2025/06/27

健康講座865 高齢の1型糖尿病患者における自動インスリン投与システムの効果と安全性:低血糖リスクを減らす新たな選択肢

 皆さんこんにちは。

今回は、高齢の1型糖尿病患者さんを対象とした「自動インスリン投与システム(Automated Insulin Delivery:AID)」に関する最新の臨床試験について、一般の方にもわかりやすく丁寧に解説していきます。




🔷研究の背景:なぜこの研究が必要なのか?

1型糖尿病は、すい臓がインスリンを作らなくなる病気で、患者さんは毎日インスリンを注射したり、インスリンポンプという機械を使ってインスリンを体に注入する必要があります。

高齢の1型糖尿病患者さん(65歳以上)は、特に「低血糖(血糖値が下がりすぎる状態)」のリスクが高いとされています。
低血糖になると、ふらつき、意識障害、最悪の場合は意識を失ったり命にかかわることもあります。

これまでも、血糖値を一定の範囲に保つための技術は進化してきましたが、「高齢の方に対して、安全に、かつ効果的に使えるのか?」は十分に研究されていませんでした。


🔷この研究の目的

高齢の1型糖尿病患者さんにおいて、3種類のインスリン投与システムを比較し、どれが一番「低血糖を減らせるか」「安全で効果的か」を調べることです。


🔷3種類のシステムとは?

  1. ハイブリッド・クローズドループ(Hybrid Closed Loop)
     → 血糖値をセンサーで常に測定し、自動でインスリン量を調整する“スマートな”インスリンポンプ。手動での調整も少し必要です。

  2. 予測型低血糖停止(Predictive Low-Glucose Suspend)
     → 「もうすぐ低血糖になりそうだ」と判断したときに、自動でインスリン投与を止めてくれるシステム。

  3. センサー連動ポンプ(Sensor-Augmented Pump)
     → センサーで血糖値を測るけれど、インスリン量の調整は自分で行う必要がある、従来型の方法。


🔷研究の方法(どんなふうに調べたの?)

  • 65歳〜86歳の82人の1型糖尿病の方が参加。

  • それぞれの方が、3種類すべてのシステムを使ってみる方式(クロスオーバー試験)で、公平に比較できるようになっています。

  • 各システムを12週間ずつ使用して、合計36週間観察されました。

  • 主な評価項目は、「血糖値が70mg/dL未満になった時間の割合(低血糖の時間)」です。


🔷結果:どのシステムが良かった?

✅ 低血糖の時間(血糖値<70mg/dL)

システム 平均の低血糖時間(%)
センサー連動ポンプ 2.57%
ハイブリッド・クローズドループ 1.58%
予測型低血糖停止 1.67%

➡ ハイブリッド・クローズドループと予測型低血糖停止の方が、明らかに低血糖の時間が少なかった

  • センサー連動ポンプと比べて、

    • ハイブリッド・クローズドループは 約1.05%低下(P<0.001)

    • 予測型低血糖停止は 約0.93%低下(P<0.001)

✅ 正常な血糖範囲(70~180mg/dL)にあった時間

  • ハイブリッド・クローズドループを使うと、血糖が適正範囲に収まった時間が約8.9%増加(とても良い結果)。

✅ HbA1c(過去1〜2ヶ月の平均血糖)

  • わずかに改善(平均で0.2%の低下)


🔷安全性はどうだった?

  • 重い副作用(深刻な健康被害)は少なかった

  • 重症低血糖(自分で対処できないほどの低血糖)は全体の4%以下。

  • ケトアシドーシス(命にかかわる高血糖状態)による入院は2件発生したが、全体としては稀な出来事。


🔷結論:この研究からわかったこと

高齢の1型糖尿病患者さんにおいて、

  • ハイブリッド・クローズドループ型のインスリン投与システムは、最も低血糖のリスクを減らし、血糖コントロールも改善する

  • 予測型低血糖停止システムも有効だが、ハイブリッド型のほうが優れていた。

  • 安全性も十分に確認されており、システムの導入は高齢者でも検討する価値がある。


🔷この研究の意義

これまで若年層中心だったAIDの研究において、高齢者でもしっかりと効果があり、安全性も担保されていることが示されたのは大きな進歩です。

特に、家族の支援が難しい高齢の独居患者さんなどでは、こうした自動システムが日常生活の安心材料となるでしょう。


🔷注意点(すべての人に当てはまるわけではない)

  • この研究は「1型糖尿病」の方が対象です。2型糖尿病の方には直接当てはまりません。

  • 自動インスリンシステムは保険適用などの面でも、誰でもすぐに導入できるとは限りません。

  • システムには慣れや設定が必要で、医療スタッフとの連携が不可欠です。


🔷最後に

本研究は、**「年齢に関係なく、自動化された医療機器が糖尿病治療を支える未来が現実になっている」**ことを明確に示しています。

技術と医学の進歩により、高齢の糖尿病患者さんもより安全に、より質の高い生活を送ることができる時代が到来しています。



2025/06/26

健康講座864 「チルゼパチドは肥満のある人において代謝適応には影響を与えなかったが、脂肪の燃焼を増加させた」

 皆さんこんにちは。

今回は、2025年に発表された興味深い医学研究をご紹介します。
タイトルは、

「チルゼパチドは肥満のある人において代謝適応には影響を与えなかったが、脂肪の燃焼を増加させた」
(原題:Tirzepatide did not impact metabolic adaptation in people with obesity, but increased fat oxidation)です。


🔬この研究の背景

チルゼパチド(Tirzepatide)は、GLP-1受容体作動薬GIP受容体作動薬の両方の働きを持つ、新しいタイプの糖尿病治療薬・抗肥満薬です。
すでに第3相臨床試験では、体重を大きく減らす効果があることが報告されています。

しかし、「なぜそんなに体重が減るのか?」という仕組み(メカニズム)は、まだ完全には分かっていませんでした。

そこで、今回は以下の2つの段階で検証されました:

  • 🐭 マウスを使った前臨床研究(動物実験)

  • 🧑‍⚕️ 肥満のある人に対する第1相臨床試験


🐭動物実験でわかったこと

カロリー制限された肥満マウスにチルゼパチドを投与すると、以下の変化が見られました:

  • 代謝適応(metabolic adaptation)※が弱まった
    → 通常、ダイエットをするとエネルギー消費が減ってしまうのですが、それが抑えられていた。

  • 呼吸商(RER)が低下
    → 呼吸商が下がるとは、脂肪の燃焼(fat oxidation)が増えたことを意味します。

※「代謝適応」とは、体がエネルギーを節約モードにして、痩せにくくなる現象のことです。


🧑‍⚕️人での臨床試験の結果(NCT04081337)

一方、人間の臨床試験ではこういった結果が得られました:

  • 代謝適応には影響しなかった
    → つまり、チルゼパチドを使っても、エネルギー消費の減少を防ぐことはできなかった。

  • 脂肪の燃焼(fat oxidation)は増えた
    → 食事をしない状態での脂肪燃焼が促進された。

  • 食欲とカロリー摂取量が減少した
    → チルゼパチドを使うと、自然に食べる量が減っていた


📌この研究の意味

この研究から分かった大事なポイントは以下の通りです:

ポイント 結果
✔ 体重減少の理由は? 「脂肪燃焼の促進」と「食欲の低下」が関与している可能性が高い
✔ エネルギー消費は? 人間では特に増加せず、代謝適応は防げなかった
✔ マウスと人の違い マウスでは代謝適応を抑制できたが、人間ではその効果は見られなかった

🗝️キーワードの簡単な解説

  • GLP-1/GIP:インスリン分泌を助けるホルモンで、満腹感にも関わる

  • 代謝適応(adaptive thermogenesis):痩せると体がエネルギーを節約し始める防御反応

  • 呼吸商(RER):体が主に「脂肪」か「糖質」のどちらを燃やしているかを表す数値

  • 脂肪燃焼(fat oxidation):脂肪をエネルギー源として使うこと


🎯まとめ

この研究は、チルゼパチドがどのようにして体重を減らすのかを、科学的に詳しく調べたものです。
結論としては、

  • 人では代謝適応(=省エネモード)を止めることはできなかったけれど、

  • 脂肪をよく燃やすようになり、食欲も自然に減った

ことが体重減少の主な理由だと考えられます。

この知見は、今後の肥満治療体重管理の戦略にも役立つかもしれませんね。




2025/06/25

健康講座863 「糖尿病の正体を見抜く:CGMとAIが明かすあなたの体質」

 

皆さんこんにちは

今日は、「糖尿病って人によって中身が違うらしい!」という、ちょっとびっくりするような話を、わかりやすくお届けします。

今回ご紹介するのは、アメリカ・スタンフォード大学の研究チームが行ったすごい研究です。難しい言葉でいうと、

「継続血糖モニタリングとAIを使って、2型糖尿病の体質の違いを見分ける方法」

という内容なのですが、ざっくり言えば、

「あなたの糖尿病はどんなタイプ? AIがあなたの体のクセを教えてくれる!」

という話なんです。

糖尿病といえば「血糖値が高い病気」と思いがちですが、実は“なぜ血糖値が高くなるか”は人によってバラバラ。だから、治し方も人によって変わってくるんです。

この研究では、そんな体の違い(=サブタイプ)を、自宅でできる簡単な検査とAIの力で見分けられるかを調べました。



糖尿病には「かくれたタイプ」がある?

たとえば「風邪」と一口に言っても、咳がひどい人、のどが痛い人、熱が出る人など、症状はさまざまですよね? 実は、糖尿病も同じで、血糖値が高くなる原因は人によって違います。

その“体の中のクセ”には大きく分けて次の4つのパターンがあります:

  1. 筋肉タイプ:体の筋肉が糖をうまく使えない(インスリンに反応しにくい)

  2. 肝臓タイプ:肝臓が糖を作りすぎる(インスリンの言うことを聞かない)

  3. すい臓タイプ:インスリンを作る力が弱ってきている

  4. ホルモン(インクレチン)タイプ:インスリンを出すように命令するホルモンの働きが弱い

このようなタイプの違いを「代謝サブフェノタイプ」と呼びます。難しい言葉ですが、要するに“糖尿病の中の隠れたタイプ”と思ってください。


研究で何をしたの?

この研究では、32人の「血糖値が少し高くなってきた人(プレ糖尿病〜初期の糖尿病)」に協力してもらいました。

ステップはこんな感じ:

  1. 専門的な病院での検査で、それぞれの人の「タイプ」を正確に調べる

  2. 同じ人に、自宅で「糖水(ブドウ糖)」を飲んでもらい、CGMというセンサーで血糖値の変化を記録

  3. その血糖の変化のパターンをAIに学習させて、「このカーブの形ならこのタイプだね」と当てさせる

さらに別の29人にも同じようにして、AIの正確さを確認しました。


CGMってなに?

CGM(シージーエム)=持続血糖モニタリングとは、腕などに小さなセンサーをつけて、24時間ずっと血糖値の変化を記録してくれる機械です。

病院で何回も指に針を刺す必要がなく、今は糖尿病の人が日常的に使っている便利なツールです。


OGTTってなに?

**OGTT(ブドウ糖負荷試験)**とは、糖尿病かどうかを調べる検査で、決められた量のブドウ糖を飲んで、2時間の間に血糖値がどう変わるかを調べます。

この研究では、病院ではなく「自宅でOGTT」をしてもらいました。これは新しい試みです!


インクレチンってなに?

インクレチンとは、食べ物を食べた時に腸から出るホルモンで、「インスリンを出してね!」とすい臓に指示を出す役割をしています。

この働きが弱い人は、食後の血糖値がうまく下がらず、高血糖が続いてしまいます。

最近話題のGLP-1という薬(ダイエットにも使われている)も、このインクレチンの作用を強める薬なんです。


AI(人工知能)はどれくらい正確だったの?

AIの予測精度はびっくりするくらい高く、次のような結果になりました:

  • 筋肉タイプ → 95%の正確さ(AUC 0.95)

  • すい臓タイプ → 89%の正確さ(AUC 0.89)

  • ホルモンタイプ → 88%の正確さ(AUC 0.88)

※AUCというのは「どれだけ正しく当てられるか」を数字で表したもので、1.0(=100%)に近いほどすごいという意味です。

さらに、別の人たち(29人)に試しても、

  • 筋肉タイプ:88%(AUC 0.88)

  • すい臓タイプ:84%(AUC 0.84)

という高い精度を維持しました。


つまり、何がすごいの?

この研究がすごい理由をかんたんにまとめると:

✅ 自宅で「あなたの糖尿病タイプ」がわかる!

病院に行かなくても、糖水を飲んでセンサーをつければ、自分の体のクセがわかる時代に!

✅ 治療や生活指導が“あなた専用”になる

たとえば、筋肉タイプの人には運動療法、すい臓タイプの人にはインスリンを助ける薬、ホルモンタイプの人にはGLP-1薬など、ぴったり合った治療ができるように。

✅ 早い段階で気づける=予防できる

糖尿病になる前に、自分の体質を知っておけば、早めの対策が打てます!


まとめ:糖尿病は「あなたの体質次第」で変わる!

昔は、糖尿病というと「みんな同じ治療をする」時代でした。

でもこれからは、

  • 血糖値がなぜ高くなるのか?

  • どの部分が働いていないのか?

を見極める時代です。

しかも、それが“自宅でできる”かもしれないなんて、ちょっと未来っぽくてワクワクしませんか?

糖尿病を怖がるだけじゃなく、きちんと体のクセを知って、うまく付き合っていくための「新しい地図」が、今回の研究なのです。

ぜひ、まわりに糖尿病が気になる人がいたら、こんな新しい話があるよって教えてあげてくださいね。


2025/06/24

健康講座862 経口GLP-1作動薬「オルフォグリプロン」が血糖も体重も改善【最新研究】

 

🌿皆さんこんにちは!

今日は、**糖尿病治療が大きく変わるかもしれない新しい薬「オルフォグリプロン(Orforglipron)」**についてのお話です。2025年6月に、世界的な医学雑誌「NEJM」に発表された最新の研究結果をわかりやすく解説します。


🧠まず知っておきたい「糖尿病」と「GLP-1」のこと

糖尿病とは、血糖値(血液中のブドウ糖の量)が慢性的に高い状態のこと。特に「2型糖尿病」は、運動不足や食べ過ぎ、体質などが関係しており、日本でも患者数が多い病気です。

その糖尿病の治療において、いま注目されているのが「GLP-1受容体作動薬(GLP-1 Agonist)」という種類のお薬です。

🔬GLP-1って何?

GLP-1(ジーエルピーワン)とは、食事をすると腸から出るホルモンで、こんな働きがあります:

  • 血糖を下げるホルモン「インスリン」の分泌を助ける

  • 胃の動きをゆっくりにして、満腹感を持続させる

  • 食欲を抑える

つまり、血糖値を下げながら、体重も減らしやすくするホルモンです。


💊でも、いままでのGLP-1薬には「注射」が必要だった…

いままで使われているGLP-1の薬(例:オゼンピック、ビクトーザなど)は注射が必要で、「ちょっと抵抗がある…」「続けにくい…」という方も多かったのです。


🎉そこで登場したのが、オルフォグリプロン(Orforglipron)!

オルフォグリプロンは、これまでのGLP-1薬とは違い、

🌟 飲み薬タイプ(経口薬)で毎日1回飲むだけ!
🌟 注射いらずで血糖も体重も改善できるかも!

という、まさに画期的なお薬なんです。


🧪この薬、本当に効くの?ということで行われたのが今回の研究です

研究の名前は ACHIEVE-1試験
アメリカなどで行われた第3相臨床試験という、本格的な最終段階の試験です。

👥どんな人が参加したの?

  • 2型糖尿病の人(まだ薬は使っておらず、食事と運動だけで治療している人)

  • HbA1c(過去1~2か月の血糖の平均値)が 7.0~9.5%(=ちょっと高め)

  • BMI(肥満度)が 23以上(=やや太り気味以上)

💊参加者は4グループに分けられました

  • オルフォグリプロン 3mg

  • オルフォグリプロン 12mg

  • オルフォグリプロン 36mg

  • プラセボ(偽の薬)

それぞれを 40週間(約9か月) 毎日飲み続けました。


📊結果どうだったの?

✅ HbA1c(血糖の指標)はこう変わった!

グループ HbA1cの下がり幅(40週後)
3mg −1.24%
12mg −1.47%
36mg −1.48%
プラセボ(偽薬) −0.41%

🔹つまり、オルフォグリプロンを飲んだ人のHbA1cは約6.5〜6.7%まで下がり明らかに良くなったということです!


✅ 体重もこんなに減った!

グループ 体重の変化(%)
3mg −4.5%
12mg −5.8%
36mg −7.6%
プラセボ −1.7%

🔹飲む量が多いほど、体重も大きく減る傾向がありました。


⚠️副作用は?

  • 一番多かったのは、吐き気・下痢・お腹の違和感などの軽~中程度の消化器症状
     ⇒ 特に薬の量を増やしていく初期に多く、ほとんどが軽くて治まる。

  • 重い副作用(重度の低血糖など)はなかった!

  • 薬のせいで途中でやめた人は、オルフォグリプロン群で4〜8%程度
    (プラセボ群ではわずか1.4%)


💡まとめ:この薬、どんな人におすすめ?

✨結論:オルフォグリプロンは…

  • 注射がいらない

  • 血糖をしっかり下げてくれる

  • 体重も自然と落ちやすい

  • 副作用は軽め

ということで、
**「これから糖尿病の治療を始めたいけど、注射には抵抗がある…」という人や、
**「ダイエットにも関心がある糖尿病の方」にとっては、とても期待できる新薬です!


📝最後に:こんな未来が見えてきました

今後この薬が日本でも承認されれば、
「糖尿病の治療=注射 or 面倒な薬」
というイメージがガラッと変わるかもしれません。

通院も薬もストレスなく、自然に血糖も体重もコントロールできる時代が近づいています。



2025/06/23

健康講座861 「その油、肝臓を疲れさせてない? “いいあぶら”で脂肪肝を防ぐ食べ方」

 皆さんこんにちは。

今日は「油」と「脂」の違い、そして肝臓を守る“いいあぶら”の選び方について、わかりやすくお話ししていきます。



🍳「油」と「脂」って同じじゃないの?

実は、似ているようで違うんです。

  • 油(オイル):常温で液体の脂質。例:オリーブオイル、菜種油、えごま油など。

  • 脂(ファット):常温で固体の脂質。例:バター、ラード(豚脂)、ヘット(牛脂)など。

この性質の違いが、私たちの体、特に肝臓に大きく関わってきます。


🍔 減らしたい「2つの脂」

肝臓を守るためには、脂質を全部カットする必要はありません
でも、できるだけ減らしたいのはこの2つです。

加工油脂(トランス脂肪酸)

  • 人工的に作られた脂で、動脈硬化・心疾患・脂肪肝のリスクを高めます。

  • 含まれる食品:マーガリン、ショートニング、菓子パン、スナック菓子、冷凍食品など

  • WHOも1日の摂取量は「できるだけゼロに近く」と警告しています。

飽和脂肪酸(動物性の脂)

  • 取りすぎると、内臓脂肪の蓄積、脂肪肝、インスリン抵抗性の悪化を引き起こします。

  • 含まれる食品:牛脂、豚脂、鶏皮、バター、乳製品の脂身、加工肉(ベーコン・ソーセージ)


🥑 摂りたい「あぶら」は?

脂質は、ホルモン・細胞膜・脳の材料として大切な栄養素。
ただし、**「質」**が大事です。

✅ オメガ3系脂肪酸(抗炎症・脂肪肝予防)

  • えごま油、アマニ油、青魚(サバ・イワシ・サンマなど)

  • 肝臓の脂肪蓄積を抑える働き(※1)

✅ オレイン酸(抗酸化・動脈硬化予防)

  • オリーブオイル、アボカド、ナッツ類

  • インスリン感受性改善・肝臓の脂質代謝をサポート(※2)


🍽 具体的なおすすめ食事例

時間帯 内容例 ポイント
朝食 玄米+納豆+味噌汁+アボカド+オリーブオイルかけ卵 血糖値上昇を緩やかにし、良質脂質を摂取
昼食 青魚の塩焼き+野菜たっぷり味噌汁+ブロッコリー+オリーブオイル和え EPA・DHAで肝臓ケア、食物繊維で脂の排出促進
夕食 鶏むね肉のグリル+アマニ油をかけたサラダ+ひじき煮 動物性脂質は控え、オメガ3を補う

🔬 プチ豆知識(エビデンス)

  • ※1:オメガ3脂肪酸(DHA/EPA)は、NAFLD(非アルコール性脂肪肝)改善効果が複数のRCT(無作為化比較試験)で報告あり。

  • ※2:オリーブオイルの主成分「オレイン酸」は、肝臓の脂肪蓄積を抑制し、インスリン感受性を高めるという研究が報告されています。


📝 まとめ

  • 「脂質=悪」ではなく、「質のいい脂を選ぶ」ことがカギ。

  • トランス脂肪酸や飽和脂肪酸は控えめに。

  • オリーブオイル・青魚・アボカドなどを日々の食事に。

  • 肝臓は沈黙の臓器。悪化しても症状が出にくいので、予防が最重要!


食事は毎日の積み重ね。
“いいあぶら”を選んで、肝臓もあなた自身も、もっと元気にしていきましょう✨

#脂肪肝予防 #肝臓ケア #あぶらの選び方 #健康食 #無理なく続ける健康法

2025/06/21

健康講座860 「腹が減ったら #無限キャベツ」


皆さんこんにちは!

「腹が減ったら #無限キャベツ」で腸も血糖も筋肉も整える食べ方、はじめませんか?

夜、お腹が空いてどうしても何か食べたくなるときってありますよね。
そんなときにおすすめなのが、「無限キャベツ」!

キャベツ1/4玉を千切りにして、ツナ缶(油ごと)、鶏ガラスープ小さじ1、マヨネーズ小さじ1を混ぜて、レンジでチンするだけ。600Wで2分。
たったそれだけで、満腹感が得られて、しかも栄養もバッチリな、優秀すぎる「痩せおかず」ができあがります。

でもこのキャベツ、実は“ただのかさまし食材”じゃないんです。
食物繊維腸活血糖値コントロールダイエット
あらゆる観点で「理にかなった食べ物」なんです。

今回はこの「無限キャベツ」をきっかけに、
キャベツに含まれる2種類の食物繊維(水溶性/不溶性)の働きや、腸との関係、血糖値の急上昇を防ぐ効果、そして筋肉維持や満腹感との関係を、医学的にもわかりやすく、丁寧にご紹介します。


◆ まずキャベツって、どんな野菜?

キャベツはアブラナ科の野菜で、1年を通して手に入りやすく、価格も比較的安定している庶民の味方です。

100gあたり約23kcalととても低カロリーで、
そのうえビタミンC、ビタミンK、葉酸、カリウム、そして豊富な食物繊維を含みます。


◆ キャベツの食物繊維は、水溶性?不溶性?

キャベツには主に2種類の食物繊維が含まれています。

食物繊維の種類 働き キャベツに含まれる比率
不溶性食物繊維 腸を刺激し、便のかさを増やす 約70〜80%
水溶性食物繊維 ゆっくりと腸内を移動、善玉菌のエサ 約20〜30%

キャベツは特に不溶性食物繊維が豊富。
「便のかさを増やして、腸をぐいぐい動かしてくれる」タイプです。
そして水溶性食物繊維も一定量含まれています。こちらは血糖の上昇をゆるやかにする作用や、腸内細菌のエサになって腸内環境を整える作用があります。

つまり、キャベツは腸内のデトックスと善玉菌育成の両方に効くという、食物繊維の理想形とも言えるバランスを持っているのです。


◆ 食べる順番を意識すると、血糖値が爆上がりしない!

「食物繊維を先に食べると血糖値が上がりにくい」
聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?

これはまさに科学的に証明されている事実です。

食事の最初に食物繊維を含む野菜(例:キャベツ)を食べることで、
・糖質の吸収がゆるやかになる
・インスリン分泌の急上昇が抑えられる
・血糖スパイク(急上昇→急下降)を防げる

つまり、太りにくくなる&糖尿病予防にとっても効果的。

「無限キャベツ」をごはんの前に1皿食べておくだけで、血糖コントロールの一歩が踏み出せます。


◆ 腸活にも最適!キャベツと腸内細菌の関係

腸活のキーワードとしてよく出てくるのが「腸内フローラ」。
これは腸内に住んでいる細菌たちのバランスを整えることを意味します。

キャベツに含まれる水溶性食物繊維は、善玉菌(ビフィズス菌や乳酸菌)のエサとなって、腸内で発酵され、短鎖脂肪酸という物質を作り出します。

この短鎖脂肪酸には:

  • 腸のバリア機能を高める

  • 腸の炎症を抑える

  • 血糖や脂質代謝を調整する

  • 食欲を抑制するホルモンを出す

といった「いいことづくし」の働きがあります。

さらに不溶性食物繊維の作用で便通が改善され、
「出す力」と「育てる力」の両方がキャベツには備わっているのです。


◆ 「痩せる」だけじゃない。筋肉維持にも◎

無限キャベツのレシピにはツナ缶が入っています。
これがポイント!

キャベツは食物繊維やビタミンが豊富ですが、たんぱく質は少ない。
しかしツナを加えることで、筋肉の材料であるたんぱく質をしっかり補給できます。

高たんぱく+低糖質ということで、ダイエット中の食事にも最適
また、タンパク質は食後の熱産生効果(DIT)が高く、食べたあとに体温を上げて代謝を活性化させる効果もあります。


◆ 食べるほどに、なぜ痩せる?

キャベツ+ツナの組み合わせが「食べるほどに痩せる」と言われる理由は以下の通りです:

  • 食物繊維:満腹感アップ&吸収スピードを緩やかに

  • 水分量:かさ増しで低カロリーでも満足感◎

  • たんぱく質:筋肉維持&代謝を高める

  • 加熱:生より消化しやすく、胃に優しい

  • 先に食べることで:主食(ごはん)の血糖上昇を抑制

しかもキャベツ自体の糖質は非常に少なく(100gあたり約3.4g)、
糖質制限中でも安心して取り入れられる優等生。


◆ 夜キャベツで「夜食の罪悪感ゼロ」へ

夜に小腹がすいたとき、スナック菓子やパンに手を伸ばしていませんか?
そんなときこそ、「無限キャベツ」。

加熱しているので胃にもやさしく、ツナのコクとマヨネーズの風味で満足感もあります。

もちろん、キャベツは生でも食べられますが、夜におすすめなのは加熱キャベツ
理由は以下のとおりです:

  • 冷えにくく、体を温める

  • 消化が良く、胃にやさしい

  • 甘みが増して食べやすい

胃腸が休まると、睡眠の質も上がり、翌朝の腸の動きもスムーズに。


◆ アレンジも自由自在

飽きがこないように、以下のようなアレンジもおすすめです:

  • ごま油+鶏ガラ+塩昆布:韓国風

  • カレー粉+ヨーグルト:エスニック風

  • お酢+塩+オリーブオイル:マリネ風

  • 納豆+ポン酢:和風たんぱく質増強

  • ささみ+梅+しそ:サッパリ系

冷蔵庫にある食材と組み合わせるだけで、どんどん“無限化”していきます。


◆ まとめ:キャベツは“腸から痩せる”最強食材!

無限キャベツはただの節約料理でも、かさ増しレシピでもありません。
腸活・血糖値コントロール・筋肉維持・ダイエットサポート
これらすべてを兼ね備えた、“理想の夜食”です。

🌿 キャベツのポイントまとめ 🌿

  • 不溶性+水溶性食物繊維のバランスが◎

  • 腸内環境を整える→全身の健康につながる

  • 食後血糖値の急上昇を防ぐ

  • 満腹感で過食防止

  • 筋肉を守るたんぱく質と組み合わせれば最強

ぜひ今日から、「お腹がすいたら無限キャベツ」を合言葉に、
健康的な食生活を楽しんでみてくださいね。



2025/06/10

健康講座859 インスリン抵抗性と足の血流障害の深い関係

みなさんこんにちは。小川糖尿病内科クリニックです。

今日は、2025年6月に発表された中国の最新の大規模研究をご紹介します。


🩺 論文タイトル

「推定グルコース処理能(eGDR)と2型糖尿病における下肢動脈疾患(LEAD)の関連」
(全国規模の横断研究)


📘 この研究のポイント(ざっくり)

インスリンの効きが悪い(eGDRが低い)人は、足の動脈硬化(LEAD)になりやすいことが明らかにされました。


🔍 「eGDR」と「eGFR」は別モノです!

この研究で出てくるeGDRは、腎臓の機能を見る**eGFR(推算糸球体濾過量)**とは別の指標です。
名前が似ていて紛らわしいですが、意味も役割もまったく違います

指標 正式名称 意味 使い方
eGFR estimated Glomerular Filtration Rate 腎臓のろ過機能の推定値 慢性腎臓病の管理に使います
eGDR estimated Glucose Disposal Rate インスリンがどれだけ効いているか(=インスリン抵抗性の指標) 糖尿病患者の合併症リスク評価に使えます

🧠 用語の解説

  • LEAD:Lower Extremity Arterial Disease(下肢動脈疾患)
     足の動脈が詰まったり狭くなったりする動脈硬化の一種です。**ABI(足首と腕の血圧比)**で診断され、ABI<0.9または>1.3でLEADと判断されます。

  • eGDR:estimated Glucose Disposal Rate(推定グルコース処理能)
     インスリンが体内でどの程度効いているかを示す指標。
     **値が低い=インスリン抵抗性が強い(効きにくい)**という意味です。


📊 研究の概要と結果

  • 対象:
     50歳以上の2型糖尿病患者 7,482人

  • eGDRを4つのグループに分けてLEADとの関連を調査

  • 結果:
     - eGDRが低い(Q1)グループではLEADの有病率が31.4%
     - **eGDRが高い(Q4)グループでは12.8%**と低率
     - eGDRが1単位高くなるごとにLEADのリスクは24%低下
     - eGDRが8未満になるとLEADリスクが急上昇する(L字型の関係)


💡 まとめと臨床での意義

  • eGDRは、LEADのリスクを簡易的に予測する指標として非常に有用

  • eGDRが低い方(=インスリン抵抗性が強い方)には、
     メトホルミン・SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬など、
     インスリン感受性を高める治療が効果的かもしれません。

  • **生活習慣(運動・食事・減量)**による抵抗性改善も大切です。


🏥 小川糖尿病内科クリニックからのメッセージ

LEAD(下肢動脈疾患)は、初期には症状がほとんどなく見逃されがちですが、進行すると歩行障害や足の壊疽、切断につながることもあります。

血糖コントロールだけでなく、インスリンの効き具合(eGDR)にも注目し、合併症のリスクを早期に見つけて対策することがこれからの糖尿病医療に求められています。

当院では、ABI検査やインスリン抵抗性の評価も対応可能です。
気になる方はお気軽にご相談ください。


※eGDRは、HbA1c・腹囲・血圧などから計算されます。保険診療では自動算出されません


2025/06/06

健康講座858 「糖毒性解除の鍵:インスリン療法が効き始める血糖値の閾値とは?」

 

 小川糖尿病内科クリニックです。今日は論文紹介をしますね。内容は、早期の2型糖尿病患者におけるインスリン療法がβ細胞機能と血糖値の改善をどのように増強するかを研究したものです。特に、空腹時血糖値がある特定の閾値を超えると、この効果が劇的に増加する、いわゆる「糖毒性の解除」に注目しています。

この概念は、2型糖尿病における血糖管理の中で非常に重要なものとされ、長らく医療現場でも経験則として認識されてきましたが、これを科学的に裏付けるデータが不足していました。この研究はそのギャップを埋めるものであり、日常の臨床感覚が研究としてまとめられたことに大きな価値があります。 

 背景と目的 
糖尿病患者では、高血糖(糖毒性)により膵臓のβ細胞機能が低下し、これが糖尿病の進行を助長します。しかし、インスリン療法を短期間集中して行うことで、糖毒性を解除し、β細胞機能を回復させることが可能です。本研究の目的は、特にどの程度の空腹時血糖値を超えるとインスリン療法の効果が顕著になるのか、その閾値を特定することでした。 

 研究デザインと方法 
対象は、平均糖尿病罹病期間が約1.8年の108名の2型糖尿病患者。3週間の集中インスリン療法(IIT:インスリン・グラルギンおよびリスプロ)を行い、治療前後の経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)によってβ細胞機能を評価しました。評価には、Insulin Secretion-Sensitivity Index-2(ISSI-2)およびインスリン分泌指数(IGI)/HOMA-IRを用いました。 各ベースライン空腹時血糖値の範囲(6.0〜10.5 mmol/L)ごとに、インスリン療法によるβ細胞機能改善の度合いを比較しました。その際、空腹時血糖値がどのレベルでインスリン療法の効果が急激に高まるか(非線形的な改善)を調べました。 

 結果 分析の結果、ベースライン空腹時血糖値とβ細胞機能の改善度には非線形の関係が見られました。特に、9.3 mmol/L(167.4 mg/dl)を超えるとインスリン療法によるβ細胞機能および血糖値改善の効果が大幅に増強されることが明らかになりました。
この結果は、「糖毒性の解除」が9.3 mmol/Lを超えると一層奏功することを示唆しています。

 結論 
この研究により、空腹時血糖値が9.3 mmol/Lを超える2型糖尿病患者において、短期間の集中インスリン療法がβ細胞機能と血糖値改善に対してより大きな効果をもたらすことが確認されました。これは、糖毒性が特定の血糖値を超えると急速に進行するため、その解除が治療効果を高めると考えられます。この知見は、2型糖尿病患者への治療アプローチにおいて、より精密な血糖値管理が重要であることを示しています。 この研究結果は、日常臨床で感じていた「ある時点でインスリンが急に効き始める」現象を科学的に証明するものであり、糖尿病治療における重要な指針となり得ます。空腹時血糖値が167.4 mg/dlを超えると、インスリン療法によって劇的な改善が見込めるというこの知見は、医療現場での血糖値管理に非常に役立つものと言えるでしょう。

ロゴ決定

ロゴ決定 小川糖尿病内科クリニック

皆さま、こんにちは。 当院のロゴが決定いたしました。 可愛らしいうさぎをモチーフとして、小さなお花をあしらいました。 また、周りは院長の名字である「小川」の「O(オー)」で囲っております。 同時に、世界糖尿病デーのシンボルであるブルーサークルを 意識したロゴとなって...