2022/04/11

健康講座477 the インスリン

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

 糖尿病治療において最も歴史のある治療薬は「インスリン」です。20世紀最大の発見の1つともいわれるインスリンの生誕100年となります。

インスリンの歴史を紐解くと、1921年、カナダ・トロントの医師Frederick Grant Banting氏とCharles Best氏が膵島ホルモンの抽出に成功し、“isletin(アイレチン)”と命名した。その翌年、isletinは14歳の1型糖尿病患者に初めて投与されたが、当初は抽出物の精製が不十分であったためほとんど効果がなく、アレルギー反応が現れ投与は1回限りで中止された。それから程なくして、精製度を高めたものが用いられ、患者の血糖値は正常に低下したのです。

トロントの研究グループは、膵からの抽出液isletinを“insulin”と名付け、製薬企業の協力下で製剤化し、大量生産ができる体制を整えました。これにより、糖尿病が治療可能な疾患になったのでございます。それ以前は、治療といえば飢餓療法という非常に悲しい延命策しかなく、不治の病だったのです。インスリンによる治療が可能になり、糖尿病性昏睡は激減したものの、網膜症・腎症の合併症がクローズアップされ、1930年代後半からは血糖コントロールと細小血管障害との関係に議論がありました。これは、1983~1993年に実施された糖尿病の大規模臨床研究DCCT1)で結論がでました。

インスリン発見から100年後の現在、インスリン製剤は26種類、約60製品もの種類が存在するのです2)。インスリンの適応でありますが、日本糖尿病学会が提唱しているインスリン依存状態などの「絶対的適応」であればもちろんのこと、非依存状態であっても血糖コントロールのためにインスリンが必要な場合があります。

インスリン製剤は、作用時間により(超)超速効型・超速効型・速効型・中間型・持効型に分けられ、さらには作用時間が異なるインスリンを混ぜた混合型インスリン(配合注)が存在するのです。これらを適切に組み合わせ、正常な生理的インスリン分泌に近づけるよう単位調節を行っていくのです。インスリン治療の土台部分であり、食事と関係ない基礎分泌の補充を目的に使用される中間型・持効型、および食後の血糖値上昇に伴う追加分泌の補充を目的に使用される(超)超速効型・超速効型・速効型で分けて考えることになります。さらに、自己注射で使用できるデバイスには種類があり、それぞれメーカーや特徴によって名称が異なるため、かなり複雑に感じるかもしれません。


最初に使用するインスリン製剤については、空腹時血糖値により決めることが多いです。さほど高くなければ超速効型(追加分泌)から、高ければ持効型(基礎分泌)からと考えられるが、導入時はおそらくHbA1cが8%以上で空腹時血糖値が高い可能性が考えられます。スタンダードな例としては、経口血糖降下薬に持効型(基礎)インスリンを追加する形のBOT(Basal supported Oral Therapy)が導入しやすいかもしれません。

追加インスリンを使用する場合、今は食直前に投与する超速効型が主流ですが、直近で登場したいわゆる(超)超速効型といわれる製剤(商品名:フィアスプ、ルムジェブ)は、食事2分前~食事開始後20分以内に注射する必要があり、打つタイミングには注意しなければなりません。

糖尿病治療ガイド2020-20213)には、2型糖尿病における持効型インスリン療法開始時の投与量の目安として、1日0.1~0.2単位/実測体重(kg)程度(4~8単位)と記載されている。血糖値が高いからといって、最初から大量に投与することは避けるべきであります。私個人としては、瘦せ型の高齢者のかたなど、インスリン抵抗性が高くなさそうな場合は2単位からはじめることもあります。

外来導入する場合は、1日1回の持効型または混合型インスリン(配合注)から始めるのが多いと思います。とくに最近は高齢の糖尿病患者さんが非常に多くなり、自己注射がおぼつかないケースも増えている中で、1日1回なら同居家族の方に見守ってもらったり、打ってもらったりすることができるからであります。

インスリン製剤のデバイスは大きく3つに分かれ、使い捨てのプレフィルド製剤(ペンタイプ)、カートリッジ製剤(万年筆タイプ)、バイアル製剤があるが、それぞれにメリットとデメリットがあります。わが国においては、利便性や衛生的な観点から圧倒的にプレフィルド製剤が多く使われています。

現在、太さ・長さ・構造が異なる8製品が処方可能でありますが、これに関しての使い分けはマニアックなため我々専門医に任せるとして、いたって標準的な製品で十分であります。

ここで一つ注意点を述べておくと、インスリンは現時点で注射製剤のみであり、使用上で重要な事象として、同一部位に繰り返し注射をすることで発生する皮膚病変に注意して頂きたいです。

 打った場所が固くなるものとして、アミロイドの沈着したインスリンボールと、脂肪が肥大したリポハイパートロフィーの2種類があります4)。このような腫瘤部への注射で、インスリンの効果が顕著に減少してしまうのです。そのため、インスリン自己注射手技の再確認時に腹部の状態も忘れずに確認しておくことが大切であります。

「注射部位を毎回変えている」と話す患者さんの中には、左右交互にはしているものの、同一部位に注射しているケースも多々あるので注意が必要でございます(何度も言ってはいるが、どうしても打ちやすい場所が決まってくるものです。中には硬いところに打った方が痛くないなどと言う患者さんまでいらっしゃいます)。これは糖尿病専門医あるあるなので頭の隅にいれておきましょう。

ところで、わが国において、1981年にインスリン自己注射が保険適応となり、自宅でも投与可能となったものの、以前はよく「インスリンは最後の治療」などと言われていました。

インスリンの早期導入によって生命予後がよくなることはまだまだ認知されていない印象です。これからも、インスリンは糖尿病患者さんのよりよい治療薬としてますます活躍していくと思います。

必要な人には最高の結果を出しますし、いまはインスリン以外にもよい治療薬があります。適材適所なので、是非主治医の先生とベストな皆さん個人にもっともアジャストした治療を選びましょう。

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