インフルエンザが家族内で流行すると、よくある相談がこれです。
「家族がインフルになりました。自分はまだ熱がないけど、うつると困るので薬で予防できますか?」
結論からお伝えします。
医学的には、条件がそろえば「薬による予防(予防投与/曝露後予防)」という考え方はあります。
しかし 保険診療(健康保険)では、未発症の人に予防目的で抗インフルエンザ薬を出すことは原則認められず、自費になるのが基本です(少なくとも当院は自費対応です)。
この「医学」と「保険」のズレが、いちばん混乱しやすい点なので、丁寧に解説します。
1. 予防投与(曝露後予防)って何?
予防投与とは、まだインフルエンザを発症していない人が、
同居家族などの濃厚接触があり
近い将来の感染リスクが高い
と判断されるときに、抗インフルエンザ薬を使って**発症を抑える(発症しにくくする)**ことを指します。
ここで大事なのは、予防投与は「全員におすすめされる一般的な方法」ではなく、例外的に検討される医療行為だという点です。
2. 医学的には、予防投与には“価値がある”の?
はい、あります。ただし条件つきです。
予防投与が検討されやすい状況
代表的には次のような状況です。
家族・同居人がインフルエンザを発症し、同じ空間で過ごす時間が長い
本人が感染した場合に、重症化しやすい可能性がある
接触してから早い時期に開始できる
実際に、抗インフルエンザ薬の中には、添付文書に「予防(発症抑制)」の用法・用量が記載されている薬があります(例:ゾフルーザ、イナビル、タミフル、リレンザなど)。
たとえばゾフルーザの添付文書では、予防について「同居家族・共同生活者」や「重症化リスクが高い人」を念頭に置いた記載があり、また **“予防の基本はワクチンであり、薬はワクチンの代替ではない”**ことも明記されています。(※前回提示したPMDA添付文書PDFの内容に対応)
ただし「万能」ではありません
予防投与には限界もあります。
100%防げるわけではない
開始が遅いと効果が落ちる(薬によっては「接触後2日以内に開始」などの条件が添付文書で示されます)
副作用があり得る
乱用すると、薬が効きにくいウイルス(耐性)などの問題が起こり得る
つまり、医学的には「条件がそろえば検討する価値がある」が、「誰でも気軽に飲むもの」ではありません。
3. ここが最重要:保険診療では、未発症の予防投与は原則“自費”です
患者さんが一番知りたいのはここだと思います。
添付文書に「予防」の記載があるのに、なぜ保険が使えないの?
ポイントは次の通りです。
**添付文書(医学的に使ってよい範囲)**と
保険診療(保険で請求できる範囲)
は、必ずしも一致しません。
抗インフルエンザ薬について、支払基金・国保の審査上の整理では、抗インフルエンザ薬は「発症後の治療目的」に使用した場合に限り算定できる**という扱いが明確に示されています。
同資料では、少なくとも「インフルエンザ疑い」への投与が原則認められないことも示されており、未発症の“予防目的”は保険算定になじまない(=通りにくい)という運用の土台があります。
よくある誤解:「糖尿病や高齢なら保険で予防できる?」
これは誤解です。
糖尿病がある
高齢である
心臓や肺の病気がある
家族がインフル陽性だった
これらは医学的には「感染すると重症化しやすいので予防投与を検討してよい条件」になり得ます。
しかし、保険診療としては別問題で、
本人がまだ発症していない(=治療ではない)
場合、原則として保険は使えず、自費になります。
4. まとめ:当院での考え方(患者さん向けの結論)
ここまでを一文でまとめると、こうなります。
抗インフルエンザ薬には「予防投与」という使い方が添付文書上存在しますが、保険診療では抗インフルエンザ薬は基本的に“発症後の治療”として扱われます。そのため、まだ症状が出ていない方への予防目的の投与は、糖尿病や高齢などの持病があっても、原則として自費になります。
5. 予防投与を検討する場合、何を確認して決めるの?
自費で予防投与を検討する場合でも、次の点を一緒に確認してから決めます。
接触状況:同居/同室/長時間接触か
時期:接触後どれくらい早いか(薬によって早期開始が重要)
重症化リスク:年齢、持病、妊娠、免疫状態など
副作用と注意点:体質・既往歴・併用薬
費用:保険ではなく自費になること
そして最終的に、薬を使う・使わないに関わらず、予防として一番基本になるのは
ワクチン
マスク、換気、手洗い
家庭内隔離(可能な範囲で寝室や食事を分ける)
体調変化があれば早めに受診(発症したら治療は保険で行える)
です。
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