皆さんこんにちは。
今日は、2025年6月に発表された最新の医学研究をご紹介しつつ、2型糖尿病と腎臓の関係について、特に「アルブミン尿(たんぱく尿の一種)」がまだ出ていない「正常範囲」での異常が、どれほど重要なサインになり得るのか、じっくりわかりやすくお話ししていきます。難しい医学用語もできる限り丁寧に説明しますので、ぜひ最後までお付き合いください。
◆この研究で分かったことを一言でいうと?
「たんぱく尿が出ていない人でも、腎機能が落ちていると死亡リスクが高くなる。そして、たんぱく尿が正常範囲の人の中でも、数値が高めなだけで、将来のリスクが上がるかもしれない」という重要な内容です。
◆そもそも「アルブミン尿」ってなに?
まず「アルブミン」とは、血液中にあるタンパク質の一種で、体の水分を保つ役割などがあります。健康な腎臓は、このアルブミンを血液中にとどめて、尿に出さないようになっています。
しかし、腎臓に障害が出始めると、このアルブミンが尿に漏れ出してしまいます。これを「アルブミン尿(またはたんぱく尿)」と呼びます。
アルブミン尿の分類:
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正常(normoalbuminuria):30mg/日未満
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微量(マイクロアルブミン尿):30〜300mg/日
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高度(マクロアルブミン尿):300mg/日以上
今回の研究では、特に**「正常範囲内」**であっても、数値の違いがリスクと関係しているのでは?という点に注目したのです。
◆「eGFR」とは?なぜ重要?
腎機能を評価する指標のひとつに「eGFR(推算糸球体濾過量)」があります。
腎臓は、血液から老廃物をろ過する「糸球体(しきゅうたい)」という構造を使って働いています。このeGFRは、年齢・性別・血清クレアチニン値などから計算して「腎臓が1分間にどれだけ血液をきれいにできるか」を示します。
健康な人では90以上ありますが、60未満だと「慢性腎臓病(CKD)」とされ、特に45以下ではリスクがかなり高くなります。
◆研究の背景と目的
この研究は、イタリアで行われた「RIACEコホート研究」という大規模な多施設研究の一部です。2006〜2008年の間に集めた2型糖尿病患者15,773人のデータを追跡し、最長約9年間、誰がいつ亡くなったのか、どのような腎機能だったのかを分析しました。
この研究で注目したのは以下の4つの分類です:
| グループ名 | アルブミン尿 | 腎機能(eGFR) |
|---|---|---|
| A: Alb–/eGFR– | 正常 | 正常(≧60) |
| B: Alb+/eGFR– | 高い | 正常(≧60) |
| C: Alb–/eGFR+ | 正常 | 低下(<60) |
| D: Alb+/eGFR+ | 高い | 低下(<60) |
この中で最も健康と考えられるのが「A」。
そして「C」はたんぱく尿が出ていないのに腎機能が低下している、つまり「非アルブミン尿性の腎障害(non-albuminuric DKD)」というパターンです。
◆結果:死亡リスクはどうだったか?
Aグループを基準とした死亡リスク(ハザード比)を見てみると…
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B(たんぱく尿だけ):1.45倍
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C(腎機能低下だけ):1.58倍
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D(両方あり):2.08倍
ここで注目すべきなのは、たんぱく尿が出ていなくても腎機能が落ちているだけでリスクが上がっていたという事実です。そして、さらに驚きなのが、アルブミン尿の範囲が正常であっても「その中で少し高い方」の人の死亡率が高かったという点です。
つまり、「正常」だからといって油断してはいけないというわけです。
◆eGFRがとても低いとき(45未満)はどうなる?
eGFRが45未満の場合、たとえアルブミン尿が「正常範囲」であっても、実際には「マイクロアルブミン尿(軽度のたんぱく尿)」と同じぐらい死亡リスクが上がっていました。
これも非常に重要な知見です。
◆どんな人がリスクが高かったのか?
この研究では「RECPAM(再帰的分割分析)」という手法で、どんな特徴の人がよりリスクが高くなるのかも解析しました。
その結果:
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過去に心臓の病気(心筋梗塞や狭心症など)をした人
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HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い人
が特にリスクが高いことが分かりました。
また、「たんぱく尿あり」の人たちは、血糖値が高かったり、目の病気(糖尿病網膜症)があったりと、糖尿病による細かい血管の障害(微小血管障害)が強く関係していることも確認されました。
一方、「たんぱく尿がないけど腎機能が落ちている人」は、そういった典型的な糖尿病の合併症はあまり見られず、腎臓のろ過機能の変化そのものがリスクに関係していました。
◆この研究の意義
これまで、糖尿病による腎障害(糖尿病性腎症、DKD)は「まずアルブミン尿(たんぱく尿)が出る」→「その後、eGFRが落ちる」という順序で進行すると考えられていました。
しかし今回の研究で、
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「たんぱく尿が出ていなくても、eGFRが落ちていればリスクが上がる」
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「アルブミン尿が正常でも、範囲内で高めなだけでリスクがある」
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「eGFRがとても低い人では、微量なたんぱく尿だけで大きなリスクがある」
という新しい知見が得られました。
◆わたしたちができることは?
この研究からわかるように、2型糖尿病の人は、たんぱく尿が出ていなくても油断してはいけません。以下のようなチェックとケアがとても大切です:
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定期的にeGFRを確認する
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たんぱく尿の値が正常でも、増えていないか確認
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心臓病やコレステロールの管理も忘れずに
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血糖値の管理に加えて、血圧や脂質の管理も万全に
また、医療者側も「たんぱく尿がないから大丈夫」とせず、eGFR低下のサインを見逃さない体制が必要だといえるでしょう。
◆さいごに
この研究は、2型糖尿病における腎機能評価の考え方に一石を投じる重要な報告です。腎臓の健康は「見た目」ではわかりにくく、たんぱく尿も出ていないからと安心していると、知らないうちにリスクが積み上がっている可能性があります。
医師と患者さんが一緒になって、たんぱく尿だけでなくeGFRの低下にも注目し、早めの対策を取っていくことが大切です。
「まだ出ていない」ではなく「今のうちに気づく」こと。
これが、長く健康でいられるための一歩です。
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