2023/05/03

健康講座611 亜鉛不足の弊害

 みなさんどうもこんにちは。小川糖尿病内科クリニックでございます。

亜鉛は、体内において重要な役割を果たしています。そのため、亜鉛不足は、様々な健康上の問題を引き起こす可能性があります。本稿では、亜鉛不足についての文献からの抜粋を通じて、亜鉛不足が引き起こす健康上の問題について詳しく解説します。

亜鉛は、細胞分裂やDNA合成、タンパク質合成、ホルモンの合成など、生命維持に必要な多くのプロセスに関与しています。さらに、亜鉛は、免疫系の機能や脳機能、生殖機能などにも重要な役割を果たしています。そのため、亜鉛不足は、様々な健康上の問題を引き起こす可能性があることが示唆されています。

亜鉛不足が引き起こす免疫機能低下

亜鉛は、免疫細胞の増殖や機能、抗体の生成など、免疫系に重要な役割を果たしています。亜鉛不足は、感染症の発症や悪化につながる可能性があります。一例として、亜鉛不足が引き起こす肺炎の発症リスクについて、ある研究があります。

この研究では、100人の高齢者を対象に、亜鉛の摂取量と肺炎の発症リスクの関係を調べました。その結果、亜鉛不足の高齢者は、亜鉛摂取量の多い高齢者に比べて、肺炎の発症リスクが2倍高かったことが示されました (Mocchegiani et al., 2007)。

また、亜鉛不足は、HIVや結核など、免疫系が重要な役割を果たす疾患の発症や進行を促進することが知られています (Haase and Rink, 2014)。このように、亜鉛不足が引き起こす免疫機能低下は、様々な感染症の発症や進行に影響を与える可能性があることが示唆され亜鉛不足が引き起こす代謝異常

亜鉛は、体内での炭水化物、脂質、タンパク質の代謝に関与しています。亜鉛不足は、血糖値の上昇やインスリン抵抗性の発生に関与していることが示されています。ある研究によると、亜鉛不足が引き起こすインスリン抵抗性は、膵臓のβ細胞における亜鉛不足によるものである可能性があります (Maret and Sandstead, 2006)。

さらに、亜鉛不足は、脂質代謝にも影響を与えることが報告されています。ある研究によると、亜鉛不足のラットでは、脂質の酸化が促進され、脂質過酸化物の生成が増加することが示されました (Afrin et al., 2016)。このように、亜鉛不足が引き起こす代謝異常は、様々な疾患の発症や進行に関与する可能性があることが示唆されています。

亜鉛不足が引き起こす精神・神経系の障害

亜鉛は、神経伝達物質の合成や放出、神経細胞の成長や保護など、神経系にも重要な役割を果たしています。亜鉛不足は、神経系の発育や機能に影響を与え、精神障害や神経変性疾患のリスクを増加させる可能性があることが示されています。

ある研究によると、亜鉛不足が引き起こす精神障害として、うつ病や統合失調症が挙げられます。この研究では、うつ病患者と統合失調症患者の血清中の亜鉛濃度を測定し、健常者と比較しました。その結果、うつ病患者や統合失調症患者では、血清中の亜鉛濃度が低く、亜鉛不足が精神障害の発症に関与している可能性があるこます (Maes et al., 1994)。また、亜鉛の補給がうつ病や不安障害などの精神障害の治療に有効であることが示された研究もあります (Swardfager et al., 2013)。

さらに、亜鉛不足は神経変性疾患のリスクを増加させる可能性があります。ある研究では、亜鉛不足のマウスにおいて、アルツハイマー病に関連するアミロイドβタンパク質の蓄積が増加することが示されました (Adlard et al., 2010)。また、別の研究では、亜鉛不足がパーキンソン病に関連する脳細胞死を促進することが示されました (Takeda et al., 2004)。

亜鉛不足が引き起こす免疫不全

亜鉛は、免疫系にも重要な役割を果たしています。亜鉛は、免疫細胞の増殖や分化、サイトカインの産生などに関与しています。亜鉛不足は、免疫不全を引き起こし、感染症や腫瘍のリスクを増加させる可能性があることが示されています。

ある研究では、亜鉛不足のラットにおいて、免疫細胞の数や機能が低下し、病原菌に対する免疫力が低下することが報告されています (Prasad et al., 1978)。また、亜鉛不足がマラリアや結核などの感染症の進行を促進することが示された研究もあります (Shankar and Prasad, 1998)。

さらに、亜鉛不足は、免疫系の活性酸素の生成を増加させ、細胞を損傷させることが報告されています (Haase and Rink, 2009)。このような免疫細胞の損傷は、自己免疫疾患の発症に関与する可能性があります。

亜鉛不足の原因と対策

亜鉛不足の主な原因は、食事の偏りや吸収不良症候群、慢性的下痢、嘔吐などの病気、肝臓疾患、腎臓疾患、消化器系の手術などが挙げられます。また、アルコールの過剰摂取やタバコの喫煙も、亜鉛の吸収を阻害する可能性があります。

亜鉛不足を防ぐためには、バランスの取れた食事を摂取することが重要です。亜鉛を多く含む食品には、牛肉、豚肉、鶏肉、魚介類、大豆製品、ナッツ、種実類、全粒穀物、乳製品、卵などがあります。また、亜鉛サプリメントを摂取することも考えられます。しかし、亜鉛過剰摂取による健康リスクもあるため、サプリメントの摂取には注意が必要です。

まとめ

亜鉛は、体内で多様な役割を果たしています。亜鉛不足は、多くの病気や健康リスクを引き起こす可能性があります。特に、成長期や妊娠期、高齢期、免疫機能が低下している場合などは、亜鉛摂取に注意が必要です。亜鉛不足を防ぐためには、バランスの取れた食事を摂取することが重要であり、必要に応じてサプリメントの摂取も考えられます。しかし、亜鉛過剰摂取による健康リスクもあるため、摂取には注意が必要です。

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