2026/02/21

健康講座971 ロルカセリンは「筋肉を減らさず内臓脂肪を減らす」のか? ― 腹部脂肪・脂質代謝・筋制御ホルモン軸を検証した6か月ランダム化比較試験をやさしく読み解く ―

まず結論を一言で

ロルカセリンは、筋肉量を調節する主要ホルモン軸(MAFI軸)に大きな影響を与えずに、特に腹部脂肪(内臓脂肪)を減らし、血中脂質プロファイルを改善した――というのが本試験の要点です。


ロルカセリン(Lorcaserin)とは何か?【ここを一番丁寧に】

1)どんな薬?

ロルカセリンは、中枢神経(脳)に作用して食欲を抑えるタイプの抗肥満薬です。
作用点はセロトニン5-HT2C受容体。この受容体を選択的に刺激することで、視床下部のPOMC(プロオピオメラノコルチン)神経が活性化され、「満腹シグナル」が強まります。

  • ポイント

    • 「脂肪を燃やす薬」ではない

    • 「食欲中枢を調整して食事量を自然に減らす薬」

2)なぜ“5-HT2C選択性”が重要?

過去の食欲抑制薬(例:フェンフルラミン系)は5-HT2B受容体も刺激してしまい、心臓弁膜症などの副作用が問題になりました。
ロルカセリンは5-HT2C選択性が高い設計で、この問題を回避することが狙われていました。

3)でも、今は使われていないのでは?

とても重要な点です。
ロルカセリンはその後の大規模心血管アウトカム試験(CAMELLIA–TIMI 61)で、がん発生リスク増加の可能性が示唆され、2020年に市場から撤退しています。

👉 つまり本論文は

  • 「現在臨床で推奨される薬か?」ではなく

  • 「中枢性食欲調節が体脂肪分布・脂質代謝・筋制御ホルモンにどう影響するか」を理解するための生理学的・代謝学的研究

として読むのが正解です。


研究の背景:なぜ“筋肉を守る減量”が重要なのか

肥満治療では、体重が減っても

  • 筋肉(除脂肪量)が一緒に減る

  • 基礎代謝が落ち、リバウンドしやすくなる

という問題があります。

そのため近年は

「体重」よりも「体脂肪の質と分布」
特に内臓脂肪を減らし、筋肉を守ること

が重視されています。


研究デザイン(方法)を噛み砕いて説明

対象

  • 肥満の成人48名

割り付け

  • ロルカセリン 10mg 1日2回

  • プラセボ(偽薬)

  • 二重盲検・ランダム化比較試験

期間

  • 6か月

評価項目

  1. 体組成

    • 全身脂肪量

    • 腹部脂肪量(内臓脂肪を強く反映)

  2. 血中脂質(リピドミクス)

    • 中性脂肪リッチリポ蛋白などを網羅的に解析

  3. 筋肉制御ホルモン軸(MAFI軸)

    • ミオスタチン

    • アクチビン

    • フォリスタチン

    • IGF-1


MAFI軸とは何か?【専門用語解説】

● ミオスタチン(Myostatin)

  • 筋肉の成長を抑えるブレーキ

  • 多いと筋肉がつきにくい

● アクチビン(Activin)

  • ミオスタチンと同系統

  • 筋萎縮・代謝制御に関与

● フォリスタチン(Follistatin)

  • ミオスタチン/アクチビンの抑制因子

  • 筋肉を守る方向に働く

● IGF-1(インスリン様成長因子1)

  • 成長ホルモンの下流

  • 筋合成・代謝改善に重要

👉 MAFI軸全体
= 「筋肉が減るか・保たれるか」を決めるホルモンネットワーク


結果①:体重と脂肪量はどうなった?

● 体重

  • ロルカセリン群で有意に減少

  • time × treatment:p = 0.004

● 全身脂肪量

  • 有意に減少(p = 0.031)

● 腹部脂肪量

  • より強く、明確に減少

  • p = 0.002

👉 ポイント
単なる体重減少ではなく、内臓脂肪優位の減少が示された。


結果②:血中脂質(リピドミクス)の変化

ロルカセリン群では、

  • 中性脂肪リッチリポ蛋白(VLDLなど)が低下

  • 脂質プロファイル全体が「より心血管リスクの低い方向」へシフト

解析には

  • 主成分分析(PCA)

  • 部分最小二乗判別分析(PLS-DA)

といった多変量解析が用いられています。

👉 臨床的な意味
内臓脂肪減少と並行して、
動脈硬化リスクに関わる脂質代謝が改善


結果③:MAFI軸(筋肉制御ホルモン)はどうなった?

結論

有意な変化なし

  • ミオスタチン:変化なし

  • アクチビン:変化なし

  • フォリスタチン:変化なし

  • IGF-1:変化なし

これが何を意味するか?

  • ロルカセリンによる減量は
    👉 筋肉を積極的に減らす方向には働いていない

  • 少なくとも
    👉 「筋萎縮を誘導するホルモン変化」は起こしていない


なぜ“腹部脂肪だけ”が減ったのか?(考察)

考えられるメカニズムは:

  1. 食欲抑制 → 摂取カロリー減少

  2. 内臓脂肪は

    • 代謝回転が速い

    • カテコラミン感受性が高い

  3. 中枢性食欲調節により

    • 過食・間食・夜食が減る

  4. 結果として

    • 内臓脂肪が優先的に動員

👉 筋肉はホルモン的に「触られていない」ため、保たれやすい。


この研究の臨床的メッセージ(重要)

  • ロルカセリン自体は現在使用されない

  • しかしこの研究は、

「中枢性食欲調節だけでも、
筋肉を犠牲にせず内臓脂肪と脂質代謝を改善できる」

という概念を支持

これは

  • GLP-1受容体作動薬

  • GIP/GLP-1デュアル作動薬

など、現行の抗肥満薬の理解にもつながります。


イラストで直感的に理解する

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まとめ

  • ロルカセリン

    • 5-HT2C受容体刺激による中枢性食欲抑制薬

    • 現在は安全性の問題で使用されない

  • 本試験(6か月RCT)では

    • 体重・全身脂肪・特に腹部脂肪が減少

    • 血中脂質プロファイルが改善

    • 筋肉制御ホルモン軸(MAFI)は変化なし

  • 示唆

    • 「筋肉を守りながら内臓脂肪を減らす」減量は
      中枢性食欲調節だけでも可能

肥満治療を「体重」ではなく
体脂肪の質・分布・代謝で考える重要性を、静かに教えてくれる論文です。

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