2025/08/17

健康講座907 「脳は糖を使わない?神経細胞のサバイバル術」

 



皆さんこんにちは。

今日は、最新の神経科学の研究から、私たちの脳が「エネルギーをどうやって使い、守っているのか?」という、とてもおもしろいテーマをお届けします。

この研究では、「神経細胞(ニューロン)」が、なぜ自らグルコース(ブドウ糖)をあまり使わないのか?なぜそのかわりに、アストロサイトという別の細胞が作った“乳酸”や“ケトン体”をエネルギーとして利用しているのか?という、脳の奥深い仕組みが明らかになりました。

これらの仕組みを理解すると、「なぜ認知症になるのか?」「なぜ糖尿病と脳の働きが関係するのか?」なども見えてきます。

では、わかりやすく一つずつ説明していきましょう。


🔵まず登場人物を整理しよう!

  • ニューロン(神経細胞)
     脳の情報を処理するメインの細胞。とてもエネルギーを使うけれど、実はエネルギー源であるグルコース(ブドウ糖)をあまり使っていない。

  • アストロサイト(星状膠細胞)
     ニューロンのサポート役。グルコースを使って“乳酸”や“ケトン体”というエネルギーをつくり、ニューロンに供給している。

  • ミトコンドリア
     細胞の“発電所”。エネルギー(ATP)を作り出す場所。でも古くなるとサビついて、細胞に悪さをする。

  • NAD⁺(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)
     体内のエネルギー産生や、細胞の修復、老化防止に関わるとても大切な物質。グルコースを分解する時に消費される。

  • ミトファジー
     サビついたミトコンドリアを分解・掃除するシステム。細胞の健康を保つ鍵。


🔶 なぜニューロンは「グルコース」を使わないのか?

私たちは、通常エネルギーをつくるために「グルコース」を使っています。たとえば筋肉や肝臓の細胞などは、グルコースをエネルギーに変えて動きます。

でも驚くことに、ニューロン(神経細胞)は、グルコースをあまり使いません。

「えっ?脳ってたくさんエネルギーが必要なんじゃないの?」と思いますよね。実際その通りで、脳は体全体のエネルギーの約20%を消費しているといわれています。

それなのに、ニューロンは“直接”グルコースをエネルギーにせず、アストロサイトが作った乳酸やケトン体を使っているのです。


🧠 脳の「エネルギー分業制」ってどういうこと?

ここが本研究の面白いポイントです。

  • アストロサイト:たくさんグルコースを取り込み、乳酸やケトン体を作ってニューロンに渡す

  • ニューロン:もらった乳酸・ケトン体でATPを作る

  • 余ったグルコースは「抗酸化」や「細胞を守る役割」に使う

つまり、グルコースは「燃料」ではなく「守りの道具」として使われているんです。

この仕組みにより、ニューロンは酸化ストレス(サビ)から自分を守り、長く元気でいられるわけです。


🔬 NAD⁺って何?なぜそんなに大切なの?

グルコースを分解する「解糖系」では、NAD⁺という物質を消費します。

このNAD⁺、実はとんでもなく重要な存在で、

  • ミトコンドリアの掃除(ミトファジー)

  • DNAの修復

  • 長寿遺伝子「サーチュイン」の活性化

などに使われます。

つまり、NAD⁺がなくなると細胞は老化し、ダメージに弱くなるのです。

だからニューロンは、自分のNAD⁺を無駄に使わないよう、グルコースを解糖系で使わず、温存しているのです。


🔥 グルコースを使いすぎるとどうなる?

研究では、グルコースを強制的にたくさん使わせた「遺伝子改変マウス」が使われました。

このマウスは、神経細胞に「Pfkfb3(グルコース代謝を促進する酵素)」を強く発現させたもので、通常よりもグルコースをエネルギー源として使うように設定されています。

結果はどうだったでしょう?

  • ミトコンドリアが傷つき、NAD⁺が減ってしまう

  • 酸化ストレスが増加

  • 記憶力や認知機能が低下

  • 肥満や代謝異常が起こる(=メタボ状態)

つまり、「神経細胞にグルコースを使わせると、逆に壊れてしまう」という結果になったのです。


💊 ではどうすれば元に戻るのか?

この研究では、NAD⁺の材料である「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」を投与することで、次のような効果が見られました。

  • 認知機能が回復

  • メタボが改善

  • ミトコンドリアの掃除(ミトファジー)が復活

つまり、NAD⁺レベルを回復させることが、脳と全身の健康を守るカギになるということが分かったのです。


🧽 ミトファジーとは?掃除をサボるとどうなる?

ミトファジーとは、壊れたミトコンドリアをリサイクルして、細胞をキレイに保つ「細胞の掃除システム」です。

これがうまくいかないと、

  • 酸化ストレスが増える

  • エネルギーが作れない

  • 細胞が炎症を起こす

  • 老化や認知症が進行する

といった、まさに“病気の根本”が起こってしまいます。

そして、ミトファジーの働きにはNAD⁺が必要。つまり、グルコースを使いすぎてNAD⁺が減ると、この掃除ができなくなってしまうのです。


🔁 アストロサイトとの協力プレー「乳酸シャトル」「ケトンシャトル」

ここまで出てきた「乳酸」と「ケトン体」は、アストロサイトがグルコースや脂肪酸から作って、ニューロンに渡してくれるエネルギーです。

  • 乳酸シャトル:アストロサイトが乳酸を放出 → ニューロンが吸収してエネルギーに

  • ケトンシャトル:アストロサイトが脂肪酸を分解 → ケトン体を生成 → ニューロンが使う

このように、脳内では「別の細胞からもらったエネルギーを使う」チームプレーが行われているのです。


🌐 ここから見えてくる未来の治療法

この研究から導かれるヒントはたくさんあります。

  • 認知症、糖尿病、うつ病などの「脳と代謝の病気」は、エネルギーの使い方の狂いから始まるかもしれない

  • NAD⁺を守ることは、老化を遅らせるかもしれない

  • 「脳にいい栄養」「NAD⁺を守るサプリ」は、ただの流行ではなく、科学的根拠がある


🌟 最後にまとめると…

✅ 神経細胞はグルコースを自分ではあまり使わず、アストロサイトにエネルギー作りを任せている
✅ その理由は、NAD⁺を守ってミトコンドリアをキレイに保つため
✅ NAD⁺が減ると、ミトファジーができなくなり、脳も体も不調になる
✅ NAD⁺を補うNMNや、乳酸・ケトン体をうまく使う仕組みが注目されている
✅ 脳と代謝のバランスを保つことが、認知症や生活習慣病の予防・治療に大切になる


このように、私たちの脳は「ただエネルギーを作る」だけではなく、「どう守るか」「どう無駄遣いしないか」という極めて賢い戦略を取っているのです。

健康の鍵は、“脳のエネルギー管理術”にあるのかもしれませんね。


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