が著しく低下することが繰り返し指摘されています。
では陰性だったらどうするのが正解?
重要なのは「検査結果だけで決めない」ことです。
次のような場合は、陰性でもインフルエンザの可能性を強く考えます。
急激な発熱、悪寒、筋肉痛、強い倦怠感など典型症状がある
家族や同居者がすでにインフルエンザA型やB型と診断されている
学校・職場・地域で流行している
発症からまだ半日〜1日以内
診察所見から医師が強く疑う
このような場合、
時間をあけて再検
より精度の高い検査
あるいは臨床診断
を行います。
ここがとても大切:検査が陰性でも医師の判断で治療することがあります
ここが多くの方に誤解されているポイントです。
厚生労働省の公式資料では、
流行状況や症状などからインフルエンザ罹患の可能性が高い場合には、検査を行わず、医師の判断により抗インフルエンザ薬を処方することが可能
と明記されています。
つまり、
検査が陰性でも
医師が総合的にインフルエンザと判断すれば
保険診療として抗インフルエンザ薬(タミフル・イナビル・ゾフルーザなど)を処方することがあります。
これは特別な例外ではなく、厚労省・公的機関が想定している通常の診療です。
具体的にはどんな時?
たとえば:
家族がすでにインフルエンザA型・B型と診断されている
ご本人にも急激な発熱と全身症状が出ている
発症初期で検査が陰性になりやすい時間帯
のど・鼻の診察所見も含め、医師が蓋然性が高いと判断
こうした場合、
✔ 検査が陰性でも
✔ 医師の臨床診断でインフルエンザと判断し
✔ 抗インフルエンザ薬を開始する
ことがあります。
ただし「必ず薬が出る」わけではありません
同じような状況でも、
症状が軽い
他の感染症の可能性が高い
発症からかなり時間が経っている
薬のメリットより副作用リスクが上回る
などの場合には、
あえて薬を使わず経過観察
という判断になることもあります。
最終的には
「検査」ではなく
「医師の総合的判断」
で決まります。
「みなし要請」が生まれる背景
学校や職場が「陰性証明」「治癒証明」を求めることで混乱が起きがちですが、文部科学省は医療逼迫回避の観点から、こうした証明書を求めないよう通知しています。
また、学校の出席停止は「陽性日」ではなく、
発症後5日
解熱後2日(幼児は3日)
という経過基準で決まります。
まとめ
インフルエンザ迅速検査は発症初期では陰性になりやすい
日本の研究では24時間以内の感度は約4割
陰性でも感染を否定できない
症状・流行状況・接触歴・診察所見を総合して医師が判断する(臨床診断)
その結果、陰性でも保険診療として抗インフルエンザ薬を処方することがあります
ただし必ず出るわけではなく、医師の総合判断になります














