2022/08/01

健康講座526 ミトコンドリア病

みなさんどうもこんにちは。

小川糖尿病内科クリニックでございます。

今回は、マニアックな内容となります。我慢できる方のみ読み進めて頂ければ幸いです。

ミトコンドリア病についての内容となります。

 ミトコンドリア病は、ヒトのエネルギー代謝の中核として働く細胞内小器官ミトコンドリアの機能不全により、十分なATPを生成できずに種々の症状を呈する症候群の総称であるのです。ミトコンドリアの機能不全を来す病因として、電子伝達系酵素、それを修飾する核遺伝子群、ピルビン酸代謝、TCAサイクル関連代謝、脂肪酸代謝、核酸代謝、コエンザイムQ10代謝、ATP転送系、フリーラジカルのスカベンジャー機構、栄養不良による補酵素の欠乏、薬物・毒物による中毒などが挙げられるのでございます。

 ミトコンドリア病の有病率は、小児においては10万人当たり5~15人、成人ではミトコンドリアDNA異常症は10万人当たり9.6人、核DNA異常症は10万人当たり2.9人と推計されているようです1)。一方、ミトコンドリア脳筋症(MELAS)で報告されたミトコンドリアDNAのA3243G変異の保因者は、健常人口10万人当たり236人という報告があり2)、少なくとも出生10万人当たり20人がミトコンドリア病と推計されているようです。

 ミトコンドリアは、真核細胞のエネルギー産生を担うのみではなく、脂質、ステロイド、鉄および鉄・硫黄クラスターの合成・代謝などの細胞内代謝やアポトーシス・カルシウムシグナリングなどの細胞応答など、多彩な機能を持つものであり、核と異なる独自のDNA(ミトコンドリアDNA:mtDNA)を持っています。

 ミトコンドリア病の分類があります。ミトコンドリア病の分類は、I 臨床病型による分類、II 生化学的分類、III 遺伝子異常による分類の3種に分かれています。それぞれ、オーバーラップすることが知られているが、歴史的にこの分類が現在も使用されているのです。


    • これらの疾患は、臨床試験で効果が証明された薬物治療は、いまだ存在しないのです。2012年に発表されたわが国のコホート研究では、一番症例数の多いMELASは、発症して平均7年で死亡しています。また、その内訳は、小児型MELASで発症後平均6年、成人型MELASでは発症後平均10年で死亡しているのです。そのほか、小児期に発症するLeigh脳症では、明確な疫学研究はないものの、発症年齢が低ければ低いほど早期に死亡することが知られています。いずれにしても、慢性進行性に経過する難病で、多くは寝たきりとなり、心不全、腎不全、多臓器不全に至り死亡する重篤な疾患であります。

これらの疾患は、代謝性アシドーシスもよくみられる所見であり、アニオンギャップが20以上開大すれば、アシドーシスの存在を疑うことが重要と言われております。乳酸とピルビン酸のモル比(L/P比)が15以上(正常では10)、ケトン体比(3-hydroxybutyrate/acetoacetate:正常では33))が正常より増加していれば、1次的な欠損がミトコンドリアマトリックスの酸化還元電位の異常と推測できるようです。

頭部単純CT検査では、脳の萎縮や大脳基底核の両側対称性石灰化などが判明することが多く、その場合、代謝性アシドーシスの存在を疑う根拠となります。

頭部MRI検査では、脳卒中様発作を起こす病型であれば、T1で低吸収域、T2、Flairで高吸収域の異常所見がみられます。


最も診断に有用な特殊検査は、筋生検であります。筋病理では、Gomori trichrome変法染色で、増生した異常ミトコンドリアが赤ぼろ線維(RRF:ragged-red fiber)として確認でき、ミトコンドリアを特異的に染色するコハク酸脱水素酵素(SDH)の活性染色でも濃染する。RRFがなくても、チトクロームC酸化酵素(COX)染色で染色性を欠く線維やSDHの活性染色で動脈壁の濃染(SSV:SDH reactive vessels)を認めた場合、本症を疑う根拠となるようです。


従来、乳酸・ピルビン酸がミトコンドリア病のバイオマーカーとして用いられてきました。しかし、これらは常に高値とは限らず、血液では正常でも、髄液で高値をとる場合も多いようです。そこで、最近、バイオマーカー「GDF15」というのが出て参りました。このマーカーは、感度、特異度ともに98%と、あらゆるMELASの診断に現在最も有用と考えられているものです3)従来用いられていた乳酸、ピルビン酸、L/P比、CKと比較しても、最も臨床的に有用であり、GDF15は髄液にも反映しており、この点で髄液には分泌されないFGF21に比較して、より有用性が高いとのことです。


本症に対する薬物治療の開発は、多くの国で臨床試験として行われているが、2018年2月1日時点で、臨床試験で有効性を証明された薬剤は世界に存在しないのが現実です。欧州では、Leber遺伝性視神経萎縮症に対して限定的にidebenone(商品名:Raxone)が、米国では余命3ヵ月と宣告されたLeigh脳症に対するvatiquinone(EPI-743)がcompassionate useとして使用されているようです。わが国では、MELASに対して、脳卒中様発作時のL-アルギニン(同:アルギU)の静注および発作緩解期の内服が、MELASの生存予後を大きく改善しており、適応症の申請を準備しているとのことです。


本症は臨床的に非常に多様性を有し、発症年齢も小児から成人、罹患臓器も神経、筋、循環器、腎臓、内分泌など広範にわたる。

診療科としては、小児科、小児神経科、神経内科、循環器内科、腎臓内科、耳鼻咽喉科、眼科、精神科、老年科、リハビリテーション科など多岐にわたり、最終的には療養、療育施設やリハビリ施設の紹介も必要となる。

個人的な、備忘録的な内容で恐縮です。



  • 1)Gorman GS, et al. Ann Neurol. 2015;77:753-759.
  • 2)Manwaring N, et al. Mitochondrion. 2007;7:230-233.
  • 3)Yatsuga S, et al. Ann Neurol. 2015;78:814-823.
  • 4)Gorman GS, et al. Nat Rev Dis Primers. 2016;2:16080.

0 件のコメント:

コメントを投稿

ロゴ決定

ロゴ決定 小川糖尿病内科クリニック

皆さま、こんにちは。 当院のロゴが決定いたしました。 可愛らしいうさぎをモチーフとして、小さなお花をあしらいました。 また、周りは院長の名字である「小川」の「O(オー)」で囲っております。 同時に、世界糖尿病デーのシンボルであるブルーサークルを 意識したロゴとなって...