2025/08/19

健康講座909 🩺GLP-1受容体作動薬は腎臓に優しい? ~SGLT2阻害薬やDPP-4阻害薬など他の糖尿病薬と比べた最新研究をやさしく解説~

 



皆さんこんにちは

今日は、2型糖尿病の方に使われる治療薬のひとつ「GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)」が、腎臓にどのような影響を与えるのか、という最新の研究結果についてご紹介します。

この研究は、単に「薬で血糖値が下がるか」だけではなく、「その薬を使ったことで腎臓病になりにくいのか?進行を遅らせられるのか?」を、実際の医療現場(病院やクリニック)でのデータを使って調べたものです。

🔷そもそもGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)ってなに?

GLP-1というのは、私たちの体の中で小腸から出るホルモンの名前です。食事をすると、このホルモンが出て、膵臓に「インスリンを出してね」と命令して血糖値を下げる働きをします。

このGLP-1の働きを薬で強化したのが「GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)」です。つまり「体にやさしく血糖を下げてくれるホルモンをマネした薬」と思ってください。

有名なものだと、セマグルチド(オゼンピック、リベルサス)やデュラグルチド(トルリシティ)などがあります。

さらに最近の研究では、心臓や腎臓を守る効果があるかもしれないと注目されているんです。


🔷研究の目的:現場で本当に効果あるのか?

これまでの研究は「臨床試験(=厳密に条件を決めて行う研究)」が中心でした。でも、現実の医療の現場では、患者さんの年齢も生活習慣も薬の使い方もバラバラ。

この論文では、実際の医療現場のデータ(いわゆる「リアルワールドデータ」)をもとに、「GLP-1RAを使っている人と、他の糖尿病の薬を使っている人とで、腎臓の病気になりやすさはどう違うのか?」を比べました。


🔷どうやって調べたの?

✅ データの探し方:

  • 2005年4月〜2025年1月までに発表された論文の中から、

  • 「GLP-1RAを使った人」と「他の糖尿病薬を使った人」を比べて、

  • 腎臓に関するデータがちゃんと載っているものを選びました。

具体的には、以下の4つの薬と比較しています:

比較対象の薬の種類 解説
SGLT2阻害薬(SGLT2i) 尿に糖を出すタイプの薬。心臓や腎臓を守る作用があるとされていて、最近とても注目されています。
DPP-4阻害薬(DPP4i) 日本ではよく使われるタイプの薬(例:ジャヌビア、グラクティブ)。副作用が少なく使いやすいです。
スルホニル尿素薬(SU薬) 昔からある薬で、インスリンの分泌を促進します(例:アマリール)。
基礎インスリン(Basal insulin) 1日1回、持続的に効くタイプのインスリン注射。

🔷調べた「腎臓の悪化」の指標は?

腎臓がどれくらい悪くなったかを次のような項目で判断しています:

腎臓の悪化の項目 わかりやすい説明
アルブミン尿の悪化 尿にタンパク質(アルブミン)が増えるのは、腎臓のフィルターが壊れてきたサイン。
eGFRの40%または50%低下 腎臓の働きがどれくらい落ちたかを見る「血液検査の数値」。eGFRが下がるほど悪い状態。
急性腎障害(AKI) 一時的に腎臓が悪化する、風邪や脱水などでも起こりうる状態。
腎臓が原因で入院したか 重症化して入院することがあったかどうか。
末期腎不全(ESKD) 透析が必要になるような深刻な腎不全の状態。

🔷結果:GLP-1RAは他の薬と比べてどうだった?

① SGLT2阻害薬との比較(=最新で強力な薬)

  • GLP-1RAを使った人の方が、SGLT2阻害薬を使った人に比べて、

    • AKI(急性腎障害):12%リスクが高い

    • 腎臓関連で入院:66%リスクが高い

    • eGFRが40%以上低下:40%リスクが高い

  • ただし、eGFRの50%以上低下や末期腎不全では差がありませんでした。

➡︎ 結論:SGLT2阻害薬の方が腎臓保護に強い。


② DPP-4阻害薬との比較(=日本でよく使う薬)

  • GLP-1RAを使った人の方が、

    • eGFRが50%以上低下:16%リスクが低い

    • 腎臓で入院:27%リスクが低い

    • 末期腎不全:30%リスクが低い

➡︎ 結論:GLP-1RAの方が明らかに腎臓を守る効果がある。


③ スルホニル尿素薬との比較

  • GLP-1RAの方が、腎臓に良い影響を示すデータが多数。

➡︎ 結論:昔ながらのSU薬よりも、GLP-1RAの方が腎臓にやさしい。


④ 基礎インスリンとの比較

  • GLP-1RAを使った方が「アルブミン尿(タンパク尿)の悪化」が少ない。

  • 末期腎不全については、はっきりした効果は見られませんでした。

➡︎ 結論:基礎インスリンよりは腎臓にやさしい可能性がある。


🔷全体のまとめ

比較対象 結論(腎臓への影響)
SGLT2阻害薬 GLP-1RAよりも腎臓保護作用が強い
DPP-4阻害薬 GLP-1RAの方が腎臓にやさしい
SU薬 GLP-1RAの方が有利
基礎インスリン GLP-1RAの方が良い可能性

🔶この研究の意義

この研究は「現場のデータ=リアルワールドデータ」を使って、約160万人以上のデータから比較しています。臨床試験だけでなく、実際の医療現場での傾向も見えるのが大きなポイントです。

✅ SGLT2阻害薬とGLP-1RAを併用することで、さらに効果が出る可能性もあります。

✅ DPP-4阻害薬からGLP-1RAへ切り替えることで、腎臓の悪化リスクを減らせるかもしれません。


🔷おわりに:わたしたちにできること

腎臓を守ることは、糖尿病の方にとってとても重要です。
どの薬が自分にとってベストなのかは、年齢や体の状態、他の病気によっても異なります。

大切なのは「主治医と相談して、自分に合った薬を選ぶこと」です。

今回の研究は、医師が薬を選ぶときの参考になるだけでなく、患者さん自身が「なぜこの薬を使っているのか?」を理解するうえでも、とても役立ちます。

これからも、こういった「大事な情報」をわかりやすくお届けしていきたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。



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