2026/09/08

健康講座1058 マンジャロを希望される方へ 当院の保険診療とゼップバウンドについて

 



今回この文章を書こうと思ったのは、時々、「マンジャロを打ちたい」という理由で受診される方がお見えになるからです。

体重を減らすことは、医学的に意味のある治療になる場合があります。肥満や肥満症の方では、体重を減らすことで血糖値、血圧、脂質異常症、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群などが改善することがあります。

一方で、日本の保険診療は、患者さんと医師が希望すれば、どの薬でも自由に使えるという仕組みではありません。薬ごとに承認された病気や使用条件があり、健康保険で使用する場合には、国が定めたルールに沿って診療を行う必要があります。

当院では、現時点で自費診療によるマンジャロやゼップバウンドの処方は行っていません。

そのため、「とにかく体重を減らしたい」「糖尿病かどうかに関係なく、すぐにマンジャロを始めたい」という目的で受診された場合、ご希望に沿えない可能性があります。

せっかく時間をつくって受診していただいたのに、「当院では処方できません」となってしまうのは、患者さんにとっても残念なことですし、私たちとしても申し訳なく感じます。

どちらが悪いということではなく、患者さんは「すぐに注射を始められる」と思って受診し、当院は「糖尿病の検査と治療を相談するための受診」と考えている。そのような行き違いが起きてしまうことがあります。

こうしたミスマッチや無駄足をできるだけ避けるために、あらかじめ当院の考え方をお伝えしておきたいと思い、このページを作成しました。

マンジャロとはどのような薬ですか?

マンジャロは、一般名をチルゼパチドという注射薬です。

GIPとGLP-1という2種類のホルモンの働きを利用して、血糖値が高いときのインスリン分泌を助けます。また、食欲や胃の動きにも影響するため、治療中に体重が減少することがあります。

通常は、週1回、自分で皮下注射します。

ただし、マンジャロは「誰でも体重を減らすために使える注射」ではありません。日本でマンジャロが承認されている病気は、2型糖尿病です。添付文書にも、食事療法や運動療法を行ったうえで、効果が十分でない場合に使用を検討する薬と記載されています。(マンジャロ電子添文・PMDA)

そのため当院では、2型糖尿病の治療の一部として必要性がある場合に、マンジャロを使用することがあります。

患者さんから「マンジャロを使いたい」と希望されたから処方する、という薬ではありません。血糖値、HbA1c、体重、腎機能、現在の治療内容、食事や運動の状況などを確認したうえで、治療の選択肢になるかどうかを判断します。

マンジャロとゼップバウンドは何が違うのでしょうか?

ゼップバウンドも、マンジャロと同じチルゼパチドを有効成分とする薬です。

薬の成分は同じですが、承認された目的が違います。

マンジャロは、2型糖尿病の治療薬です。

一方、ゼップバウンドは、肥満症の治療薬として承認されています。2026年5月からは、中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対する適応も追加されました。(ゼップバウンド電子添文・PMDA)

同じ成分だからといって、マンジャロとゼップバウンドを自由に使い分けられるわけではありません。

薬の名前が分かれているのは、「どの病気に対して使う薬なのか」が違うためです。保険診療では、薬の成分だけでなく、病名、適応条件、治療の経過、医療機関の施設要件なども関係します。

当院を受診された場合は、まず糖尿病の有無を確認します

「マンジャロを打ちたい」という理由で初めて受診された場合、まず行うのは、マンジャロの処方ではありません。

最初に、糖尿病があるのかどうかを確認します。

これまでの健診結果や治療歴を確認し、必要に応じて血糖値、HbA1c、脂質、腎機能などの検査を行います。状況によっては、再検査や75g経口ブドウ糖負荷試験を行うこともあります。

糖尿病の診断は、HbA1cの数字だけで単純に決まるものではありません。血糖値、HbA1c、症状、過去の検査結果などを組み合わせて判断します。

検査の結果、2型糖尿病と診断され、マンジャロが治療上適切と判断された場合には、保険診療の中で使用を検討します。

反対に、糖尿病がない場合、当院ではマンジャロを体重減少目的で処方することはできません。

つまり、当院では「マンジャロを希望して受診したら、まず糖尿病があるかどうかを確認する」という流れになります。

糖尿病がない場合は、ゼップバウンドという選択肢があります

糖尿病ではない方でも、肥満症に該当し、一定の条件を満たす場合には、ゼップバウンドが治療の選択肢になることがあります。

ただし、単に体重が多い、BMIが高いというだけでは十分ではありません。

ゼップバウンドの肥満症に対する適応では、高血圧、脂質異常症、耐糖能障害など、肥満に関連する健康上の問題があることが前提になります。

そのうえで、主なBMIの条件は次のとおりです。

  • BMIが27以上で、肥満に関連する健康障害が2つ以上ある場合

  • BMIが35以上の場合

ここで注意していただきたいのは、ゼップバウンドの大きなBMIの区切りは「27」と「35」であり、「30」ではないということです。

日本では、一般にBMI25以上を「肥満」と判定します。しかし、BMI25以上だからといって、すぐにゼップバウンドの対象になるわけではありません。

肥満に関連する健康障害には、耐糖能障害、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群、運動器疾患、肥満関連腎臓病などがあります。

「耐糖能異常」はどのように判断するのでしょうか?

2026年5月から、ゼップバウンドの承認内容に「耐糖能異常等」が加わりました。

耐糖能異常とは、糖尿病の診断基準までは達していないものの、血糖値が正常より高く、糖尿病に近い状態を指します。

空腹時血糖や75g経口ブドウ糖負荷試験の2時間値などを用いて判断します。目安として、空腹時血糖110〜125mg/dL、75g経口ブドウ糖負荷試験の2時間値140〜199mg/dLなどが該当することがあります。

ただし、血糖値が一度高かっただけで、すぐに耐糖能異常と決まるわけではありません。検査の条件や再検査の結果などを含めて、医師が総合的に判断します。

また、耐糖能異常があるというだけで、ゼップバウンドが保険で使えるわけでもありません。

現時点の保険診療では、少なくとも高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかが診断され、適切な治療が行われていることが必要です。

耐糖能異常は、肥満に関連する健康障害の一つとして数えられることがありますが、耐糖能異常だけで保険適用になるわけではありません。(厚生労働省通知)

ゼップバウンドは、すぐに始められる薬ではありません

ゼップバウンドを肥満症に対して保険で使用する場合、薬を始める前に、食事療法と運動療法を行うことが求められています。

原則として、適切な治療計画に基づく食事療法・運動療法を6か月以上行っても、十分な効果が得られないことが必要です。

その期間中には、少なくとも2か月に1回、管理栄養士による栄養指導を受けることも求められます。

さらに、ゼップバウンドを保険で使用できる医療機関には、専門医の配置、専門的な診療体制、管理栄養士による栄養指導の体制など、一定の施設要件があります。(厚生労働省・最適使用推進ガイドライン)

そのため、ゼップバウンドは、どのクリニックでも簡単に処方できる薬ではありません。クリニックだからできないというより、保険で処方するための条件を満たしている医療機関が限られている、ということです。

当院での対応について

当院では、ゼップバウンドの処方は行っていません。

診察や検査の結果、肥満症に該当し、ゼップバウンドの適応になる可能性があると判断した場合には、必要な施設要件を満たす近隣の医療機関や基幹病院へ紹介することがあります。

ただし、紹介したからといって、すぐにゼップバウンドを開始できるわけではありません。

6か月以上の食事療法・運動療法や、管理栄養士による栄養指導の記録が必要になるためです。これまでの治療記録がある場合には、その内容を確認したうえで、紹介先の医療機関で判断されます。

ですから、「今日受診して、今日から何でもいいので注射を始めたい」という場合、当院では対応できません。

マンジャロについても、糖尿病がなければ、当院の保険診療では処方できません。

自費診療を希望される方へ

保険診療の条件に該当しなくても、自費診療でマンジャロやゼップバウンドを扱っている医療機関はあります。

ただし、当院では自費診療を行っていないため、具体的にどの医療機関で対応しているかについては、ご案内することができません。

自費診療を希望される場合は、処方の条件や副作用、検査の必要性、薬をやめた後の方針などを説明してくれる医療機関を、ご自身でお探しください。

最後に

当院がこのような説明をしているのは、マンジャロやゼップバウンドをお断りしたいからではありません。

体重を減らすことが医学的に有益な方はいますし、適切な患者さんにとっては、これらの薬が有効な治療になることもあります。

ただ、当院でできるのは、保険診療のルールに沿った糖尿病の診療と、その中で必要と判断した場合のマンジャロの使用です。

糖尿病がなければ、マンジャロを体重減少目的で処方することはできません。

ゼップバウンドの適応が考えられる場合も、当院では処方せず、対応可能な医療機関への紹介を検討します。ただし、6か月以上の食事療法・運動療法が必要になることがあります。

せっかく来ていただいたのに、ご希望の薬を処方できず、無駄足になってしまう。

そのようなミスマッチを少しでも減らすために、受診前に当院の方針を知っていただきたいと思い、このページを作成しました。

その点をご理解いただいたうえで、糖尿病の有無を調べたい方、健診結果について相談したい方、保険診療の範囲で治療を考えたい方は、ご受診ください。

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