2026/02/14

健康講座963 「インスリンを増やさず血糖が下がる? ラウリン酸×トリプトファンが示した“腸からの血糖制御”」

 



① アブストラクト和訳(日本語)

目的/仮説

健康な男性において、ラウリン酸(C12)およびL-トリプトファン(Trp)を、それぞれ単独では効果を示さない低用量(1.26 kJ/分および0.42 kJ/分)で十二指腸内投与すると、両者を併用した場合にのみ、GLP-1およびコレシストキニン(CCK)が刺激されることが知られている。これらのホルモンは胃排出を遅らせ、摂取エネルギーを抑制し、食後血糖を低下させる。
本研究では、2型糖尿病患者においても、C12とTrpの併用投与が食後血糖を低下させるかを検証した。

方法

本研究は、無作為化・二重盲検・クロスオーバー試験として、University of Adelaide 臨床研究施設で実施された。
対象は2型糖尿病男性11名(年齢69±7歳、HbA1c 6.8±0.3%、BMI 28±1 kg/m²)。
被験者は4回に分けて以下のいずれかを45分間、十二指腸内投与された。

  • ラウリン酸(C12)

  • L-トリプトファン(Trp)

  • C12+Trp併用

  • 生理食塩水(対照)

その30分後に、500 kcal・炭水化物74 gを含む混合栄養飲料を摂取した。
血糖、GLP-1、GIP、インスリン、Cペプチド、CCKを測定し、胃排出速度は¹³C-アセテート呼気試験で評価した。

結果

  • C12+Trp併用のみ

    • 食後血糖の総和およびピーク値を有意に低下させた

  • 単独投与(C12のみ、Trpのみ)では効果なし

  • C12+Trpは

    • 胃排出を有意に遅延

    • 食前のGLP-1、GIP、CCKを上昇

    • インスリン、Cペプチドには影響なし

  • 食後のホルモン反応には差はみられなかった

結論

2型糖尿病において、十二指腸内C12+Trp投与は、主に胃排出遅延を介して食後血糖を低下させる
この作用はGLP-1およびCCKによって媒介されている可能性が高く、栄養素を用いた消化管戦略が血糖管理に有用であることを示唆する。


② 解説(臨床的に重要なポイント)

この研究の「核心」はここです

👉 インスリンを増やさずに血糖が下がった

  • インスリン・Cペプチドは変化なし

  • 血糖低下の主因は
    「胃排出速度の低下」+「消化管ホルモン」

つまりこれは、

GLP-1作動薬の“薬理”ではなく、“生理”を使った研究

です。


なぜ「併用」でないと効かないのか?

  • C12(脂肪酸) → CCK刺激

  • Trp(アミノ酸) → GLP-1刺激

ただし 単独では閾値未満
同時刺激で初めてL細胞・I細胞が反応

これは
「腸は“混合栄養”に最も強く反応する」
という生理学の再確認でもあります。


胃排出速度が血糖を決める

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③ 「GLP-1は薬だけじゃない」

〜ラウリン酸×トリプトファンが示した“腸から血糖を下げる”新戦略〜

皆さんこんにちは。
今日は、Diabetologia に2025年12月に掲載された、非常に興味深い論文を解説します。

結論を先に言うと、この研究はこう言っています。

「インスリンを増やさなくても、
胃の動きを変えるだけで血糖は下げられる」


GLP-1時代の“次の一手”

現在の糖尿病治療は、

  • GLP-1受容体作動薬

  • GIP/GLP-1デュアル作動薬

が主役です。

しかし一方で、

  • 吐き気

  • 食欲不振

  • 高コスト
    という問題もあります。

では、
「薬を使わず、体の仕組みそのものを使えないか?」

それに真正面から挑んだのが、この研究です。


研究デザインが示す「本気度」

この研究は:

  • 無作為化

  • 二重盲検

  • クロスオーバー

という、薬剤試験レベルの厳密さで行われています。

しかも注目すべきは、

👉 十二指腸内投与

つまり、

  • 嗜好

  • 食欲

といった心理的要因を完全に排除しています。

純粋に
「腸がどう反応するか」だけを見ている
極めて生理学的な実験です。


なぜ「ラウリン酸」と「トリプトファン」?

  • ラウリン酸(C12)

    • ココナッツオイルに多い中鎖脂肪酸

    • CCKを刺激

  • トリプトファン

    • 必須アミノ酸

    • セロトニン・GLP-1分泌に関与

ポイントは 「どちらも単独では効かない量」

これは臨床的にも重要で、

腸は“単一栄養”では動かない

という事実を示しています。


結果は非常にシンプル

✔ 血糖は下がった
✔ インスリンは増えていない
✔ 胃排出は遅くなった

つまり、

血糖コントロール =
インスリン × 胃排出速度

この後者を操作した研究です。


臨床的に何が変わるのか?

この研究が示唆するのは、

  • 食事の「量」より

  • 食事の「質」より

👉 食事の「腸への届き方」

将来的には、

  • 食事前栄養介入

  • 特定アミノ酸+脂肪酸配合

  • 医療食品・機能性食品

といった形に発展する可能性があります。


ただし限界もある

正直に言うと:

  • 被験者は11名

  • 男性のみ

  • 急性試験

👉 長期効果は不明
👉 実生活で再現できるかは未確定

しかしそれでも、

「腸を標的にする」という方向性

は極めて明確です。


まとめ

この研究はこう教えてくれます。

  • 血糖は「膵臓」だけで決まらない

  • 「腸」と「胃」は強力な血糖調節装置

  • GLP-1は薬だけのものではない

食後高血糖に悩むすべての人に、
“別の選択肢”を示した論文
だと言えるでしょう。



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