2025/08/12

健康講座902 RAS阻害薬とSGLT2阻害薬の併用が糖尿病と高血圧患者の腎臓と寿命を救う?

 皆さんこんにちは。

今回は、2025年7月に発表された最新の研究論文
「Effects of RAS and SGLT2 inhibitors alone or in combination on end-stage kidney disease and/or all-cause death in patients with both diabetes and hypertension」
(糖尿病と高血圧を併せ持つ患者におけるRAS阻害薬およびSGLT2阻害薬の単独または併用による末期腎疾患および全死亡への影響)
について、専門用語をわかりやすく解説しながら、優しく丁寧にご紹介していきます。


🩺この研究は何を調べたの?

糖尿病と高血圧を持っている人は、腎臓の機能が悪くなりやすく、最終的には人工透析が必要になる「末期腎疾患(End-Stage Kidney Disease: ESKD)」になるリスクが高くなります。また、心臓や血管の病気も起こりやすく、寿命にも影響してしまうことがあります。

この研究では、

  • RAS阻害薬(レニン–アンジオテンシン–アルドステロン系阻害薬)

  • SGLT2阻害薬(ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬)

という2つの薬が、「腎臓を守ったり、死亡率を下げることにどのくらい役立つのか」を調べました。

しかも今回は、「単独で使うとどうか?」「併用したらもっと良いか?」という、実臨床でとても気になるテーマです。


🧪研究の方法(Method)

韓国の**全国健康保険データベース(NHID)**を使って、

  • 2015年〜2017年の期間に

  • 2型糖尿病高血圧を持つ

  • 26万1,783人を対象に調査しました。

そして、薬の使い方で以下の4グループに分けました:

グループ 処方内容
1. 参照群 RAS阻害薬もSGLT2阻害薬も使っていない
2. SGLT2群 SGLT2阻害薬のみ
3. RAS群 RAS阻害薬のみ
4. 併用群 RAS阻害薬+SGLT2阻害薬の両方を使っている

平均して約5.38年間追跡し、以下をチェックしました:

  • 末期腎疾患(ESKD)の発症

  • 全死亡率

  • 上記の複合アウトカム(どちらかを起こした場合)


📊結果のまとめ

結果の項目 参照群と比較したハザード比(HR)
ESKD発症 併用群のみがHR 0.63(ただし統計的に有意ではない)
死亡率 併用群とSGLT2群が大きく改善(HR 0.68)
複合アウトカム 併用群が最も効果大(HR 0.68)続いてSGLT2群(HR 0.71)RAS群は小さな効果(HR 0.96)

✔️ポイント:

  • SGLT2阻害薬は単独でも死亡率を明確に下げた(HR 0.68)

  • RAS阻害薬は効果があるものの控えめ

  • SGLT2+RASの併用は最も効果が高い可能性がある


🔍各薬剤のメカニズムを簡単に解説

🧩RAS阻害薬とは?

血圧を上げたり腎臓の血管を収縮させたりするホルモン系「RAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)」をブロックする薬です。

  • ACE阻害薬(例:エナラプリル)

  • ARB(例:ロサルタン)

💡効果:血圧を下げる、尿タンパクを減らす、腎臓の負担を減らす


🧩SGLT2阻害薬とは?

腎臓で糖を尿に出す働きをする「SGLT2」というタンパク質をブロックし、尿から糖を出すことで血糖値を下げる薬です。

  • ダパグリフロジン

  • エンパグリフロジン

💡効果:血糖コントロール、体重減少、利尿作用、心臓や腎臓を守る作用も報告多数


💡この研究の意義

この研究は、実際の医療データ(リアルワールドデータ)を使って、**「どの薬の組み合わせが一番、腎臓を守り、寿命を延ばすか?」**を評価しています。

結果として、

  • SGLT2阻害薬は明確な死亡率低下

  • RAS阻害薬は控えめな効果

  • 両方使うとさらに良いかもしれない(特に複合アウトカム)

という結論に至りました。


⚠️注意点と限界

この研究にもいくつか注意点があります:

  • 観察研究であり、ランダム化比較試験ではないため、因果関係は断定できない

  • RAS阻害薬やSGLT2阻害薬の使用量や服薬継続率、用量などの詳細までは不明

  • 特定の人種・国のデータ(韓国)なので、他の地域での一般化は慎重に


🎯まとめ:何がわかったの?

ポイント 結論
SGLT2阻害薬単独 明確な死亡リスク低下(HR 0.68)
RAS阻害薬単独 効果はあるが控えめ(HR 0.96)
併用療法 最も効果的である可能性(複合アウトカムHR 0.68)
ESKD単独の抑制 併用群が最も低いHR(0.63)だが有意ではなかった
臨床的意義 糖尿病+高血圧患者にはSGLT2阻害薬を積極的に使うべき。さらにRAS阻害薬との併用が望ましい可能性あり。

📝医療者・患者さんへメッセージ

糖尿病と高血圧を持つ人は、腎臓や心臓の病気を防ぐことがとても大切です。今回の研究は、SGLT2阻害薬が命を守る効果があることを改めて示し、さらにRAS阻害薬との併用がより良い可能性があることを教えてくれました。

現場の治療では「血圧は下がってるからもうRAS阻害薬はいらないかな…」「SGLT2はまだ新しいし不安…」という声もありますが、実際の効果とエビデンスをしっかり見て判断することが求められます。




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