みなさんこんにちは。
今日は、1型糖尿病の新しい治療法として注目されている「iPS細胞から作った膵島(すいとう)細胞の移植」について、わかりやすく丁寧に解説していきます。専門用語もできるだけ噛み砕いて説明しますので、安心して読み進めてくださいね。
◆1型糖尿病とは?
まず、1型糖尿病についておさらいしておきましょう。
私たちの体には「インスリン」というホルモンがあり、これは血液中の糖(グルコース)を細胞に取り込ませて、血糖値を下げる役割を担っています。このインスリンは、膵臓(すいぞう)の中にある「膵島(すいとう)」と呼ばれる部分にある「β細胞(ベータさいぼう)」という細胞から分泌されます。
ところが、1型糖尿病の人は、このβ細胞が自己免疫の異常などで破壊されてしまい、自分の力ではインスリンを作れなくなります。そのため、血糖値を正常に保つためには、一生にわたってインスリンを注射などで外から補い続けなければいけません。これを「インスリン依存状態」といいます。
◆治療のカギは「膵島(すいとう)」
ここで登場するのが「膵島」です。
膵島とは、インスリンなどのホルモンを作り出す細胞の集まりのことです。これを再び体に取り戻せば、インスリンを分泌する力がよみがえり、インスリン注射に頼らなくても良くなる可能性があります。
その治療法が「膵島移植(すいとういしょく)」です。
この方法では、臓器提供者(ドナー)から提供された膵臓から膵島だけを取り出し、患者さんに移植します。日本でも2020年から保険適用されましたが、ドナーの数が非常に少ないため、1年間で数例しか行えていないのが現状です。
◆iPS細胞とは?
そこで登場するのが「iPS細胞(アイピーエスさいぼう)」です。
iPS細胞とは、体の皮膚や血液などの細胞に特殊な処理を施して、いったん「初期化」した万能細胞のこと。正式には「人工多能性幹細胞(じんこうたのうせいかんさいぼう)」といいます。
このiPS細胞のすごいところは、そこからいろいろな種類の細胞に変化させられることです。つまり、うまく誘導すれば、膵島のようなインスリンを出す細胞を作ることも可能なのです。
この技術は、京都大学の山中伸弥教授が2007年に世界で初めて成功させたことで知られています。
◆iPICとは何か?
iPS細胞から作った膵島のことを「iPIC(アイピック)」と呼びます。これは「iPS cell-derived islet-like Clusters(iPS細胞由来の膵島様細胞の集まり)」の略称です。
このiPICを体の中に移植すると、インスリンを作る細胞として働くようになり、血糖値の上がり下がりに応じてインスリンを分泌してくれるようになるのです。
つまり、1型糖尿病の人でも、インスリンを打たなくても血糖値を自然にコントロールできる可能性があるということです。
◆京都大学が治験をスタート
京都大学医学部附属病院は、2025年1月からこのiPICを使った新しい治療法の治験(ちけん)を始めると発表しました。
治験とは、新しい薬や治療法の効果や安全性を確かめるために行う臨床試験のことです。今回は「医師主導治験(いししゅどうちけん)」といって、製薬会社ではなく医師や研究機関が主体となって行う治験です。
この治験では、iPS細胞から作られた膵島様細胞を「シート状」にして、患者さんのおなかの皮膚の下に移植する方法が採用されます。
なぜシート状にするのかというと、注射のように注入するよりも安定して体内に定着しやすく、効果が持続しやすいためと考えられています。
◆どんな患者さんが対象?
この治験に参加できるのは、以下のような人たちです:
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すでにインスリンを体の中でまったく作れなくなっている(内因性インスリン分泌が完全に消失している)
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高度な医療を受けても血糖の上下が激しく、管理が困難な人
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「ブリットルタイプ」と呼ばれる、血糖が不安定で無自覚低血糖を起こしやすいタイプの患者さん
このような重症の1型糖尿病患者にとって、新しい治療法は希望の光となる可能性があります。
◆すでに海外では成功例も!
このiPS細胞を使った治療は、日本だけでなく海外でも進められています。
中国の研究チーム(北京大学・南開大学など)は、患者本人の細胞から作ったiPS細胞を使って膵島細胞を作り、それを1型糖尿病の患者に移植することに成功しました。
その患者は25歳の女性で、2023年6月に30分ほどの手術で、おなかの中に約150万個分の膵島を移植されました。
すると2ヵ月半後には、体の中でインスリンが自然に分泌されるようになり、それ以降は1年以上にわたってインスリンを一切投与しなくても血糖値が安定しているとのことです。
この女性は、1日のうち98%以上の時間を目標とする血糖値の範囲内で過ごしており、これまで悩まされていた血糖値の急な変動もなくなったと報告されています。
◆ただし、注意点もある
とはいえ、この治療法はまだ研究段階です。
今のところは、たった1人の患者でうまくいったというだけで、他の人にも同じように効果があるかはまだ分かっていません。また、長期間にわたって安全であり続けるかどうかも、これからの研究で確かめる必要があります。
専門家たちは「この研究は非常に興味深く、今後に大きな可能性を秘めているが、もっと多くの患者で、もっと長い期間で、同じ成果が再現できるかどうかを慎重に見ていく必要がある」と述べています。
◆日本の未来に向けて
今回、京都大学が進めるこの治験では、武田薬品工業と共同で研究されてきた「T-CiRA(ティー・サイラ)」というプログラムの成果が活かされています。
このプログラムで開発されたiPICは、大量に安定して培養できる点が強みで、将来的にはドナー不足に悩むことなく、必要な患者に必要な膵島を届けられる可能性があります。
◆まとめ:1型糖尿病は治る時代へ?
●これまで:
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1型糖尿病はインスリン注射が必須
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血糖の管理が非常に難しい人も多い
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膵島移植もあるが、ドナー不足が深刻
●これから:
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iPS細胞で膵島を作り、移植することで
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インスリンを自然に分泌できる可能性
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日本でも治験が始まり、希望が広がる
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
この研究が進み、多くの1型糖尿病患者の方々にとって、新たな選択肢と希望の光になることを願っています。
「インスリンを打たない未来」が、もうすぐ現実になるかもしれませんね。
良いね!と思ったらぜひ、周りの方にもシェアしてください。
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