2025/07/01

健康講座869 「セマグルチドで“歩ける力”がよみがえる!糖尿病と足の血管の病気に新たな希望 ― STRIDE試験より」

 皆さんこんにちは。

今日は、糖尿病を持つ方にとっても重要な話題「足の血管が詰まる病気(末梢動脈疾患:PAD)に対するセマグルチド(GLP-1受容体作動薬)の効果」について、最新の臨床研究からわかったことを、できるだけやさしく丁寧にご紹介します。



🔍研究の背景:糖尿病と足の血管の病気

糖尿病が長く続くと、血管が傷つき、足の血流が悪くなる「末梢動脈疾患(PAD)」という病気になることがあります。歩くと足が痛くなったり、しびれたりして、日常生活が不便になるばかりか、重症化すれば足の切断が必要になることもあります。

このPADの治療には、運動療法や血液をサラサラにする薬などがありますが、なかなか決定的な治療法は少ないのが現状です。

そこに登場したのが、糖尿病治療薬として知られている「セマグルチド(商品名:オゼンピックなど)」。体重を減らしたり、血糖値を下げたりするだけでなく、心臓や血管にも良い効果があると言われており、「足の血管の病気」にも効果があるのでは?と注目されてきました。


🧪STRIDE試験とは?

STRIDE(Semaglutide and Walking Capacity in People with Symptomatic Peripheral Artery Disease and Type 2 Diabetes)試験は、セマグルチドがPADに対して本当に効果があるのかを調べるために行われた、大規模な臨床試験です。

  • 対象:PADと2型糖尿病を持つ792人

  • 方法:セマグルチド1.0mgを週1回注射するグループと、偽薬(プラセボ)を打つグループに分け、1年間の効果を比較

  • 主な評価項目:

    • 最大歩行距離(MWD):痛くてもどれだけ歩けるか

    • 無痛歩行距離(PFWD):痛くなる前にどれだけ歩けるか


📊主な結果

✅セマグルチドで歩ける距離が伸びた!

1年後、セマグルチドを使った人は、**最大歩行距離(MWD)無痛歩行距離(PFWD)**も、明らかに改善しました。これは、「足の血流が良くなった」「足の筋肉の働きが良くなった」などの可能性が考えられます。

✅効果はどんな人でもほぼ同じ

以下のような違いがあっても、効果は変わりませんでした:

指標 結果
糖尿病歴の長さ 10年未満でも10年以上でも同じ効果(P=0.80)
BMI(肥満度) 30未満でも30以上でも同じ効果(P=0.58)
HbA1c(血糖コントロール) 7%未満でも7%以上でも同じ効果(P=0.99)
糖尿病治療薬の種類 SGLT2阻害薬やインスリンを使っていても同じ効果

つまり、体重が重くても軽くても、血糖が高くても良くても、セマグルチドの効果は変わらなかったのです。

💡BMIが減ったことと歩行能力の関係

体重が減ると歩きやすくなりますが、この試験では「体重が減ったから歩けるようになった」というよりは、「セマグルチド自体が歩く力を改善した」と考えられます。なぜなら、体重の減り方と歩行距離の伸び方はあまり強く結びついていなかったからです。


🤔なぜ歩く力が良くなったの?

これはまだ完全にわかっていませんが、以下のような理由が考えられています:

  • 血管の炎症を抑える効果があるかも

  • 血流改善の可能性

  • 筋肉の代謝を助ける作用があるかもしれない

つまり、セマグルチドは「血糖を下げる」だけでなく、「足の血管や筋肉の働きを良くする」ことで、歩く力そのものを改善している可能性があります。


🛡️安全性については?

副作用は、どのグループでも大きな違いはなく、全体的に安全に使える薬だと考えられます。


📝まとめ

最後に、この研究からわかった大事なポイントを振り返ってみましょう。

✅まとめポイント

  • セマグルチドは、糖尿病と足の血管の病気を持つ人にとって、歩く力を高める効果がある

  • 効果は、体重・血糖・病歴の長さ・薬の種類に関係なく、一貫していた

  • 痛みなく歩ける距離も、痛みがあっても歩ける距離も改善。

  • 体重が減ったから効果があったわけではなく、セマグルチド自体が持つ効果が大きい。

  • 副作用は特に問題なし、安全に使える薬である。


🌈おわりに

セマグルチドは、糖尿病治療だけでなく、今や「足の健康」や「生活の質」も改善してくれる新しい希望になりつつあります。歩ける距離が伸びると、日常生活の自由度が上がり、将来的な寝たきりリスクの予防にもつながります。

「血糖値は落ち着いているけど、最近足が痛くて歩きにくい…」そんな方には、一度主治医の先生と相談してみるのも良いかもしれません。

それでは、また次回お会いしましょう!


(参考文献:Rasouli N, et al. Diabetes Care. 2025. doi:10.2337/dc25-1082)

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