がんと血糖値の深い関係
― 24種類・67万人データから見えた「糖代謝」と生存率の真実 ―
がん治療というと、手術・抗がん剤・放射線といった「がんそのもの」への対策に目が向きがちです。
しかし近年、「がん以外の体の状態」が、がん患者さんの生存率を大きく左右することが分かってきました。
今回ご紹介するのは、韓国全国規模・67万人以上という非常に大きなデータを用いて、
「血糖値の状態(正常・境界型・糖尿病)が、がん患者さんの死亡リスクにどう影響するのか」
を詳しく調べた研究です。
結論から言うと、
糖尿病や境界型高血糖(IFG)は、がんの予後を確実に悪くしていました。
しかもその影響は、早期がんほど強いという、臨床的にとても重要な結果でした。
研究の概要(まず全体像をつかむ)


どんな研究?
研究名:Glucose tolerance and mortality across 24 cancer types and stages
データベース:韓国の全国がん登録+健診+死亡統計を統合した K-CURE
対象人数:671,366人
対象がん:24種類(肺・胃・大腸・乳がんなど主要ながんをほぼ網羅)
追跡期間:平均3.5年
血糖状態の分類
NGT:正常血糖
IFG:空腹時血糖がやや高い(いわゆる「糖尿病予備群」)
DM:糖尿病
まず結論を一言で
糖尿病(DM)
→ 全死亡・がん死・心血管死・呼吸器死すべてが有意に増加境界型(IFG)
→ 死亡リスクは小さいが、確実に上昇影響が最も大きいのは「早期がん」
進行がんでは影響は弱まる
結果を数字で見る(ここが一番大事)
糖尿病があると、どれくらい死亡リスクが上がる?
| 死因 | ハザード比(HR) | 意味 |
|---|---|---|
| 全死亡 | 1.34 | 34%高い |
| がん死亡 | 1.31 | 31%高い |
| 心血管死亡 | 1.46 | 46%高い |
| 呼吸器死亡 | 1.43 | 43%高い |
👉 「がんで亡くなるリスク」だけでなく、心臓病や肺炎なども増えるのが特徴です。
境界型高血糖(IFG)は安全なの?
答えは NO です。
| 死因 | ハザード比 |
|---|---|
| 全死亡 | 1.06 |
| がん死亡 | 1.07 |
数値としては小さく見えますが、
**67万人規模の集団では「確実な差」**として検出されています。
なぜ「早期がん」で影響が強いのか?


この研究で特に重要なのは、がんの進行度(ステージ)別解析です。
ステージ別の特徴
局所がん(早期)
→ 糖尿病の影響が最も強い進行がん
→ 糖代謝の影響は相対的に弱まる
理由を分かりやすく説明すると
① 早期がんは「長く生きる前提」
もともと治癒・長期生存が期待できる
→ 生活習慣病の影響が積み上がる
② 進行がんでは「がん自体」が強すぎる
がんの進行スピードが予後を決める
→ 血糖の影響が相対的に目立たなくなる
なぜ血糖が高いと、がんの予後が悪くなるの?
ここからは、一般の方にも分かるように**仕組み(メカニズム)**を説明します。
① 高血糖は「がん細胞のエサ」になる
がん細胞は、ブドウ糖を大量に消費します。
血糖が高い状態は、いわば
がん細胞に常に食事を与えている状態
になってしまいます。
② インスリンとIGF-1が増える
糖尿病では、体内で
インスリン
IGF-1(インスリン様成長因子)
が高くなりやすく、これらは
細胞増殖を促進
アポトーシス(自然死)を抑制
👉 がん細胞にとって都合が良い環境を作ります。
③ 慢性炎症が続く
糖尿病は「静かな炎症状態」です。
サイトカイン増加
酸化ストレス増大
免疫監視機構の低下
これらが組み合わさり、
がんの進展・再発を後押しします。
④ 心臓・血管・肺も同時に弱る
この研究では、
心血管死亡
呼吸器死亡
も増えていました。
つまり、
がん以外の合併症で命を落とすリスクも高い
という現実がはっきり示されたのです。
この研究の強み(信頼できる理由)
✅ 全国規模・67万人
✅ 24種類のがん
✅ ステージ別解析
✅ 1年・3年・5年のラグ解析
→ 「がんの影響で血糖が上がった」逆因果を排除
疫学研究として、非常に完成度が高い内容です。
一方での限界(正直に)
HbA1cや治療内容の詳細は不明
食事・運動・体重変化までは追えない
観察研究なので「因果関係の証明」ではない
ただし、それを補って余りある規模と一貫性があります。
臨床・生活へのメッセージ(ここが一番大事)
がん患者さん・ご家族へ
「がん治療が終わったから安心」ではない
血糖管理は、がん治療の延長線上
境界型でも油断しない
医療者へ
サバイバーシップケアに代謝管理を組み込む
早期がんほど介入価値が高い
糖尿病治療は「寿命を守る治療」
まとめ(この研究が教えてくれたこと)
糖尿病は、がん患者の生存率を確実に下げる
境界型高血糖でも影響はある
特に早期がんで重要
がん治療+血糖管理=真の予後改善
がんは「一つの病気」ではなく、
体全体の状態の中で進行する病気です。
この研究は、
「がんと共に生きる時代」に必要な視点
を、数字ではっきり示してくれました。
血糖管理は、
がん治療の脇役ではなく、主役の一部です。

















