2026/02/10

健康講座958 糖尿病はなぜ心臓病の予後を悪くするのか? ― suPARが示した「慢性炎症・免疫の乱れ」という本当の理由 ―




はじめに

2型糖尿病(Type 2 Diabetes:T2D)があると、冠動脈疾患(Coronary Artery Disease:CAD、いわゆる心臓の血管の病気)の予後が悪くなることは、以前からよく知られています。
しかし臨床現場では、

  • 血糖値(HbA1c)をしっかり下げている

  • LDLコレステロールや血圧も管理できている

  • それでもなぜか心筋梗塞や死亡リスクが高い

という「説明しきれない余剰リスク」を感じることが少なくありません。

2026年1月に Diabetes Care に掲載された本研究は、この疑問に対して
**「慢性炎症・免疫の乱れ」**という視点から、非常に説得力のある答えを提示しました。


研究のポイント(結論)

糖尿病が冠動脈疾患の予後を悪化させる影響の50%以上は、
suPARという炎症・免疫マーカーを介して説明できる可能性がある。
一方、従来よく使われてきたhs-CRPでは、その影響は説明できなかった。


用語解説

冠動脈疾患(CAD)

心臓を養う血管(冠動脈)が動脈硬化によって狭くなったり詰まったりする病気。狭心症や心筋梗塞を含む。

2型糖尿病(T2D)

インスリンの効きが悪くなり、血糖値が慢性的に高くなる病気。血糖だけでなく血管・免疫・炎症にも影響する。

suPAR

suPAR = soluble Urokinase Plasminogen Activator Receptor
免疫細胞表面の受容体(uPAR)が血液中に溶け出した形。
慢性的な炎症や免疫の活性化状態を反映する血液マーカー

hs-CRP

肝臓で作られる炎症マーカー。急性炎症を強く反映しやすい。


研究デザイン

  • 対象:Emory Cardiovascular Biobank 登録患者 4,324名

  • 平均年齢:64歳、女性36%

  • 2型糖尿病あり:31.8%

  • 追跡期間:中央値6.9年

  • 測定:suPAR、hs-CRP

  • 評価アウトカム:

    1. 心血管死亡

    2. 心筋梗塞+心血管死亡

    3. 全死亡


主な結果

suPARは糖尿病で高値

  • 糖尿病あり:中央値 3,260 pg/mL

  • 糖尿病なし:中央値 2,792 pg/mL

糖尿病は心血管死亡リスクを上昇

  • 調整後ハザード比:1.38(約38%増)

suPARで調整すると影響が弱まる

  • suPARを考慮すると、糖尿病による心血管死亡リスク上昇は有意でなくなる

hs-CRPでは説明できない

  • hs-CRPを用いた解析では、糖尿病の余剰リスクは説明できなかった


媒介(mediation)の考え方

原因(糖尿病)が、途中の因子(suPAR)を通じて、結果(死亡・心筋梗塞)に影響する経路を分解して評価する方法。

本研究では、
糖尿病による悪影響の50%以上が suPAR を介して説明可能と推定された。


臨床的示唆

  • 糖尿病の心血管リスクは、血糖そのものだけでなく
    慢性炎症・免疫の乱れが大きく関与している可能性が高い

  • CRPが低くても安心とは限らない

  • suPARは将来的なリスク評価や治療標的候補となりうる


研究の限界

  • 観察研究であり因果関係は断定できない

  • suPARを下げる治療で予後が改善するかは未検証

  • 現時点では臨床応用は研究段階


まとめ

糖尿病が心臓病の予後を悪化させる理由の多くは、
血糖値そのものよりも、体内で続く慢性炎症と免疫の乱れにあり、
それを反映する指標として suPAR が重要である可能性が示された。

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