2025/07/02

健康講座870 「糖尿病と脂肪肝を同時に改善?新薬チグリタザールの可能性」

 皆さんこんにちは。

今回は、「The impact of chiglitazar, a pan-PPAR agonist, on metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease in patients with type 2 diabetes(2型糖尿病患者におけるChiglitazarの代謝異常関連脂肪性肝疾患への影響)」という論文を、専門的な内容をわかりやすく噛み砕いてご紹介します。


◆この研究は何を調べたの?

この研究では、新しいタイプの糖尿病治療薬「チグリタザール(Chiglitazar)」が、2型糖尿病を持つ人の「MASLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患)」に効果があるのかを実際の臨床の現場で調べました。


◆MASLDって何?

まずはここから説明しましょう。

✅MASLDとは?

「Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease」の略で、「代謝異常に関連した脂肪性肝疾患」と訳されます。

これは以前「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」と呼ばれていた病気の新しい名前です。

  • お酒をあまり飲まないのに肝臓に脂肪がたまってしまう

  • 肥満や糖尿病など、代謝異常が背景にある

といった特徴があります。放っておくと肝硬変や肝がんに進行する恐れもあります。


◆チグリタザールってどんな薬?

チグリタザールは「パンPPARアゴニスト」と呼ばれる薬で、以下の3つの受容体を同時に刺激します。

受容体 主な役割
PPARα(アルファ) 脂肪の燃焼を助ける(主に肝臓)
PPARγ(ガンマ) 血糖値の調整・インスリン感受性を改善(主に脂肪組織)
PPARδ(デルタ) 筋肉のエネルギー代謝促進

つまり、糖尿病と脂肪性肝疾患の両方に作用する“マルチタレント”のような薬です。


◆研究デザイン:どうやって調べたの?

この研究は「前向きコホート研究」と呼ばれる形式で行われました。

  • 対象:2型糖尿病+MASLDを持つ患者235人

    • そのうち、チグリタザール使用者は40人

    • 他の糖尿病薬を使っていた人が195人

  • 比較の公平性を保つため、「傾向スコアマッチング(PSM)」を行い、31組の類似したペアを作成。

  • 観察期間:24週間(約6ヶ月)


◆何を評価したの?

主な評価項目は2つです:

✅1. CAP(Controlled Attenuation Parameter)

→ 肝臓の脂肪量を測る超音波の指標。単位はdB/m。数値が高いほど脂肪が多い。

✅2. LSM(Liver Stiffness Measurement)

→ 肝臓の硬さ(=線維化の程度)を表す。硬いほど肝臓がダメージを受けている状態。


◆結果はどうだったの?

✅CAPの変化(肝脂肪量の改善)

  • チグリタザール群:-28.38 dB/m(大きく減少)

  • 非チグリタザール群:-16.74 dB/m

  • 両者の差:-11.64 dB/m(P=0.038)

→ 統計的に有意な差があり、チグリタザールの方が脂肪減少効果が高かった。

✅LSMの変化(線維化)

  • チグリタザール群:あまり変化なし(-0.11 kPa)

  • 非チグリタザール群も同様

  • 差:有意差なし(P=0.813)

→ 線維化(肝臓の硬さ)には大きな影響はなかった。


◆サブグループ分析

以下のような項目で分けても、効果は一貫して見られました:

  • 性別(男性・女性)

  • 年齢

  • BMI(肥満度)

  • 他の薬(SGLT-2阻害薬やGLP-1受容体作動薬)を使っているかどうか

→ つまり、どんなタイプの患者でもチグリタザールは効果的だったという結果です。


◆結論まとめ

チグリタザールは、2型糖尿病患者におけるMASLDの肝脂肪を減少させる効果があり、糖尿病と肝臓病の両面にアプローチできる可能性がある。

という前向きな結果でした。


◆この研究の意義

  • 今までの糖尿病薬は「血糖値」だけに注目していました。

  • でも糖尿病患者の多くは肝臓にも問題を抱えています。

  • チグリタザールのように「血糖+肝臓」両方に効く薬はとても貴重です。


◆注意点(限界)

  • この研究は「リアルワールドデータ(実臨床)」を使っており、厳密なRCT(無作為化比較試験)ではありません。

  • 観察期間が24週間と短め

  • 長期の効果や安全性はこれからの課題


◆補足:なぜ「脂肪肝」が問題なのか?

脂肪肝は単なる「脂がたまっただけ」と思われがちですが、実は放っておくと…

  • 肝炎

  • 肝線維化

  • 肝硬変

  • 肝がん

と、だんだん悪化していく可能性があります。糖尿病があると進行リスクはさらに高くなります。


◆まとめ

  • チグリタザールは、「糖尿病+脂肪肝」の人にとって、新しい選択肢となる薬。

  • 特に肝脂肪の減少に効果的であり、幅広い患者層に対応可能

  • 今後は長期的なデータやRCTでさらなる検証が期待される。





ご覧いただきありがとうございました!

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