2025/08/25

健康講座914 「バター vs オリーブオイル」──脂肪の種類ががん免疫に与える驚きの違いとは?肥満と腫瘍免疫の意外な関係【最新研究解説】

 皆さんこんにちは。

今回は2025年7月に『Nature Metabolism』誌に掲載された最新の研究論文「**The source of dietary fat influences anti-tumour immunity in obese mice(食事性脂肪の種類が、肥満マウスにおける抗腫瘍免疫に影響を与える)」について、専門用語を丁寧に解説しながら、ご紹介します。


🔍この研究でわかったこと(ざっくりまとめ)

  • 肥満はがんのリスクを上げることが知られていますが、

  • 同じ「太る食事」でも、脂肪の種類によってがんの進行や免疫力への影響がまるで違う

  • バター・ラード(豚脂)・牛脂は、がんを早く育てて免疫力を下げる

  • オリーブオイル・ココナッツオイル・パーム油では、太ってもがんの進行は穏やかで、免疫も保たれる

  • 脂肪の種類が「血中の代謝物(アシルカルニチンなど)」に影響し、それが免疫細胞にブレーキをかける

という、とても興味深い結果が得られました。


🧪背景:肥満とがん、そして免疫

肥満になると、さまざまな種類のがん(乳がん、大腸がん、肝がんなど)のリスクが上がることがわかっています。
また、がんができたあとでも、肥満によって免疫細胞の働きが悪くなり、がんが進行しやすくなることも知られています。

しかし、今までの研究では、

  • 「脂肪が多い食事(高脂肪食:HFD)」が悪い

  • 「太ること」自体が悪い

という点には注目されていましたが、

脂肪の“種類”の違いが、がんや免疫にどのような影響を与えるのか?

については、ほとんど研究されていませんでした。


🐁研究の方法:肥満マウス+がんモデル

この研究では、以下のような実験を行いました。

✅使ったモデル

  • マウス(C57BL/6系)

  • B16-F10 メラノーマ(黒色腫)細胞を皮下に注射し、がんを人工的に作る

  • 食事はすべて「カロリー・脂肪量は同じ」だが、「脂肪の種類だけが違う

✅比較した脂肪の種類

グループ 使用した脂肪 主な特徴
バター 飽和脂肪酸が多く、動物性脂肪の代表格 酪農由来の固形脂
ラード(豚脂) 飽和+一部不飽和脂肪酸 中華料理や揚げ物でよく使う
牛脂(ビーフタロー) 飽和脂肪酸中心 ステーキや焼肉の脂身など
ココナッツオイル 中鎖脂肪酸が多い 消化が早い、ケトン体に変わる脂肪
パーム油 飽和脂肪酸が多いが、バランスはよい 加工食品に多く含まれる
オリーブオイル 不飽和脂肪酸(特にオレイン酸)が豊富 地中海食の中心

🔬結果①:太る量は同じでも、がんの大きさが違う!

まず、どの脂肪でもマウスは同じくらい太りました
つまり、カロリーも体脂肪率も同じです。

ところが──

  • バター・ラード・牛脂を食べたマウスは、腫瘍(がん)の大きさが明らかに大きくなり

  • ココナッツオイル・パーム油・オリーブオイルでは、腫瘍の大きさが小さめ

だったのです。

つまり、「太ったからがんが進行する」のではなく、脂肪の“種類”ががんの進行を左右するということです。


🔬結果②:免疫細胞の働きにも差がある

次に、腫瘍の中にいる免疫細胞の様子を調べました。

特に重要な免疫細胞は以下の2つ:

免疫細胞 働き
CD8 T細胞(キラーT細胞) がん細胞を直接攻撃する
ナチュラルキラー細胞(NK細胞) 異常な細胞を見つけて即攻撃する

その結果…

  • バターを食べたマウスは、腫瘍内のCD8 T細胞とNK細胞が少なく、機能も低下

  • パーム油を食べたマウスでは、それらの細胞が腫瘍内に多く、活性も保たれていた

つまり、脂肪の種類が**腫瘍内の免疫環境(腫瘍免疫)**を大きく変えていたのです。


💥脂肪の種類が「血中の代謝物」に影響を与えていた

ではなぜ、脂肪の種類で免疫が変わったのでしょう?

血液中の「代謝産物(メタボライト)」を分析したところ、次のようなことがわかりました:

✅バターを食べたマウス

  • **長鎖アシルカルニチン(long-chain acylcarnitines)**が増加

  • これは、脂肪の代謝中にできる中間産物であり、免疫細胞の働きをブロックすることが知られている

✅パーム油を食べたマウス

  • アシルカルニチンが少ない

  • 免疫細胞が元気に働いていた

つまり、

バターを食べると体内に「免疫を弱らせる脂質代謝産物」がたくさん生まれる
→ それがCD8 T細胞やNK細胞の働きを邪魔していた!

という仕組みが明らかになったのです。


🧠まとめと考察:脂肪の質が「免疫の質」を決める

この研究の最も大きなメッセージは、

「脂肪の量」ではなく「脂肪の質」が、がんの進行や免疫力を大きく左右する

という点です。

✅ポイント整理

  • バター・ラード・牛脂:がん促進、免疫抑制(アシルカルニチンが増える)

  • ココナッツ・パーム油・オリーブオイル:がん抑制、免疫維持(アシルカルニチン少なめ)

  • 同じカロリー・同じ肥満度でも、結果が大きく違う


🍽️臨床応用や人間への示唆

まだマウスの実験段階ではありますが、今回の結果は私たちの食生活にも大きな示唆を与えてくれます。

✅がんの予防や再発リスクを考えるなら…

  • 飽和脂肪酸たっぷりの バター・牛脂・ラードはできるだけ控えめに

  • オリーブオイル・ココナッツオイルなど、比較的「代謝に優しい脂肪」を選ぶ

  • 食事で摂る脂質の「質」にもっと注目すべき

という考え方が広がっていくかもしれません。


✍️おわりに

この研究は、「カロリーや肥満」だけでなく、「脂肪の質」こそががんと免疫に直結しているということを明確に示しました。

肥満を避けることももちろん大切ですが、日々の脂の選び方が私たちの健康、さらにはがんの予防にも関わっているかもしれません。

普段の食事で何気なく使っている「脂」、これを機に見直してみてはいかがでしょうか?



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