皆さんこんにちは。
今回は、「妊娠中の甲状腺のホルモンバランスと、妊娠糖尿病(GDM)との関係」について、世界中の研究データを集めて調べた最新の医学論文をご紹介します。
ちょっと難しそうに聞こえるかもしれませんが、大丈夫です。なるべくわかりやすく、かみ砕いてお話ししていきますね。
妊娠中って、体の中で何が起きてるの?
妊娠すると、体は赤ちゃんを育てるためにフル稼働します。ホルモンのバランスも大きく変わります。
そんな中でも、重要な役割を果たすのが次の2つのホルモン系です:
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甲状腺ホルモン(FT4やFT3):体の新陳代謝やエネルギーを調整してくれるホルモン。
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血糖をコントロールするホルモン(インスリンなど):妊娠中はインスリンの効きが悪くなるので、血糖値が上がりやすくなります。
このバランスが崩れると、妊娠糖尿病(GDM)という状態になることがあります。妊婦さんの10〜15人に1人くらいがなると言われています。
この研究でわかったことは?
この研究では、世界中の6万人以上の妊婦さんのデータを集めて、「甲状腺ホルモンや抗体の状態と、妊娠糖尿病が関係あるか?」をくわしく調べました。
その結果、次のようなことが分かりました。
✅ 結果①:FT4(ふりーT4)が低いと、妊娠糖尿病になりやすい
FT4(遊離サイロキシン)というのは、甲状腺ホルモンのひとつで、体の代謝を整えてくれる大事なホルモンです。
このFT4の値が低い人は、妊娠糖尿病になるリスクが高いことがわかりました。
とくに、**FT4だけが低い「isolated hypothyroxinaemia(アイソレーテッド・ハイポサイロキシネミア)」**というタイプの妊婦さんでは、GDMのリスクがかなり高くなっていました。
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正常な人ではGDM発症率が3.5%
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FT4が低い人では6.5%
つまり、ほぼ2倍のリスクということです。
✅ 結果②:FT3(ふりーT3)が高くてもリスクが上がる
もう一つの甲状腺ホルモン、**FT3(遊離トリヨードサイロニン)**は、FT4から変化してできるホルモンで、代謝をより活発にする作用があります。
このFT3が高すぎる人でも、妊娠糖尿病のリスクが少し上がる傾向が見られました。
また、**FT3とFT4の比率(FT3/FT4比)**が高すぎる人も、リスクが上がるという結果でした。
つまり、
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FT4が低すぎる
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FT3が高すぎる
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このバランスが崩れている
こうした場合に、血糖のコントロールがうまくいかず、GDMになりやすくなるということがわかってきました。
❌ 結果③:TSHや自己抗体は関係なかった
よく検査でチェックされる**TSH(甲状腺刺激ホルモン)**や、
TPO抗体、Tg抗体といった自己免疫を示す抗体の有無については、
「GDMとの関係は見られなかった」とのことです。
つまり、「抗体が陽性だからGDMになりやすい」といったことは、この研究では確認されませんでした。
また、**潜在性甲状腺機能低下症(TSHが高くてFT4は正常)**の人も、GDMのリスクとは関係ありませんでした。
🩺この結果から何が言えるの?
これまで、妊娠糖尿病のリスクについては「甲状腺の自己抗体があると危ないかも」「TSHが高いとリスク?」など色々言われてきました。
でも今回の大規模な研究で、「ポイントはFT4の低さと、FT3とのバランス」ということがハッキリしてきました。
つまり、
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妊婦健診でFT4が低いときは、「血糖にも気をつけよう」というサインかもしれません。
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逆に、TSHや抗体だけでは判断しにくいこともある。
💊治療との関係は?
妊娠中にFT4が低いと診断された場合、**レボチロキシン(チラーヂンS)**という薬で補うことがあります。
この研究結果は、
「チラーヂンの治療を見直した方がいいかも」
「血糖のことも考えて治療の目標値を考えるべき」
という考え方を後押しするものになっています。
ただし、「チラーヂンを飲んだらGDMが防げるか?」まではまだわかっていません。今後の研究が待たれます。
📌まとめ
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妊娠中にFT4が低いと、GDMのリスクが高いことが分かりました。
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FT3が高い、またはFT3/FT4の比が高いときも、注意が必要です。
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逆に、TSHや抗体が陽性でも、GDMとの関係は明確ではありません。
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今後、甲状腺治療と血糖管理のバランスを見直す動きが進むかもしれません。
🧑⚕️最後にひとこと
妊婦健診では血糖や甲状腺のチェックが大事です。
もし「FT4が低いですね」と言われたら、「血糖は大丈夫かな?」という視点も持ってみてくださいね。
これから赤ちゃんを迎える方、そのご家族、医療関係者のみなさんにとって、少しでも参考になれば幸いです。
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