皆さんこんにちは。
今回は、2025年7月に発表された最新のガイドライン「妊娠前から糖尿病がある方への診療ガイドライン(Endocrine SocietyとEuropean Society of Endocrinologyの共同ガイドライン)」をご紹介します。このガイドラインは、**妊娠前から糖尿病を持っている方(preexisting diabetes:PDM)**に対するケアの質を高め、母体と赤ちゃんの健康リスクを減らすことを目的としています。
糖尿病と妊娠は非常に重要なテーマであり、慎重な管理が必要です。ガイドラインには10の重要な推奨事項が含まれており、専門用語の解説を交えながら、わかりやすくご紹介していきます。
🌸1. 妊娠を希望するかどうかの確認(Pregnancy intention screening)
推奨内容:
糖尿病のあるすべての女性に対して、「妊娠を希望していますか?」という質問を、内科・糖尿病外来・婦人科などすべての診療の場で毎回尋ねましょう。
理由:
この「妊娠の意思確認」を行うことで、妊娠前から血糖コントロール(HbA1cなど)を良好に保ち、胎児の先天異常や妊娠合併症のリスクを減らす「プレコンセプションケア(Preconception Care:PCC)」に早くつなげられます。
🌸2. 妊娠を希望しない場合は避妊の推奨
推奨内容:
妊娠を希望しない場合は、適切な避妊法の使用を推奨します。
理由:
糖尿病がある方にとって、妊娠を計画的に行うことがとても大切です。避妊もプレコンセプションケアの一部として考えられ、計画外の妊娠によるリスク(血糖コントロール不良のまま妊娠することによる合併症など)を回避できます。
🌸3. GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の使用中止時期
推奨内容:
2型糖尿病(T2DM)の方がGLP-1受容体作動薬を使用している場合は、妊娠前に中止することが推奨されます(妊娠判明後ではなく、その前に)。
理由:
GLP-1RAは胎児への安全性が確立していないため、リスクを避けるためにも事前の中止が望ましいとされています。
🌸4. 妊娠中のインスリン+メトホルミン併用に関して
推奨内容:
2型糖尿病の妊婦さんがインスリンを使用中であっても、ルーチーンでメトホルミンを追加することは推奨されません。
理由:
メトホルミンを加えることで、胎児の体重が大きくなるリスクは下がるかもしれませんが、一方で小さすぎる赤ちゃんや、成長発達への影響の可能性もあるため、安全性が確定していない段階では推奨されません。
🌸5. 妊娠中の炭水化物制限(Carbohydrate Intake)
推奨内容:
妊娠糖尿病のある方に対して、1日の炭水化物量が175g未満でも以上でも、どちらでもよいとしています(明確な制限を設けず、個別対応)。
理由:
現在のエビデンスでは、厳密な炭水化物制限の有効性や安全性が十分に証明されておらず、メリット・デメリットが明確でないためです。
🌸6. 血糖測定方法:持続血糖測定(CGM)か自己測定(SMBG)か
推奨内容:
T2DMの妊婦さんには、CGM(持続血糖測定器)またはSMBG(自己血糖測定)どちらでも可としています。
理由:
T1DM(1型糖尿病)ではCGMによる良好な妊娠転帰が示されていますが、T2DMでは直接的なデータは少なく、間接的なデータに基づいた推奨です。今後の研究が待たれます。
🌸7. CGMのターゲット設定について
推奨内容:
CGM使用中でも、「24時間平均140mg/dL以下」を単独で目標にするのではなく、以下の従来の目標範囲を使用すべきです:
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空腹時:95mg/dL未満
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食後1時間:140mg/dL未満
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食後2時間:120mg/dL未満
理由:
24時間平均だけでは、食後高血糖や空腹時高血糖を見逃すリスクがあります。妊娠中は時間帯ごとの血糖管理が重要です。
🌸8. T1DM妊婦さんへのハイブリッドクローズドループ(HCL)ポンプ
推奨内容:
T1DMの妊婦さんには、ハイブリッドクローズドループポンプの使用が推奨されます。
用語解説:
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HCLポンプ: CGMとインスリンポンプが連動し、自動でインスリン投与を調整する装置。
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従来型ポンプ: 手動でインスリン量を調整する。
理由:
HCLポンプの使用で、血糖が目標範囲内にある時間が延び、低血糖も減るというデータがあり、より良い妊娠管理が期待されます。
🌸9. 出産時期の判断
推奨内容:
PDMの妊婦さんでは、38週以降の待機的分娩よりも、早期のリスク評価に基づいた分娩時期の決定を推奨します。
理由:
妊娠後期の合併症(胎児死亡、羊水過多、巨大児など)を防ぐために、リスクを考慮して適切な出産時期を決めることが重要です。
🌸10. 出産後のフォローアップ
推奨内容:
出産後は、通常の産科フォローだけでなく、内分泌(糖尿病)専門のフォローアップも行うべきとされています。
理由:
出産直後は再び妊娠の可能性があるため、早期に血糖管理とプレコンセプションケアを再開することが、次の妊娠リスクを減らす鍵になります。
📚まとめと今後の課題
このガイドラインの大半は「低〜非常に低い質のエビデンス」に基づいていますが、それでも臨床現場において重要な指針になります。
今後必要なことは:
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RCT(無作為化比較試験)の増加
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妊娠中の血糖目標の明確化
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プレコンセプションケアの普及
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肥満・栄養管理のエビデンス蓄積
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出産時期に関する確かなデータの確保
📝あとがき
糖尿病と妊娠に関する医療は、母体と赤ちゃんの将来に大きな影響を与える大切な分野です。今後も最新のエビデンスに基づいて、より安全で効果的なケアが提供されることが望まれます。
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