小川糖尿病内科クリニック院長小川義隆です。
妊娠糖尿病に関して有名なHAPO(Hyperglycemia and adverse pregnancy outcomes)研究というものがあります。この結果を受けてIADPSG (International Association of Diabetes and Pregnancy Study Groups)は妊娠糖尿病(GDM)診断基準を2010年に発表しました。
わが国においてもその発表を受けて、ただちに日本糖尿病学会、日本産科婦人科学会および日本糖尿病・妊娠学会がそれに基づいた診断基準を発表した。診断基準そのものは3学会で同一であったが微妙な文言の差異があったために現場に少なからぬ混乱を生じたが、2015年に統一見解が発表されました。
GDMの診断基準は
75gOGTTにおいて
(1)空腹時血糖値92mg/dL以上
(2)1時間値180mg/dL以上
(3)2時間値153mg/dL以上
のいずれか1点を満たした場合
(ただし妊娠中の明らかな糖尿病[overt diabetes in pregnancy]は除く)。
HAPO研究におけるprimary outcomesは児の出生時体重が90パーセンタイル以上、初回帝王切開率、新生児低血糖、臍帯血C-ペプチドが90パーセンタイル以上であったが、IADPSGでの協議を経てHAPOでのコントロール群(全例を7群に分けた際に最も血糖値の低いカテゴリー)と比較してprimary outcomesのオッズ比が1.75倍になる血糖値(92-180-153)がカットオフ値として採用された。このことからわかるように新診断基準は出生児の合併症の減少を目的として採択され、この基準によるGDMの診断が母親のその後の糖代謝異常とどのように関連するかは不明であった。
以前からGDMの母親が健常人と比較してその後に糖代謝異常を発症しやすいことは知られていた。HAPO研究に参加した母児を対象として、GDMと診断された患者のその後の糖代謝異常(2型糖尿病および前糖尿病[prediabetes])および児の肥満(childhood adiposity)の発症を平均11.4年間にわたり追跡した。
その結果、糖代謝異常の発症は非GDMに対してオッズ比[OR]:3.44で有意に増加していた。児の肥満は母親の妊娠中のBMIに影響されるので、それで調整するとOR:1.21、リスク差は3.7%で有意な増加は認められなかった。
日本産科婦人科学会の検討では、新診断基準採用により、わが国のGDM頻度は全妊婦に75gOGTTを実施した場合には、以前の診断基準による2.92%から12.08%へと4.1倍に急増するとされている。母児の周産期合併症を予防するために妊娠中の血糖管理を適切に実施することはもとより重要であるが、GDM妊婦はその後の糖代謝異常発症のハイリスクグループであることを再認識して診療する必要がある。
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