2022/05/13

健康講座491 現代におけるSU剤の位置

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

 最近、新薬が次々でており、処方数が減ったSU薬。低血糖を来しやすい、血糖変動が大きくなるなどで、いまや悪者扱いされている感もあります。かつては、経口薬といえばSU薬(BG薬はあったもののほとんど使われなかった)、注射剤といえばインスリン(それも速効型と中間型の2種類しかない)、などという時代がありました。

今回は、SU薬をテーマにしてみたいとおもいます。敢えてね。最近ではこの薬剤をほとんど使用しなくなりました。

SU薬は、スルホンアミド系抗菌薬を研究していた際に、実験動物が低血糖を示したことで発見されたという面白い経緯を持つようです。1957年に誕生し、第一~三世代に分けられ、現在使用されているのは第二世代のグリベンクラミドとグリクラジド、第三世代のグリメピリドであります。血糖非依存性のインスリン分泌促進薬で、作用機序は膵臓のβ細胞にあるSU受容体と結合してATP依存性K+チャネルを遮断し、細胞膜に脱分極を起こして電位依存性Ca2+チャネルを開口させ、細胞内Ca2+濃度を上昇させてインスリン分泌を促進するのです。

血糖降下作用は強力だが、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬と違い、血糖非依存性のため低血糖には注意が必要で、日本糖尿病学会の治療ガイドには、使用上の注意として(1)高齢者では低血糖のリスクが高いため少量から投与を開始する、(2)腎機能や肝機能障害の進行した患者では低血糖の危険性が増大する、と記載されています。この2点に気を付けていただければ、コストパフォーマンス的には、それなりに良好な薬剤かとも思われます。

例えばですよ

79歳男性。罹病歴24年の2型糖尿病で、併存疾患は高血圧、脂質異常症、および肺気腫。三大合併症は腎症2期、他はなし。α-GI薬から開始し、その後グリニド薬に変更したが、14年前からSU薬+α-GI(グリメピリド1mg+ボグリボース0.9mg/日)に変更。体重も大きな増減なく標準体重を維持し、HbA1cは6%台前半で低血糖症状もなく、経過は良好であった。

そこで、朝食後2時間値70~80mg/dLが時折見られることから無自覚低血糖の可能性も加味し、後期高齢者になったのを機にグリメピリドを1mgから0.5mgに減量したところ、HbA1cがなんと1%も悪化してしまいましたた。

この患者には肺病変があるのでもともと積極的な運動はできず、HbA1cの季節性変動もない。また、食事量も変わりなく体重変化もないため、SU薬の減量がもっともらしい原因として考えられた。よって、慌てて元の量に戻したなんてケースもあるかもしれません。

このような「よくある日本人糖尿病」で、非肥満のインスリン分泌が少し低いケースがままあります。

新しい経口糖尿病治療薬は、血糖降下作用のみならず大血管障害などに対し少なくとも非劣性であることが必要なのですが、最近の薬剤はむしろ大血管障害や腎症に対しても優越性を持つ薬剤が出てきています。さらには、血糖依存性で低血糖が起こりにくく、高齢者にも使用しやすいです。そのとおりなのですが、エビデンスでいうとSU薬も実は負けてはいないのです。

ネットワークメタ解析を用いて、2型糖尿病患者における左室拡張能を左室心筋重量(LVM)に対する血糖降下薬の効果で評価した結果、SU薬グリクラジドはプラセボと比較してLVMを有意に低下させた唯一の薬剤だったのです(なお、この時SGLT2阻害薬は文献不足により解析対象外)。

左室拡張能の関連因子として、酸化ストレス、炎症性サイトカイン、脂肪毒性、インスリン抵抗性、凝固因子などが挙げられるが、なかでも線溶系活性を制御する凝固因子PAI-1(Plasminogen Activator Inhibitor-1)の血中濃度上昇は、血栓生成の促進、心筋線維化、心筋肥大、動脈硬化の促進および心血管疾患の発症と関連し、2型糖尿病患者では易血栓傾向に傾いていることが知られているようです。

このPAI-1に着目し、2型糖尿病患者におけるSU薬の血中PAI-1濃度への影響をネットワークメタ解析で比較検討したところ、グリクラジドはほかのSU薬に比して血中PAI-1濃度を低下させたようです2)

これは、ADVANCE研究においてグリクラジドが投与された全治療強化群では心血管疾患の発症が少なかったことや、ACCORD研究においてグリクラジド以外の薬剤が投与された治療強化群での心血管疾患発症抑制効果は見られなかったことなど、大規模試験の結果でも裏付けられると思います。

また、Real-Worldデータでは、SU薬単剤またはメトホルミンとの併用療法はメトホルミン単独療法に比べて突然死が少なく、さらにグリメピリドよりグリクラジドのほうが少ないという報告3)や、nationwide studyでは、SU薬単剤はメトホルミンと比較して死亡リスクや心血管リスクを増加させるが、グリクラジドはほかのSU薬より少ないという報告4)もあるのです。

以上より、SU薬のドラッグエフェクトによる違いについては留意した方がよいです。SU薬は血糖降下作用が強力で安価なため、世界各国では2番目の治療薬として少量から用いられており、わが国でも、やせ型の2型糖尿病患者の2~3剤目として専門医に限らず多く処方されているようです。

要するにですよ、SU薬の使用時は単剤で用いるよりは併用するほうが望ましく、少量で使用することにより安全で確実な効果が発揮できる薬剤だということです。また、高齢者糖尿病が激増している中で、本来ならインスリンが望ましいが、手技的な問題や家庭状況により導入が難しい例、あるいは厳格なコントロールまでは必要ないインスリン分泌の少ない例などは良い適応かと考えられます。さらに、とても安価であるのです。武器は、使い方ですので、使用者次第で良くも悪くもなります。


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