2025/06/30

健康講座868 「1型糖尿病はインスリンだけじゃない。免疫をコントロールすることで、もっと良い未来があるかもしれない」

 みなさんこんにちは。

今日は「1型糖尿病とウステキヌマブ」という、ちょっと難しそうな医学の話を、できるだけやさしく、ていねいに、くわしく解説していきます。

ちょこっと専門用語解説

  • Cペプチド:インスリンを作るときに一緒に分泌されるタンパク質。これを測ることで体がどれだけ自前のインスリンを作れているかがわかります。

  • TH17細胞:炎症を起こすT細胞の一種。自己免疫疾患に関係。

  • TH17.1細胞:TH17の中でもさらに炎症性の強いサブタイプ。

  • IL-12/IL-23:炎症を促すサイトカイン。これらをブロックするのがウステキヌマブ。

  • GM-CSF/IL-2/IFNγ/IL-17A:どれも免疫細胞が出す「炎症促進物質」。


1型糖尿病ってどんな病気?

糖尿病には大きく分けて「1型糖尿病」と「2型糖尿病」があります。

  • 2型糖尿病は、大人に多く見られるもので、食べすぎや運動不足、肥満などが原因で起こることが多いです。

  • 1型糖尿病は、子どもや若い人にも突然起こることがあり、原因は「自分の免疫システムが自分自身の体を攻撃してしまう」ことです。

わたしたちの体には「免疫(めんえき)」という仕組みがあります。これは、風邪のウイルスや細菌などから体を守ってくれる大切な働きです。

でも、1型糖尿病では、免疫が「間違って」すい臓の中にある「インスリンを作る細胞(β細胞)」を敵だと思い込んで攻撃してしまいます。すると、インスリンが出せなくなり、血糖値(血液の中の糖の量)が高いままになってしまいます。

インスリンは、血糖値を下げてくれる大事なホルモンなので、それが出なくなると、体にさまざまなトラブルが起こるのです。


今までの治療とその限界

1型糖尿病の治療は、100年以上前から「インスリンを体の外から注射で入れる」という方法が基本でした。

たとえば、ごはんを食べる前にインスリンを打ったり、1日中ゆっくり出るタイプのインスリンを打ったりして、血糖値をコントロールします。

でも、それだけでは完ぺきにコントロールするのはとても大変です。血糖値が高くなりすぎたり、逆に低くなりすぎたりして、毎日の生活でとても気をつかう必要があります。

そこで、最近は「β細胞がまだ少しでも残っているうちに、それを守る治療ができないか?」という研究が進められています。


ウステキヌマブってどんな薬?

ウステキヌマブ(Ustekinumab)は、もともとは皮膚の病気(乾癬:かんせん)や腸の病気(潰瘍性大腸炎など)に使われてきた薬です。

この薬は「IL-12」と「IL-23」という物質の働きをブロックします。これらは免疫の中で「攻撃しろ!」という命令を出すような働きをするので、それを止めることで、体の中の「暴走した免疫」をおさえることができます。

つまり、ウステキヌマブは「免疫の行きすぎた攻撃をやさしく止めてくれる薬」なんです。

この薬が、1型糖尿病の原因になっている“まちがった免疫の攻撃”もおさえられるのでは? ということで、研究が始まりました。


今回の研究はどんなふうに行われた?

対象となった人たち

  • 対象者:12歳〜18歳の、1型糖尿病と診断されてから100日以内の子どもたち

  • 人数:72人

やり方

  • 「ウステキヌマブを打つグループ(48人)」と、「薬が入っていない注射(プラセボ)を打つグループ(24人)」に分けました。

  • 治療は、8週間ごとに注射を7回、1年間続けました。

  • 効果の指標として、「Cペプチド」という物質の量を測定しました。

Cペプチドとは:インスリンが体の中で作られるときに一緒に出てくる物質。つまり、Cペプチドが多いほど「自分でインスリンを作れている」ということを意味します。


結果はどうだったの?

1年後にCペプチドの量を測ると、ウステキヌマブを使ったグループの方が、プラセボ(偽薬)グループよりも「約1.5倍」も多くインスリンを作れていました。

これは、「β細胞が多く残っていた」ということであり、つまり「体の中のインスリンを作る力を守れた」ということです。

ただし、HbA1c(過去1〜2ヶ月の血糖の平均)や、1日あたりのインスリンの量には、はっきりとした差は出ませんでした。インスリンの注射はどちらのグループでも必要だったのです。


免疫細胞への影響も調べました

この研究では、「体の中で何が変わったのか?」もくわしく調べられました。

特に注目されたのが、「TH17.1細胞」という種類のT細胞です。

このTH17.1細胞は、インスリンを作るβ細胞を攻撃してしまう“悪玉”の免疫細胞だと考えられています。

ウステキヌマブを使ったグループでは、このTH17.1細胞の中でも「IL-17A、IFNγ、GM-CSF、IL-2」という4つの炎症物質を出す“とても攻撃的なタイプの細胞”が半分くらいに減っていました。

このような細胞が減った人ほど、インスリンを作る力(Cペプチド)が保たれていたのです。


副作用や安全性は?

ウステキヌマブを使ったグループでも、重い副作用はまったくありませんでした。

発熱や頭痛などの軽い副作用は、どちらのグループでも同じくらいで、特に大きな問題は報告されていません。

すでにこの薬は、他の病気でも10年以上使われていて、小学生以上の子どもにも使えることが認められている薬なので、安全性にはかなり安心感があります。


今後の期待と課題

この研究でウステキヌマブは、「自分のインスリンを作る力を守る」という意味で効果があることがわかりました。

でも、もっと早い段階、たとえば糖尿病を発症する前に(自覚症状がない段階)、ウステキヌマブを使えば、もっと良い結果が出るかもしれません。

また、他にもTH17細胞をターゲットにした新しい薬もあり、それらと比較する研究も必要です。

さらに、他の免疫の薬と組み合わせて使うことで、もっと強い効果が出る可能性もあります。


おわりに

今回の研究は、「1型糖尿病はインスリンだけじゃない。免疫をコントロールすることで、もっと良い未来があるかもしれない」ということを教えてくれました。

この研究をきっかけに、1型糖尿病の子どもたちが、もっと楽に、自分らしく生活できる時代が来ることを願っています。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。



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