2025/05/06

健康講座857 「体重が増えると、血糖値も悪くなるし、心臓や腎臓も危ないって本当?」というお話




【体重が増えると、血糖や心臓・腎臓の病気が悪くなることがわかりました】

(元論文:「Weight Gain Was Associated With Worsening Glycemia and Cardiovascular and Kidney Outcomes in Patients With Type 2 Diabetes Independent of Diabetes Medication in the GRADE Randomized Controlled Trial」)


こんにちは。小川糖尿病内科クリニックです。

今日は、最新の医学研究から、とても大事な発見があったので、できるだけわかりやすくお伝えします。

今回ご紹介するのは、2型糖尿病(にがたとうにょうびょう) の患者さんについて、
「体重が増えると、血糖のコントロールや、心臓や腎臓の病気が悪くなりやすい」
ということが大きなデータで証明された、というお話です。

この研究は、「GRADE(グレード)試験」という、アメリカで行われたとても大きな臨床研究(りんしょうけんきゅう)で、
たくさんの患者さんを長い間(5年間)調べた、信頼できるものです。


どんな研究だったの?

対象となった患者さんたち

  • 2型糖尿病を持つ 4,980人(約5000人)の方たち

  • 平均年齢は 57歳、年齢の幅は 47~67歳くらい

  • BMI(体重と身長のバランスを示す数字) の平均は 34.3
    → BMIが25以上で「肥満」とされますから、みなさんやや太り気味の方が多かったということです。

治療内容
みんな最初に「メトホルミン(糖尿病のお薬)」を飲んでいました。
そこに追加で、以下のうち1つのお薬を使いました。

  1. インスリングラルギン(インスリンの注射薬)

  2. グリメピリド(血糖を下げる飲み薬)

  3. リラグルチド(GLP-1受容体作動薬。血糖も体重も下げる注射薬)

  4. シタグリプチン(DPP-4阻害薬。血糖を穏やかに下げる飲み薬)

この4種類のどれかに分かれて、5年間、血糖や体重、病気の起こり方を追いかけました。


体重はどうなったの?

1年目の体重の変化はこうでした。

  • リラグルチド を使った人 → 平均 −3.5kg 減った!

  • シタグリプチン を使った人 → 平均 −1.1kg 減った!

  • インスリングラルギン を使った人 → 平均 +0.45kg 増えた

  • グリメピリド を使った人 → 平均 +0.89kg 増えた

つまり、リラグルチドとシタグリプチンは体重を減らし、
インスリンとグリメピリドは少しだけ体重が増えた、ということがわかりました。

でも、どのお薬を使っていても、1年を過ぎるとだんだん体重は減っていきました。


体重が増えた人に起きたこと

ここがとても大事なポイントです。

最初の6か月以内に体重が増えた人は、次のリスクが高くなっていました。

  • 血糖コントロールが悪化(HbA1cが7.5%を超える)しやすい

  • 心臓病(心血管疾患)になりやすい

また、1年後に体重が増えていた人は、

  • 血糖コントロール悪化のリスクがさらに高い

  • 腎臓病のリスクも高くなっていた

という結果でした。

神経の病気(しびれなど) については、体重増加そのものより、もともとの体重(肥満)が影響しているということもわかりました。


体重が増えると、満足度も下がった

さらに、体重が増えた人は、
糖尿病治療に対する満足度(治療してよかったな、という気持ち)も下がっていました。

つまり、体重が増えると、

  • 血糖もうまくいかない

  • 心臓や腎臓にも悪い

  • 治療に対する満足感も下がる

という**悪循環(あくじゅんかん)**になりやすい、ということです。


この研究からわかった大事なこと

  1. リラグルチドシタグリプチン は体重を減らしやすい。

  2. インスリングリメピリド は体重が少し増えるけれど、その後は減ることもある。

  3. 体重が増えると、血糖や心臓、腎臓の病気に悪い影響が出る。

  4. この傾向は、どのお薬を使っているかに関係なく見られた。

  5. つまり、糖尿病治療では、「血糖だけでなく体重管理もとても大切」だということが改めて証明された。


【むずかしい言葉のやさしい解説】

  • 2型糖尿病(にがたとうにょうびょう)
    → 主に「太りすぎ」や「生活習慣(食べすぎ・運動不足)」が原因で、インスリンの働きが悪くなったり、足りなくなったりして起こる病気。

  • HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
    → 過去1~2か月の血糖値の平均を示す数字。高いと糖尿病が悪化しているサイン。

  • 心血管疾患(しんけっかんしっかん)
    → 心臓や血管に起きる病気のこと。心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳梗塞(のうこうそく)など。

  • 腎臓病(じんぞうびょう)
    → 腎臓の働きが悪くなり、老廃物(ろうはいぶつ:体にいらないもの)をうまく外に出せなくなる病気。

  • GRADE試験(グレードしけん)
    → たくさんの患者さんを対象に、長期間にわたって治療の効果や安全性を比べる、すごく大きな実験。

  • 臨床研究(りんしょうけんきゅう)
    → 実際に人間を対象にして、薬や治療法を試して確かめる研究。


【まとめ】

今回の研究から、はっきりわかったことは、

  • 糖尿病の治療では、「血糖値を下げる」だけではなく、「体重を管理する」こともとても大事!

  • 特に、治療の最初のころ(最初の半年~1年)に体重が増えると、その後の病気リスクが高くなりやすい。

  • できるだけ、体重を増やさず、むしろ少し減らすくらいが、血糖も心臓も腎臓も守ることにつながる。

ということです。

つまり、小川糖尿病内科クリニックでも、患者さんたちと一緒に、

  • 「血糖をよくする」

  • 「体重をいい感じに保つ」

この両方を目指していくことがとても大事だと、改めて感じています。


【おわりに】

糖尿病は、「血糖が高いだけの病気」ではありません。
血糖が高いと、心臓、腎臓、神経、目、足、たくさんの大事な場所に悪い影響が出てしまいます。

そのリスクを減らすためにも、
薬を上手に使いながら、体重を増やしすぎないように、日々の生活(食事、運動、睡眠)を少しずつ整えていきましょう。

そして、小川糖尿病内科クリニックは、みなさん一人ひとりに合ったペースで、
無理なく、でも確実に、健康を守っていけるようにサポートしていきます!

2025/05/05

健康講座856 「2型糖尿病と末梢動脈疾患(Peripheral Artery Disease, PAD)を持つ人におけるリラグルチド(Liraglutide)の効果」





皆さんどうもこんにちは。内科クリニックです。

本日は、「2型糖尿病と末梢動脈疾患(Peripheral Artery Disease, PAD)を持つ人におけるリラグルチド(Liraglutide)の効果」に関する最新の臨床試験結果について、わかりやすく丁寧に解説していきます。
この記事では、難しい用語についてもその都度説明しながら進めますので、安心して読み進めてください。


はじめに:研究の背景

リラグルチド(Liraglutide)は、GLP-1受容体作動薬(Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonist)と呼ばれる薬剤です。
この薬は、血糖を下げる効果だけでなく、心血管疾患のリスクを減らす効果もあることが知られています。
**2型糖尿病(Type 2 Diabetes, T2D)**は、インスリンの作用が不十分になることで高血糖が続く病気ですが、同時に血管にもダメージを与え、**末梢動脈疾患(PAD)**という血流障害を起こすことがよくあります。

PADとは、足や手など体の末端部分の血管が細くなったり詰まったりする病気で、重症化すると足の切断が必要になることもある怖い疾患です。
糖尿病患者さんでは、このPADが非常に多く、さらに治療も難しいという問題があります。

今回紹介する研究は、リラグルチドが「PADを持つ糖尿病患者さん」に対して、長期的にどのような効果をもたらすかを調べたものです。


研究の目的

もともと、STARDUST試験という6か月間の臨床試験で、リラグルチドが末梢の血流(血液の流れ)を改善することが報告されていました。
しかし、その効果が「長期間(1年以上)」続くかどうかは不明でした。

そこでこの研究では、**18か月(1年半)**という長い期間にわたって、リラグルチドの効果が持続するかどうかを確認するとともに、
「なぜリラグルチドが血流を良くするのか?」というメカニズム(仕組み)についても詳しく調べました。


研究の方法

この研究に参加したのは、2型糖尿病とPADを持つ55人の患者さんです。
彼らは無作為に2つのグループに分けられました。

  • リラグルチド群:リラグルチドを最大1.8mg/日まで投与

  • コントロール群:血圧や脂質異常症(コレステロールの異常)などを個別に管理するだけで、リラグルチドは使用しない

両グループとも、心血管リスク(心筋梗塞などのリスク)を下げるための基本的な治療は受けていますが、リラグルチドを使うかどうかが主な違いでした。

測定された主な項目

  1. TcPO₂(経皮酸素分圧)
    → 皮膚の上から酸素の量を測る検査です。血流が良くなると数値が上がります。

  2. 炎症マーカー(CRP, IL-6)
    → 血液中の炎症を示す物質です。これが減ると、血管の状態が良くなったと考えられます。

  3. 腎機能(尿中アルブミン・クレアチニン比)
    → 腎臓のダメージを評価する指標です。数値が下がるほど良い状態です。

  4. 血管新生(Angiogenesis)マーカー
    → 新しい血管を作る力を示す指標です。血管内皮前駆細胞(EPC)などを測定しました。


研究結果

1. TcPO₂(末梢の血流指標)

18か月後、リラグルチド群ではTcPO₂が平均10.9mmHg上昇しました。
これは、コントロール群(リラグルチドを使わなかったグループ)と比べて明らかに有意な改善でした(p<0.001)。

つまり、リラグルチドを使った人たちは、足などの末梢部の血流がしっかり改善していたのです。

2. 腎機能(尿中アルブミン・クレアチニン比)

リラグルチド群では、尿に出るアルブミン(タンパク質の一種)が減少し、腎臓の機能が改善しました。
具体的には、コントロール群に比べて約104 mg/g Crも減少しました(p=0.003)。

これにより、リラグルチドは腎臓にも良い影響を与える可能性が示されました。

3. 炎症マーカー(CRPとIL-6)

リラグルチド群では、炎症を示すC反応性タンパク(CRP)0.5mg/dL減少しました(p=0.002)。
また、炎症性サイトカインであるインターロイキン6(IL-6)32.6pg/mL減少しました(p=0.004)。

これらの結果から、リラグルチドは血管の炎症を抑える効果があると考えられます。

4. 血管新生(Angiogenesis)関連マーカー

リラグルチド群では、血液中の**血管内皮前駆細胞(EPC)**が増えていました。
具体的には、以下の細胞の数が増加していました。

  • CD34+細胞

  • CD133+細胞

  • KDR+細胞

  • CD34+/KDR+細胞

  • CD34+/CD133+/KDR+細胞

これらはすべて、「新しい血管を作る役割」を持つ細胞です。
また、血管を作るために重要な血管内皮成長因子A(VEGF-A)も、リラグルチド群では70.1pg/mL増加していました(p<0.001)。

つまり、リラグルチドは血管の修復や再生を促す作用を持つことが示されました。


結論

この研究から得られた結論は以下のとおりです。

  • リラグルチドは、2型糖尿病とPADを持つ人において、末梢血流を18か月間持続的に改善しました。

  • 同時に、炎症を抑える効果と**新しい血管を作る効果(血管新生)**が認められました。

  • また、腎機能の悪化を防ぐ可能性も示されました。

これらの結果は、単に血糖をコントロールするだけでなく、
リラグルチドが**血管全体を守る「血管保護作用」**を持つ薬であることを裏付けるものです。


まとめ

今回の臨床試験は、リラグルチドが単なる「血糖降下薬」ではないことを明確に示しました。
血糖コントロールに加え、末梢血流の改善、炎症の抑制、血管新生の促進、腎保護作用まで幅広いメリットが確認されています。

糖尿病に伴う血管合併症(例えばPAD)を防ぎたい、あるいは治療したい患者さんにとって、リラグルチドは非常に有望な選択肢となるかもしれません。

今後さらに大規模な臨床試験や、実臨床でのデータが積み重なれば、
リラグルチドの使い方がますます広がることが期待されます。



2025/05/04

健康講座855 「リラグルチド(GLP-1受容体作動薬)が、肥満や前糖尿病の人の食生活や栄養のとり方にどんな影響を与えるのか?」

 




皆さんこんにちは。

今回は、「リラグルチド(GLP-1受容体作動薬)が、肥満や前糖尿病の人の食生活や栄養のとり方にどんな影響を与えるのか?」というテーマの論文をご紹介します。

この研究では、薬だけの治療と、栄養士さんによる食事のサポートを比べて、「どちらが食事内容を良くできるか?」ということを調べています。できるだけ難しい言葉を使わずに、わかりやすく説明していきますね。


研究の目的は?

リラグルチドという薬は、食欲を抑える作用があり、体重を減らすのに使われます。でも、「この薬を使うと、実際に食事の内容が良くなるの?」ということはあまりよくわかっていませんでした。

そこで今回は、

  • 薬を使ったグループ

  • 栄養士さんと一緒にカロリーを抑えたグループ

  • 別の薬(DPP-4阻害薬)を使ったグループ

この3つのグループに分けて、どんなふうに食事が変わったかを比較しました。


どうやって調べたの?

参加したのは、肥満と前糖尿病のある大人70人です(7割が女性)。平均年齢は約49歳、平均BMI(体格指数)は39.5と、かなり太めの方々です。

この人たちを以下の3つのグループに分けました:

  1. リラグルチドを毎日注射した人たち

  2. 栄養士さんのサポートで、毎日約390キロカロリー分の食事を減らした人たち

  3. 体重には影響の少ない、糖尿病の飲み薬(シタグリプチン)を飲んだ人たち

全員に、治療前と治療後で「1日分の食事の記録」を取ってもらい、それを分析しました。


どんなことがわかったの?

食べるもののバランスに変化が

  • たんぱく質をとる割合が増えたのは、カロリー制限グループが一番多かったです。

  • 炭水化物(ごはんやパン、麺など)の割合は、カロリー制限グループが一番減りました。

  • 砂糖(とくにお菓子やジュースに含まれる「追加された砂糖」)の量も、カロリー制限グループが一番減っていました。

これらは統計的にも意味のある変化でした。

ビタミンやミネラルには変化がなかった

  • どのグループでも、カルシウムや鉄、ビタミンなどの細かい栄養素に大きな違いは見られませんでした。

食生活の“質”はどうだった?

食生活のバランスを評価する「Healthy Eating Index(健康的な食事指数)」という点数を使ってチェックしました。

  • 全体の点数は3つのグループであまり変わりませんでした。

  • ただ、「砂糖を減らせているか?」という項目は、カロリー制限グループがいちばん良くなっていました。

それでもまだ足りない栄養が…

どのグループも共通して、

  • 果物

  • 野菜

  • 牛乳やヨーグルトなどの乳製品

は、あまり摂れていませんでした。つまり、全体的な食事の質はまだまだ改善の余地があるという結果です。


この研究から何が言えるの?

薬だけでは食生活はあまり変わらない。

リラグルチドという薬は、たしかに食欲を抑えて体重を減らすのに役立ちます。でも、「バランスよく食べる」ようになるわけではないんです。

特に、お菓子やジュースに含まれる「余計な砂糖」を減らすことや、たんぱく質をしっかりとることは、薬だけでは難しいようです。

一方で、栄養士さんのサポートを受けながら食事を見直したグループは、実際に砂糖の摂取が減り、たんぱく質も増えていました。こうした変化は、体重のコントロールや血糖の改善にもつながります。


なぜ「栄養指導」が大事なの?

薬は「満腹感を出す」とか「食欲を減らす」といったサポートはしてくれますが、何をどれだけ食べるかは自分で選ぶ必要があります。

そこで大事になるのが、「どうすれば体にいい食事になるか?」を教えてくれる栄養士さんの存在です。

今回の研究でも、栄養士のサポートを受けた人たちのほうが、より健康的な食事内容に近づいていたことがわかりました。


今後に向けて

この研究は14週間(約3か月)という短い期間でしたが、将来的にはもっと長い期間で、

  • リラグルチドを続けて使った場合に食生活がどう変わるのか?

  • 栄養士のサポートが続いた場合、どれだけ維持できるのか?

なども調べていく必要があります。


まとめ

  • リラグルチドは体重を減らすのに効果的ですが、食事の中身までは自動的に改善されません。

  • 食生活を良くするには、薬だけでなく「人のサポート」、特に栄養士さんの関わりが大事です。

  • 全体的に、まだまだ野菜や果物、乳製品などの摂取が足りていない現状も見えてきました。

  • 今後は、薬と栄養指導をどう組み合わせていくかがポイントになりそうです。



2025/05/03

健康講座854 「1型糖尿病(Type 1 Diabetes, T1D)を持つ人々における筋肉と骨の関係性」

 



皆さん、こんにちは。

今回は、2025年に『The Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism』に掲載された、Inge Agnete Gerlach Brandt氏らの研究をご紹介します。この研究は、「1型糖尿病(Type 1 Diabetes, T1D)を持つ人々における筋肉と骨の関係性」を明らかにすることを目的としたものです。

1型糖尿病とは、自己免疫反応などにより膵臓のインスリン分泌が失われてしまう疾患です。小児や思春期に発症することが多く、インスリン注射が生涯必要になります。長期にわたる糖尿病の影響は、心血管疾患や腎症、網膜症といった合併症のリスクだけでなく、骨や筋肉にも影響を及ぼす可能性が示唆されています。

一方で、「筋肉と骨は互いに影響し合っている」というのは、近年非常に注目されているテーマです。骨にかかる力(例えば運動などで生じる筋収縮の力)は、骨の形成や維持に不可欠です。逆に、骨の健康が損なわれると、筋肉の働きにも悪影響が出ます。このような「筋骨連関(muscle-bone crosstalk)」は、加齢や病気によって崩れる可能性があります。

そこで、今回の研究では、子どもの頃に1型糖尿病を発症した成人において、筋肉の量・筋力と骨の大きさ・密度・強さとの関連性を調べました。1型糖尿病の方に特有の変化があるのか、それとも一般人と同じように筋肉と骨が連動しているのかを調べたのです。


研究の概要

対象者と方法

この研究は、デンマーク人を対象とした横断研究で、次の2つのグループから構成されます。

  • 1型糖尿病のある人(111名):いずれも18歳未満で糖尿病を発症しており、成人となった現在の平均年齢は43.2歳、BMIは26.9 kg/m²。

  • 健康な対照群(37名):性別や年齢を糖尿病群に合わせた健常者。

主に次の3つの手法を使って、筋肉と骨の状態を評価しました。

  1. DXA(デュアルエネルギーX線吸収測定):体組成(特に脂肪・除脂肪体重)と骨密度(BMD)を測定する装置です。骨粗しょう症の検査にも使われます。

  2. 握力測定:握力は全身の筋力の指標として用いられ、ダイナモメーターという機械で測定します。

  3. HR-pQCT(高解像度末梢定量的CT)とマイクロインデンテーション:骨の微細構造や素材としての強さ(Bone Material Strength Index: BMSi)を調べる先端的な技術です。


研究結果の要点

  1. 筋肉量・筋力の比較
    糖尿病群と対照群を比較したところ、

  • 総除脂肪体重(Lean Mass)、

  • 四肢の筋肉量(Appendicular Lean Mass)、

  • 握力(Grip Strength)

いずれも統計的に有意な差は認められませんでした(p = 0.41、0.75、0.52)。
つまり、1型糖尿病のある人も、そうでない人も、同程度の筋肉量と筋力を持っていたということです。

  1. 骨の状態の比較
    次に、骨密度(BMD)、骨の大きさ(皮質骨面積や外周)、骨の素材強度(BMSi)も比較されましたが、こちらもグループ間に有意差は見られませんでした(p > 0.05)。

この結果は意外かもしれません。というのも、これまでの研究では1型糖尿病のある人は骨折リスクが高く、骨が弱くなりやすいとされてきたからです。

  1. 筋肉と骨の関連性(筋骨連関)
    ここで重要なのは、「筋肉と骨の関連性を調べた分析」です。

糖尿病群内で解析を行うと、

  • **ALM/身長²(除脂肪量を身長で割った指標)**が、大腿骨頸部(FN)と股関節全体(TH)のBMDと有意に相関していました(R² = 0.12および0.337)。

  • 握力も同様に、FN-BMDおよびTH-BMDと関連が見られました(R² = 0.104および0.137)。

これは、「筋肉量や筋力が高い人は、骨密度も高い傾向がある」ということを意味します。

さらに、興味深いのは、この関連性が健常者と比べて差がなかったということです。すなわち、1型糖尿病であっても、筋肉と骨との連携は保たれているという結果でした。


考察と意義

この研究の最大のポイントは、「1型糖尿病があっても、筋肉と骨の連携関係は保たれている」という点です。

一般的に、糖尿病は骨折リスクの増加、筋肉量の減少(サルコペニア)、体力低下などの要因と結びつけられがちですが、本研究ではそれを補強するような明確な異常は見られませんでした。

これは非常に前向きなメッセージです。

  • 若年期発症のT1D患者でも、筋肉量と骨密度の良好な関係が保たれていれば、

  • 適度な運動や筋力維持が、将来の骨粗鬆症や転倒・骨折の予防につながる可能性があります。


専門用語の補足

  • 除脂肪体重(Lean Mass):体脂肪を除いた体重。筋肉、内臓、骨、水分などが含まれます。

  • Appendicular Lean Mass (ALM):四肢(腕と脚)の筋肉量。サルコペニアの診断に用いられることがあります。

  • BMD(Bone Mineral Density):骨密度。低いと骨粗鬆症リスクが高まります。

  • HR-pQCT:高解像度CTで骨の微細構造を可視化できる技術。臨床研究で活用されています。

  • BMSi(Bone Material Strength Index):骨そのものの素材の強さを評価する指標で、マイクロインデンテーションという技術で測定されます。

  • R²(決定係数):ある変数同士の関連の強さを示す統計指標。0~1で示され、数値が大きいほど強い関連があることを示します。


結論

この研究の結論は以下の通りです:

筋肉と骨の間の関係は、1型糖尿病があっても保たれている。したがって、筋力や筋肉量を保つことは、糖尿病の有無にかかわらず骨の健康維持にとって重要である。

1型糖尿病に関しては、これまでも多くの臓器への影響が議論されてきましたが、「筋骨連関」についての明確なエビデンスは限られていました。本研究はその空白を埋める重要な一歩といえるでしょう。

今後は、筋力トレーニングや運動療法が、糖尿病患者の骨健康にどれほど貢献できるのかを検証する臨床研究が期待されます。



2025/05/01

健康講座853 【糖尿病予防と健康的な減量】タンパク質の賢い摂り方と食事改善の秘訣

 こんにちは、小川糖尿病内科クリニックのブログへようこそ。今回は、健康的な体重管理と糖尿病予防に欠かせない、タンパク質の効果的な摂り方について、科学的根拠をもとに解説します。




タンパク質の大切さと正しい摂取量

タンパク質は、私たちの体を構成する重要な栄養素です。特に筋肉はタンパク質でできており、十分な量を摂取することで、エネルギー消費が活性化されます。これが、健康的なダイエットに役立つ理由です。しかし、タンパク質の摂り過ぎは生活習慣病のリスクを高めるため、1食あたり20gから30gの摂取を推奨しています。

実践的な食事改善の例

主に未精製の食品を利用し、加工食品を避けることで、無駄な脂肪の蓄積を防ぎます。たとえば、市販のプロテインよりもサラダチキンの方が天然のタンパク質を多く含み、添加物の心配もありません。

タンパク質を含む食品例

  • 大豆: 高品質の植物性タンパク質源で、大豆100gあたり約20gのタンパク質が含まれています。
  • : 特に白身魚は低脂肪でタンパク質が豊富。
  • とり肉: 特に胸肉は低脂肪で高タンパク。
  • 赤身肉: 牛肉や豚肉の赤身部分は、適量であれば優れたタンパク質源です。

日々の食事での工夫

空腹時にタンパク質をしっかり摂ることで、満足感が得られ、間食の誘惑も減少します。朝食に20gのタンパク質を含む食事を摂ることで、一日を通しての食欲管理がしやすくなります。以下は、タンパク質を効果的に摂るための食品の例です。

  • 豆腐: 3分の1丁で約7gのタンパク質。
  • : 1個で約7g。
  • 納豆: 1パックで約7g。
  • 無糖ヨーグルト: 150gで約7g。

これらの食品を組み合わせて、毎食20〜30gのタンパク質を摂るように心がけましょう。これにより、健康的な減量とともに、糖尿病の予防にも効果的です。

まとめ

健康的な減量と糖尿病予防のためには、適切なタンパク質の摂取が鍵です。上記のガイドラインに従い、日々の食事に取り入れてみてください。これからも皆様の健康をサポートする情報を提供していきます。次回もお楽しみに!

ロゴ決定

ロゴ決定 小川糖尿病内科クリニック

皆さま、こんにちは。 当院のロゴが決定いたしました。 可愛らしいうさぎをモチーフとして、小さなお花をあしらいました。 また、周りは院長の名字である「小川」の「O(オー)」で囲っております。 同時に、世界糖尿病デーのシンボルであるブルーサークルを 意識したロゴとなって...