



はじめに:
「歯が痛い」は、実は糖尿病のサインかもしれない
糖尿病(Diabetes mellitus)は、血糖値が高いだけの病気ではありません。
全身の血管・免疫・炎症・修復能力に影響を与える全身性疾患です。
そして近年、注目されているのが
**「糖尿病が歯の神経(歯髄:dental pulp)に与える影響」**です。
今回解説する論文は、
Impact of diabetes mellitus on dental pulp tissue pathosis – A scoping review
(2025年、オープンアクセス)
👉 糖尿病が歯髄にどのような病的変化を起こすのかを
30本の研究(ヒト13・動物17)から体系的にまとめたレビューです。
1. 歯髄とは何か?なぜ重要なのか
歯髄(dental pulp)の役割
歯髄は、歯の中心にある神経・血管・免疫細胞の集合体です。
主な役割は:
🩸 栄養供給(血管)
🔥 炎症応答(免疫)
🦷 修復・再生(象牙芽細胞)
⚡ 痛みの感知(神経)
つまり歯髄は
**「歯の生命維持装置」**とも言える存在です。
2. 糖尿病が歯髄に与える3つの破壊的影響
このスコーピングレビューで明確になったのは、
糖尿病が歯髄に対して 3つの主要な病理変化 を引き起こすことです。
① 慢性炎症の暴走(Inflammation)


● 炎症性サイトカインの増加
糖尿病患者の歯髄では:
IL-1β
TNF-α
IL-6
などの炎症性サイトカインが有意に増加していました。
👉 本来、炎症は「治すため」の反応ですが
糖尿病では 炎症が止まらない。
● 抗酸化力の低下
動物実験では:
スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)
グルタチオン
などの抗酸化酵素が低下。
➡ 活性酸素が増え
➡ 細胞障害が進行
➡ 修復不能な歯髄炎へ
② 歯髄の「糖尿病性細小血管障害」


● 血管壁が厚くなる
ヒト研究で一貫して報告されたのが:
歯髄血管の壁肥厚
内皮細胞の減少
血流低下
これはまさに
**歯髄版・糖尿病性細小血管障害(microangiopathy)**です。
● なぜ致命的なのか?
歯髄は「閉鎖空間」です。
血流低下
浮腫
酸素不足
➡ 逃げ場がない
➡ 一気に壊死へ進行
③ 「石灰化は進むのに、治らない」という逆説


● パルプストーン(歯髄石)の増加
高齢糖尿病患者では:
歯髄石の頻度↑
石灰化の進行↑
● しかし…
本来の修復(生理的石灰化)は 低下。
つまり:
❌ 異常な石灰化は進む
⭕ 正常な修復はできない
これを論文では
**「Mineralization paradox(石灰化の逆説)」**と表現しています。
3. 1型糖尿病と2型糖尿病の違い
● 1型糖尿病
発症が早い
炎症反応が強い
歯髄壊死が急速
● 2型糖尿病
長期経過
微小血管障害が顕著
石灰化・慢性炎症が中心
➡ どちらも歯髄には不利
➡ 病態が違うだけ
4. 血糖コントロールは歯髄を救うか?
結論:YES
良好な血糖コントロールでは
炎症性サイトカイン低下
血管構造の保持
歯髄炎の進行が軽度
不良なコントロールでは
不可逆性歯髄炎↑
歯髄壊死↑
根管治療成功率↓(示唆)
👉 HbA1cは、歯内療法の予後因子になりうる。
5. 歯内療法(根管治療)への臨床的示唆
このレビューが示す重要なメッセージ:
🔴 糖尿病は「歯内療法の前提条件」
痛みが強い
麻酔が効きにくい
治癒が遅い
再発しやすい
これらは偶然ではない。
🔵 実践的ポイント
糖尿病の有無を必ず確認
HbA1cを意識した治療計画
保存的治療の限界を早めに見極める
必要なら早期に抜髄・根管治療
6. 今後の研究と未来
本レビューが示した「未解決領域」:
抗炎症療法は歯髄を守れるか?
抗酸化治療の可能性
糖尿病患者専用の歯内療法プロトコル
再生歯内療法との相性
➡ 内科 × 歯科 × 炎症研究の融合が鍵。
まとめ(超重要)
✔ 糖尿病は歯髄の病気でもある
✔ 炎症・血管障害・石灰化が同時進行
✔ 血糖コントロールは歯を救う
✔ 歯内療法は「全身管理の一部」
最後に
「歯が悪くなったから、歯医者に行く」
ではなく、
「糖尿病を管理することが、歯を守る」
という視点が、
これからの医療には必要です。
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