皆さんこんにちは。
今回は2025年7月に『Nature Metabolism』誌に掲載された最新の研究論文「**The source of dietary fat influences anti-tumour immunity in obese mice(食事性脂肪の種類が、肥満マウスにおける抗腫瘍免疫に影響を与える)」について、専門用語を丁寧に解説しながら、ご紹介します。
🔍この研究でわかったこと(ざっくりまとめ)
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肥満はがんのリスクを上げることが知られていますが、
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同じ「太る食事」でも、脂肪の種類によってがんの進行や免疫力への影響がまるで違う
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バター・ラード(豚脂)・牛脂は、がんを早く育てて免疫力を下げる
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オリーブオイル・ココナッツオイル・パーム油では、太ってもがんの進行は穏やかで、免疫も保たれる
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脂肪の種類が「血中の代謝物(アシルカルニチンなど)」に影響し、それが免疫細胞にブレーキをかける
という、とても興味深い結果が得られました。
🧪背景:肥満とがん、そして免疫
肥満になると、さまざまな種類のがん(乳がん、大腸がん、肝がんなど)のリスクが上がることがわかっています。
また、がんができたあとでも、肥満によって免疫細胞の働きが悪くなり、がんが進行しやすくなることも知られています。
しかし、今までの研究では、
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「脂肪が多い食事(高脂肪食:HFD)」が悪い
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「太ること」自体が悪い
という点には注目されていましたが、
脂肪の“種類”の違いが、がんや免疫にどのような影響を与えるのか?
については、ほとんど研究されていませんでした。
🐁研究の方法:肥満マウス+がんモデル
この研究では、以下のような実験を行いました。
✅使ったモデル
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マウス(C57BL/6系)
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B16-F10 メラノーマ(黒色腫)細胞を皮下に注射し、がんを人工的に作る
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食事はすべて「カロリー・脂肪量は同じ」だが、「脂肪の種類だけが違う」
✅比較した脂肪の種類
グループ | 使用した脂肪 | 主な特徴 |
---|---|---|
バター | 飽和脂肪酸が多く、動物性脂肪の代表格 | 酪農由来の固形脂 |
ラード(豚脂) | 飽和+一部不飽和脂肪酸 | 中華料理や揚げ物でよく使う |
牛脂(ビーフタロー) | 飽和脂肪酸中心 | ステーキや焼肉の脂身など |
ココナッツオイル | 中鎖脂肪酸が多い | 消化が早い、ケトン体に変わる脂肪 |
パーム油 | 飽和脂肪酸が多いが、バランスはよい | 加工食品に多く含まれる |
オリーブオイル | 不飽和脂肪酸(特にオレイン酸)が豊富 | 地中海食の中心 |
🔬結果①:太る量は同じでも、がんの大きさが違う!
まず、どの脂肪でもマウスは同じくらい太りました。
つまり、カロリーも体脂肪率も同じです。
ところが──
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バター・ラード・牛脂を食べたマウスは、腫瘍(がん)の大きさが明らかに大きくなり
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ココナッツオイル・パーム油・オリーブオイルでは、腫瘍の大きさが小さめ
だったのです。
つまり、「太ったからがんが進行する」のではなく、脂肪の“種類”ががんの進行を左右するということです。
🔬結果②:免疫細胞の働きにも差がある
次に、腫瘍の中にいる免疫細胞の様子を調べました。
特に重要な免疫細胞は以下の2つ:
免疫細胞 | 働き |
---|---|
CD8 T細胞(キラーT細胞) | がん細胞を直接攻撃する |
ナチュラルキラー細胞(NK細胞) | 異常な細胞を見つけて即攻撃する |
その結果…
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バターを食べたマウスは、腫瘍内のCD8 T細胞とNK細胞が少なく、機能も低下
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パーム油を食べたマウスでは、それらの細胞が腫瘍内に多く、活性も保たれていた
つまり、脂肪の種類が**腫瘍内の免疫環境(腫瘍免疫)**を大きく変えていたのです。
💥脂肪の種類が「血中の代謝物」に影響を与えていた
ではなぜ、脂肪の種類で免疫が変わったのでしょう?
血液中の「代謝産物(メタボライト)」を分析したところ、次のようなことがわかりました:
✅バターを食べたマウス
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**長鎖アシルカルニチン(long-chain acylcarnitines)**が増加
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これは、脂肪の代謝中にできる中間産物であり、免疫細胞の働きをブロックすることが知られている
✅パーム油を食べたマウス
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アシルカルニチンが少ない
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免疫細胞が元気に働いていた
つまり、
バターを食べると体内に「免疫を弱らせる脂質代謝産物」がたくさん生まれる
→ それがCD8 T細胞やNK細胞の働きを邪魔していた!
という仕組みが明らかになったのです。
🧠まとめと考察:脂肪の質が「免疫の質」を決める
この研究の最も大きなメッセージは、
「脂肪の量」ではなく「脂肪の質」が、がんの進行や免疫力を大きく左右する
という点です。
✅ポイント整理
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バター・ラード・牛脂:がん促進、免疫抑制(アシルカルニチンが増える)
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ココナッツ・パーム油・オリーブオイル:がん抑制、免疫維持(アシルカルニチン少なめ)
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同じカロリー・同じ肥満度でも、結果が大きく違う
🍽️臨床応用や人間への示唆
まだマウスの実験段階ではありますが、今回の結果は私たちの食生活にも大きな示唆を与えてくれます。
✅がんの予防や再発リスクを考えるなら…
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飽和脂肪酸たっぷりの バター・牛脂・ラードはできるだけ控えめに
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オリーブオイル・ココナッツオイルなど、比較的「代謝に優しい脂肪」を選ぶ
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食事で摂る脂質の「質」にもっと注目すべき
という考え方が広がっていくかもしれません。
✍️おわりに
この研究は、「カロリーや肥満」だけでなく、「脂肪の質」こそががんと免疫に直結しているということを明確に示しました。
肥満を避けることももちろん大切ですが、日々の脂の選び方が私たちの健康、さらにはがんの予防にも関わっているかもしれません。
普段の食事で何気なく使っている「脂」、これを機に見直してみてはいかがでしょうか?
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