2021/12/22

健康講座419 災害高血圧と透析導入

みなさんどうもこんにちは。


小川糖尿病内科クリニックでございます。


 東日本大震災の被災地では、高血圧関連腎症による透析導入が有意に増加していたことをが報告されました。一方で、糖尿病性腎症は震災の前後ともに最も多いことや、他の腎疾患による透析導入件数には有意な変化がないことも分かりました。

 大規模災害発生後には種々のストレスにより、被災者の血圧が上昇することや、脳心血管イベントリスクが高まる可能性が指摘されています。しかしながら末期腎不全への進行は長時間を要し、さらにさまざまな生活習慣や疾患が関与するため、その影響に関する報告はあまりありません。東日本大震災前後の透析導入件数の推移を後方視的に検討してみました。

 研究の対象は、気仙沼市立病院で2007~2020年に外来透析治療を受けた全ての患者296人。この数値は同院での透析導入患者と、避難先などの他院で導入後に気仙沼に戻り同院で維持透析を受けた患者の合計であり、外来透析に移行できない患者は除外されているとのことです。なお、同院は気仙沼市内で維持透析が可能な唯一の医療機関で、近隣の他の透析施設とは数十km離れているようです。

 解析対象者の平均年齢は69.1±12.4歳、女性が30.7%であり、透析導入件数は東日本大震災前が81人、震災後が215人だったとのことです。

 まず、透析導入の原疾患にかかわらず全ての透析導入件数の推移を見ると、震災前の2007年から震災後の2015年まではほぼ変化がないものの、震災5年後の2016年に大幅に増加していました。その後2019年までは透析導入件数の多い状態が継続し、2020年に震災前の水準に戻っていたようです。この一過性の増加は、被災により気仙沼の人口が減少したにもかかわらず、透析導入件数が増加したとのことです。

 次に、透析導入の原疾患を、糖尿病性腎症、腎硬化症を含む高血圧関連腎症、糸球体腎炎、その他の4群に分類した上で、その割合の震災前後での変化を検討しました。すると、糖尿病性腎症は震災前が48.1%で震災後は34.9%、高血圧関連腎症は同順に16.0%、33.5%、糸球体腎炎は21.0%、17.2%、その他は14.8%、14.4%であり、高血圧関連腎症の割合のみが顕著に増加していたのです。なお、この研究における高血圧関連腎症とは、高血圧のみに長期間罹患し、末期腎不全に緩徐に進行する過程で検尿異常がなく、タンパク尿がごくわずかな症例と便宜的に定義しているようです。

 高血圧関連腎症に関しては震災が有意な関連因子として抽出され、震災前に対してオッズ比2.523だったようです。

 これらの検討結果から、東日本大震災の5年後から認められた透析導入件数の増加は、高血圧関連腎症の増加によって生じたと考えられました。

 大規模災害後の高血圧関連腎症による透析導入件数の増加の背景として、災害に関連するストレスは交感神経系を亢進させ、高血圧の発症や血圧管理不良のリスクとなり、また避難生活ではナトリウム摂取量が増加しやすく、『災害高血圧』と呼ばれる状態を惹起するようです。参考までに。

原著

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