中村天風の考え方を見ていて、面白いと思ったことがある。
それは、人生を変えるために大げさなことをするのではなく、毎日の心の向きを少しずつ整えるという発想だ。
ざっくり言えば、
朝に心を整える。
昼にズレを修正する。
夜に感謝して終える。
これだけである。
一見すると精神論のようにも聞こえる。
でも、現代の心理学や脳科学と照らしてみると、完全に同じではないものの、意外と筋の通った部分がある。
朝――心の「初期設定」をする
天風は、朝の心の状態を大切にした。
朝から「今日も嫌だな」「面倒くさいな」と考え続けるより、
「今日はこう過ごそう」
と自分の方向を決めておく。
もちろん、朝に前向きなことを考えれば潜在意識が書き換わるとまで科学的に証明されているわけではない。
そもそも「潜在意識」という言葉自体、現代脳科学の厳密な専門用語ではない。
ただし、
「こういう状況になったら、こう行動する」
とあらかじめ決めておく方法は、心理学では「実行意図(implementation intention)」と呼ばれている。
研究では、こうした具体的な計画を作ることが、実際の行動につながりやすくなることが示されている。(PubMed)
だから朝に、
「今日は機嫌よく過ごそう」
だけではなく、
「イライラしたら、一度席を離れて水を飲もう」
くらいまで決めておく。
これはかなり現代的な方法でもある。
昼――心に「雑草」が生えていないか見る
もちろん朝に決めても、人間なので普通に乱れる。
イライラする。
不安になる。
他人と比較する。
嫌なことを何度も思い返す。
そこで天風的には、途中で自分の心を点検する。
これは現代心理学でいうセルフモニタリングに近い。
つまり、
「いま自分は何を考えている?」
と、一度自分を外側から眺めてみる。
重要なのは、ネガティブな感情を無理やり消すことではない。
「いまイライラしてるな」
「また比較してるな」
と気づくだけでもいい。
目標に向かう自分の状態を定期的に確認することは、行動変容や目標達成にも役立つことがメタ解析で示されている。(PubMed)
だからこれは、
雑草が一本も生えない庭を作る
という話ではない。
生えたら気づいて抜けばいい。
そんな感じだと思う。
夜――感謝で一日を閉じる
そして一日の最後。
天風の教えでは、感謝することが大切にされる。
これも単なる精神論だけではない。
感謝についてはかなり研究されていて、感謝を書き出したり意識したりする介入には、幸福感を少し高める効果があることが大規模なメタ解析で確認されている。
ただし効果は「人生が劇的に変わる」ほどではなく、平均すると小さい効果である。(PubMed)
ここは結構重要だと思う。
「感謝すればすべてうまくいく」
ではない。
ただ、
寝る前まで嫌だったことを何度も反すうするより、
「今日も家族とご飯を食べられた」
「風呂が気持ちよかった」
「面白い本を読めた」
くらいを思い出して一日を終える。
それだけでも、心の向きは少し変わるかもしれない。
「潜在意識」をもう少し現代的に言い換えるなら
天風のいう「潜在意識」を、そのまま脳科学の言葉として扱うのは正確ではない。
でも、もっと普通の言葉に直せば、
繰り返している考え方や行動が、だんだん自分の“いつもの反応”になっていく
という話として理解できる。
人間は毎回ゼロから判断しているわけではない。
同じ行動を繰り返せば、状況と行動の結びつきが強まり、以前より自然に行動できるようになる。
つまり、
意志力で毎日頑張り続けるより、良い反応を少しずつ習慣にする。
こちらの方が現代心理学にも近い。
結局、とてもシンプルだった
中村天風の考えを、科学的に言い換えながら残すなら、私はこう理解した。
朝:今日どう生きるかを軽く決める
昼:自分の心がどこへ向かっているか確認する
夜:今日あった良いことを一つ思い出す
人生を一気に変えようとしなくていい。
人格を改造する必要もない。
毎日少しだけ方向を修正する。
そしてまた翌朝から始める。
心も庭と同じなのだろう。
良い種をまく。
雑草が生えたら抜く。
一日の終わりには、今日育ったものを眺める。
そのくらいでいい。
天風のいう「潜在意識」を神秘的なものとしてではなく、日々繰り返すことで少しずつ形づくられる心の習慣として読むと、かなり実用的な思想になると思う。
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