2025/07/06

健康講座874 「1型糖尿病の未来を変える!発症からインスリン枯渇までのスピードを“見える化”する日本発の最前線研究」

 皆さんこんにちは。

今日は、日本で初めて実施された画期的な研究「TIDE-J研究」をご紹介しながら、1型糖尿病の発症からインスリンが完全に枯渇するまでの経過や、その速度を左右する遺伝子や臨床的な要因について、できるだけわかりやすく丁寧に解説していきます。



🔍1型糖尿病ってどんな病気?

まず基本から確認しましょう。

1型糖尿病とは、膵臓(すいぞう)にある「β細胞(ベータさいぼう)」が壊されてしまい、インスリンという血糖値を下げるホルモンがほとんど分泌できなくなる病気です。これは自己免疫という、自分の体の免疫が自分の細胞を攻撃してしまう反応によって起こると考えられています。

2型糖尿病は生活習慣の影響が大きいのに対し、1型糖尿病は体質や免疫の異常が原因です。そのため、年齢や体型に関係なく発症することがあり、特に若年層に多いことが知られています。


🧬今回の研究のすごいところ

2025年6月に医学雑誌『Diabetes Care』に掲載された論文
"Rapid and Slow Progressors Toward β-Cell Depletion and Their Predictors in Type 1 Diabetes: Prospective Longitudinal Study in Japanese Type 1 Diabetes (TIDE-J)"
(DOI: 10.2337/dc25-0942)は、日本国内の1型糖尿病の実態を14年間にわたって詳細に追跡した非常に価値の高い研究です。

この研究を行ったのは、近畿大学医学部、国立国際医療研究センター、そして日本糖尿病学会の専門家たち。
日本初の大規模前向きコホート研究「TIDE-J」を通じて、1型糖尿病の発症からインスリン分泌が完全に枯渇するまでのスピードや、その過程に関わる遺伝子や臨床的特徴を世界で初めて明らかにしました。


🧩どうやって調べたの?

2010年11月〜2023年9月の間に、発症から5年以内の1型糖尿病患者314人を対象に調査されました。内訳は以下の通りです:

  • 急性発症型:165人

  • 緩徐進行型:105人

  • 劇症型:44人

これらの患者さんについて、次のようなデータが収集されました:

  • 身長・体重・年齢・性別

  • 空腹時血糖やHbA1c(ヘモグロビンA1c)

  • 血清Cペプチド(インスリン分泌の指標)

  • 膵島自己抗体(GAD抗体、IA-2抗体、ZnT8抗体など)

  • 甲状腺機能や自己抗体

  • インスリン治療内容

  • HLA遺伝子型(免疫に関わる遺伝子)


⏳インスリン枯渇までのスピードに個人差がある!

研究結果の中で特に注目すべきは、1型糖尿病の進行スピードには大きな個人差があるということです。

たとえば、「急性発症型」の患者では、発症から10年以内にインスリンが完全に枯渇する人が全体の約70%にのぼることがわかりました。

しかし、実際には次の3タイプに分かれていたのです:

  1. 急速に枯渇する人

  2. ゆっくり枯渇していく人

  3. 中間型の人

つまり、「急性発症型」という一つの分類の中にも、進行速度に幅があったのです。


🧬インスリン枯渇のスピードに影響を与えるものとは?

研究チームは、どのような要因が進行速度に影響を与えているのかを多変量解析で検討しました。

その結果、以下の要因がインスリン分泌の低下速度と強く関係していることが判明しました:

  • HLA遺伝子型:免疫に関わる遺伝子で、自己免疫の暴走と関係が深い

  • BMI(体格指数):やせ型の人は進行が早い傾向

  • GAD抗体の有無:陽性だと進行が早まる場合がある

これにより、「この人は急速に進行しそうだ」「この人は比較的ゆっくり進行するかも」といった予測が可能になってきたのです。


🧭欧米と何が違うのか?

日本人の1型糖尿病は欧米人とは異なる特徴を示すことも確認されました。

たとえば、欧米では発症後もインスリンが何十年も残っているケースが多い一方で、日本人は発症から10年以内にインスリン分泌が枯渇するケースが非常に多いという結果が出ています。

これは人種や民族による違い、すなわち「膵β細胞の脆弱性」が関係していると考えられています。


🧪HLA遺伝子って何?

HLA(Human Leukocyte Antigen)とは、「ヒト白血球型抗原」と呼ばれる免疫に関わる遺伝子のグループです。
このHLA遺伝子には多くの型があり、特定の型を持つ人は自己免疫疾患になりやすい傾向があります。

1型糖尿病では「HLA-DR3」や「HLA-DR4」などの型が関連するとされており、今回の研究でもこれらの型が進行速度に影響を与えていることが示されました。


💡なぜこの研究が大切なのか?

この研究の成果により、次のようなことが期待されます:

  • ✅ サブタイプ・遺伝子・抗体の組み合わせで病態進行を予測できる

  • ✅ 将来的な合併症のリスクを早期に把握できる

  • ✅ インスリン分泌を保つための早期治療・予防ができる

  • ✅ 治療戦略(免疫療法など)を最適に選択できる

たとえば、将来1型糖尿病になりそうな人に、免疫を調整する薬を使って発症を遅らせたり、進行を緩やかにすることも現実味を帯びてきました。


🌱未来への可能性

米国では、1型糖尿病の発症を予防・遅延させるための免疫療法薬が承認され始めています。
日本でも、今回のような詳細なデータが整備されることで、同様の早期介入が期待されるようになってきました。

TIDE-J研究は今後も継続され、日本人の1型糖尿病の個別最適治療に向けた道筋をつけてくれるでしょう。


✍️最後に

1型糖尿病は、いまだ根本治療が確立されていない疾患ですが、こうした長期かつ丁寧な研究によって、その進行の多様性が少しずつ明らかになってきました。

病気の進行を「見える化」できれば、私たちはもっと早く、もっと正確に治療の道を選べるようになります。

皆さんの大切な体と人生を守るためにも、こうした研究が広く知られ、活かされていくことを願ってやみません。


📚参考文献・出典

  • 能宗伸輔ら. Rapid and Slow Progressors Toward β-Cell Depletion and Their Predictors in Type 1 Diabetes: Prospective Longitudinal Study in Japanese Type 1 Diabetes (TIDE-J). Diabetes Care. 2025年6月13日オンライン掲載. DOI: 10.2337/dc25-0942

  • 近畿大学医学部ニュースリリース(2025年6月16日)

  • 国立国際医療研究センター TIDE-J プロジェクト紹介資料

  • 日本糖尿病学会「1型糖尿病に関する委員会」資料


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