2022/10/31

健康講座556 日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版

  みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版が5年ぶりに改訂されました。

 今回の改訂で、「トリグリセライド」「アテローム血栓性脳梗塞」「糖尿病」がキーワードとなります。これを踏まえて2017年版からの変更点がまとめられている序章(p.11)に目を通すと、改訂点がわかります。

<2022年度版の主な改訂点>

1)随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値を設定した。
2)脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究のスコアが採用された。
3)糖尿病がある場合のLDLコレステロール(LDL-C)の管理目標値について、末梢動脈疾患、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合は100mg/dL未満とし、これらを伴わない場合は従前どおり120mg/dL未満とした。
4)二次予防の対象として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓症脳梗塞も追加し、LDL-Cの目標値は100mg/dL未満とした。さらに二次予防の中で、「急性冠症候群」「家族性高コレステロール血症」「糖尿病」「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」の場合は、LDL-Cの管理目標値は70mg/dL未満とした。
5)近年の研究成果や臨床現場からの要望を踏まえて、新たに下記の項目を掲載した。
 (1)脂質異常症の検査
 (2)潜在性動脈硬化(頸動脈超音波検査の内膜中膜複合体や脈波伝播速度、CAVI:Cardio Ankle Vascular Indexなどの現状での意義付)
 (3)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
 (4)生活習慣の改善に飲酒の項を追加
 (5)健康行動倫理に基づく保健指導
 (6)慢性腎臓病(CKD)のリスク管理
 (7)続発性脂質異常症

変更に至った主な理由

 1)について、「TGは食事の摂取後は値が上昇するなど変動が大きい。また空腹時でも非空腹時でも値が高いと将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測することが国内の疫学調査で示されている。国内の疫学研究の結果およびESC/EASガイドラインとの整合性も考慮して、空腹時採血:150mg/dL以上または随時採血:175mg/dL以上を高TG血症と診断する」とコメントした(参照:BQ5)

 2)については、吹田スコアに代わり今回では久山町研究のスコアを採用している。その理由として、同氏は「吹田スコアの場合、研究アウトカムが心筋梗塞を含む冠動脈疾患発症で脳卒中が含まれていなかった。久山町研究のスコアは、虚血性心疾患と、脳梗塞の中でとくにLDL-Cとの関連が強いアテローム血栓性脳梗塞の発症にフォーカスされていた点が大きい」と説明(参照:BQ16)

 3)については、ESC/EASガイドラインでの目標値、国内のEMPATHY試験やJ-DOIT3試験の報告を踏まえ、心血管イベントリスクを有する糖尿病患者の一次予防において、十分な根拠が整っている(参照:FQ24)

 4)については、国内でのアテローム血栓性脳梗塞が増加傾向であり、再発予防が重要になるためである。また二次予防の場合、糖尿病の合併がプラーク退縮の阻害要因となることなどから「これまで厳格なコントロールは合併症などがあるハイリスクの糖尿病のみが対象だったが、今回より糖尿病全般においてLDL-C 70mg/dL未満となった」と解説した。

 5)の(7)続発性脂質異常症は新たに追加され(第6章)、他疾患などが原因で起こる続発性なものへの注意喚起として「続発性(二次性)脂質異常症に対しては、原疾患の治療を十分に行う」とし、甲状腺機能低下症など、続発性脂質異常症の鑑別を行わずに、安易にスタチンなどによる脂質異常症の治療を開始すると横紋筋融解症などの重大な有害事象につながることもあるので注意が必要、と記載されている。

<続発性脂質異常症の原因>

1.甲状腺機能低下症 2.ネフローゼ症候群 3慢性腎臓病(CKD)
4.原発性胆汁性胆嚢炎(PBC) 5.閉塞性黄疸 6.糖尿病 7.肥満
8.クッシング症候群 9.褐色細胞腫 10.薬剤 11.アルコール多飲 12.喫煙
―――

 このほか、LDL-Cのコントロールにおいて飽和脂肪酸の割合を減らすことが重要(参照:FQ3)」「薬物開始後のフォローアップのエビデンスレベルはコンセンサスレベルだが、患者さんの状態を丁寧に見ていくことは重要(参照:BQ21)」などの点もあります。

 2007年版よりタイトルを“診療”から“予防”に変更したように、本書は動脈硬化性疾患の予防に焦点を当てて作成されているようです。すぐに薬物治療を実行するのではなく、高リスク病態や他疾患の有無を見極めることが重要です。
参考

2022/10/28

健康講座555 穀物由来の食物繊維の生活習慣病予防効果

 みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

 食物繊維の摂取量と糖尿病などの生活習慣病の発症には関係があることは知られているおります。

 穀物は主食であり、コントロールしやすい食物であります。とくに日本人の食物繊維摂取量は、米・小麦からの摂取量が多いが、近年の低炭水化物ダイエットの影響で穀物からの食物繊維摂取量は減っているようです。また、糖尿病で血糖値上昇を抑制させる食品は、多くのメタアナリシスより野菜や果物ではなく、穀物だとわかっているのです1)

 そこで、どのような穀物、とくに全粒小麦と大麦の摂取が生活習慣病予防に効果をもたらすかどうか検討を行ったものがあります。その結果、小麦全粒粉パンの摂取は小麦粉パンと比較し、食後血糖値の上昇を抑制する効果を確認したほか、小麦全粒粉配合パンの摂取は内臓脂肪の面積を有意に抑制したとのことです(小麦全粒粉配合パン:-4.0cm2、小麦粉パン:+2.9cm2)。

 後段の研究では、日本人でBMIが23以上の男女50人の健常人を対象に、小麦全粒粉配合パン(食物繊維11.1g/日)と小麦粉ロールパン(食物繊維3.4g/日)の12週間に及ぶ摂取の比較で行われた(プラセボ対照無作為化二重盲検試験)。

 これら結果の考察として、食物繊維の多い小麦全粒粉配合パンでは胃内の滞留時間が長いため食後血糖値の上昇が抑えられること、長期の摂取によりアラビノキシランの大腸内発酵による短鎖脂肪酸が糖代謝、脂質代謝に影響するとのことでした2)


 次に、大麦ごはんと大麦配合パンの摂取が食後血糖に及ぼす影響について報告した。もち性大麦の配合割合をごはんとパンで30~100%に変えて調査したところ、βグルカン量に依存して食後血糖値の上昇を抑制したという。この効果の仮説として、胃内での滞留時間の延長、糖質の消化吸収の阻害・遅延、未消化糖質の消化管下部への移送(GLP-1分泌促進)、腸内発酵を受ける(短鎖脂肪酸の産生/GLP-1分泌促進)という過程を経てなされると説明されます3)

 また、もち性大麦ごはんの摂取では、被験者(内臓脂肪面積100m2以上の男女)の内臓脂肪面積だけでなく、体重、BMI、腹囲を有意に低下させたが、皮下脂肪には効果が弱かったとのことです。

 最後に大麦の「セカンドミール効果」(ファーストミール[最初にとった食事]が、セカンドミール[次の食事]の後の血糖値にも影響を及ぼすというもの)について、大麦に含まれるβ-グルカンは、消化管内で粘性を増すことにより糖質および脂質の消化吸収を抑制することで、食後血糖値の上昇および内臓脂肪蓄積を抑制するとのことです。また、大腸内発酵による短鎖脂肪酸が、セカンドミール効果や内臓脂肪蓄積抑制効果に関与することが呼気水素ガス検査や血清GLP-1濃度の上昇などから示唆されるようです。

 以上からまとめとして、大麦の生活習慣病予防について、食後血糖上昇抑制効果、長期摂取による糖代謝改善、セカンドミール効果があることを示すようです。
参考文献・参考サイトはこちら

3)青江誠一郎、ほか. 日本栄養・食糧学会誌. 2018;71:283-288.

2022/10/24

健康講座554 運動と長寿

 みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

 座っている時間を減らして毎日散歩をするだけで、何年間も寿命を延ばせるかもしれないようですよ。米ハーバード大学院が、中年期の成人11万人以上を30年間追跡した研究からその可能性が示されました。

 米国の身体活動に関するガイドラインでは、ウォーキングなどの中強度の運動を週に150〜300分行うか、ジョギングなどの高強度運動を週に75〜150分行うことを推奨しているようです。研究では、これらの目標を達成した人は、向こう30年間で死亡する確率が20%前後低いことが分かったのです。また、ガイドライン推奨量の2〜4倍の運動を続けている人は、死亡リスクがさらに数ポイント低かったようです。軽度の運動でも全く運動をしないより健康に良く、重要なことは習慣的に体を動かすことであり、それによって大半の人は大きなメリットを得られるのです。ただし、効果の最大化のために、さらに運動時間を増やして長寿を目指すのも良いでしょう。

 二つの大規模コホート研究のデータを用いて、身体活動量と死亡リスクとの関連を検討した。30〜76歳で身体活動に関する情報のある11万6,221人を解析対象とした。なお、身体活動量は追跡期間中2年ごとに最大15回評価されたものです。

 30年間(中央値26)の追跡中に、4万7,596人が死亡、以下のように運動時間と全死亡リスクとの間に有意な関連が認められた。中強度運動が週に0~19分の人に比較し150~224分の人はハザード比(HR)0.80(95%信頼区間0.77~0.83)、225~299分の人はHR0.79(同0.76~0.82)であり、高強度運動が週に0分の人に比較し75~149分の人はHR0.81(0.76~0.87)だった。心血管死と非心血管死に分けて解析した場合も、両者ともに運動による死亡リスクの有意な低下が認められた。

 さらに多くの運動をしていた人は、死亡リスクの低下幅が若干大きかった。例えば中強度運動を週に600分以上行っていた人はHR0.68(0.64~0.73)、高強度運動を週に600分以上行っていた人はHR0.74(0.65~0.85)だった。反対に、中強度運動を週に20~74分でもHR0.91(0.88~0.94)、高強度運動1~74分でHR0.87(0.82~0.93)と、運動時間がわずかであっても有意なリスク低下が認められた。

 この報告によって、健康のために毎日のジョギングが必要というわけではないことが明らかにされた。散歩、階段昇降、家事などのあらゆる活動が身体活動としてカウントされる。身体活動が習慣として身に付くように、自分が楽しいと思うことを見つけると良い。既に推奨量の運動を行っている場合は、もう少しプラスするとさらなるメリットを得られるのではないかと思われます。

 習慣的な身体活動には多くの健康上のメリットがあり、例えば血圧や血糖値を下げ、HDL(善玉)コレステロールを上げてくれる。減量のために身体活動を始める人がいるが、身体活動は体重を減らす過程よりも、むしろその後のリバウンドを防ぐ手段として有用です。

 なお、本研究からは、身体活動に充てる時間が最も長い群の寿命延伸効果は、標準的な身体活動量の群と比べて、それほど大きく変わらなかった。一方で、身体活動時間が長いことによるデメリットも認められなかった。長時間の高強度運動が心疾患のリスクとなるのではないかとの懸念もあったが、その懸念を払拭するデータが示された。ただ、大半の人には身体活動が多すぎる心配はなく、少なすぎることが問題であるといえるでしょう。


原著論文はこちら

2022/10/21

健康講座553 がんのリスク因子

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

 2019年の世界におけるがん負担に寄与した最大のリスク因子は喫煙であり、また、2010年から2019年にかけて最も増大したのは代謝関連のリスク因子(高BMI、空腹時高血糖)であることが、米国・ワシントン大学の世界疾病負荷研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2019 Cancer Risk Factors Collaboratorsの解析で明らかとなったようでございます。

 研究グループは、GBD 2019の比較リスク評価フレームワークを用い、行動、環境・職業および代謝に関連したリスク因子に起因するがん負担について、2019年のがん死亡および障害調整生存年(DALY)を推定するとともに、これらの2010年から2019年までの変化を検討しました。

 比較リスク評価フレームワークには、23のがん種と世界がん研究基金の基準を用いて特定した34のリスク因子から成る82のがんリスクと転帰の組み合わせが含まれている。


 2019年の推定されたすべてのリスク因子に起因する世界のがん死亡数は、男女合わせて445万人で、全がん死亡の44.4%を占めた。男女別では、男性288万人、女性158万人であり、それぞれ男性の全がん死亡の50.6%、女性の全がん死亡の36.3%であったようです。


 2019年のリスク因子に起因するがん死亡に関して、世界全体でこれらに寄与する主なリスク因子は、男女合わせると、喫煙、飲酒、高BMIの順であった。

 2010~19年に、リスク因子に起因する世界のがん死亡数は20.4%増加した。これらの増加率が最も高かったリスク因子は、代謝関連リスク(高BMI、空腹時血糖高値)であり、これらに起因する死亡数は34.7%増加した。

 世界的にがん負担が増加していることを踏まえると、今回の解析結果は、世界、地域および国レベルでがん負担を減らす努力目標となる重要で修正可能なリスク因子を、政策立案者や研究者が特定するのに役立つと考えられる。
原著論文はこちら

GBD 2019 Cancer Risk Factors Collaborators. Lancet. 2022;400:563-591.

2022/10/17

健康講座552 心不全患者に対するSGLT-2阻害薬

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

  心不全患者に対するSGLT-2阻害薬は、駆出率や治療施設の違いにかかわらず、心血管死または心不全による入院リスクを有意に低減することが示されました。米国・ハーバード・メディカル・スクールらが、駆出率が軽度低下または駆出率が保持された心不全をそれぞれ対象にした大規模試験「DELIVER試験」「EMPEROR-Preserved試験」を含む計5試験、被験者総数2万1,947例を対象にメタ解析を行い明らかにしました。SGLT-2阻害薬は、駆出率が低下した心不全患者の治療についてはガイドラインで強く推奨されています。しかし、駆出率が高い場合の臨床ベネフィットは確認されていませんでした。今回の結果を踏まえて、「SGLT-2阻害薬は、駆出率や治療施設の違いにかかわらず、すべて心不全患者の基礎的治療とみなすことができそうです」。

幅広い心不全患者を対象に調査

 研究グループは、駆出率が低下または保持されている心不全患者を対象とした2つの大規模試験「DELIVER試験」「EMPEROR-Preserved試験」と、駆出率が低下した心不全患者を対象とした「DAPA-HF試験」「EMPEROR-Reduced試験」、駆出率を問わず心不全の悪化で入院した患者を対象とした「SOLOIST-WHF試験」について、事前規定のメタ解析を行い、心血管死および患者サブグループにおけるSGLT-2阻害薬の治療効果を調べました。

 各試験データと共通エンドポイントを用い、固定効果メタ解析を行い、心不全の種々のエンドポイントに対するSGLT-2阻害薬の有効性を検証しました。

 今回のメタ解析の主要エンドポイントは、無作為化から心血管死または心不全による入院までの時間でした。また、注目されるサブグループで、主要エンドポイントの治療効果の不均一性を評価した。

心血管死/心不全入院を20%低減

 「DELIVER試験」と「EMPEROR-Preserved試験」の被験者総数1万2,251例において、SGLT-2阻害薬は心血管死または心不全による入院を低減し(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.73~0.87)、各イベントについても一貫して低減が認められた(心血管死のHR:0.88、95%CI:0.77~1.00、心不全による初回入院のHR:0.74、95%CI:0.67~0.83)。

 より幅広い被験者を対象とした全5試験の被験者総数2万1,947例における解析でも、SGLT-2阻害薬は心血管死または心不全による入院リスクを低減し(HR:0.77、95%CI:0.72~0.82)、心血管死(0.87、0.79~0.95)、心不全による初回入院(0.72、0.67~0.78)、全死因死亡(0.92、0.86~0.99)のリスクも低減することが認められた。

 これらの治療効果は、駆出率が軽度低下した心不全または保持された心不全を対象とした2試験において、また5試験すべてにおいても一貫して観察されました。さらに、主要エンドポイントに関するSGLT-2阻害薬の治療効果は、評価した14のサブグループ(駆出率の違いなどを含む)でも概して一貫していたのでございます。
原著

2022/10/14

健康講座551 スタチンと筋痛

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

 スタチンは動脈硬化性心血管疾患の予防に有効で、広く処方されていますが、筋肉痛や筋力低下を引き起こす可能性が高いとの懸念がございます。英国・オックスフォード大学は、大規模臨床試験の有害事象データを用いてスタチンの筋肉への影響について検討し、スタチン治療はプラセボと比較して、ほとんどが軽度の筋症状がわずかに増加したものの、スタチン治療を受けた患者で報告された筋症状の90%以上はスタチンに起因するものではなく、スタチンによる筋症状のリスクは心血管に対する既知の利益に比べればはるかに小さいことを示しておりました。

23件の大規模無作為化試験のメタ解析

 研究グループは、スタチンの筋肉への影響の評価を目的に、スタチン治療の大規模で長期の二重盲検無作為化試験で記録された、個々の参加者における筋肉の有害事象のデータを用いてメタ解析を行った(英国心臓財団などの助成を受けた)。

 対象は、1,000例以上を登録して2年以上の治療を行い、スタチンとプラセボ、またはより高い強度のスタチンとより低い強度のスタチンを比較した二重盲検試験とされ、それぞれ19件および4件の試験が解析に含まれた。

 事前に規定されたプロトコルに基づき、スタチンによる筋肉のアウトカムへの影響について、標準的な逆分散法によるメタ解析が行われた。


筋症状の多くは治療開始から1年以内に

 19件のプラセボ対照比較試験(12万3,940例)のうち、1件(6,605例)は低強度スタチンレジメンとプラセボ、16件は中強度スタチンレジメンとプラセボ、2件は高強度スタチンレジメンとプラセボの比較であった。これら19試験の参加者の平均年齢は63(SD 8)歳、3万4,533例(27.9%)が女性で、5万9,610例(48.1%)が血管疾患の既往歴を有し、2万2,925例(18.5%)が糖尿病だった。

 重み付け平均追跡期間中央値は4.3年であった。この間に、少なくとも1件の筋肉痛または筋力低下が発現した患者は、スタチン群が1万6,835例(27.1%)、プラセボ群は1万6,446例(26.6%)であり、スタチン群で相対的に3%増加していた(率比[RR]:1.03、95%信頼区間[CI]:1.01~1.06)。スタチンの影響は、さまざまな筋症状(筋肉痛、筋肉の痙攣や攣縮、四肢痛、その他の筋骨格系の痛みなど)で同程度であった。

 治療開始から1年以内では、スタチン群で筋肉痛または筋力低下が相対的に7%増加していた(14.8% vs.14.0%、RR:1.07、95%CI:1.04~1.10)。これは、1,000人年当たり11件(95%CI:6~16)の過剰絶対リスクに相当し、スタチン群の筋肉関連の報告のうち、実際にスタチンに起因するものは約15分の1([1.07-1.00]÷1.07で算出)に過ぎないことを示している。

 これに対し、1年目以降は、筋肉痛または筋力低下の初発の報告に、有意な超過は認められなかった(14.8% vs.15.0%、RR:0.99、95%CI:0.96~1.02)。これは、1,000人年当たり0件(95%CI:-2~1)の過剰絶対リスクに相当した。

 全期間では、プラセボとの比較において、高強度スタチン(アトルバスタチン40~80mgまたはロスバスタチン20~40mg、1日1回)は低または中強度スタチンよりも筋肉痛または筋力低下の発現のRRが大きく(1.08[95%CI:1.04~1.13]vs.1.03[1.00~1.05])、1年目以降にも高強度スタチンでわずかながら超過が認められた(RR:1.05、95%CI:0.99~1.12)。

 一方、2件の高強度スタチンレジメンとプラセボを比較した試験と、4件のより高い強度のスタチンとより低い強度のスタチンを比較した試験(3万724例、追跡期間中央値:4.9年、平均年齢:62[SD 9]歳、血管疾患の既往歴:100%)のデータを用いてスタチンの種類別の解析を行ったところ、個別のスタチンや、臨床的状況の違いによって、筋肉痛または筋力低下の発現のRRに差があるとの明確な証拠は得られなかった。

 また、スタチン治療により、クレアチニンキナーゼ値中央値は、臨床的に重要でない、わずかな増加(基準値範囲の上限値の約0.02倍)を示した。

 これらの結果は、スタチン治療時に患者が筋症状を訴えた場合に、それが実際にスタチンによって引き起こされた確率は低い(10%未満)ことを示唆するとのことです。それゆえ、筋症状の管理に関する現行の推奨事項は見直す必要があるかもしれません。「Heart Protection Study(HPS)のエビデンスに基づくと、筋肉痛または筋力低下のリスクのわずかな増加は、通常は治療中止に至らないイベントによるものと考えられ、クレアチニンキナーゼ値の臨床的に有意な変化をもたらさなかったのです。これは、スタチンに起因する筋肉痛または筋力低下のほとんどは臨床的に軽度であることを示唆するものということになります。

原著

2022/10/10

健康講座550 日本人のメタボリックシンドローム(MetS)とがん死との関係

皆さんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

 日本人のメタボリックシンドローム(MetS)とがん死との関係を解析した研究結果が報告されました。徳島大学大学院医歯薬学研究部医科学部門社会医学系予防医学分野からの研究によるもので、日本の診断基準でのMetS該当者はがん死リスクが高く、またMetSの構成因子を多く有している人ほどそのリスクが高いことが分かったようです。

 MetSは心血管疾患ハイリスク状態を早期に検出するために定義された症候群だが、がんリスク上昇とも関係のあることが示唆されています。ただし、MetSと日本人のがん死との関連についてのこれまでの研究結果は一貫性がないようです。今回、国内多施設共同コホート研究「J-MICC研究」のデータを用いてこの点を検討しました。

 J-MICC研究は、日本人の生活習慣病リスクの解明を目的として2005年から14カ所で継続されている前向きコホート研究。この参加者のうち、ベースライン時点でがん・脳心血管疾患の既往のある人や解析に必要なデータが欠落している人を除外し、2万8,554人(男性49.4%)を解析対象とした。MetSの判定には、米国コレステロール教育プログラム治療パネルIII(NCEP ATP III)の基準を用い、腹囲長の代わりに肥満の判定基準であるBMI25以上を使用した。また、日本肥満学会(JASSO)によるMetSの判定基準のうち、腹囲長高値をBMI25以上に置き換えた場合での検討も加えた。

 MetS該当者はNCEP ATP III基準で16.5%、JASSO基準では8.9%だった。平均6.9年間の追跡で396人が死亡し、そのうち192人ががん死だった。

 がん死リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、閉経前/後、喫煙・飲酒・運動習慣、教育歴など)を調整後、NCEP ATP III基準でのMetSに該当することは、がん死リスクと有意な関連が見られなかった〔ハザード比(HR)1.09(95%信頼区間0.78~1.53)〕。MetSの構成因子別にがん死リスクとの関連を検討すると、高血糖(空腹時100mg/dL以上)のみが有意であり〔HR1.41(同1.05~1.89)〕、肥満、血圧高値、中性脂肪高値、HDL-コレステロール低値は有意な関連がなかった。

 一方、JASSO基準でMetSに該当することは、がん死リスクの上昇と有意な関連があった〔HR1.51(1.04~2.21)〕。MetSの構成因子別にがん死リスクとの関連を検討すると、やはり高血糖(空腹時110mg/dL以上)のみが有意であり〔HR1.74(1.27~2.39)〕、他の因子は有意な関連がなかった。

 次に、MetS構成因子の数とがん死リスクの関連を検討した結果、NCEP ATP III基準ではわずかに非有意だった(傾向性P=0.06)。一方、JASSO基準では該当する因子数が多いほどがん死リスクが高いという有意な関連が認められた(傾向性P=0.01)。より具体的には、該当因子がない場合に比べて、該当因子数が2項目でHR1.65(1.06~2.56)、3項目以上ではHR1.79(1.11~2.89)だった。

 続いて、非肥満でMetS構成因子のない群、非肥満でMetS構成因子が一つ以上該当する群、肥満ながらBMI高値以外のMetS構成因子のない群、肥満でBMI高値以外のMetS構成因子が一つ以上該当する群という4群に分け、がん死リスクを比較検討した。その結果、NCEP ATP III基準で分類した場合と、JASSO基準で分類した場合ともに、肥満でBMI高値以外のMetS構成因子が一つ以上該当する群でのみ、有意なリスク上昇が認められた〔非肥満でMetS構成因子のない群に比較して、NCEP ATP III基準での比較ではHR1.76(1.10~2.80)、JASSO基準ではHR1.69(1.09~2.63)〕。

 このほか、JASSO基準でのMetS該当者で見られたがん死リスクの上昇を、がんの部位別に検討すると、胃、大腸、肝臓、膵臓のがんによる死亡でハザード比が1を上回っていたが、有意なリスク上昇は大腸がんでのみ認められた〔HR2.95(1.04~8.40)〕。

 長々とややこしいデータを羅列してしまいましたが、要するにですよ、日本のMetS基準の腹囲長をBMIに置き換えた基準でMetSに該当する場合、がん死の有意なリスク上昇が認められ、かつMetS構成因子の該当数が多いほどそのリスクが高かったのです。特に高血糖ががん死リスクの上昇と関連していました。また、肥満かつMetS構成因子を有する「代謝的に不健康な肥満」でがん死リスクが高いことも明らかになったのです。


原著

2022/10/07

健康講座549 新型コロナ家庭用迅速抗原検査

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

 家庭用迅速抗原検査は、感染初期にはウイルス培養検査と相関するが、陽性から5、6日目以降のデータは少ないです。そこで、新型コロナ陽性もしくは症状発現から6日目以降の抗原検査陽性率、症状、ウイルス培養陽性率について検証したところ、症状が残存している人でも自己抗原検査で陰性であれば隔離解除できるかもしれないことが示唆されました。


 2022年1月5日~2月11日のボストンでのオミクロン株BA.1流行期で、新型コロナ陽性と診断または症状発現の40例が登録された。被験者は平均年齢34(SD 9.5)歳、女性23例(57.5%)、男性17例(42.5%)であった。40例すべてがワクチンの初回シリーズを完了、うち36例がブースター接種1回を完了していた。入院を必要とした患者はいなかった。

 被験者には、新型コロナ陽性と診断または症状発現のいずれかを0日目としてカウントし、6日目以降に、毎日の症状記録(咳、発熱、喉の痛み、呼吸困難、胸部圧迫感、疲労、筋肉痛、味覚・嗅覚の喪失、悪心、嘔吐、下痢、鼻水、鼻づまり、頭痛、その他)と家庭用迅速抗原検査の自己テスト結果を報告してもらった。また、被験者のうち17例(42.5%)から、6日目に鼻咽頭スワブと口腔スワブを採取し、ウイルス培養検査を行った。

 主な結果は以下のとおり。

・全40例のうち、6日目の抗原検査で陽性30例(75%)、陰性10例(25%)だった。14日目には全員が陰性だった。
・抗原検査が初めて陰性化した日数と年齢、最後のワクチン接種からの経過期間、診断時のサイクル閾値(Ct値)との間には相関はなかった。
・無症状者(7例)と有症状者(33例)において、抗原検査の平均初回陰性日は、8.1(SD 3.0)日目vs.9.3(SD 2.4)日目(p=0.14)であった。
・感染から6~14日目では、その日に無症状だった人のうち、抗原検査が陰性よりも陽性になる人のほうが多かった。
・6日目にウイルス培養検査を受けた17例中12例が抗原検査陽性で、12例中6例は培養検査陽性だった。症状ありの人も含め、抗原検査陰性で培養検査陽性だった人はいなかった。
・培養検査陽性6例のうち、6日目で2例は症状改善、2例は症状に変化なしと報告、2例は0日目から症状の報告がなかった。
・培養検査を受けた被験者17例において、6日目に症状なしと報告した8例のうち、培養検査では陰性6例、陽性2例、抗原検査では陰性3例、陽性5例だった。

 本結果より、症状が残存している人の自己抗原検査で陰性であれば隔離解除できることを示唆するものかもしれません。また、症状の改善のみに基づいて隔離を終了することは、ウイルス培養陽性の潜在的な感染者を早期に解放する危険性があり、陽性から10日目までの適切なマスク着用と、感染拡大のリスクが高い場所を回避することが重要であることに変わりはないでしょう。

原著

2022/10/03

健康講座548 食物繊維を取ろう

 みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

 普段の食事に食物繊維が不足している人は、摂取源が何であろうと食物繊維の摂取量を増やすことで腸への良い影響が期待できることが、米デューク大学の研究で示されました。

 食物繊維は便通を良くする栄養素として広く知られています。その一方で、食物繊維は腸内細菌叢の構成にも大きな影響を及ぼしているのです。腸内では細菌が食物繊維を分解する際、大腸の細胞の主な栄養源となる短鎖脂肪酸が産生されるのです。短鎖脂肪酸は、代謝や免疫防御といった重要な機能の調節にも関わっていることが示されています。しかし、数ある食物繊維のサプリメント(以下、サプリ)の中で、腸内細菌に対する作用が他よりも優れているものがあるのかどうかについては明らかになっていません。

 今回、現在広く使用されている3種類の粉末タイプの食物繊維サプリが腸内細菌叢に与える影響について調べた。研究に使用したのは、1)イヌリン(チコリの根から抽出される食物繊維)、2)小麦由来のデキストリン(Benefiberの商品名で販売されているサプリ)、3)ガラクトオリゴ糖(Bimunoの商品名で販売されているサプリ)の3種類だった。1日当たりの用量は、イヌリンと小麦デキストリンが9g、ガラクトオリゴ糖が3.6gであった。研究参加者である28人の健康な成人には、これらの3種類のサプリをそれぞれ1週間ずつ摂取してもらった。あるサプリを1週間摂取してから別のサプリの摂取を開始する前には、1週間の間隔が設けられた。

 その結果、研究参加者の腸内細菌叢に対する影響に関して、3種類のサプリの中で他の2種類よりも優れていることを示したものはなかった。いずれのサプリも、短鎖脂肪酸の一種である酪酸の産生量を増加させていた。酪酸は、腸壁のバリヤー機能を高めて病原体の侵入を防いだり、炎症抑制に重要な働きを担うとされている。ただし、サプリの種類による結果の違いはなくとも、サプリを摂取する人による違いは認められた。サプリによる酪酸の産生量増加が確認されたのは、普段の食事で食物繊維の豊富な食品をほとんど食べていない研究参加者のみであった。

 この結果について、普段から食物繊維を多く摂取していた参加者では、どのサプリを摂取しても腸内細菌叢の変化があまり見られなかった。これはおそらく、これらの参加者ではすでに腸内細菌叢の最適なバランスが保たれていたたと推測されます。これに対して、食物繊維の摂取量が最も少なかった参加者では、摂取したサプリの種類に関わりなく、サプリの摂取による酪酸の産生量の増加が最も大きかったようです。

 なお、専門家らは、1日当たり女性で25g、男性で38gの食物繊維の摂取を推奨しています。しかし、平均的な米国成人の食物繊維の摂取量はその30%程度であり、ほとんどの米国人で食物繊維の摂取量が不足していることを研究グループは指摘されてます。

 基本は、食物繊維を摂取するのであれば、サプリよりも食品からの摂取が望ましいです。その理由として、植物性の食品には食物繊維だけでなく、ビタミンやミネラル、さらに健康に有益なファイトケミカルが含まれているからです。

原著論文はこちら

ロゴ決定

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