休日の午後に、たった一つ予定が入っているだけなのに、「今日はもう何もできない」「朝から一日が拘束されている」と感じることがあります。
たとえば、午後3時から1時間だけ人と会う予定があるとします。時計の上では、朝から午後3時までに何時間も残っています。映画を見ることも、本を読むことも、遠くへ出かけることも、計算上はできるはずです。それなのに、なぜか大きなことを始める気になれない。結局、スマートフォンを眺めたり、短い動画を見たり、いつでも中断できる細かな作業をしたりして、予定の時間を待つだけになってしまう。
この感覚は、単なる怠けや意志の弱さではありません。もちろん、移動時間や準備時間が必要であれば、実際に使える時間は減ります。しかし、それだけでは説明できないほど、予定の存在が自由時間全体を狭く感じさせることがあります。
心理学の研究を整理すると、予定が時間を物理的に消しているのではなく、予定の存在によって、脳がその前の時間を「自由に使える時間」ではなく、「予定までの時間」「失敗せずに待機する時間」として扱い始めることが、重要な理由として浮かび上がります。さらに、楽しい予定であっても、開始時刻をカレンダーに正確に書き込むことで、楽しみが仕事や義務のように感じられることもあります。
ただし、ここから「予定はすべて悪い」「休日は完全に無計画にすべきだ」という結論になるわけではありません。正確な予定は、約束を守ったり、行動を始めたりするためには役立ちます。大切なのは、何を実行したいのか、何を味わいたいのかによって、予定の置き方を変えることです。
時計の時間と、心が感じる時間は同じではない
まず、「時間」には少なくとも二つの意味があります。一つは時計で測れる客観的な時間です。午前9時から午後3時までは、誰にとっても6時間あります。もう一つは、その時間を自分がどれくらい自由に使えると感じているかという主観的な時間です。
この後者は、研究では「知覚された余暇時間」や「知覚された余裕時間」に近い概念として扱われます。ここでいう余裕時間とは、単に時計上で空いている時間ではありません。「その時間の中で、何かを始めて、十分に集中し、必要ならきちんと終えられる」と感じられる時間です。
午後3時に予定があると、実際には午前9時から午後3時まで6時間あるとしても、心の中ではその6時間が一つの連続した自由時間ではなくなります。午後3時という境界によって、午前9時から午後3時までの区間が一つの「予定前の区間」に変わります。さらに、着替え、移動、遅刻しないための余裕、予定の直前に落ち着いていたい気持ちなどが加わると、心理的に使える時間はもっと短く感じられます。
この現象を直接調べた研究が、Gabriela Tonietto、Selin Malkoc、Stephen Nowlisによる研究です。研究者たちは、次の予定がある時間を「境界のある時間」、その後に特別な予定がない時間を「境界のない時間」と考え、複数の実験を行いました。その結果、同じ1時間であっても、後ろに会議などの予定がある時間は、予定のない時間に比べて、始まる前から短く感じられました。さらに、参加者はその時間に取り組む課題の数が少なくなり、実行可能であっても時間のかかる課題を選びにくくなりました。長い課題をいくつかの小さな作業に分けやすくすると、この傾向は弱まりました。Tonietto, Malkoc, and Nowlis, “When an Hour Feels Shorter,” Journal of Consumer Research
ここで使われている「予定の前の時間が短く感じられる」という表現は、時計の針が速く進むという意味ではありません。心理学でいう「将来予測的な時間知覚」、英語では prospective time perception と呼ばれる判断に近いものです。これは、時間が過ぎた後に「何時間あったか」を振り返るのではなく、これから始まる時間について「どれくらい使えそうか」「何ができそうか」を予測する感覚です。
つまり、予定がある日の午前中に「6時間ある」と頭では分かっていても、脳は「午後3時までに何かを始めて、没頭して、片づけて、移動の準備までできるだろうか」と考えています。その問いに対して、脳が安全側に判断すると、「大きなことは無理だ」「短いことしかできない」と感じるのです。
予定が「壁」になるのはなぜか
予定があるとき、私たちは単に予定の内容を覚えているだけではありません。「その時刻に遅れずに行動する」という未来の行動も、同時に保持しています。
心理学では、将来のある時点で行動することを覚えておく能力を「展望記憶」と呼びます。展望記憶は、過去の出来事を思い出す記憶とは少し違います。「明日の朝、薬を飲む」「午後3時になったら家を出る」「会議の前に資料を確認する」といった、未来の行動を実行するための記憶です。なかでも、時計の時刻や一定の時間経過を手がかりにするものは「時間ベースの展望記憶」と呼ばれます。
時間ベースの展望記憶では、予定を忘れないために、脳はときどき時刻を確認したり、予定までの残り時間を見積もったりします。ずっと意識しているわけではなくても、予定が現在の行動の背景に残ります。「今は何時だろう」「そろそろ準備が必要ではないか」「この作業を始めても間に合うか」といった確認が、何度も小さく起こります。
この仕組みを脳画像で調べたOksanenらの研究では、参加者が別の作業をしながら、一定時間後に決められた反応をする課題を行いました。時間を確認する直前には前頭前野の前方部、つまり前部前頭前野の活動が高まり、実際に予定した反応をする前には、補足運動野の前方部であるpre-SMAの活動が強くなりました。前頭前野は将来の目標を保持したり、状況を監視したりする働きと関係し、pre-SMAは自分から行動を始める準備に関係する領域です。Oksanen et al., “Neural Mechanisms of Time-Based Prospective Memory,” PLOS ONE
この研究から、「予定があると一日中、前頭前野が疲れ続ける」と断定することはできません。実際、この実験では、時間をずっと監視するというより、必要な場面で一時的に時刻を確認するような活動が示されました。しかし、予定のある時間帯には、現在の活動だけでなく、未来の行動の準備も脳の処理対象に入るということは分かります。
したがって、予定が「壁」のように感じられるという表現は、脳の働きを分かりやすく表した比喩だと考えられます。午後3時という時刻が物理的な壁になるのではありません。その時刻を境に、現在の行動を安全に終わらせ、次の行動へ移る必要があるという予測が生まれるため、現在の時間が自由に流れていないように感じられるのです。
「ゴールが近いほど、余裕時間がなくなる」
予定の前になるほど、「何かを始める余裕がない」と感じやすくなる理由は、目標追求の心理からも説明できます。
Ji Hoon JhangとJohn Lynchの研究では、人がある作業のゴールに近づくほど、別の魅力的なことに途中で切り替えたくなくなることが調べられました。研究では、目標に近づいた人ほど、割り込みを受け入れにくくなり、その瞬間に自分が持っている余裕時間も少ないと感じました。Jhang and Lynch, “Pardon the Interruption,” Journal of Consumer Research
この背景にある考え方の一つが、「目標の防御」または goal shielding です。これは、いま達成しようとしている目標を守るために、脳が別の目標や誘惑の影響を弱める仕組みを指します。この概念は、Shahらが複数の研究で検討した「目標の活性化が代替目標の利用可能性を抑える」という考え方に基づきます。Shah, Friedman, and Kruglanski, “On the Antecedents and Consequences of Goal Shielding,” たとえば、試験勉強を終わらせようとしているときには、面白そうな動画があっても、それを見始めることに抵抗を感じることがあります。目標を達成するためには役立つ機能ですが、現在の目標が「午後3時の予定に遅れないこと」になると、読書や映画鑑賞のような別の活動が、無意識に優先順位を下げられることがあります。
ここで注意したいのは、JhangとLynchの研究が、休日の午後の予定そのものを直接調べたわけではないということです。目標のゴールへの接近と、予定までの時間を完全に同一視することはできません。ただし、「未来の区切りが近づくと、別の活動を受け入れる余裕が小さく感じられる」という点で、休日の感覚を理解するための有力な心理学的枠組みになります。これは研究結果をそのまま断定しているのではなく、複数の研究を組み合わせた解釈です。
脳は、連続した時間を「イベント」に分けて処理する
私たちは、朝から夜までの時間を完全に連続した一本の流れとして処理しているわけではありません。脳は、起床、朝食、外出、仕事、昼食、帰宅、入浴、睡眠といった意味のあるまとまりに区切りながら、経験を理解し、記憶しています。
この考え方は「イベント分節理論」、英語では Event Segmentation Theory と呼ばれます。イベントとは、始まりと終わりを持つ一つのまとまりです。脳は、環境や行動に変化が起こると、それまでのまとまりを終え、新しいまとまりを作ります。イベントの境界は、注意や記憶の整理にも影響します。Zacks et al., “Event Perception: A Mind/Brain Perspective,”
この理論を休日に当てはめると、午後3時の予定は、実際に始まる前から一つの予告されたイベント境界として働く可能性があります。午前中の自由時間は「休日の一部」ではなく、「午後3時の予定に入る前の時間」として別の区間になります。
だから、同じ1時間でも、「今夜は何もない午後7時から8時」と、「午後8時に友人が来る前の午後7時から8時」では、心の中で意味が違います。時計上の長さは同じでも、前者はそのまま自由に流れる時間、後者は次のイベントへ向かう途中の時間になります。
ただし、予定がイベント境界として働くという説明は、休日の「一日が消えた感覚」を直接脳画像で証明したものではありません。イベント分節の研究と、予定前の時間が短く感じられる研究を結びつけた、妥当性の高い解釈です。科学的には、ここを「確定した単一の脳メカニズム」と言い切らないことが重要です。
なぜ映画や読書を避け、細かな作業を選ぶのか
午後に予定があると、映画を一本見たり、長い本を読んだり、ゲームをじっくり進めたりすることが難しくなります。これらは本当に時間が足りないからではなく、「途中で切り上げることになったら嫌だ」「中断した後に気持ちを戻せるか分からない」「予定の準備に遅れたくない」と感じるためです。
長い活動には、始めるための準備、集中するための立ち上がり、途中で中断する判断、再開するための思い出しなどが含まれます。こうした見えにくいコストを、心理学では課題切り替えコスト、あるいはタスクスイッチ・コストとして扱います。タスクスイッチ・コストとは、別の作業へ切り替えるときに、頭の中のルールや注意の向きを変更するため、時間や正確さに負担が生じることです。
関連する研究では、仕事の途中で別の課題へ切り替えるとき、前の課題が未完了であるほど、注意の一部が前の課題に残り、新しい課題への集中が難しくなることが示されています。この現象は「アテンション・レジデュー」、つまり注意の残りかすと呼ばれます。休日の予定前の時間を直接調べた研究ではありませんが、長い活動を始めると中断や切り替えが必要になるため、予定が近いと活動開始の心理的コストが高く感じられるという解釈を補強します。Leroy, “Why Is It So Hard to Do My Work? The Challenge of Attention Residue When Switching Between Work Tasks,”
予定が近くにあると、脳はこの切り替えコストを大きめに見積もりやすくなります。その結果、「映画を見る」よりも、「メールを1通返す」「引き出しを一段だけ整理する」「短い散歩をする」といった、いつでも終えられる活動を選びやすくなります。
これは、意志が弱いから大きなことができないのではありません。未来の境界を考慮したときに、失敗や中断のリスクが小さい行動を選んでいるのです。もちろん、その選択が毎回自分の望むものとは限りません。休日を休むために使いたかったのに、細かな用事だけで終われば、充実感は低くなります。
先ほど紹介したToniettoらの研究で、長い課題を小さな下位課題に分けやすくすると、予定前の時間を短く感じて長い活動を避ける傾向が弱まったのは、この点と関係しています。「サブゴール」とは、大きな目標の途中に置く小さな到達点です。たとえば「本を読む」ではなく「第1章を読み終える」、「部屋を片づける」ではなく「机の上だけを整える」と考えることで、活動に終点が生まれます。
ここで大切なのは、細かな作業をすべて義務に変えることではありません。休日のサブゴールは、家事や仕事だけでなく、「散歩を一周する」「漫画を一話読む」「コーヒーを一杯飲む」「温泉に入って帰る」といった楽しみにもできます。予定の前でも終わりが見えやすい活動を用意しておくと、時間を丸ごと手放さずに済みます。
楽しい予定なのに、カレンダーに入れると仕事になる
ここまでは、予定の前の時間が狭く感じられる仕組みを説明しました。もう一つ重要なのは、予定そのものの楽しさが変わることです。
友人と会う、映画を見る、カフェで休む、買い物をする。どれも本来は楽しい活動です。しかし、「土曜日の午後に会おう」と決める場合と、「土曜日の14時30分から15時30分に会おう」と正確な開始時刻と終了時刻を決める場合では、心理的な受け止め方が変わることがあります。
この現象を詳しく調べたのが、Gabriela ToniettoとSelin Malkocによる「The Calendar Mindset」です。研究者たちは、映画鑑賞やコーヒーブレイクなど、明らかに余暇といえる活動について、予定を具体的に決めた場合と、その場で行う場合を比較しました。13の研究を通じて、具体的な時刻を決めた余暇活動は、自由に流れる感じが弱まり、仕事のように感じられやすくなることが示されました。その結果、活動を楽しみにする気持ちだけでなく、実際に活動しているときの楽しさも低下しました。Tonietto and Malkoc, “The Calendar Mindset: Scheduling Takes the Fun Out and Puts the Work In,” Journal of Marketing Research
研究でいう「仕事のように感じる」というのは、その活動が本当に労働になるという意味ではありません。心理学では、このような受け止め方を「仕事的な解釈」、英語では work construal と表現します。Construal は、対象をどのような意味づけで理解するかという意味です。同じ映画でも、「見たいから見る」と考えれば余暇ですが、「14時から始める予定を守って実行する」と考えると、努力、義務、約束、締め切りを伴う活動として感じられます。
この研究で特に興味深いのは、具体的な時刻を決めない「大まかな予定」では、楽しさの低下がほとんど起こらなかったことです。「土曜日の午後に会おう」「仕事が終わったら食事に行こう」「夕方に散歩しよう」というように、活動の存在は決めるけれど、開始時刻を一点に固定しない方法です。研究では、この大まかな予定の余暇は、完全にその場で決める余暇と、楽しさの面で大きく違いませんでした。
実際のコーヒーブレイクを使った研究では、指定した時刻に来てもらった人の楽しさの評価は、9点満点で平均6.48でした。一方、「18時から20時の間ならいつでもよい」と大まかな時間帯を示した人は、平均7.57でした。ただし、指定時刻のグループのほうが実際にブレイクへ来る割合は高く、49.3%対25.9%でした。この結果は、正確な予定が「実行しやすさ」を高める一方で、「体験の楽しさ」を下げるという、二つの効果を示しています。なお、この研究は実際にブレイクへ来た人の楽しさを評価しているため、参加者の自己選択が結果に影響した可能性は残ります。
つまり、カレンダーの正確な時刻には、良い面と悪い面があります。約束を守るには有効ですが、余暇を味わうときには、自由な流れを壊すことがあります。問題は「予定を立てるか、立てないか」ではなく、「その予定の目的が、確実に実行することなのか、楽しさを十分に味わうことなのか」です。
「時間が長く感じる」と「使える時間が短く感じる」は両立する
ここで、時間知覚について少し補足が必要です。予定があると、時間を気にして落ち着かなくなることがあります。一方で、予定までの時間を「何もできない短い時間」と感じることもあります。一見すると矛盾しているようですが、実は別々の判断です。
一つは、「今、時間がどのくらいゆっくり進んでいるか」という時間の経過感覚です。もう一つは、「この時間で意味のある活動をどのくらいできるか」という時間の利用可能性の判断です。
Poltiらは、48人を対象に、時間そのものへ注意を向ける条件と、作業記憶を使う別の課題を同時に行う条件を比較しました。その結果、時間へ注意を向けると、数十秒から数分の時間を長く見積もり、別の作業に注意を分けると、時間を短く見積もる傾向が見られました。Polti, Martin, and van Wassenhove, “The Effect of Attention and Working Memory on the Estimation of Elapsed Time,” Scientific Reports
この研究が示すのは、時間の感じ方が、注意の向け方や作業記憶の負荷によって変わるということです。時間を何度も確認していると、一分一分が長く感じられることがあります。しかし、「この1時間で映画を見始められるか」「予定の前に読書へ没頭できるか」と尋ねられると、同じ1時間が短く感じられることがあります。
前者は「時間の経過」、後者は「活動に使えるまとまり」としての時間です。この区別をしないと、「時間が長く感じるのに、なぜ時間がないと感じるのか」という混乱が起こります。
画像には、予定のある場合も予定のない場合も、60分の中で実際に読める時間を「3分ほど」と予想している一方、実際には「およそ50分」と示す例もありました。この具体的な数字が、どの論文や実験から出てきたものなのかは、画像だけでは確認できません。そのため、3分と50分を確立した研究結果として引用することはできません。ただ、例が示している心理は理解できます。人は「予定までの時間」を、実際に活動できる時間よりも過小評価することがあるのです。研究的に確実に言えるのは、後ろに予定がある時間を短く感じ、長い活動を選びにくくなる傾向が、別の実験研究で確認されているという点です。
時間知覚の研究では、脳内に時計のような単一の装置があると単純に考えることはできません。注意、作業記憶、感情、予測、記憶、動機づけなどが組み合わさって、時間の経験が作られます。「内部時計」や「注意のゲート」というモデルは便利な説明道具ですが、脳の中に文字どおり小さな時計があるという意味ではありません。
休日を取り戻すための、科学的に筋の通った工夫
この現象への対処として、画像の内容にあった三つの工夫は、研究から見ても方向性としては理にかなっています。ただし、研究が直接証明していることと、研究から導ける実践的な解釈は分けて考える必要があります。
まず、固定された予定を一日のあちこちに散らしすぎないことです。午前に一つ、昼過ぎに一つ、夕方に一つ、夜に一つという配置になると、そのたびに「次の予定までの区間」が生まれます。予定の数が増えるだけでなく、自由時間がいくつもの小さな区間に分断されます。
複数の予定を一か所にまとめれば、必ず休日が快適になると直接証明した研究があるわけではありません。しかし、予定前の境界のある時間が短く感じられ、長い活動を避けやすくなるという研究から考えると、固定予定を朝昼夕にばらまくより、移動や準備を含めて一つの時間帯にまとめ、残りの時間を連続させるという考え方には十分な合理性があります。目的は予定を詰め込むことではなく、自由時間の連続性を守ることです。
次に、「次の予定まであと何時間」と考えるだけでなく、「朝から夕方までの間に、今日は何時間を自由に使えるか」と捉え直すことです。「待つ」という言葉は、現在の時間を未来のために保留する意味を持ちます。「午後3時まで待つ」と考えると、今はまだ本番前です。しかし、「午前9時から午後3時までの自由時間がある」と考えると、現在の時間にも価値が戻ります。
もちろん、言葉を変えればすべて解決するわけではありません。移動や準備が必要なら、その分の余裕を確保しなければなりません。ここでのポイントは、予定前の時間を「何も始められない空白」と決めつけないことです。心理的な余裕時間は、時計に書かれているだけではなく、本人が「使ってよい時間」と認識することで広がる可能性があります。この方法は、直接その言葉の効果を検証した研究というより、知覚された余裕時間の研究から導く実践的なリフレーミングです。
三つ目は、長い活動を小さな単位に分けることです。ここで注意したいのは、楽しみまで細かく時刻表にしてしまわないことです。「14時から14時20分まで読書、14時20分から14時30分まで休憩」と厳密に書くと、余暇が仕事的に感じられる可能性があります。
そうではなく、「一章だけ読む」「机の右側だけ片づける」「散歩を一周する」「漫画を一話読む」のように、時計ではなく完了単位を決めます。これなら、途中で予定の準備に移っても、「今日はここまでできた」というまとまりが残ります。Toniettoらの研究でも、長い課題を下位課題に分けやすくすることで、予定前の時間を短く感じる効果が弱まりました。
さらに、余暇については「具体的な時刻」ではなく、「大まかな時間帯」で考える方法が有効です。「土曜日の午後」「昼食の後」「夕方のどこか」といった表現なら、楽しみを予定として確保しながら、始まりと終わりの自由度を残せます。
ただし、予約、通院、子どもの送迎、飛行機、仕事の会議のように、正確な時刻が必要なものもあります。その場合は、予定を曖昧にする必要はありません。正確な予定を守るためのカレンダーと、自由に味わうための時間帯を分けて考えればよいのです。予約が必要な楽しみは、できれば一日の端に置き、その前後に連続した自由時間を確保すると、休日全体が細切れになりにくくなります。
正確な予定は、行動を始めるためには役立つ
ここまで、正確な時刻が余暇の楽しさを下げる可能性を説明してきました。しかし、予定を正確に決めること自体が悪いわけではありません。
心理学には「実行意図」、英語では implementation intention という概念があります。これは、「運動したい」「勉強したい」と願うだけでなく、「もし月曜日の朝7時になったら、玄関を出て歩く」のように、いつ、どこで、どのように行動するかをあらかじめ決める方法です。目標そのものを示す「目標意図」に対し、実行の条件まで決めたものが実行意図です。
GollwitzerとSheeranのメタ分析では、94の独立した検定をまとめ、実行意図が目標達成に中程度から大きめの効果を持つことが報告されました。効果量は d=0.65 でした。ここでいう効果量とは、ある介入によって平均的にどの程度の差が生じたかを表す統計指標であり、「65%の確率で成功する」という意味ではありません。Gollwitzer and Sheeran, “Implementation Intentions and Goal Achievement,”
つまり、正確な時刻を決めることは、「必ずその活動を実行する」という目的には役立ちます。一方で、楽しさや自由な感覚を味わう目的には、細かすぎる時刻指定が逆効果になることがあります。
この二つを混同しないことが大切です。「忘れずに行く」ためには正確な予定を使い、「その時間を楽しむ」ためには大まかな時間帯を使う。カレンダーには固定すべき約束だけを置き、余暇には余白を残す。この使い分けが、研究から見たもっとも現実的な考え方です。
研究から言えること、まだ言えないこと
ここまで紹介した研究は、予定と自由時間の関係を理解するうえで非常に示唆的です。しかし、「午後に予定が一つあるだけで、誰もが休日を失ったように感じる」と証明したわけではありません。
余暇のスケジュール研究には、大学生やオンライン参加者を対象にした実験、想像上の場面を使った調査、実際のコーヒーブレイクを使った研究が含まれています。研究によっては、楽しさを自己評価で測っています。また、時間ベースの展望記憶を調べた脳画像研究は、実験室内の短い課題を使ったもので、休日一日の脳活動を調べたものではありません。
したがって、「予定があると休日がつぶれたように感じる」という説明は、科学的に支持された傾向を、日常生活の言葉に置き換えたものです。すべての人に同じ強さで起きるわけではなく、予定の重要性、移動の複雑さ、遅刻への不安、疲労、普段のストレス、個人の時間管理の癖などによっても変わります。
また、休日のほとんどを予定への不安で過ごしてしまう、予定がなくても何も始められない、楽しみにしていたことがほとんど楽しめないという状態が長く続く場合は、単なるスケジュールの問題だけではない可能性もあります。強い不安や抑うつ、睡眠不足、慢性的な疲労などが関係していないか、生活全体を見直す必要があります。この記事の説明だけで、特定の病気や性格を判断することはできません。
まとめ――休日が消えたのではなく、心が未来の予定を守っていた
午後に一つ予定があるだけで、休日が丸一日つぶれたように感じるのは、時間の計算を間違えているからではありません。時計の上では同じ時間でも、その時間に「自由に始めて、没頭して、終えられる」と感じられるかどうかが変わっているのです。
予定は、現在の時間に未来の境界を持ち込みます。脳は、予定に遅れないように未来の行動を覚え、残り時間を見積もり、長く中断しにくい活動を避け、短く完了しやすい活動を選びます。その意味で、予定は現在の時間を完全に奪うのではなく、現在を「待機中の時間」に変えてしまいます。
さらに、楽しい活動を正確な時刻に固定すると、その活動は「やりたいこと」から「守らなければならない予定」へと意味づけが変わり、楽しさが弱まることがあります。これは、予定が悪いのではなく、自由に流れる余暇と、確実に実行すべき約束では、脳に求められる働きが違うためです。
だから、休日を取り戻すために必要なのは、予定をすべてなくすことではありません。固定予定は必要なものに絞り、可能なら一つの時間帯にまとめる。余暇は「土曜の午後」「夕方」のように大まかに置く。予定前の時間を「待つ時間」と決めつけず、連続した自由時間として捉える。そして、長い活動は小さな完了単位に分ける。
午後3時に予定がある日でも、それまでの時間は失われていません。予定までの時間は、予定を待つためだけの空白ではなく、あなたが自由に使える時間です。脳が作った「壁」を少し低くしてあげるだけで、同じ休日の中に、もう一度、自由な流れを取り戻すことができます。
参考にした研究
Tonietto GN and Malkoc SA. “The Calendar Mindset: Scheduling Takes the Fun Out and Puts the Work In.” Journal of Marketing Research, 2016. 余暇を具体的な時刻に予定すると、活動が仕事のように感じられ、予期した楽しさと実際の楽しさが低下しうることを、13の研究で検討した論文です。
Tonietto GN, Malkoc SA, and Nowlis SM. “When an Hour Feels Shorter: Future Boundary Tasks Alter Consumption by Contracting Time Available for Purchase.” Journal of Consumer Research, 2019. 後ろに予定がある時間は、予定のない同じ長さの時間より短く感じられ、長い活動を避けやすくなることを、実験とフィールド研究で検討した論文です。
Jhang JH and Lynch JG Jr. “Pardon the Interruption: Goal Proximity, Perceived Spare Time, and Impatience.” Journal of Consumer Research, 2015. 目標の完了に近づくほど割り込みを受け入れにくくなり、余裕時間も少なく感じることを検討した論文です。
Oksanen KM, Waldum ER, McDaniel MA, and Braver TS. “Neural Mechanisms of Time-Based Prospective Memory: Evidence for Transient Monitoring.” PLOS ONE, 2014. 決められた時刻に行動するための時間ベースの展望記憶について、fMRIを用いて脳活動を調べた研究です。
Polti I, Martin B, and van Wassenhove V. “The Effect of Attention and Working Memory on the Estimation of Elapsed Time.” Scientific Reports, 2018. 時間への注意と作業記憶の負荷が、数十秒から数分の時間見積もりに与える影響を調べた研究です。
Gollwitzer PM and Sheeran P. “Implementation Intentions and Goal Achievement: A Meta-Analysis of Effects and Processes.” Advances in Experimental Social Psychology, 2006. 「もし状況Yになったら、行動Xをする」という実行意図が、目標達成に与える影響を94の独立した検定からまとめたメタ分析です。