2026/08/03

健康講座1036 許すことは本当に心と健康に良いのか?

 



― 23か国・20万人を追跡した最新研究が示す「Forgiveness」の科学 ―

皆さんこんにちは。

人間関係の中で、誰でも一度は「傷つけられた経験」があると思います。
裏切り、誤解、失礼な言葉、信頼の崩壊…。

そうした出来事のあとに私たちはしばしば

  • 怒り

  • 恨み

  • 憎しみ

  • 復讐心

といった感情を抱きます。

しかし心理学では昔から

「人を許すこと(forgiveness)」は心の健康に良い

と言われてきました。

ではこれは本当に科学的に正しいのでしょうか?

今回は2026年に npj Mental Health Research に掲載された、
約20万人を対象にした巨大研究をもとに、

「許す力と幸福の関係」

をわかりやすく解説します。


研究の概要

この研究は世界規模の幸福研究プロジェクト

Global Flourishing Study

のデータを使っています。

研究の規模は非常に大きく、

  • 23か国

  • 約207,000人

という大規模データです。

研究者はまず参加者に

「あなたは普段どれくらい人を許しますか?」

という質問を行いました。

そして 約1年後

次のような幸福指標を測定しました。

  • 心理的幸福

  • 人間関係

  • 健康

  • 人生の意味

  • 経済状況

など 56種類のウェルビーイング指標です。

つまりこの研究は

「許す性格の人は1年後に幸せになりやすいのか」

を調べた 縦断研究(longitudinal study) です。


専門用語の解説

Dispositional Forgivingness(気質的赦し)

この研究で重要な概念です。

これは

「普段から人を許しやすい性格」

を意味します。

一度だけ誰かを許したという話ではなく

  • 怒りを長く引きずらない

  • 恨みを持ち続けない

  • 相手の事情を理解しようとする

といった

人格特性(personality trait)

を指します。


Well-being(ウェルビーイング)

この研究では幸福を

5つの領域

で評価しています。

① 心理的幸福
幸福感、人生満足度、ポジティブ感情

② 社会的幸福
人間関係、孤独感、社会参加

③ 身体的健康
健康状態、睡眠、生活習慣

④ 意志的幸福
人生の意味、目的、自己成長

⑤ 物質的幸福
収入、経済的安定

つまり

「人生の豊かさ」を多角的に評価

しています。


なぜ許しが健康に関係するのか

心理学では

ストレス対処理論(stress-coping theory)

という考え方があります。

人間関係で傷つくと、

人は

  • 怒り

  • 憎しみ

  • 敵意

  • 復讐衝動

を抱きます。

これを心理学では

Unforgiveness(非赦し)

と呼びます。

この状態は

慢性的ストレス

と同じです。


恨みが続くと何が起きるか

怒りや恨みは脳の中で

反芻思考(Rumination)

を生みます。

これは

「嫌な出来事を何度も頭の中で再生する状態」

です。

この状態が続くと

  • ストレスホルモン増加

  • 不安

  • うつ

  • 睡眠障害

などが起きやすくなります。

つまり

許さないことは心理的負担になる

可能性があります。


研究結果

では実際に

許す人は幸せになるのでしょうか?

研究の結果は次の通りでした。


① 許す人は幸福度が少し高い

許す傾向が強い人ほど

1年後の幸福度が高い傾向

が見られました。

特に関連が強かったのは

  • 心理的幸福

  • 人生満足度

  • 人間関係

です。


② ただし効果は大きくない

研究者は

「効果の大きさは小さい」

と結論づけています。

つまり

許すだけで

人生が劇的に変わる

わけではありません。


③ 身体健康への影響は弱い

興味深いことに

身体的健康への影響は

かなり小さい

結果でした。

つまり

許すだけで

  • 病気が減る

  • 長生きする

というほどの影響は

確認されませんでした。


なぜ効果が小さいのか

理由は単純です。

幸福は

多くの要因で決まる

からです。

例えば

  • 健康

  • 家族

  • 収入

  • 性格

  • 社会関係

などです。

許しはその中の

1つの要素

に過ぎません。


許すことと和解は違う

ここで重要なポイントがあります。

心理学では

許し ≠ 和解

です。

例えば

  • DV

  • ハラスメント

  • 虐待

などでは

距離を取ることが重要

です。

許すことは

必ずしも

関係を続けること

ではありません。


許しの本当の意味

心理学での許しとは

怒りの感情から自分を解放すること

です。

恨みを持ち続けると

一番疲れるのは

自分の脳

です。

許しは

相手のためではなく

自分のため

でもあります。


許しやすい人の特徴

研究では

許す傾向のある人には

次の特徴があります。

  • 共感力が高い

  • 感情コントロールが上手

  • 人間関係が良い

  • 自己肯定感が高い

つまり

心の余裕

がある人ほど

許しやすい傾向があります。


人生の視点から見る「赦し」

赦しは

心理学だけでなく

哲学や宗教でも

重要なテーマです。

なぜかというと

怒りは人を消耗させる

からです。

怒りを抱え続けると

人生のエネルギーが

そこに奪われます。

許しは

そのエネルギーを

取り戻す行為とも言えます。


まとめ

今回の巨大研究から分かったこと

① 許す人は幸福度が少し高い

② 特に心理的幸福と人間関係に関連

③ 身体健康への影響は小さい

④ 無理に許す必要はない

⑤ 許しは自分の心を守る行為



人間関係の傷は避けられません。

しかし

その出来事を一生背負うか、
少し手放すか

は私たち自身が選ぶことができます。

今回の研究は

「許しは魔法ではないが、
人生の幸福を少しだけ助けてくれる」

という

とても現実的な科学的結論を示しています。

ロゴ決定

ロゴ決定 小川糖尿病内科クリニック

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