2026/01/30

健康講座951 甲状腺治療の“わずかなズレ”が血圧を動かす ― レボチロキシン最適化と心血管リスクの静かな関係 ―



レボチロキシン治療の「ズレ」が血圧と血圧変動性を静かに悪化させる

― 甲状腺機能低下症治療における“最適化”の重要性 ―


はじめに

甲状腺ホルモンは、心臓や血管の働きを支える重要なホルモンである。
甲状腺機能低下症では、このホルモンが不足するため、合成T4製剤である**レボチロキシン(LT4)**による補充療法が標準治療として行われている。

日常診療では「TSHが基準範囲に入っているかどうか」が治療評価の中心になるが、
TSHがどれくらいの“期間”基準範囲を外れていたかという視点は、これまであまり重視されてこなかった。

本研究は、

  • TSHが高すぎる期間(補充不足)

  • TSHが低すぎる期間(補充過剰)

これらが血圧および**血圧変動性(BPV)**にどのような影響を与えるのかを、2200人以上の縦断データを用いて検討したものである。


研究のポイントを一言で

レボチロキシン治療が最適でない期間が長いほど、血圧と血圧変動性はわずかだが確実に上昇する。
しかもそれは、不足でも過剰でも同じだった。


研究デザインの概要(かんたく)

  • 対象:LT4治療中の成人 2203人

  • 観察方法:長期間の診療データを解析

  • 評価した指標

    • 年間平均収縮期血圧(SBP)

    • 年間平均拡張期血圧(DBP)

    • 診察ごとの血圧変動性(BPV)

TSHの評価方法が特徴的

  • TAR(Time Above Range)
    → TSHが4.5 mIU/Lを超えていた期間の割合(補充不足)

  • TBR(Time Below Range)
    → TSHが0.4 mIU/L未満だった期間の割合(補充過剰)

「ある時のTSH」ではなく、
**“どれくらいの時間ズレていたか”**を評価している点がこの研究の肝である。


主な結果①:平均血圧への影響

TSHが高すぎる期間(TAR)が長い場合

  • TARが100%増えると

    • 収縮期血圧:+1.8 mmHg

    • 拡張期血圧:+1.0 mmHg

TSHが低すぎる期間(TBR)が長い場合

  • TBRが100%増えると

    • 収縮期血圧:+2.7 mmHg

    • 拡張期血圧:+1.3 mmHg

ポイント
血圧上昇は、

  • 甲状腺ホルモン不足でも

  • 甲状腺ホルモン過剰でも

どちらでも起こっていた。

つまり、
👉 「ちょうどよくない状態」が続くこと自体が問題
という結果である。


主な結果②:血圧変動性(BPV)

血圧変動性とは、診察ごとに血圧がどれくらいブレるかを示す指標で、
近年、心血管イベント(脳卒中・心筋梗塞など)の独立したリスク因子として注目されている。

  • TAR 100%
    → 拡張期BPV +0.67 mmHg

  • TBR 100%
    → 拡張期BPV +0.85 mmHg

数値自体は小さいが、
**「ホルモン治療のズレが血管の不安定さに影響する」**ことを示す重要な所見である。

Image

Image

Image


なぜTSHのズレで血圧が上がるのか

① 補充不足(TSH高値)

  • 末梢血管抵抗の増加

  • 動脈のしなやかさ低下

  • 腎でのナトリウム貯留

→ 特に拡張期血圧が上がりやすい

② 補充過剰(TSH低値)

  • 心拍数増加

  • 交感神経活性化

  • 動脈スティフネス上昇

収縮期血圧・血圧変動性が上がりやすい

不足と過剰でメカニズムは異なるが、
どちらも血圧には悪影響を及ぼす。


この研究が教えてくれる臨床的メッセージ

1. TSHは「一瞬」ではなく「時間」で見る

  • 1回のTSHが正常でも安心できない

  • どれくらいの期間、目標範囲に保てているかが重要

2. 「少し低めなら元気」は必ずしも安全ではない

  • TSHを下げすぎることは

    • 動悸

    • 骨粗鬆症

    • そして血圧上昇

につながる可能性がある。

3. 高血圧患者では特に注意

  • 甲状腺治療のわずかなズレが

  • 血圧管理を難しくしている可能性がある


結論

レボチロキシン治療において、
TSHが目標範囲を外れている期間が長いほど、

  • 平均血圧は上昇し

  • 血圧変動性も増加する

ことが明らかになった。

この血圧と血圧変動性の変化は、
**「甲状腺治療が最適でないこと」と「心血管疾患リスク」**をつなぐ
重要な中間因子である可能性が高い。


まとめ(超要点)

  • 甲状腺ホルモン補充は「多すぎても少なすぎてもダメ」

  • TSH管理は“点”ではなく“線”で考える

  • 血圧が安定しない患者では甲状腺治療の質を疑う

  • 最適化されたLT4治療は、心血管予防の一部である


0 件のコメント:

コメントを投稿

ロゴ決定

ロゴ決定 小川糖尿病内科クリニック

皆さま、こんにちは。 当院のロゴが決定いたしました。 可愛らしいうさぎをモチーフとして、小さなお花をあしらいました。 また、周りは院長の名字である「小川」の「O(オー)」で囲っております。 同時に、世界糖尿病デーのシンボルであるブルーサークルを 意識したロゴとなって...