2026/02/05

健康講座955 がんと血糖値が生存率を左右する――67万人・24がん種から見えた「糖代謝管理」の本当の重要性

 

がんと血糖値の深い関係

― 24種類・67万人データから見えた「糖代謝」と生存率の真実 ―


がん治療というと、手術・抗がん剤・放射線といった「がんそのもの」への対策に目が向きがちです。
しかし近年、「がん以外の体の状態」が、がん患者さんの生存率を大きく左右することが分かってきました。

今回ご紹介するのは、韓国全国規模・67万人以上という非常に大きなデータを用いて、

「血糖値の状態(正常・境界型・糖尿病)が、がん患者さんの死亡リスクにどう影響するのか」

を詳しく調べた研究です。

結論から言うと、
糖尿病や境界型高血糖(IFG)は、がんの予後を確実に悪くしていました。
しかもその影響は、早期がんほど強いという、臨床的にとても重要な結果でした。


研究の概要(まず全体像をつかむ)

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どんな研究?

  • 研究名:Glucose tolerance and mortality across 24 cancer types and stages

  • データベース:韓国の全国がん登録+健診+死亡統計を統合した K-CURE

  • 対象人数:671,366人

  • 対象がん:24種類(肺・胃・大腸・乳がんなど主要ながんをほぼ網羅)

  • 追跡期間:平均3.5年

血糖状態の分類

  • NGT:正常血糖

  • IFG:空腹時血糖がやや高い(いわゆる「糖尿病予備群」)

  • DM:糖尿病


まず結論を一言で

  • 糖尿病(DM)
    全死亡・がん死・心血管死・呼吸器死すべてが有意に増加

  • 境界型(IFG)
    死亡リスクは小さいが、確実に上昇

  • 影響が最も大きいのは「早期がん」

  • 進行がんでは影響は弱まる


結果を数字で見る(ここが一番大事)

糖尿病があると、どれくらい死亡リスクが上がる?

死因ハザード比(HR)意味
全死亡1.3434%高い
がん死亡1.3131%高い
心血管死亡1.4646%高い
呼吸器死亡1.4343%高い

👉 「がんで亡くなるリスク」だけでなく、心臓病や肺炎なども増えるのが特徴です。


境界型高血糖(IFG)は安全なの?

答えは NO です。

死因ハザード比
全死亡1.06
がん死亡1.07

数値としては小さく見えますが、
**67万人規模の集団では「確実な差」**として検出されています。


なぜ「早期がん」で影響が強いのか?

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この研究で特に重要なのは、がんの進行度(ステージ)別解析です。

ステージ別の特徴

  • 局所がん(早期)
    → 糖尿病の影響が最も強い

  • 進行がん
    → 糖代謝の影響は相対的に弱まる

理由を分かりやすく説明すると

① 早期がんは「長く生きる前提」

  • もともと治癒・長期生存が期待できる

  • 生活習慣病の影響が積み上がる

② 進行がんでは「がん自体」が強すぎる

  • がんの進行スピードが予後を決める

  • → 血糖の影響が相対的に目立たなくなる


なぜ血糖が高いと、がんの予後が悪くなるの?

ここからは、一般の方にも分かるように**仕組み(メカニズム)**を説明します。


① 高血糖は「がん細胞のエサ」になる

がん細胞は、ブドウ糖を大量に消費します。
血糖が高い状態は、いわば

がん細胞に常に食事を与えている状態

になってしまいます。


② インスリンとIGF-1が増える

糖尿病では、体内で

  • インスリン

  • IGF-1(インスリン様成長因子)

が高くなりやすく、これらは

  • 細胞増殖を促進

  • アポトーシス(自然死)を抑制

👉 がん細胞にとって都合が良い環境を作ります。


③ 慢性炎症が続く

糖尿病は「静かな炎症状態」です。

  • サイトカイン増加

  • 酸化ストレス増大

  • 免疫監視機構の低下

これらが組み合わさり、
がんの進展・再発を後押しします。


④ 心臓・血管・肺も同時に弱る

この研究では、

  • 心血管死亡

  • 呼吸器死亡

も増えていました。

つまり、

がん以外の合併症で命を落とすリスクも高い

という現実がはっきり示されたのです。


この研究の強み(信頼できる理由)

  • 全国規模・67万人

  • 24種類のがん

  • ステージ別解析

  • 1年・3年・5年のラグ解析
    → 「がんの影響で血糖が上がった」逆因果を排除

疫学研究として、非常に完成度が高い内容です。


一方での限界(正直に)

  • HbA1cや治療内容の詳細は不明

  • 食事・運動・体重変化までは追えない

  • 観察研究なので「因果関係の証明」ではない

ただし、それを補って余りある規模と一貫性があります。


臨床・生活へのメッセージ(ここが一番大事)

がん患者さん・ご家族へ

  • 「がん治療が終わったから安心」ではない

  • 血糖管理は、がん治療の延長線上

  • 境界型でも油断しない


医療者へ

  • サバイバーシップケアに代謝管理を組み込む

  • 早期がんほど介入価値が高い

  • 糖尿病治療は「寿命を守る治療」


まとめ(この研究が教えてくれたこと)

  • 糖尿病は、がん患者の生存率を確実に下げる

  • 境界型高血糖でも影響はある

  • 特に早期がんで重要

  • がん治療+血糖管理=真の予後改善


がんは「一つの病気」ではなく、
体全体の状態の中で進行する病気です。

この研究は、

「がんと共に生きる時代」に必要な視点

を、数字ではっきり示してくれました。

血糖管理は、
がん治療の脇役ではなく、主役の一部です。

2026/02/03

健康講座954 若年成人の脂肪肝は「未来の糖尿病」をどこまで規定するのか ― MASLD・MetALD・ALD別にみた2型糖尿病発症リスクの全貌 ―

 


若年成人における脂肪性肝疾患サブタイプと2型糖尿病発症リスク

― 韓国全国コホート研究から読み解く「肝臓と糖尿病の本質的な関係」 ―

はじめに

脂肪肝は「中高年・肥満者の問題」という認識が、臨床現場でもいまだ根強く残っています。しかし実際には、20〜30代の若年成人においても脂肪肝は確実に増加しており、その先にある2型糖尿病リスクがどの程度かは、これまで十分に整理されていませんでした。

今回紹介する研究は、620万人を超える若年韓国人を10年以上追跡し、脂肪性肝疾患(Steatotic Liver Disease:SLD)のサブタイプ別に糖尿病発症リスクを定量化した、極めてインパクトの大きい研究です。


脂肪性肝疾患は「一枚岩」ではない

まず、本研究の前提となるSLDの分類を整理します。

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  • MASLD
    代謝異常(肥満、耐糖能異常、脂質異常、高血圧など)を背景とする脂肪肝。従来のNAFLDに相当。

  • MetALD
    MASLDの条件を満たしつつ、中等量の飲酒を伴う脂肪肝。

  • ALD
    アルコール摂取が主因となる脂肪肝(アルコール関連肝疾患)。

専門的ポイント①

ここで重要なのは、MetALDという中間的な概念が正式に区別されている点です。
臨床では「飲酒している=ALD」「していない=NAFLD」と単純化されがちですが、実際には代謝異常とアルコールは相加・相乗的に肝障害と全身代謝に影響します。本研究は、その“グレーゾーン”を明確に解析対象とした点で、非常に実践的です。


研究デザイン:若年層×全国規模×長期追跡

  • 対象:20〜39歳、6,250,145人

  • データベース:韓国国民健康保険公団

  • 脂肪肝評価:Fatty Liver Index(FLI)+自己申告飲酒量

  • 追跡期間:中央値10.6年

  • 評価項目:新規2型糖尿病発症

  • 解析:Cox比例ハザードモデル(多変量調整)

専門的ポイント②

FLIは超音波やMRIほど精密ではありませんが、大規模疫学研究において再現性が高く、外的妥当性に優れる指標です。620万人規模で画像診断を行うことは現実的ではなく、本研究の設計は「精度と現実性の最適解」と言えます。


結果①:発症率の時点で“別世界”

追跡期間中、72,028人が2型糖尿病を発症しました。
1000人年あたりの発症率は以下の通りです。

  • 非SLD:1.29

  • MASLD:10.56

  • MetALD:9.96

  • ALD:12.49

専門的ポイント③

若年成人でこの差は極めて大きい意味を持ちます。
20〜30代では糖尿病の絶対発症率が低いため、「10倍差」はそのままリスク層の明確な分離を意味します。脂肪肝がある時点で、すでに「健常群」とは異なる代謝軌道に乗っていると考えるべきです。


結果②:リスクの強さはALDが最上位

多変量調整後のハザード比は以下の通りでした。

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  • MASLD:2.81

  • MetALD:2.92

  • ALD:3.99

専門的ポイント④

注目すべきは、ALDが最も高リスクだった点です。
これは「糖尿病=メタボの延長線」という単純な理解を修正する必要性を示します。アルコールは

  • 肝インスリン抵抗性

  • 肝脂質代謝異常

  • 膵β細胞機能障害
    を通じて、代謝異常とは独立して糖尿病リスクを上積みする可能性があります。


なぜ脂肪肝は糖尿病につながるのか

脂肪肝は単なる肝臓の局所病変ではありません。

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1. 肝インスリン抵抗性

脂肪蓄積により、インスリンによる肝糖新生抑制が破綻し、空腹時高血糖を引き起こします。

2. 慢性炎症

脂肪肝ではKupffer細胞活性化やサイトカイン放出により、全身のインスリン抵抗性が増悪します。

3. アルコール特有の影響

アルコールはNADH/NAD⁺バランス破綻やミトコンドリア機能障害を介し、脂肪酸酸化低下と糖代謝異常を助長します。

専門的ポイント⑤

ALDやMetALDでは、「肝臓→インスリン抵抗性→糖尿病」という流れが、より直接的かつ不可逆的に進行する可能性があります。この点が、MASLDより高いリスクとして表出したと考えられます。


臨床的・公衆衛生的インプリケーション

本研究は明確なメッセージを提示しています。

  • 20〜30代でも脂肪肝は将来リスクではなく、現在進行形の危険因子

  • 中等量飲酒でも代謝異常があれば安全ではない

  • ALDは「肝臓の病気」に留まらず、糖尿病という全身疾患の起点となる

専門的ポイント⑥

若年者健診での脂肪肝指摘は、これまで「経過観察」で済まされがちでした。しかし本研究を踏まえると、脂肪肝は“前糖尿病”に準じた扱いが妥当と考えられます。


まとめ

本研究は、若年成人において

  • MASLD

  • MetALD

  • ALD

すべての脂肪性肝疾患サブタイプが、2型糖尿病発症リスクを有意に高めることを、圧倒的なエビデンスで示しました。
特にALDの影響は強く、脂肪肝の背景因子(代謝かアルコールか)を分けて評価する重要性が明確になりました。

脂肪肝はもはや「放置可能な健診異常」ではありません。
若年期に見つかる脂肪肝は、10年後の糖尿病を予測する最重要サインの一つである――本研究は、その事実を静かに、しかし決定的に示しています。


2026/02/02

健康講座953 2型糖尿病高齢者におけるGLP-1受容体作動薬と認知症リスク ― DPP-4阻害薬・SGLT2阻害薬との比較(ターゲット試験エミュレーション)―

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2型糖尿病高齢者におけるGLP-1受容体作動薬と認知症リスクの関連

― ターゲット試験エミュレーション研究 ―


はじめに

2型糖尿病(Type 2 Diabetes:T2D)は、心血管疾患だけでなく認知症のリスクを高めることが知られています。しかし、近年広く使われるようになった新しい糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬)の間で、認知症リスクにどのような違いがあるのかについては、これまで十分な比較データがありませんでした。

今回紹介する研究は、
「GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)は、他の糖尿病薬と比べて認知症リスクにどう影響するのか?」
という臨床的に非常に重要な問いに対し、**実臨床データ(リアルワールドデータ)**を用いて検証したものです。


研究タイトル(原題)

Association between glucagon-like peptide-1 receptor agonists and risk of dementia in older adults with type 2 diabetes: A target trial emulation


研究の目的(Aim)

2型糖尿病は認知症リスクの上昇と関連していますが、
GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)
DPP-4阻害薬(DPP4i)
SGLT2阻害薬(SGLT2i)

といった比較的新しい糖尿病治療薬同士で、認知症リスクに差があるかどうかは明確ではありません。

本研究の目的は、

  • 50歳以上の2型糖尿病患者において

  • GLP-1 RAを新たに開始した場合

  • DPP-4阻害薬、またはSGLT2阻害薬を開始した場合と比べて

将来的な認知症発症リスクがどう変わるのかを検討することです。


研究デザイン(Materials and Methods)

◆ ターゲット試験エミュレーションとは?

本研究は後ろ向き観察研究ですが、
あたかも「理想的なランダム化比較試験(RCT)」を行ったかのように解析する
**Target Trial Emulation(ターゲット試験エミュレーション)**という手法を用いています。

これは、

  • 実際の臨床試験は難しい

  • しかし、できる限りバイアスを減らしたい

という現代のリアルワールド研究でよく用いられる方法です。


◆ データソース

  • 米国ペンシルベニア大学医療システム
    (University of Pennsylvania Health System:2019–2024年)

  • 外部検証として
    TriNetX(全米規模の医療データネットワーク)


◆ 対象患者

以下の条件をすべて満たす患者が対象です。

  • 年齢:50歳以上

  • 診断:2型糖尿病

  • 過去に認知症の診断なし

  • 過去1年間に

    • GLP-1 RA

    • DPP-4阻害薬

    • SGLT2阻害薬
      を使用していない


◆ 比較方法(重要ポイント)

GLP-1 RAを新規に開始した患者を、

  • DPP-4阻害薬開始患者

  • SGLT2阻害薬開始患者

1対1でマッチングしています。

◎ プロペンシティスコアマッチングとは?

年齢、性別、糖尿病の重症度、合併症などを考慮し、
**「背景ができるだけ似た患者同士」**をペアにする方法です。

これにより、

「もともとGLP-1を使う人は重症だから結果が悪い」
「SGLT2を使う人は健康意識が高い」

といった偏りをできる限り減らしています。


◆ マッチング後の人数

  • GLP-1 RA vs DPP-4阻害薬
    6,677組

  • GLP-1 RA vs SGLT2阻害薬
    8,434組


◆ 評価項目(アウトカム)

  • 新規に発症した認知症

  • ICD-10コードを用いて定義


◆ 統計解析

  • Cox比例ハザードモデルを使用

  • 結果は
    ハザード比(HR)+95%信頼区間(CI)
    で示されます


結果(Results)

◆ 追跡期間

  • GLP-1 RA vs DPP-4阻害薬
    中央値 3.0年

  • GLP-1 RA vs SGLT2阻害薬
    中央値 2.4年


◆ GLP-1 RA vs DPP-4阻害薬

  • 認知症発症数

    • GLP-1 RA:109件

    • DPP-4阻害薬:148件

  • ハザード比(HR):0.76

  • 95%信頼区間:0.59–0.97

▶ わかりやすく言うと

GLP-1受容体作動薬を使った人は、
DPP-4阻害薬を使った人よりも認知症になるリスクが約24%低かった
という結果です。


◆ GLP-1 RA vs SGLT2阻害薬

  • 認知症発症数

    • GLP-1 RA:127件

    • SGLT2阻害薬:64件

  • ハザード比(HR):1.53

  • 95%信頼区間:1.13–2.07

▶ わかりやすく言うと

GLP-1受容体作動薬を使った人は、
SGLT2阻害薬を使った人よりも認知症リスクが約1.5倍高かった
という結果です。


◆ 感度解析・サブグループ解析

  • 年齢別

  • 性別

  • 心血管疾患の有無

  • 追跡定義を変えた解析

これらを行っても、
結果の方向性は一貫していました。


◆ 外部検証(TriNetX)

  • DPP-4阻害薬との比較
    → GLP-1 RAは認知症リスク低下

  • SGLT2阻害薬との比較
    明確な優位性は確認されず


考察(Discussion)

◆ なぜGLP-1 RAはDPP-4阻害薬より有利なのか?

GLP-1受容体作動薬には、

  • 血糖改善効果が強い

  • 体重減少

  • 抗炎症作用

  • 神経保護作用の可能性

といった特徴があります。

一方、DPP-4阻害薬は作用が比較的マイルドで、
中枢神経系への直接的な影響は限定的と考えられています。


◆ なぜSGLT2阻害薬の方が良い結果だったのか?

SGLT2阻害薬は、

  • 血糖を下げるだけでなく

  • 心不全・腎保護効果が強く

  • 血管内皮機能改善

  • 代謝全体の改善

といった全身的な効果があり、
これが長期的に脳血管性認知症リスクを下げている可能性があります。


◆ 注意点(とても重要)

この研究は、

  • 観察研究であり

  • 因果関係を直接証明するものではありません

また、

  • 認知症の診断精度

  • 生活習慣や教育歴などの未調整因子

といった限界もあります。


結論(Conclusions)

本研究から分かることは、次の3点です。

  1. GLP-1受容体作動薬は、DPP-4阻害薬よりも認知症リスクが低い

  2. SGLT2阻害薬は、GLP-1受容体作動薬よりも認知症リスクが低い可能性がある

  3. 高齢の2型糖尿病患者において、
    将来の認知症リスクも考慮した薬剤選択が重要

今後は、

  • バイオマーカー

  • 画像診断

  • 前向き研究

を組み合わせた、より精密な研究が求められます。


まとめ(臨床へのメッセージ)

  • 血糖値だけでなく「脳の健康」も考える時代

  • 高齢者では
    「どの薬が一番安全か」ではなく
    **「どの薬が将来を守るか」**が重要

  • GLP-1 RA、SGLT2阻害薬は
    認知症という観点でも差が出る可能性がある


2026/02/01

健康講座952 週1回セマグルチドは「腎臓も心臓も守り、医療費まで下げる」

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週1回セマグルチドは「腎臓も心臓も守り、医療費まで下げる」

― デンマークで行われた長期費用対効果分析(FLOW試験ベース)をやさしく解説 ―

はじめに

2型糖尿病の治療は、
「血糖値を下げる」だけの時代から、「臓器を守る」時代に入っています。

今回紹介する論文は、

週1回注射のGLP-1受容体作動薬・セマグルチドは、
糖尿病+慢性腎臓病(CKD)の患者さんにおいて、
将来の腎不全や心血管イベントを減らし、
しかも“医療経済的にも得をする”

ということを、デンマークの医療制度を想定して長期的に検証した研究です。


研究の背景(Background)

FLOW試験とは?

FLOW試験は、

  • 2型糖尿病

  • 慢性腎臓病(CKD)

を併せ持つ患者さんを対象に、

  • 標準治療(SoC)+週1回セマグルチド1mg

  • 標準治療(SoC)+プラセボ

を比較した臨床試験です。

このFLOW試験で、

  • 腎機能悪化の抑制

  • 心血管イベントの減少

が示されました。
(心血管保護については、以前の SUSTAIN 6試験 でも示されています)

今回の研究の目的

臨床効果があるのは分かった。
では次の疑問は――

「長い目で見て、医療費はどうなるのか?」

  • 薬は高い

  • でも腎不全や透析を防げるなら?

  • トータルでは得?損?

これを生涯スパンで数値化したのが今回の研究です。


研究方法(Methods)をかみ砕いて説明

使われたモデル:PRIME T2D Model

これは、

  • 糖尿病患者の将来

  • 合併症(腎不全・心血管イベントなど)

  • 生存年数

  • 医療費

シミュレーションで予測するモデルです。

何を比べた?

  • 平均余命

  • QALY(質調整生存年)

  • 合併症の発生率

  • 生涯医療費

を、

  • セマグルチド群

  • プラセボ群

で比較しました。

SGLT2阻害薬も考慮

最近の糖尿病治療では、

  • SGLT2阻害薬(腎・心保護薬)

を使っている患者さんも多いため、

  • すでにSGLT2阻害薬を使っている人

  • 使っていない人

に分けて解析しています。


結果(Results)をわかりやすく

① QALY(生活の質を考慮した寿命)が延びた

  • 全体:+0.60 QALY

  • SGLT2阻害薬あり:+0.44 QALY

  • SGLT2阻害薬なし:+0.62 QALY

👉 ざっくり言うと
「元気に生きられる時間が半年くらい増える」

② 効果の中心は「腎不全の予防」

QALYが増えた最大の理由は、

  • 末期腎不全(透析・腎移植)に進む人が減った

ことです。

👉
血糖値や体重だけでなく、
“腎臓を守った効果”が人生全体に効いている


医療費の話がこの論文の核心

③ セマグルチドは「お金も節約できた」

  • 全体:1人あたり 約6,000デンマーククローネ節約

  • SGLT2阻害薬なし約9,200クローネ節約

👉
薬代は高いが、透析や合併症治療が減るため、
生涯トータルでは安くなる

この状態を医療経済では

「ドミナント(dominant)」

と呼びます。

つまり、

  • 効果が高い

  • 費用も安い

という「理想的な治療」です。

④ SGLT2阻害薬を使っている人でも十分お得

SGLT2阻害薬をすでに使っている場合でも、

  • ICER:19,167 DKK / QALY

👉
デンマークの基準では
「十分に費用対効果が高い」水準


専門用語ミニ解説

● QALY(Quality-Adjusted Life Year)

  • 1年=完全に健康なら1 QALY

  • 病気があると 0.7 や 0.5 などに補正

👉
「ただ生きる年数」ではなく
“生活の質込みの寿命”

● ICER

  • 「1 QALY増やすのに、いくら追加コストがかかるか」

👉
低いほど「コスパが良い治療」


結論(Conclusions)を一言で

2型糖尿病+慢性腎臓病の患者さんにおいて、
セマグルチドを標準治療に追加することは、
健康面でも、医療費面でも“得”である

という結論です。


医師目線での実臨床的な意味

この論文が示す本質は、

  • GLP-1受容体作動薬は
    「血糖改善薬」ではなく「臓器保護薬」

  • 腎臓を守ることは
    医療費も人生も守る

という点です。

特に、

  • CKDを合併した2型糖尿病患者

  • SGLT2阻害薬が使えない/使っていない患者

では、セマグルチドの価値は非常に高いと考えられます。


まとめ

  • ✔ セマグルチドは腎臓と心臓を守る

  • ✔ 生涯QOLを伸ばす

  • ✔ 高価だが、結果的に医療費は下がる

  • ✔ 「良い薬」+「経済的にも合理的」

糖尿病治療は、
「今のHbA1c」ではなく「10年後の人生」を見る時代

その象徴的な論文の一つが、今回の研究と言えるでしょう。



2026/01/30

健康講座951 甲状腺治療の“わずかなズレ”が血圧を動かす ― レボチロキシン最適化と心血管リスクの静かな関係 ―



レボチロキシン治療の「ズレ」が血圧と血圧変動性を静かに悪化させる

― 甲状腺機能低下症治療における“最適化”の重要性 ―


はじめに

甲状腺ホルモンは、心臓や血管の働きを支える重要なホルモンである。
甲状腺機能低下症では、このホルモンが不足するため、合成T4製剤である**レボチロキシン(LT4)**による補充療法が標準治療として行われている。

日常診療では「TSHが基準範囲に入っているかどうか」が治療評価の中心になるが、
TSHがどれくらいの“期間”基準範囲を外れていたかという視点は、これまであまり重視されてこなかった。

本研究は、

  • TSHが高すぎる期間(補充不足)

  • TSHが低すぎる期間(補充過剰)

これらが血圧および**血圧変動性(BPV)**にどのような影響を与えるのかを、2200人以上の縦断データを用いて検討したものである。


研究のポイントを一言で

レボチロキシン治療が最適でない期間が長いほど、血圧と血圧変動性はわずかだが確実に上昇する。
しかもそれは、不足でも過剰でも同じだった。


研究デザインの概要(かんたく)

  • 対象:LT4治療中の成人 2203人

  • 観察方法:長期間の診療データを解析

  • 評価した指標

    • 年間平均収縮期血圧(SBP)

    • 年間平均拡張期血圧(DBP)

    • 診察ごとの血圧変動性(BPV)

TSHの評価方法が特徴的

  • TAR(Time Above Range)
    → TSHが4.5 mIU/Lを超えていた期間の割合(補充不足)

  • TBR(Time Below Range)
    → TSHが0.4 mIU/L未満だった期間の割合(補充過剰)

「ある時のTSH」ではなく、
**“どれくらいの時間ズレていたか”**を評価している点がこの研究の肝である。


主な結果①:平均血圧への影響

TSHが高すぎる期間(TAR)が長い場合

  • TARが100%増えると

    • 収縮期血圧:+1.8 mmHg

    • 拡張期血圧:+1.0 mmHg

TSHが低すぎる期間(TBR)が長い場合

  • TBRが100%増えると

    • 収縮期血圧:+2.7 mmHg

    • 拡張期血圧:+1.3 mmHg

ポイント
血圧上昇は、

  • 甲状腺ホルモン不足でも

  • 甲状腺ホルモン過剰でも

どちらでも起こっていた。

つまり、
👉 「ちょうどよくない状態」が続くこと自体が問題
という結果である。


主な結果②:血圧変動性(BPV)

血圧変動性とは、診察ごとに血圧がどれくらいブレるかを示す指標で、
近年、心血管イベント(脳卒中・心筋梗塞など)の独立したリスク因子として注目されている。

  • TAR 100%
    → 拡張期BPV +0.67 mmHg

  • TBR 100%
    → 拡張期BPV +0.85 mmHg

数値自体は小さいが、
**「ホルモン治療のズレが血管の不安定さに影響する」**ことを示す重要な所見である。

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なぜTSHのズレで血圧が上がるのか

① 補充不足(TSH高値)

  • 末梢血管抵抗の増加

  • 動脈のしなやかさ低下

  • 腎でのナトリウム貯留

→ 特に拡張期血圧が上がりやすい

② 補充過剰(TSH低値)

  • 心拍数増加

  • 交感神経活性化

  • 動脈スティフネス上昇

収縮期血圧・血圧変動性が上がりやすい

不足と過剰でメカニズムは異なるが、
どちらも血圧には悪影響を及ぼす。


この研究が教えてくれる臨床的メッセージ

1. TSHは「一瞬」ではなく「時間」で見る

  • 1回のTSHが正常でも安心できない

  • どれくらいの期間、目標範囲に保てているかが重要

2. 「少し低めなら元気」は必ずしも安全ではない

  • TSHを下げすぎることは

    • 動悸

    • 骨粗鬆症

    • そして血圧上昇

につながる可能性がある。

3. 高血圧患者では特に注意

  • 甲状腺治療のわずかなズレが

  • 血圧管理を難しくしている可能性がある


結論

レボチロキシン治療において、
TSHが目標範囲を外れている期間が長いほど、

  • 平均血圧は上昇し

  • 血圧変動性も増加する

ことが明らかになった。

この血圧と血圧変動性の変化は、
**「甲状腺治療が最適でないこと」と「心血管疾患リスク」**をつなぐ
重要な中間因子である可能性が高い。


まとめ(超要点)

  • 甲状腺ホルモン補充は「多すぎても少なすぎてもダメ」

  • TSH管理は“点”ではなく“線”で考える

  • 血圧が安定しない患者では甲状腺治療の質を疑う

  • 最適化されたLT4治療は、心血管予防の一部である


2026/01/26

健康講座950 肥満・PCOS女性における不妊治療前後のライフスタイル介入は意味があるのか? ― 出産率は変わらず、しかし「自然妊娠」は2倍に増えたRCTの真実 ―

 



はじめに

肥満や過体重を伴う不妊症の女性、特に**PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)**の女性に対して、
「まずは体重を減らしましょう」「生活習慣を整えましょう」
と言われた経験のある方は多いと思います。

一方で、

  • 本当に妊娠しやすくなるのか

  • いつまで待てばいいのか

  • 早く不妊治療を始めたほうが良いのではないか

こうした疑問や不安も非常に現実的です。

今回紹介するのは、不妊治療“前だけでなく、治療中も含めた”ライフスタイル介入を検証した、
これまでにほとんどなかった**ランダム化比較試験(RCT)**です。

掲載誌は
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
(2025年12月掲載、オープンアクセス)
内分泌・代謝分野では世界的に信頼性の高い医学雑誌です。


研究の背景|なぜこの研究が重要なのか

肥満と不妊の関係

肥満は以下の点で妊娠を妨げます。

  • 排卵障害が起こりやすい

  • インスリン抵抗性が強くなる

  • ホルモンバランスが乱れる

  • 妊娠率が下がり、流産率が上がる

特にPCOSではこれらの影響が重なりやすく、
「体重管理が大事」と言われ続けてきました。

これまでの問題点

これまでの研究には大きな限界がありました。

  • 観察研究が多く、因果関係が不明

  • 介入が短期間

  • 不妊治療開始前だけで終了

  • 出産(ライブバース)まで追跡していない

つまり、
「生活改善は大事そうだけど、本当に赤ちゃんが生まれるのか
という核心部分が十分に検証されていなかったのです。


研究デザイン|今回のRCTは何が違うのか

研究名

Obesity–Fertility Randomized Controlled Trial

対象者

  • 年齢:18〜40歳

  • 不妊症の女性

  • BMI

    • 30以上

    • または 27以上+PCOS

  • 自然妊娠が現実的に可能な人のみを選択

👉 最初から妊娠困難と考えられるケースは除外されています。

参加人数

  • 合計 127人


介入内容|何をしたのか?

① 介入群(IG)

最初の6か月間は不妊治療を行わない

  • 管理栄養士による個別栄養指導

  • 運動指導士(キネシオロジスト)による運動支援

  • グループセッション(行動変容支援)

👉 6か月後から、必要に応じて不妊治療を追加

② 対照群(CG)

  • 最初から通常の不妊治療を開始

  • 特別な生活指導はなし


主要評価項目|何を比べたのか?

メインアウトカム

ランダム化から18か月以内に「出産」に至った割合

※ 妊娠ではなく「ライブバース(生児出生)」を評価
👉 非常に臨床的に重要なポイント


結果①|体重・腹囲は確実に改善

6か月時点での変化:

  • 体重減少率

    • 介入群:−3.21%

    • 対照群:−0.40%

  • 腹囲

    • 介入群:−2.62cm

    • 対照群:−0.23cm

👉 統計学的に有意な差あり

つまり、
「きちんとした支援付きライフスタイル介入は、
現実的な期間で、ちゃんと体を変える」

これは重要な前提条件です。


結果②|出産率(ライブバース)はどうだったか?

  • 介入群:44.4%

  • 対照群:35.9%

リスク比(RR):1.24
95%信頼区間:0.81–1.90

👉 統計学的に有意差なし

ここが大事なポイント

  • 数値としては介入群のほうが高い

  • しかし「偶然の可能性を否定できない」

  • 出産率そのものを明確に上げたとは言えない


結果③|しかし「自然妊娠」は明確に増えた

ここがこの研究の最大のハイライトです。

自然妊娠率

  • 介入群:27.0%

  • 対照群:12.5%

リスク比(RR):2.16
95%信頼区間:1.01–4.64

👉 有意差あり

つまり何が起きたのか?

  • 不妊治療を始める前の6か月間

  • 生活改善だけで

  • 自然に妊娠する人が約2倍に増えた


専門用語をやさしく解説

● ランダム化比較試験(RCT)

参加者をくじ引きのようにランダムに分けて比較する研究。
医学研究で最も信頼性が高い方法。

● ライブバース(Live birth)

妊娠ではなく
実際に赤ちゃんが生まれたことを指す。
臨床的に最重要アウトカム。

● リスク比(RR)

  • 1.0 → 差なし

  • 1より大きい → 介入群で多い

  • 今回の自然妊娠RR=2.16 → 約2倍

● 信頼区間(95%CI)

結果の「ぶれ幅」。
1.0をまたがなければ統計学的に有意


この研究が教えてくれる現実的な結論

✔ ライフスタイル介入の限界

  • 出産率を確実に上げる魔法ではない

  • すべての人に万能ではない

✔ しかし、明確な価値もある

  • 自然妊娠の可能性を高める

  • 不妊治療の開始を減らせる可能性

  • 身体的・精神的・経済的負担の軽減


臨床現場・当事者へのメッセージ

この研究はこう語っています。

「まず6か月、きちんと支援付きで生活を整えることは、
遠回りではないかもしれない」

  • 焦ってすぐ治療に進む前に

  • ただ自己流で頑張るのではなく

  • 専門家と一緒に取り組む生活介入

それが、
“自然に妊娠するチャンス”を確かに増やす

これはとても現実的で、希望のあるメッセージです。


まとめ

  • 出産率そのものは有意に増えなかった

  • しかし自然妊娠率は約2倍に増加

  • 不妊治療の負担を減らせる可能性

  • PCOS・肥満女性における重要な選択肢

「すぐ治療」か「まず生活改善」か、
白黒ではなく、
戦略的に選ぶ時代に入っています。



2026/01/23

健康講座949 ゼップバウンド(チルゼパチド)と甲状腺腫瘍の関係 ――文献ベースで整理する「何が分かっていて、何が分かっていないのか」


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はじめに

近年、肥満症治療や体重管理の分野で注目を集めている薬剤がゼップバウンドです。一方で、添付文書や海外の注意喚起において「甲状腺腫瘍」という言葉が登場するため、患者さん・医療者の双方に不安や誤解が生じやすいテーマでもあります。
本稿では、公表されている一次情報・主要臨床試験・規制当局の公式文書に基づき、ゼップバウンド(有効成分:チルゼパチド)と甲状腺腫瘍の関係を、根拠を明確に曖昧な表現を避けて解説します。結論を急がず、「どの腫瘍が問題になるのか」「なぜ注意喚起が存在するのか」「人で何が確認され、何が確認されていないのか」を順序立てて整理します。


1. ゼップバウンドとは何か

**ゼップバウンド(Zepbound)は、チルゼパチド(tirzepatide)を有効成分とするGIP/GLP-1受容体作動薬です。体重管理(肥満症)を適応として開発・承認され、血糖低下作用に加えて体重減少効果が確認されています。開発・製造はEli Lilly**です。


2. 問題となる「甲状腺腫瘍」は何か

本剤の注意喚起で対象となるのは、**甲状腺髄様癌(Medullary Thyroid Carcinoma:MTC)**です。
重要な点は以下のとおりです。

  • MTCはC細胞(傍濾胞細胞)由来

  • カルシトニンを産生する

  • **多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)**と強く関連する

  • 一般的に多い乳頭癌・濾胞癌とは起源が異なる

日常診療で遭遇する頻度の高い甲状腺結節乳頭癌は、本注意喚起の直接の対象ではありません


3. なぜ注意喚起が存在するのか(動物実験の事実)

3-1. ラット試験で確認された所見

GLP-1受容体作動薬のクラスでは、ラットを用いた長期投与試験において、

  • 甲状腺C細胞の過形成

  • 甲状腺髄様癌(MTC)の発生率上昇
    が確認されました。

この所見は、チルゼパチドに限らず、同系統薬で一貫して観察されています。したがって、規制当局はクラスエフェクトとしての安全性シグナルを重視し、**箱入り警告(Boxed Warning)**を含む注意喚起を設定しています。

3-2. なぜラットで起き、人では同様に観察されにくいのか

ヒトの甲状腺C細胞におけるGLP-1受容体発現は極めて低いことが、組織学的・分子生物学的研究で示されています。
一方、ラットではC細胞にGLP-1受容体が発現しており、受容体刺激が細胞増殖シグナルとして作用し得ます。
この**種差(species difference)**が、ラット所見をヒトへ直接外挿できない根拠です。


4. ヒトでのエビデンス:何が確認されているか

4-1. 臨床試験データ

チルゼパチドの**大規模臨床試験(糖尿病・肥満症領域)**では、

  • 甲状腺髄様癌(MTC)の発症増加は確認されていません

  • カルシトニン値の臨床的に問題となる持続的上昇は報告されていません

これらは、治験データとして公式に公表されています。

4-2. 市販後データ

市販後安全性情報においても、チルゼパチド投与とMTC発症増加の因果関係は確認されていません
ただし、MTC自体が極めて稀少ながんであるため、「発症がゼロである」と断定できる統計学的根拠は存在しない、という点は事実として区別する必要があります。


5. 規制当局・添付文書における位置づけ

5-1. 明確な禁忌

以下は明確な禁忌です。

  • 甲状腺髄様癌(MTC)の既往

  • MEN2(本人または家族歴)

これは、動物実験での一貫した所見と、疾患の重篤性を踏まえた予防原則に基づくものです。

5-2. 必須ではない事項

  • 全例でのカルシトニン定期測定は推奨されていません

  • 甲状腺エコーのルーチン実施も必須ではありません

これらは、ヒトでのリスク増加が確認されていないというエビデンスに基づきます。


6. よくある誤解を文献ベースで正す

誤解1:「甲状腺結節があると使えない」

誤り
良性結節や乳頭癌既往は、禁忌には該当しません

誤解2:「甲状腺がん全般のリスクが上がる」

誤り
問題とされているのはMTCのみであり、乳頭癌・濾胞癌のリスク上昇を示すエビデンスは存在しません

誤解3:「人でも動物実験と同じことが起きる」

誤り
受容体発現の種差という明確な生物学的根拠があります。


7. 実臨床での合理的な判断枠組み

  • MTC・MEN2の有無を確認

  • 該当しなければ、過度な検査追加は不要

  • 頸部腫瘤の急速増大、嗄声、嚥下障害など臨床症状が出現した場合のみ精査

この対応は、国際的なガイドラインと整合しています。


8. まとめ(事実のみ)

  • ゼップバウンドの注意喚起は甲状腺髄様癌(MTC)に限定される

  • 根拠はラットでのC細胞腫瘍発生

  • ヒトでの発症増加は確認されていない

  • MTC・MEN2以外では禁忌ではない

  • 一般的な甲状腺結節・乳頭癌とは直接関係しない


おわりに

ゼップバウンドと甲状腺腫瘍の関係は、「何となく危ない」ではなく、どの腫瘍・どの根拠かを正確に区別することが重要です。
本稿で示した内容は、公開されている一次情報と公式文書に基づく事実のみを整理したものです。
不安を煽る曖昧な情報ではなく、根拠に基づいた理解が、適切な薬剤選択につながります。

ロゴ決定

ロゴ決定 小川糖尿病内科クリニック

皆さま、こんにちは。 当院のロゴが決定いたしました。 可愛らしいうさぎをモチーフとして、小さなお花をあしらいました。 また、周りは院長の名字である「小川」の「O(オー)」で囲っております。 同時に、世界糖尿病デーのシンボルであるブルーサークルを 意識したロゴとなって...