2025/11/07

健康講座 918「2型糖尿病患者における肝疾患リスク低減:GLP-1RAとSGLT2iの有効性」

 

小川糖尿病内科クリニックにおいて、糖尿病患者の治療に関心を持つ皆様へ、最近発表された非常に興味深い研究についてご紹介いたします。この研究は、2型糖尿病患者における非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)という肝疾患のリスクに関するもので、新たな糖尿病治療薬、特に**グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬(GLP-1RA)ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)**が、これらの肝疾患の発症にどのような影響を与えるかが検討されています。

研究の背景

NAFLDやNASHは、2型糖尿病患者において最も一般的な肝疾患です。NAFLDは、肝臓に過剰な脂肪が蓄積する状態を指し、進行するとNASHに発展することがあります。NASHは、肝臓に炎症や損傷を引き起こし、最終的には肝硬変や肝がんに至る可能性があります。糖尿病患者は、一般の人々に比べてNAFLDやNASHの発症リスクが高いことが知られています。そのため、これらの肝疾患を予防する方法は非常に重要です。

近年、GLP-1RAやSGLT2iといった新しいタイプの糖尿病治療薬が開発され、これらの薬が血糖値の管理だけでなく、肝臓に対してもポジティブな影響を与える可能性が示唆されています。これらの薬は、肝臓に蓄積された脂肪を減少させたり、肝臓の炎症を抑える効果があるとされていますが、NAFLDやNASHの発症リスクをどれほど低減できるかについては、明確な結論は出ていません。

研究の目的

今回ご紹介する研究は、台湾の国民健康保険研究データベースを用いて、2型糖尿病患者におけるGLP-1RAやSGLT2i療法がNAFLDやNASHの発症リスクにどのような影響を与えるかを調査するために行われました。具体的には、2011年から2018年までの間に2型糖尿病と診断され、安定した非インスリンGLA(糖尿病治療薬)を使用していた40歳以上の患者を対象に、ネストケースコントロール研究という方法を用いてデータが収集されました。

研究の方法

この研究には、2型糖尿病患者621,438人が参加しました。研究対象は、NAFLDやNASHの既往歴がない患者で、安定した非インスリン療法を行っていることが条件とされました。研究者たちは、これらの患者の中で新たにNAFLDやNASHを発症した症例と、個々の年齢、性別、糖尿病診断日などに基づいて無作為に抽出された対照群をマッチングし、NAFLD/NASH発症リスクに対する治療薬の影響を評価しました。

この分析では、GLP-1RAやSGLT2iの使用がNAFLD/NASHのリスクにどのように関連しているかを調べるために、条件付きロジスティック回帰分析が行われました。また、SGLT2iの累積投与量とNAFLD/NASHリスクの関係を評価するために、用量反応解析も実施されました。

研究結果

分析の結果、621,438人の患者の中央値フォローアップ期間は1.8年間であり、その間にNAFLD/NASHの発症率は1000人年あたり2.7件という低い数値が報告されました。マッチング後、5,730件の新規NAFLD症例と45,070人の対照群が特定されました。NAFLD/NASHを発症した患者の平均年齢は57.6歳で、53.2%が男性でした。

GLP-1RAまたはSGLT2iを使用していた患者は、NAFLD/NASHの発症リスクがわずかに低下する可能性があることが示唆されました。具体的には、GLP-1RA使用者のオッズ比は0.84(95%信頼区間:0.46-1.52)、SGLT2i使用者のオッズ比は0.85(95%信頼区間:0.63-1.14)とされ、どちらも統計的に有意な差とは言えないものの、リスクが減少する傾向が見られました。

一方で、SGLT2iの累積投与量が増加するにつれて、NAFLD/NASHの発症リスクが有意に低下することが確認されました。累積投与量が増加した患者では、NAFLD/NASHのリスクがオッズ比0.61(95%信頼区間:0.38-0.97)とされ、SGLT2iがNAFLD/NASHの予防に効果的である可能性が強調されました。

考察と結論

この研究結果から、GLP-1RAやSGLT2iといった新しい糖尿病治療薬が、2型糖尿病患者においてNAFLDやNASHの発症リスクを低下させる可能性があることが示されました。特に、SGLT2iは投与量が多いほど効果が高まることが確認されており、肝臓への保護効果が期待されます。

ただし、GLP-1RAとSGLT2iの使用がNAFLD/NASHのリスクに与える影響については、さらなる研究が必要です。今回の研究では、GLP-1RAの使用によるリスク低下は統計的に有意ではなかったため、今後の大規模な臨床試験や長期的なフォローアップが求められるでしょう。

臨床への応用

これらの結果は、2型糖尿病患者における肝疾患の予防に新たな治療選択肢を提供する可能性があります。特に、NAFLDやNASHの進行を防ぐためには、糖尿病治療の一環としてSGLT2iやGLP-1RAを積極的に使用することが有効かもしれません。肝臓の健康を保つことは、糖尿病患者の生活の質向上や将来的な合併症予防にもつながります。

また、患者さん一人ひとりに最適な治療計画を立てる際に、肝臓の健康状態を考慮し、GLP-1RAやSGLT2iの使用を検討することが重要です。小川糖尿病内科クリニックでは、最新の研究成果に基づき、患者さんの健康を第一に考えた治療を提供してまいります。

今後も引き続き、糖尿病患者の皆様が最良の健康状態を維持できるよう、最先端の治療法や研究成果を取り入れてまいります。ご質問やご相談がございましたら、どうぞお気軽にお尋ねください。

2025/10/10

健康講座 917 妊娠糖尿病治療GDM治療:メトホルミンとインスリンの効果比較と日本の現状

 皆さん、こんにちは。小川糖尿病内科クリニックです。本日は、妊娠糖尿病(GDM)の管理に関する最新の研究結果についてお話しします。GDMは、妊娠中に高血糖状態になる疾患で、母親や生まれてくる子供の将来的な健康に大きな影響を及ぼす可能性があります。今回取り上げるのは、GDMの治療に用いられるメトホルミンとインスリンが、母親の治療によって生まれた子供たちの心血管代謝に与える影響についての比較研究です。また、日本国内でのメトホルミンの使用に関する規制についても触れます。





**はじめに**  

GDMは、通常メトホルミンまたはインスリンを使用して管理されますが、これら2つの治療法が将来的に子供たちの心血管代謝にどのように影響を与えるかについては、これまで十分な研究が行われていませんでした。そこで、1974年から2024年5月までに発表されたランダム化比較試験(RCT)を対象に、メトホルミンとインスリンによるGDM治療が子供に与える影響について、系統的なレビューが実施されました。


今回のレビューでは、5463件の記録から、特定の基準を満たした5つの研究が選ばれました。これらの研究には、メトホルミンを使用したGDM母親から生まれた409人の子供と、インスリンを使用したGDM母親から生まれた434人の子供が含まれています。各研究では、子供たちの心血管代謝に関する指標が追跡され、特に無脂肪質量や腹部脂肪量、断食時血糖値、トリグリセリドに注目が集まりました。


**日本でのメトホルミンの使用に関する規制**  

まず、ここで重要なのは、日本においてメトホルミンは妊婦、または妊娠している可能性がある女性には**禁忌**とされているという点です。これは、日本の医薬品添付文書に記載されており、母体や胎児に与える影響を考慮してのものです。そのため、日本国内ではGDMの治療にメトホルミンを使用することは推奨されておらず、主にインスリンが選択されます。この点を踏まえ、海外の研究結果をそのまま国内に適用することには注意が必要です。


**メトホルミンとインスリン治療の比較結果**  

レビューの結果、メトホルミンで治療された母親から生まれた5〜9歳の子供において、無脂肪質量が増加し、MRIで測定された皮下脂肪や内臓脂肪が多いことが示されました。一方で、断食時血糖値とトリグリセリドは、メトホルミン治療群でインスリン治療群よりも低い傾向が見られました。これらの結果は、メトホルミンが将来的に心血管疾患のリスクを低減する可能性を示唆しています。しかし、他の心血管代謝指標(血圧やコレステロール値など)には、治療群間で有意な差は見られませんでした。


また、5歳未満の子供に関するデータは非常に限られており、メタ分析も体重に関してのみ行われましたが、その差は統計的に有意ではありませんでした。


**短期間での影響と今後の課題**  

短期間でのフォローアップによる結果からは、メトホルミンとインスリン治療による心血管代謝の影響に大きな違いは見られませんでした。ただし、これらの研究は追跡期間が短いため、長期的な影響についての結論を出すには不十分です。今後は、より長期間にわたる追跡調査が必要であり、特に異なる民族や地域における研究が望まれます。


**小川糖尿病内科クリニックの見解**  

今回の研究は、GDM治療におけるメトホルミンとインスリンの違いについて、一定の知見を提供するものですが、妊娠中の治療法の選択には個々の患者さんの状況や日本国内の規制を十分に考慮する必要があります。日本では、妊婦や妊娠可能な女性に対するメトホルミンの投与は禁忌とされていますので、インスリンを用いた治療が基本となります。


GDMの管理については、母体の健康だけでなく、将来的な子供の健康も考慮した慎重な判断が求められます。当クリニックでは、最新の医療知識を基に、個々の患者さんに最適な治療法を提供しています。治療に関するご質問やご相談がありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。


これからも、小川糖尿病内科クリニックは、患者さんの健康を第一に考えた医療を提供してまいります。

2025/09/12

健康講座916 「糖尿病の新分類:5つのタイプへの洞察と個別化された治療戦略」

 

こんにちは、小川糖尿病内科クリニックです。今回は、糖尿病の新しい分類法についての興味深い更新情報をお届けします。スウェーデンとフィンランドの研究チームが、「ランセット糖尿病・内分泌学」誌にて、糖尿病を5つの異なるタイプに分類する提案を発表しました。これにより、個々の患者に合わせたより効果的な治療法の開発が期待されます。

糖尿病のこれまでの分類は、「1型糖尿病」と「2型糖尿病」が主でしたが、この新たなアプローチにより、糖尿病の多様性と複雑さがより明らかになります。リーフ グループ教授によれば、糖尿病は単一の病気ではなく、患者ごとの病態に応じた治療が必要であるとのことです。

具体的な分類としては、重度の自己免疫性疾患(SAID)、重度のインスリン欠乏(SIDD)、重度のインスリン抵抗性(SIRD)、軽度の肥満関連(MOD)、軽度の加齢関連(MARD)という5つのタイプに分けられます。これにより、それぞれのタイプに特有の治療法が開発されることで、糖尿病の合併症を未然に防ぐ助けとなるでしょう。

  1. 重度の自己免疫性糖尿病(SAID): このタイプは1型糖尿病とLADAに該当し、自己免疫反応が膵臓のβ細胞を攻撃することによって発症します。
  2. 重度のインスリン欠乏糖尿病(SIDD): こちらはインスリン分泌障害と中程度のインスリン抵抗性を持つ患者に見られ、肥満はあまり関連しません。
  3. 重度のインスリン抵抗性糖尿病(SIRD): このグループは肥満と高度のインスリン抵抗性が特徴で、体がインスリンに反応しなくなっています。
  4. 軽症の肥満関連糖尿病(MOD): このタイプでは肥満が見られるものの、インスリン抵抗性は軽度で、糖尿病の症状も軽いです。
  5. 軽症の加齢関連糖尿病(MARD): 高齢者に多く、加齢により血糖値が上がりますが、症状は比較的軽度です。

このような糖尿病の新たな分類法により、未来の医療現場ではより精密な診断と治療が可能になると期待されています。また、この研究は将来的に、さまざまな背景を持つ患者に適用可能かどうかをさらに評価するためのもので、世界中の多様な病態に対応するためにも重要なステップとなります。

2025/09/04

健康講座915 「遅らせた朝食と2型糖尿病:研究の課題と実臨床への応用障壁」



🥣 朝ごはんを遅らせると血糖値は良くなるの?

― 2型糖尿病で知っておきたいシンプルなポイント ―


1. 研究でわかったこと

最近の研究で、「朝ごはんを少し遅らせると、食後の血糖値が下がるかもしれない」という結果が出ています。

  • 朝7時に食べるより、朝9時ごろに食べた方が血糖が上がりにくいかもしれない

  • 体内時計(サーカディアンリズム)が血糖コントロールに関係している可能性がある

ただし、研究はまだ始まったばかりで、はっきりした結論は出ていません。


2. でも「ただ遅らせればOK」ではない

研究をよく読むと、「朝ごはんを遅らせるといい人」と「そうでない人」がいることがわかります。

① 生活リズムが大事

  • 寝る時間・起きる時間で血糖の動きは変わります

  • 夜更かししている人と、早寝早起きの人では結果が違うかもしれません

② 薬と運動のタイミング

  • 血糖を下げる薬を飲んでいる場合、薬の効き方と朝ごはんの時間がズレると逆効果になることも

  • 朝食前後の運動量でも血糖値は大きく変わります

③ 個人差がある

  • インスリンを使っている人

  • 夜間低血糖を起こしやすい人

  • 朝方に血糖が高くなる「ソモジー効果」や「暁現象(あかつきげんしょう)」がある人
    → このような人は、朝食のタイミングを変えることで逆に血糖が不安定になることもあります。


3. 国や生活環境によっても違う

論文では、インドなどの国では「朝ごはんを遅らせる」のは難しいと指摘されています。

  • 朝から仕事に行く人は時間をずらせない

  • 家族の食事や学校の時間に合わせる必要がある

  • 文化的に朝食のタイミングが決まっている地域もある

つまり、現実的に続けられる方法を考える必要があるということです。


4. 結論:どうすればいいのか?

結論としては、「朝ごはんを遅らせると血糖値が改善する可能性はあるが、人によって合う・合わないがある」です。

✅ おすすめの行動

  • 主治医と相談することが一番大事

  • 血糖測定器やCGM(持続血糖測定器)がある人は、朝食時間を少しずつずらして試し、自分の血糖がどう変わるか確認する

  • 無理に遅らせず、まずは**朝食の内容(糖質・たんぱく質・野菜のバランス)**を見直す方が効果的なことも多い


5. まとめ

  • 朝ごはんを1〜2時間遅らせると血糖が下がる人もいる

  • ただし、薬・運動・睡眠・体質によっては逆効果になることもある

  • 一律に「遅らせるのが正解」とは言えない

  • 最終的には、主治医と相談しながら、自分の血糖変動を見て決めるのがベスト



2025/08/25

健康講座914 「バター vs オリーブオイル」──脂肪の種類ががん免疫に与える驚きの違いとは?肥満と腫瘍免疫の意外な関係【最新研究解説】

 皆さんこんにちは。

今回は2025年7月に『Nature Metabolism』誌に掲載された最新の研究論文「**The source of dietary fat influences anti-tumour immunity in obese mice(食事性脂肪の種類が、肥満マウスにおける抗腫瘍免疫に影響を与える)」について、専門用語を丁寧に解説しながら、ご紹介します。


🔍この研究でわかったこと(ざっくりまとめ)

  • 肥満はがんのリスクを上げることが知られていますが、

  • 同じ「太る食事」でも、脂肪の種類によってがんの進行や免疫力への影響がまるで違う

  • バター・ラード(豚脂)・牛脂は、がんを早く育てて免疫力を下げる

  • オリーブオイル・ココナッツオイル・パーム油では、太ってもがんの進行は穏やかで、免疫も保たれる

  • 脂肪の種類が「血中の代謝物(アシルカルニチンなど)」に影響し、それが免疫細胞にブレーキをかける

という、とても興味深い結果が得られました。


🧪背景:肥満とがん、そして免疫

肥満になると、さまざまな種類のがん(乳がん、大腸がん、肝がんなど)のリスクが上がることがわかっています。
また、がんができたあとでも、肥満によって免疫細胞の働きが悪くなり、がんが進行しやすくなることも知られています。

しかし、今までの研究では、

  • 「脂肪が多い食事(高脂肪食:HFD)」が悪い

  • 「太ること」自体が悪い

という点には注目されていましたが、

脂肪の“種類”の違いが、がんや免疫にどのような影響を与えるのか?

については、ほとんど研究されていませんでした。


🐁研究の方法:肥満マウス+がんモデル

この研究では、以下のような実験を行いました。

✅使ったモデル

  • マウス(C57BL/6系)

  • B16-F10 メラノーマ(黒色腫)細胞を皮下に注射し、がんを人工的に作る

  • 食事はすべて「カロリー・脂肪量は同じ」だが、「脂肪の種類だけが違う

✅比較した脂肪の種類

グループ 使用した脂肪 主な特徴
バター 飽和脂肪酸が多く、動物性脂肪の代表格 酪農由来の固形脂
ラード(豚脂) 飽和+一部不飽和脂肪酸 中華料理や揚げ物でよく使う
牛脂(ビーフタロー) 飽和脂肪酸中心 ステーキや焼肉の脂身など
ココナッツオイル 中鎖脂肪酸が多い 消化が早い、ケトン体に変わる脂肪
パーム油 飽和脂肪酸が多いが、バランスはよい 加工食品に多く含まれる
オリーブオイル 不飽和脂肪酸(特にオレイン酸)が豊富 地中海食の中心

🔬結果①:太る量は同じでも、がんの大きさが違う!

まず、どの脂肪でもマウスは同じくらい太りました
つまり、カロリーも体脂肪率も同じです。

ところが──

  • バター・ラード・牛脂を食べたマウスは、腫瘍(がん)の大きさが明らかに大きくなり

  • ココナッツオイル・パーム油・オリーブオイルでは、腫瘍の大きさが小さめ

だったのです。

つまり、「太ったからがんが進行する」のではなく、脂肪の“種類”ががんの進行を左右するということです。


🔬結果②:免疫細胞の働きにも差がある

次に、腫瘍の中にいる免疫細胞の様子を調べました。

特に重要な免疫細胞は以下の2つ:

免疫細胞 働き
CD8 T細胞(キラーT細胞) がん細胞を直接攻撃する
ナチュラルキラー細胞(NK細胞) 異常な細胞を見つけて即攻撃する

その結果…

  • バターを食べたマウスは、腫瘍内のCD8 T細胞とNK細胞が少なく、機能も低下

  • パーム油を食べたマウスでは、それらの細胞が腫瘍内に多く、活性も保たれていた

つまり、脂肪の種類が**腫瘍内の免疫環境(腫瘍免疫)**を大きく変えていたのです。


💥脂肪の種類が「血中の代謝物」に影響を与えていた

ではなぜ、脂肪の種類で免疫が変わったのでしょう?

血液中の「代謝産物(メタボライト)」を分析したところ、次のようなことがわかりました:

✅バターを食べたマウス

  • **長鎖アシルカルニチン(long-chain acylcarnitines)**が増加

  • これは、脂肪の代謝中にできる中間産物であり、免疫細胞の働きをブロックすることが知られている

✅パーム油を食べたマウス

  • アシルカルニチンが少ない

  • 免疫細胞が元気に働いていた

つまり、

バターを食べると体内に「免疫を弱らせる脂質代謝産物」がたくさん生まれる
→ それがCD8 T細胞やNK細胞の働きを邪魔していた!

という仕組みが明らかになったのです。


🧠まとめと考察:脂肪の質が「免疫の質」を決める

この研究の最も大きなメッセージは、

「脂肪の量」ではなく「脂肪の質」が、がんの進行や免疫力を大きく左右する

という点です。

✅ポイント整理

  • バター・ラード・牛脂:がん促進、免疫抑制(アシルカルニチンが増える)

  • ココナッツ・パーム油・オリーブオイル:がん抑制、免疫維持(アシルカルニチン少なめ)

  • 同じカロリー・同じ肥満度でも、結果が大きく違う


🍽️臨床応用や人間への示唆

まだマウスの実験段階ではありますが、今回の結果は私たちの食生活にも大きな示唆を与えてくれます。

✅がんの予防や再発リスクを考えるなら…

  • 飽和脂肪酸たっぷりの バター・牛脂・ラードはできるだけ控えめに

  • オリーブオイル・ココナッツオイルなど、比較的「代謝に優しい脂肪」を選ぶ

  • 食事で摂る脂質の「質」にもっと注目すべき

という考え方が広がっていくかもしれません。


✍️おわりに

この研究は、「カロリーや肥満」だけでなく、「脂肪の質」こそががんと免疫に直結しているということを明確に示しました。

肥満を避けることももちろん大切ですが、日々の脂の選び方が私たちの健康、さらにはがんの予防にも関わっているかもしれません。

普段の食事で何気なく使っている「脂」、これを機に見直してみてはいかがでしょうか?



2025/08/23

健康講座913 「ミトコンドリアを若返らせる鍵!SIRT3・SIRT4・SIRT5が拓くアンチエイジングの未来」

 みなさんこんにちは😊

今回は、ミトコンドリアサーチュイン(mitochondrial sirtuins)と加齢関連疾患についての最新の総説論文――

「Unraveling the roles of mitochondrial sirtuins in aging-related diseases: From mechanistic insights to therapeutic strategies」
(ミトコンドリアサーチュインの加齢関連疾患における役割の解明:そのメカニズムから治療戦略まで)

を取り上げて解説していきます。




🔷はじめに:ミトコンドリアと老化のつながりとは?

人はなぜ老いるのでしょうか?
その答えのひとつに、「ミトコンドリアの機能低下」が挙げられます。

ミトコンドリアとは、私たちの細胞の中にある「エネルギー工場」のような存在で、呼吸に似た「酸素を使ってエネルギー(ATP)を作る」働きをしています。

しかし、このエネルギー生成の過程で、

  • 活性酸素(ROS:細胞をサビさせる有害物質)が発生したり、

  • 遺伝子(DNA)がダメージを受けたり、

  • 老化が加速したり

といった現象が起こることがわかってきました。

そこで登場するのが「サーチュイン(Sirtuins)」というタンパク質群です。
特に**ミトコンドリアの中で働くサーチュイン(SIRT3, SIRT4, SIRT5)**は、細胞の老化や代謝バランスの維持に深く関わっており、現在「長寿の鍵を握る分子」として注目を集めています。


🔷サーチュインとは何か?:7つの家族とその役割

サーチュイン」とは、酵母で最初に見つかった長寿遺伝子Sir2の仲間です。
哺乳類では、以下のように 7つ(SIRT1~SIRT7) のサーチュインがあり、それぞれが異なる場所で異なる役割を担っています。

サーチュイン 主な存在場所 主な役割例
SIRT1 遺伝子発現調整、抗炎症、老化抑制
SIRT2 細胞質 細胞周期の調整など
SIRT3 ミトコンドリア 抗酸化、代謝改善、寿命延長
SIRT4 ミトコンドリア インスリン感受性、窒素代謝の制御
SIRT5 ミトコンドリア アンモニア処理、エネルギー代謝
SIRT6 遺伝子の修復、糖代謝制御
SIRT7 リボソーム合成など

この中でも今回の主役は、ミトコンドリア内のサーチュイン:SIRT3、SIRT4、SIRT5です。


🔷SIRT3, SIRT4, SIRT5の働き

🧬SIRT3(サーチュイン3)

  • ミトコンドリア内のもっとも重要な酵素調整役

  • 抗酸化作用があり、細胞を活性酸素から守る

  • エネルギー代謝や脂肪燃焼を促進

  • アルツハイマー病やパーキンソン病、心不全などの進行を抑えると期待されている

👉 例えるなら「ミトコンドリアのメンテナンス係」
壊れた部品を修理し、エネルギーの生産をスムーズに保ちます。


🧬SIRT4(サーチュイン4)

  • あまり知られていなかったが、最近研究が進んでいる

  • **インスリン感受性(=血糖コントロール能力)**を改善する

  • **窒素代謝(アミノ酸の分解)**の制御にも関与

👉 例えるなら「ミトコンドリアの調整役」
食事内容に応じて代謝を調節する存在です。


🧬SIRT5(サーチュイン5)

  • **アンモニアの処理(尿素サイクル)**を助ける重要な酵素

  • 酸化ストレスから細胞を守る

  • エネルギー代謝の調整に関わる(例:脂肪酸の酸化など)

👉 例えるなら「老廃物処理係」
体の中で出てくる有害な物質を分解し、細胞の安全を保っています。


🔷これらのサーチュインが関係する老化関連疾患

研究によると、これらのサーチュインがうまく働かないと、

  • 🧠 神経変性疾患(アルツハイマー、パーキンソン、ALSなど)

  • ❤️ 心血管疾患(動脈硬化、心不全など)

  • 🍩 代謝性疾患(糖尿病、脂肪肝など)

といった、**老化とともに増える病気(加齢関連疾患)**のリスクが高くなることがわかっています。


🔷なぜサーチュインが加齢で弱まるのか?

  • 年をとると**NAD⁺(サーチュインの燃料のようなもの)**が減ってしまう

  • 結果として、サーチュインの働きも低下

  • ミトコンドリア機能が落ち、活性酸素がたまり、病気が進行しやすくなる


🔷治療ターゲットとしてのミトコンドリアサーチュイン

サーチュインの働きを回復させることで、老化や病気の進行を遅らせられるのではないか?
そのような考えから、現在はさまざまなサーチュイン活性化薬の研究が進められています。


💊 小分子化合物(Small-Molecule Compounds)

研究チームは、多くの候補薬を調べています:

薬名例 特徴 期待される効果
Resveratrol(レスベラトロール) 赤ワインに含まれるポリフェノール SIRT1活性化、SIRT3にも効果あり
Honokiol(ホノキオール) モクレン科の植物由来 SIRT3を直接活性化、心臓保護作用
Nicotinamide Riboside(NR) NAD⁺の前駆体 NAD⁺増加→サーチュイン活性↑
SRT1720 合成化合物 SIRT1とSIRT3活性化の候補薬

🔷サーチュイン活性化戦略のまとめ

  1. NAD⁺レベルの回復: NRやNMNなどのサプリで燃料を補う

  2. 直接的な活性化: SIRT3などに働きかける分子を投与

  3. 遺伝子レベルの制御: エピジェネティック制御で発現量を増やす

  4. 生活習慣: 断食・カロリー制限・運動もサーチュインを活性化する手段です


🔷今後の課題と展望

  • ✅ サーチュイン活性化薬の多くはまだ動物実験レベル

  • ✅ **組織ごとの違い(脳、肝臓、心臓など)**にどう対応するかが課題

  • 副作用や長期使用時の安全性確認が必要

それでも、「ミトコンドリアの若返り」や「病気の予防」が期待されるこの分野は、今後の高齢化社会における希望の星として注目されています。


📝まとめ

項目 内容
ミトコンドリアサーチュインとは? SIRT3~5。ミトコンドリアの健康を守る重要な酵素
加齢と何が関係ある? 老化でNAD⁺が減る→サーチュインが働けなくなる
関連する病気は? 認知症、心疾患、糖尿病など
対策はある? サプリ・食事・運動・薬による活性化が研究中

💡さいごに

ミトコンドリアの健康が、全身の若さと健康を支えている――。
そのカギを握るのが、ミトコンドリアサーチュインたちです。

今後、レスベラトロールやNMNのような物質の研究が進めば、加齢や病気を遅らせる治療法が現実のものとなる可能性があります

この分野は、老化研究・予防医学・抗加齢医療の最前線です。
これからの展開に大いに期待しましょう!



2025/08/21

健康講座912 「ミトコンドリアを若返らせる鍵!SIRT3・SIRT4・SIRT5が拓くアンチエイジングの未来」

 みなさんこんにちは😊

今回は、ミトコンドリアサーチュイン(mitochondrial sirtuins)と加齢関連疾患についての最新の総説論文――

「Unraveling the roles of mitochondrial sirtuins in aging-related diseases: From mechanistic insights to therapeutic strategies」
(ミトコンドリアサーチュインの加齢関連疾患における役割の解明:そのメカニズムから治療戦略まで)

を取り上げて解説していきます。

🔷はじめに:ミトコンドリアと老化のつながりとは?

人はなぜ老いるのでしょうか?
その答えのひとつに、「ミトコンドリアの機能低下」が挙げられます。

ミトコンドリアとは、私たちの細胞の中にある「エネルギー工場」のような存在で、呼吸に似た「酸素を使ってエネルギー(ATP)を作る」働きをしています。

しかし、このエネルギー生成の過程で、

  • 活性酸素(ROS:細胞をサビさせる有害物質)が発生したり、

  • 遺伝子(DNA)がダメージを受けたり、

  • 老化が加速したり

といった現象が起こることがわかってきました。

そこで登場するのが「サーチュイン(Sirtuins)」というタンパク質群です。
特に**ミトコンドリアの中で働くサーチュイン(SIRT3, SIRT4, SIRT5)**は、細胞の老化や代謝バランスの維持に深く関わっており、現在「長寿の鍵を握る分子」として注目を集めています。


🔷サーチュインとは何か?:7つの家族とその役割

サーチュイン」とは、酵母で最初に見つかった長寿遺伝子Sir2の仲間です。
哺乳類では、以下のように 7つ(SIRT1~SIRT7) のサーチュインがあり、それぞれが異なる場所で異なる役割を担っています。

サーチュイン 主な存在場所 主な役割例
SIRT1 遺伝子発現調整、抗炎症、老化抑制
SIRT2 細胞質 細胞周期の調整など
SIRT3 ミトコンドリア 抗酸化、代謝改善、寿命延長
SIRT4 ミトコンドリア インスリン感受性、窒素代謝の制御
SIRT5 ミトコンドリア アンモニア処理、エネルギー代謝
SIRT6 遺伝子の修復、糖代謝制御
SIRT7 リボソーム合成など

この中でも今回の主役は、ミトコンドリア内のサーチュイン:SIRT3、SIRT4、SIRT5です。


🔷SIRT3, SIRT4, SIRT5の働き

🧬SIRT3(サーチュイン3)

  • ミトコンドリア内のもっとも重要な酵素調整役

  • 抗酸化作用があり、細胞を活性酸素から守る

  • エネルギー代謝や脂肪燃焼を促進

  • アルツハイマー病やパーキンソン病、心不全などの進行を抑えると期待されている

👉 例えるなら「ミトコンドリアのメンテナンス係」
壊れた部品を修理し、エネルギーの生産をスムーズに保ちます。


🧬SIRT4(サーチュイン4)

  • あまり知られていなかったが、最近研究が進んでいる

  • **インスリン感受性(=血糖コントロール能力)**を改善する

  • **窒素代謝(アミノ酸の分解)**の制御にも関与

👉 例えるなら「ミトコンドリアの調整役」
食事内容に応じて代謝を調節する存在です。


🧬SIRT5(サーチュイン5)

  • **アンモニアの処理(尿素サイクル)**を助ける重要な酵素

  • 酸化ストレスから細胞を守る

  • エネルギー代謝の調整に関わる(例:脂肪酸の酸化など)

👉 例えるなら「老廃物処理係」
体の中で出てくる有害な物質を分解し、細胞の安全を保っています。


🔷これらのサーチュインが関係する老化関連疾患

研究によると、これらのサーチュインがうまく働かないと、

  • 🧠 神経変性疾患(アルツハイマー、パーキンソン、ALSなど)

  • ❤️ 心血管疾患(動脈硬化、心不全など)

  • 🍩 代謝性疾患(糖尿病、脂肪肝など)

といった、**老化とともに増える病気(加齢関連疾患)**のリスクが高くなることがわかっています。


🔷なぜサーチュインが加齢で弱まるのか?

  • 年をとると**NAD⁺(サーチュインの燃料のようなもの)**が減ってしまう

  • 結果として、サーチュインの働きも低下

  • ミトコンドリア機能が落ち、活性酸素がたまり、病気が進行しやすくなる


🔷治療ターゲットとしてのミトコンドリアサーチュイン

サーチュインの働きを回復させることで、老化や病気の進行を遅らせられるのではないか?
そのような考えから、現在はさまざまなサーチュイン活性化薬の研究が進められています。


💊 小分子化合物(Small-Molecule Compounds)

研究チームは、多くの候補薬を調べています:

薬名例 特徴 期待される効果
Resveratrol(レスベラトロール) 赤ワインに含まれるポリフェノール SIRT1活性化、SIRT3にも効果あり
Honokiol(ホノキオール) モクレン科の植物由来 SIRT3を直接活性化、心臓保護作用
Nicotinamide Riboside(NR) NAD⁺の前駆体 NAD⁺増加→サーチュイン活性↑
SRT1720 合成化合物 SIRT1とSIRT3活性化の候補薬

🔷サーチュイン活性化戦略のまとめ

  1. NAD⁺レベルの回復: NRやNMNなどのサプリで燃料を補う

  2. 直接的な活性化: SIRT3などに働きかける分子を投与

  3. 遺伝子レベルの制御: エピジェネティック制御で発現量を増やす

  4. 生活習慣: 断食・カロリー制限・運動もサーチュインを活性化する手段です


🔷今後の課題と展望

  • ✅ サーチュイン活性化薬の多くはまだ動物実験レベル

  • ✅ **組織ごとの違い(脳、肝臓、心臓など)**にどう対応するかが課題

  • 副作用や長期使用時の安全性確認が必要

それでも、「ミトコンドリアの若返り」や「病気の予防」が期待されるこの分野は、今後の高齢化社会における希望の星として注目されています。


📝まとめ

項目 内容
ミトコンドリアサーチュインとは? SIRT3~5。ミトコンドリアの健康を守る重要な酵素
加齢と何が関係ある? 老化でNAD⁺が減る→サーチュインが働けなくなる
関連する病気は? 認知症、心疾患、糖尿病など
対策はある? サプリ・食事・運動・薬による活性化が研究中

💡さいごに

ミトコンドリアの健康が、全身の若さと健康を支えている――。
そのカギを握るのが、ミトコンドリアサーチュインたちです。

今後、レスベラトロールやNMNのような物質の研究が進めば、加齢や病気を遅らせる治療法が現実のものとなる可能性があります

この分野は、老化研究・予防医学・抗加齢医療の最前線です。
これからの展開に大いに期待しましょう!




ロゴ決定

ロゴ決定 小川糖尿病内科クリニック

皆さま、こんにちは。 当院のロゴが決定いたしました。 可愛らしいうさぎをモチーフとして、小さなお花をあしらいました。 また、周りは院長の名字である「小川」の「O(オー)」で囲っております。 同時に、世界糖尿病デーのシンボルであるブルーサークルを 意識したロゴとなって...