


はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、発熱や咳よりも先に
「匂いが分からなくなる」
という症状が出る方が多く報告されました。
一方で、私たち耳鼻科・内科医が以前から経験してきた
風邪のあとに起こる嗅覚障害(Post-Viral Olfactory Dysfunction:PVOD)
とは、実はかなり様子が違います。
今回紹介するのは、
COVID関連嗅覚障害と従来型PVODを直接比較した大規模多施設研究
です。
対象は649人。
2017〜2019年のPVODと、2020〜2022年のCOVID嗅覚障害を比較しています。
🧪 論文の要約
研究デザイン
多施設後ろ向き研究。
対象
従来型PVOD:380人
COVID嗅覚障害:269人
・オミクロン以前:191人
・オミクロン株:78人
主な結果
① COVID嗅覚障害は若年者に多い
② COVID嗅覚障害では
👉 嗅裂(きゅうれつ:匂いが入る最奥部)の閉塞が多い
③ 異嗅症・幻嗅がCOVIDで多い
④ 障害の重症度はCOVIDの方が軽い
⑤ 年齢補正後でも
👉 COVIDの方が軽症
⑥ オミクロン以前は
👉 異嗅症・幻嗅がより多かった
結論
COVIDによる嗅覚障害と従来型PVODは、
臨床像も病態も別物である。
さらにCOVIDの中でも変異株により性質が異なる。
ここからは、この内容を深掘りします👇
「コロナで匂いが消えた」は、昔の“風邪後嗅覚障害”と全く違う
まず基本から。
● 嗅覚はどこで感じている?
鼻の奥の天井部分に
👉 嗅裂(olfactory cleft)
という狭い空間があります。
ここに
嗅上皮(きゅうじょうひ)
という特殊な神経細胞の集まりが存在し、
匂い分子 → 電気信号 → 脳
という経路で認識されています。
専門用語解説①
嗅裂(olfactory cleft)
鼻腔の最上部。匂いが到達する“最終ゲート”。
嗅上皮
匂いを感知する神経細胞が密集する場所。再生能力を持つ珍しい神経。
従来型PVODとは?
インフルエンザや普通の風邪の後、
嗅神経そのものが壊れる
嗅上皮が脱落する
という神経障害型が中心です。
つまり、
👉 神経細胞の物理的損傷
が主体。
COVID嗅覚障害はまったく違う
今回の研究で明らかになった最大のポイントは:
🔑 COVID嗅覚障害は「神経が壊れる病気」ではない
COVIDでは
嗅裂の腫れ
支持細胞の炎症
局所浮腫
といった
👉 環境の異常
が中心です。
嗅神経そのものは比較的保たれています。
だから:
✅ 若い人に多い
✅ 軽症が多い
✅ 回復しやすい
という特徴になります。
なぜ異嗅症・幻嗅が多い?
専門用語解説②
異嗅症(parosmia)
本来いい匂いのものが
👉 焦げ臭い・腐敗臭に感じる状態
幻嗅(phantosmia)
実際には存在しない匂いを感じる状態
これは、
再生途中の嗅神経
信号のミスアライメント
によって起こります。
COVIDでは神経が“部分的に温存されたまま再起動”するため、
👉 バグった状態で再配線されやすい
のです。
オミクロン以前で多かった理由もここ。
オミクロンで減った理由
オミクロン株は
鼻腔局所での増殖が弱い
嗅上皮への侵襲性が低い
と考えられています。
その結果:
👉 異嗅症が減少
👉 重症嗅覚障害が激減
しました。



重要な臨床メッセージ
この研究から分かること:
✅ COVID嗅覚障害は基本的に予後良好
✅ 多くは時間とともに改善
✅ 異嗅症は“治る途中のサイン”
つまり、
「変な匂いがする」
は
👉 回復プロセスの一部
である可能性が高いのです。
治療の考え方
現時点でエビデンスがあるのは:
嗅覚トレーニング
(4種類の香りを1日2回嗅ぐ)局所ステロイド点鼻(症例選択)
過剰な内服薬は基本不要です。
✨まとめ
今回の649人解析から分かった本質:
🌱 COVID嗅覚障害は
🌱 「神経破壊」ではなく
🌱 「炎症+環境障害」
だからこそ、
若年者に多く
軽症が多く
回復率が高い
という特徴を示します。
そして異嗅症は
👉 脳と鼻が再接続している証拠
でもあります。
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