2025/07/21

健康講座889 🧬 「テロメアは伸びる?縮む?――2型糖尿病と“細胞の寿命”の意外な関係」 副題:〜フリーマントル研究が明かす、テロメアと合併症・死亡リスクの真実〜

 

みなさんこんにちは。

今日は、2025年に発表されたとても興味深い医学研究をご紹介します。

タイトルは
「2型糖尿病におけるテロメア長の経時的変化の決定因子と、それが慢性合併症および死亡リスクとどう関係しているか」
です(Fremantle Diabetes Study Phase II:略してFDS2)。


🔬まず、そもそも「テロメア」とは?

**テロメア(telomere)**とは、染色体の端っこにある「DNAの繰り返し配列」で、いわば細胞の“寿命の目安”のようなものです。

細胞が分裂するたびに、このテロメアはだんだん短くなっていきます。そして、ある一定の長さ以下になると、細胞はもう分裂できなくなり「老化」や「死」を迎えます。

だから、テロメアの長さ(rTL = 相対テロメア長)は、私たちの「生物学的な年齢(実年齢ではなく、細胞がどれくらい老けてるか)」を知る手がかりになるのです。


🤔 研究の背景:テロメアと糖尿病って関係あるの?

実は、2型糖尿病の人は、同じ年齢の健康な人に比べてテロメアが短いことがわかっています。

これは、「糖尿病=早く老ける病気」とも言えるのかもしれません。

糖尿病では、酸化ストレス(細胞を傷つけるサビのようなもの)や慢性的な炎症が強くなりやすく、これがテロメアを短くする原因になるのでは?と言われています。


🧪 研究の目的:今回の研究では何を調べたの?

オーストラリア・フリーマントルで行われたこの大規模な研究では、

  1. テロメア長は4年間でどう変化するのか?

  2. その変化と、糖尿病の合併症や死亡リスクに関係はあるのか?

を調べました。


🧍‍♂️ 対象者:誰が参加したの?

研究に参加したのは、オーストラリア・西オーストラリア州のフリーマントル地域で生活する 2型糖尿病患者819人です。
彼らは、2008〜2011年に最初の検査(ベースライン)を受け、その約4年後にも再度テロメアを測定しています。


🧫 テロメア長の測定方法(難しそうだけど安心して)

テロメアは血液中の白血球のDNAから測定されました。qPCR(定量PCR)という技術を使い、**「テロメアの長さ ÷ 正常な比較サンプル」**という形で「相対テロメア長(rTL)」を計算しています。

そして、**4年間の変化量(ΔrTL)**を次のように分類しました:

  • Shortened(短くなった):年あたり2.69%以上の短縮

  • Unchanged(変わらなかった):±2.69%以内の変動

  • Lengthened(長くなった):年あたり2.69%以上の伸び

ちなみに、2.69%という数字は、この測定方法での「誤差の範囲」を表しており、それ以上の変化は本当に意味のある変化と考えられています。


📊 主な結果とその解説

🔻 テロメアはみんな短くなるわけではなかった!

  • テロメアが短くなった人:25.5%

  • 変わらなかった人:10.5%

  • 逆に長くなった人:64.0%

意外ですよね?
「年を取ればテロメアは短くなる」と思われがちですが、実は64%の人でテロメアが延びていたのです。

これは、生活習慣の改善や、ある種の薬(例:スタチン、ARB、カルシウム拮抗薬など)が、テロメアを保護した可能性があるとも考えられます。


🧓 テロメア短縮と関係があった因子(統計的に意味があったもの)

  • 年齢が高い

  • 男性

  • 喫煙

  • 肥満

  • 脂質改善薬の使用(スタチンなど)

  • 血小板数が多い

  • ビリルビン値が高い

これらの特徴を持つ人は、テロメアが短くなる傾向がありました。


😥 でも……テロメアの長さや変化と「合併症・死亡リスク」は?

  • テロメアの長さ(rTL)や、その変化(ΔrTL)は、合併症(網膜症・腎症・神経障害・心筋梗塞・脳卒中など)や死亡リスクとは関係なかったという結果でした。

  • 一部、**「テロメアが長くなった人は、心血管死が少なかった」**という弱い関連もありましたが、年齢や性別などの他の因子を加味すると、その関連は消えてしまいました


🧠 どうしてそんな結果になったのか?考察

この研究では、

  • 2型糖尿病の人のテロメアは「動的(伸びることもある)」

  • でも、それが直接、合併症や死亡のリスクとはつながっていない

ということが示されました。

テロメアの変化は、糖尿病や加齢だけでなく、

  • 遺伝的要因

  • ストレスや睡眠、食生活

  • 治療薬の影響

  • 炎症や酸化ストレスの状態

など、多くの要因に影響されるため、「テロメアだけでは予後は予測できない」という結論になったと考えられます。


🩺 この研究の意義とまとめ

✔️ テロメア長は一方向に短くなるだけではなく、伸びることもある
✔️ その変化は、年齢や生活習慣・薬剤の影響を受ける
✔️ しかし、現時点では糖尿病患者の合併症や死亡を予測するのに使える「決定的な指標」ではない


📝 結論:現場の医療にどう活かせる?

今のところ、「糖尿病患者のテロメアを測っても、合併症のリスクを予測するには役立たない」と言えます。

でも、これは「意味がない」ではなく、「まだわからないことが多い」という意味でもあります。
今後、さらにライフスタイルや薬の影響などを詳細に検討し、「誰がテロメアを保ちやすいのか」などを突き止めれば、将来の予防や治療に活かされる可能性は十分あります。


📚 最後に:専門用語まとめ

用語 やさしい説明
テロメア 染色体の先端にあるDNAのフタ。細胞の寿命を示す。
rTL(相対テロメア長) テロメア長を基準サンプルと比べた値。
ΔrTL テロメア長の4年間での変化率。年ごとに何%伸びた/縮んだか。
qPCR DNAを増幅して量を測る実験方法。
HbA1c 過去1〜2ヶ月の血糖の平均を示す指標。
uACR 尿中のアルブミン/クレアチニン比。腎臓の健康を示す。
MACE 心血管イベントの複合指標(心筋梗塞・脳卒中・心血管死)。



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